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幻想怪盗団~罪と正義~  作者: 陽菜


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十六章 傲慢の豪華客船と因縁の対決 前編

 カシャ、という音で目が覚める。

「おはよう、蓮」

 起き上がると、りゅうと愛良がいた。りゅうの手にはスマホ。……どうやら双子と寝ているところを撮られたらしい。

「今何時?」

「九時過ぎだよ。ぐっすり寝てたから起こすのも悪いと思って」

「なら撮るな。何に使う気だ?」

「皆に送ろうかと思って」

 それだけは絶対にやめろ、と言う前に義明が二階に上がってきた。

「おはよう、蓮。こんな時間まで寝てるなんて珍しいね」

「おはよう、兄さん。早速で悪いけど、りゅうを止めてくれない?」

 事情を説明すると、彼は「りゅう」と彼の肩を掴んだ。

「それ、あとで送ってくれ」

「やめろ、ばか兄貴」

 ……そういえば、この人もシスコンだった……。

 どうやら、どこにも味方はいなかったらしい。

 双子が起きたのでシャーロックのところまで送って行くついでにスマホやベッド、服などを買いに行くことにした。

「あの青い牢屋って何?」

 買い物の途中、義明に聞かれた。

「あぁ、見えてたんだ。あそこが現実から行く場合の牢獄世界の入り口。シャーロックがいる場所だよ。至る場所にあるね」

「兄貴も入ったことがあるのか?そうじゃないと見えないハズだが……」

 愛良が聞くと、義明は少し考えて、

「多分、黒ネコの姿にされた時に入ったんだと思う。シャーロックが変えたからね。でも、ネコの時は分からなかったな……じゃあ、よくボーッとしてた時って」

「うん。あそこに入ってた。それでサポートエネミーとか調整したりしてたね。今のサポートエネミーは今まで集めて鍛えたやつを引き取ったものだけど」

 ここだけの話、蓮が持っているサポートエネミーは様々な処刑をして育てたのだ。だから強いサポートエネミーが多いのだ。

「へぇ……ちなみにどうやって?」

「えっと……ギロチンに電気椅子、絞首に……」

「ごめん。もういいや」

 真顔で答える蓮に顔を青くしながら義明は止めた。

「もういいのか?何なら詳しく教えられるぞ?」

「遠慮します」

 あまり詳しく話されたら失神する自信がある。だからやめてほしい。

 ダブルベッドを購入し、義明と愛良のスマホを契約したところで昼過ぎになった。さすがに死人が堂々とファミレスに入るわけにもいかず、バーガーセットを買って公園で食べた。その後、愛良と義明の服を買ってファートルに戻った。

 夕方、また皆で集まる。なぜか協力者達も。

「さて、ターゲットはもう決まってるんだよな?蓮」

 愛良が尋ねると、蓮は「あぁ」と頷いた。それを見て、水谷は「まさか」と呟く。

「本当に、あいつを改心させる気?あいつはすごくやばい奴だよ」

「知ってます。でも、彼を改心させないとそれこそ大変なことになります」

「確か、悪徳政治家だっけ?名前は?」

 りゅうが聞いてくる。蓮は「……冬木 昭人。次期総理大臣になると言われている人物だ」と答えた。

「冬木って……」

 良希が目を見開く。「思ってる通りだ」と愛良は答えた。

「冬木 なぎとの養父だ」

「養父……なんでそれが分かるの?」

「調べた。……冬木は、いや、光助は、ボクの双子の弟だ」

 その言葉に皆が驚く。義明は「じゃあ、引き取られたってまさか……」と聞いてきた。

「あぁ、冬木 昭人は恐らく幻想世界に行ける人が欲しかったんだ。……元々、幻想世界はあると言われていたからな」

「ボクは、正直光助のことはよく覚えてない。「真実に気付け」ってシャーロックに言われて、ようやく思い出したほどだ」

「……俺も、蓮に双子の弟がいることを知っているぐらいだよ。時々三人で一緒に遊んでたけど……あの時は既に「冬木 なぎと」だったハズ」

 義明が昔のことを思い出していると、

「それともう一つ。光助は幼い頃の経歴が消されてる。……多分、成雲家から引き取られたことを隠すためだ」

 蓮がそう言った。

「でも、なんで?」

 風花が尋ねてきた。蓮は少し考えて、

「……幻想世界って、元々は成雲家の人間しか知らなかったんだ。ボクも、幼い頃から聞かされていたし、恐らく光助もお父様に聞かされていた。本来ならナビは使わず、鏡で行き来していた。今もその鏡が実家にあるよ。何ならボクと愛良はそれなしでもあちらに行けるし」

 そしてそれを利用しようとした。多分、そんな感じだと思う、と蓮は答えた。

「なぁ、それならなぜ冬木……いや、光助だったんだ?君でもよかったんじゃ……」

 裕斗が尋ねてきた。蓮は「……少し、昔話をしようか」と言った。


 レンカには親というものがいなかった。しいてあげるなら「光」そのものが親……そう言うべきだろう。

 そんなレンカは現実というものに興味を持った。こことは違う世界……それはどんなものだろうかと。しかし、一人で行くには不安だ。だから、レンカは自分と同じように「光」から弟を作り出した。それが「コウノスケ・ピースガーディアン」。彼を従者として、現実に向かった。


「そしてそのコウノスケ・ガーディアンが光助だった……というわけだ。伝説は知っているからな、お父様も。女であるボクが生まれた時、一緒に生まれた光助も幻想世界に行けるということは分かってた。でも、光助は「ボク」よりは力が弱かった。癒しの力は成雲家の中でも特別だからな。光助はボクがいたから、お父様にとっては必要なかった。だから利害が一致して冬木 昭人のところに引き取られた。……結局、お父様も冬木 昭人も利用したかっただけなんだよ」

 少女の中に流れている血は特別だ。何せ「守り神」の血が流れていて、しかもその生まれ変わりなのだから。

「でも、蓮だって光助君だって人間でしょ?そんなの酷いじゃない……」

 もみじがそう言うと、蓮は驚いて「人間扱い、してくれるんだ?」と聞いてきた。

「当たり前じゃん。確かにあたし達、蓮に助けられることが多かったけど。それでも、人間じゃないって思ったことはない。……そりゃあ、神様みたいって思ったことはあったけど」

 風花が答えると、蓮は安心したような顔をした。

「なんでそんな顔するの?」

 智樹が聞いた。それに答えたのは愛良だった。

「こいつにとって、人間扱いされるというのは何より「特別」なことなんだ。……二千年前も今も、化け物と言われてきたからな。人間は自分達がこいつを望んだくせに、それを受け入れなかった」

「そう、だったんだ……」

 それはどれだけ、辛かったことか。人間として生まれてきた自分達には計り知れない。

「そうだね……でも、過ぎたことはもういいよ。それに、お前が受け入れてくれたから。……まぁ、そのお前も幻想世界でシャーロックに作られたんだけど」

 でも、レンカとは違ってジョーカーは「人間」として作られた。

「その……こんな話してる場合じゃないってことは分かってるんだけど……シャーロックって何者なの?」

「シャーロックも、厳密にはボクが作った人間だ。言っていただろ?夢と現実の間に住んでるって。ボクがその能力を与えたから、彼はそこに住むことが出来るんだ。……まぁ、今のボクで言う「牢獄世界」は、シャーロックの支配下にあるところだな」

 あそこは、本当は「ファントムゲート」と言って、シャーロックが言ったようにその人の心の状態によって姿を変えるのだ。蓮は囚われていたから牢獄だっただけで。

「そうだな……じゃあ、もう一つ、見せたいところがある」

 唐突に言うと、蓮はスマホを持ち「祝福の祭壇」と言った。すると、「目的地が確認されました。ナビゲーションを開始します」とナビがついた。

 周囲が歪んで、白い場所になった。まるで神殿のような、そんな場所だ。服装を見ると、怪盗団と愛良は怪盗服になっていた。

「あの……ここは?」

 ほのかが蓮に尋ねる。当の本人は白いワンピースに羽がついた、守り神の姿になっていた。

「ボクはここで生まれたんだ。ここはボクの完全な支配下で、気力を使わず回復も出来るよ。まぁ、安全地帯の強化版だと思ってくれたらいい」

 そう話していると、エネミーが出てきた。しかし、

「大丈夫、私が連れてきた人達だから、危害は加えないよ」

 蓮が言うと、道を開くようにエネミーが退いた。完全な支配者であることは確からしい。しかし、エネミーが跪いている姿は何とも異様だった。

「アザーワールドリィも一応、ボクの支配下ではあるんだけど……同時に人間が作ったものだから、完全に支配は出来ないんだ。デザイアはなおさらだね」

 歩きながら、蓮は答える。

「そういえばそうだな。……それにしても、ここは澄んでいるな」

「守り神の本来の居場所だからね。ここまではまだ穢されていないみたいだ」

「そうか。悪神が再び復活しているのなら、ここも荒らされていた可能性が高いのか」

 異世界の元住人にしか分からないような会話を繰り広げられる。

「どういう意味だよ?」

 良希が尋ねる。蓮は「前に身体が痛むって話、したよね?」と聞き返した。

「お、おう。確かにそんな話もしたようなしてないような……」

「覚えてないならそう言っていいよ。ほら、前に事故を起こした時だよ」

「あぁ!あの時か!」

「重要なことなんだから覚えとこうよ……」

 義明に呆れられている。良希は何も言えないのか目を逸らした。

「身体が痛んでいたのは、異世界自体が穢れていたからだよ。それに無意識の内に反応してたんだ」

「よく分かんねぇ……」

「人間の欲望が増えたからというのもあるけど、この場合は悪神が復活したからって言うのが主な理由。……正直な話、人間の欲望って果てしないものだからね。それにいちいち反応してたら、身体か持たないよ」

 そうやって話していると、開けた場所に出た。神殿のように像……は建ってなく、かわりに白い椅子があった。

「座ってどうぞ?」

 蓮が促すように言った。思えば彼女はフェイクみたいなもので……。

「大丈夫、罠はないから」

 見透かされているのか、蓮は安心させるように言った。覚悟を決めて、まずは良希からそこに座る。……確かに、罠ではない、どころか力が湧いてくるような……。それに疲れた身を癒してくれている感じもする……。どういうことだ?

「ここは「祝福の祭壇」と言ったように、対象に加護を与える場所。デザイアから入ることが出来るか分からないけど……少なくともアザーワールドリィからなら入れるから、安全地帯からここに来るってことが出来るんじゃないかな?」

「なるほど、使えるね」

「確かに、良希……いや、マルス?の能力値があがってる。皆も若干だけど、ステータスが上昇しているね」

 りゅうがアルターを召喚して確認する。そして「あれ?ここアルター使えるの?」と今気付いたように聞いてきた。

「使えるよ。……そうだ、今の内にシャーロックから貰ったサポートエネミーを確認しとこう」

 蓮はミカエルを召喚し、サポートエネミーを付け替える。そこに現れたのは赤と黒の略奪者。

『我はアルセーヌ。お前の仮面になったからにはお前の力になろう』

「あぁ、アルセーヌか。確かに、怪盗と言ったら「アルセーヌ・ルパン」だよな」

 しかも、これは特別だ。恐らく、シャーロックが蓮のために作ったものだ。だから事実上、これは「アルター」だろう。使える呪文は万能と闇のようだ。

「これで全ての属性の呪文は覚えたか」

 今度シャーロックにお礼を言っておこうと考えていると、皆が座っていたようだ。

「そういえば、愛良はアルター使えるのか?」

「お前と共同だ。リベリオンとミカエル、自分のアルターでアテン、それからサポートエネミー」

「なるほど、「神の祝福」が使えるのか」

 「神の祝福」はサポートエネミーを使える能力のことだ。蓮の場合、アルターも付け替えることが出来るが。

「じゃあ、出来るなら怪盗団に入ってほしいところだが……」

「当たり前だろう。何のために現実に出てきたと思っているんだ?」

「決まりだね。なら、コードネームが必要だな。どうする?別にボクの方が変えてもいいけど」

 元々、ジョーカーは彼の名前だ。だからそっちの方がいいのではと思ったのだが、

「いや、別に構わない。お前に決めてほしい」

 そう言われたので蓮は考える。

「……じゃあ、「クラウン」なんてどうだ?」

「栄光、か。気に入った。お前、名前のセンスがいいな」

「まぁ、一文字変えたら「道化師」って意味になるけどね。ジョーカーみたいに」

 切り札と、栄光。いい組み合わせではないだろうか。それに、一歩間違えたら「道化師」になるというのも面白い。

「それから、兄さんはどうする?さすがにその姿で女神の名前は嫌だろ?」

 蓮は義明にも問いかけるが、彼は「大丈夫、蓮が決めてくれた名前だからね」と笑った。

「それに、「運命の女神」だろ?割と気に入ってるんだ、テュケーって」

「それならいいけど」

 それじゃあ、そろそろ帰ろうかと言ってファートルに戻った。

「えっと……冬木 昭人がどこをどう思ってるか、だったよな?」

 話が逸れすぎたが、その段階だったハズ。秋川が「多分、国会議事堂じゃないかしら?」と言うと、ナビが反応した。

「あってるみたいね。じゃあ、どう思っているか……」

「相手をよく知らないからな……」

 皆が頭をひねっている。その時、ファートルの扉が開いた。

「あぁ、悪い。今開いてない……」

 藤森が目を見開く。知っている人だろうかと蓮もそちらを見た。

 ――そこにいたのは、蓮より身長の低い女性だった。蓮は彼女を知っている。

「……お母様……」

「成雲 広子、か」

 そう、蓮の母親だ。皆は彼女を見て驚いている。なぜなら明らかに若く、どちらかと言えば姉妹と言われた方が納得いくからだ。

「……蓮」

 名前を呼ばれ、何ですか?と冷たくあしらう前に彼女は蓮を抱きしめた。こんなことを一度もされたことはない蓮は驚いて声が出なかった。

「生きててよかった……」

 呟かれた言葉に頭の理解が追いつかない。母親は自分を虐待していたのになぜ……?

「ごめんなさい、あなたが傷ついているのを知っていながら何も出来なかった……本当にごめんなさい……」

 母親が話すには、蓮と光助が生まれた後、父が暴力的になり従わざるを得なかったらしい。

「本当は光助も、養子に出したくなかった……愛しているのに、止められなかった……」

 泣きながら、謝ってくる。今の蓮に嘘は通用しない。彼女が今言ったことは……真実だ。

 蓮は静かに抱き返した。

「……いいんです。もう過ぎたことですから」

 そして、そう答えた。過ぎたことを責めるほど、蓮だって冷たくはない。守り神として覚醒したから、いろいろなことを考える余裕が出来るようになったとも言えるだろう。

「そういえば生きててよかったって……」

「あなた、怪盗なんでしょ?しかも、特別な力を持つリーダー」

 確信を持った声で言われる。蓮は母親から離れ、彼女を見た。ハッタリではなさそうだ。

「……いつから、気付いていたんですか?」

「狛井先生の事件の時から。だってあなたが転校した丁度その時に怪盗団騒ぎが起こったのよ?それに、自分の娘のことはよく分かっているつもりだわ。あなたが人殺しをしないということもね」

 ここにも正体を見抜く人がいたのか。蓮は舌を巻いた。

 そこで彼女が荷物を持ってきていることに気付いた。

「……お母様、それ、何ですか?」

「あぁ、これ?あなた、持って行ってなかったでしょう?」

 そう言って取り出したのは振袖。蓮は「あー……」と納得したようなしていないような声を出す。

「……初詣、行かないと駄目ですか?」

「当たり前よ。一応、神社の跡取り娘なんだから。初詣も十分勉強になるでしょ?」

 やはりそうか。出来たら行きたくなかったのだが、持ってこられたものは仕方ない。

「それから、あなたに弟が生まれるの」

「……What?」

 なぜ英語?

 誰もが思ったが、蓮の気持ちも分かる。いきなり弟が生まれるなんて言われてすぐに理解出来るハズがない。

「……えっと……つまり、妊娠してると……」

 戸惑った声を出している自覚はある。しかし、その様子も気にならないのか母親は「えぇ。急でごめんなさいね」と謝ってきた。

「だから、さっきは跡取り娘なんて言ったけど、本当はもう自由になってもいいの」

 それは、勘当してくれるということだろうか。

「……ちょっとだけ、考えさせてください」

 しかし、蓮はすぐに答えが出せなかった。母親は「別に構わないわ」と笑った。

「それじゃあ、私は近くのホテルにいるから、何かあったらすぐに連絡して」

 そう言って、母親はファートルから出た。皆が呆然としている中、愛良が「もう時間も遅いし、明日考えよう」と言ったので解散した。

 夜、二階で三人は話をしていた。

「まさか、おばさまが妊娠してるなんてね……」

「うん。驚いた……弟か……妹がよかったな。ボクが生まれたんだから、もう呪いは解けているハズだけど」

 きょうだいで話をしていると、不意に愛良が聞いてきた。

「蓮、気にならないか?」

「何が?」

「お前が生まれた時から、お前の父親……成雲 慶介が変わった……どう思う?」

「……確かにおかしいとは思うが……それはまた今度考えないか」

 嫌な予感がして、蓮はその話題を避けた。その時、スマホが鳴った。名前を見ると、丁度話題になっていた人だった。

「……もしもし」

『蓮、今度選挙があるんだが……冬木 昭人を支持しろよ?』

「……はぁ……」

 ターゲットになっている人の名前を言われ、蓮はため息をつきながらも「分かりました」と言った。頭の中に「月」という言葉が浮かんだ。まさか、最後の協力者は父親だとは思わなかった。いや、協力者とは少し違う気がする……。

 電話が切れ、二人から「父親か」と聞かれた。誤魔化す理由もないので頷いた。

「それから、最後の「月」のアルカナ……お父様だった」

「ふぅん……なんか、ますます気になるな……」

 愛良は何か感づいているようだ。しかし、「今日はもう寝よう」と言われ、聞くことが出来なかった。


 次の日、再び集まった。すると、テレビから忌々しい声が聞こえてきた。この声、聞き覚えがある……。

「……冬木 昭人よ」

 秋川の言葉に蓮は覚悟して見上げる。

 ――映っていたのは剃髪の男性だった。その男には見覚えがあった。ビュッフェで会ったあの男で……、

「この男……!」

 思い出した。この男は……。

「どうしたんだ?蓮」

「……あいつだ」

 蓮の顔が青くなっているのが分かった。これはただ事ではない。

「あいつ?」

「……冤罪事件の、犯人……!」

 その言葉に皆が驚く。ただ一人、愛良を除いて。

「愛良……驚かないってことは気付いてたってことだね?」

「あぁ。こいつが「傲慢の悪魔」だ」

 なるほど。こいつが一人目の因縁の相手、ということか。蓮は俯き、

「……愛良、悪いけど、コーヒー淹れてくれない?」

 愛良に頼む。彼は頷き、すぐに淹れた。それを蓮の前に置く。蓮は一口飲んだ。

「どうだ?」

「……うん、苦い。でも、今のボクにはこれぐらいが丁度いい」

 そう言って、蓮は笑った。

「しかし、なんで急にコーヒーを?しかも、苦いやつ」

「気合い入れ、かな?こいつなんかに負けてたまるかっていう」

 テストの前に必ずやることってあるでしょ?それと同じだ、と彼女は言った。

「……確か、あいつは「舵取り」と言っていた。舵取りと言えば、船だよな?だから……」

 少し考えて、

「……豪華客船」

 そう言うと、ナビが反応した。ビンゴだ。

「どうする?行くか?」

 愛良が尋ねると、蓮は首を横に振る。

「いや、国会議事堂まで向かおう。なんか、嫌な予感がする」

 国会議事堂以外全てが海……なんてことも考えられる。だから先に国会議事堂に行った方がよさそうだ。

「あの、ぼく達も行っちゃ駄目かな……?」

 怪盗団が立ち上がると、島田が聞いてくる。良希は「駄目だ」と言うが、蓮は考えて、

「……まぁ、ここまで来て何も知らないまま、は嫌だよな……分かった、同行を許可しよう。ただし、今回だけだ」

 許可を出した。風花は「いいの!?」と驚いたように言ってきた。

「今日はどんな感じか見に行くだけだ。エネミーと戦う予定はない。場合によっては準備してから行かないといけないからな」

 それでも心配だ。入った途端戦闘……なんてこともあり得るからだ。しかし蓮は「それに、いざとなったらボクと愛良で何とか出来るだろうし」と呑気に答えた。確かに彼女一人でも皆を守りながら行けるだろう。それほどの実力者ががもう一人いるのだ。まぁ、安心は出来るだろう。

「それから、一応これを持っていてくれ」

 蓮は島田と智樹に銃のモデルガンを渡した。

「多分、アルターの力がなくても、それぐらいは使えるだろ。何かあった時は頼むぞ?」

 二人は頷き、それをカバンに入れた。

「あぁ、あと、ちょっと待ってくれ。着替えてくる」

「着替え?」

「さすがに死人が堂々と歩いてたらまずいだろ……」

 愛良も来い、と二人で二階に上がる。数分後、パーカーのフードを被った二人が降りてきた。

「まぁ、これで一応大丈夫だろ」

「なんでオレまで?」

「同じ顔だからだ。ボクは若干変わっているからバレてもどうにかなるかもしれないが、お前は完全にアウトだ」

 何せ尋問をされた時はウィッグも被っていた。蓮は今、バレてもいいようにウィッグを外しているが、愛良は地毛なのでそうもいかない。

「なんか、こうして見ると双子みたい」

「シャーロックがボクに似せて作ったからな、似ているのは当然だ」

 無駄話してないで早く行こう、と皆でファートルを出る。

 国会議事堂前まで来て、周囲を確認した後ナビをつける。すると歪んで、デザイアに入った。しかし、表面上は国会議事堂に変化は見られない。しかし、周囲を見ると予想通り海に囲まれていた。

「なるほど……自分が信じた人達以外はどうでもいい、か。しかも、歪みが広すぎる」

 城幹が可愛く見えてくる。彼も確かに周辺まで歪ませていたが、渋谷だけだった。さすが、大した悪党と言ったところだろう。

「主張と全く違うな。国中沈んでんじゃねぇかよ」

 藤森が呆れたように言った。ジョーカー達は怪盗服になっていた。

「ジョーカー、黒い方なんだな」

 クラウンが言ってきた。ジョーカーは「切り札は隠しておいた方がいいだろ?」と答えた。

「髪、黒いんだね」

「人間の姿だからな。黒髪なのは当たり前だろ」

 なるほど、つまり黒と白が混ざっているのは半神半人だからか。とりあえず、そう理解するしかない。

 デザイアの中に入ると、らせん状の階段があった。エネミーは……いないようだ。

 あがっていくと、開けた場所に出た。その先に巨大な扉がある。近くに地図があったのでもらっておく。

「オタカラは……あの先だ」

 ジョーカーが巨大な扉を指差す。そこから、禍々しい欲望が感じられた。

「オタカラ?」

「欲望の象徴だな。怪盗団はそれを盗んで改心させるんだ」

 智樹が聞いてきたので答えた。「オタカラ盗むって、本当に怪盗みたいじゃん!」と彼は目を輝かせた。

「……今はそんなこと言っている暇はなさそうだ」

 ジョーカーが身構えると、目の前にエネミーが現れた。

「リベリオン」

 ジョーカーがアルターを召喚させる。リベリオンの背にはアルセーヌ。

「ヤレアハ」

 呪文を唱えると、星のような光が現れエネミーを倒した。これが「万能呪文」だ。

 扉の前に行くと、三つの紹介状が必要であることが分かった。近くの安全地帯を確保し、その日は帰る。

 ファートルに戻ると、島田が「前も思ったけど、あのブワァって出てくる奴、何なの?」と聞いてきた。

「あぁ、あれが「アルター」だな。もう一人の自分自身だ。で、あの場所が「デザイア」。歪んだ心の奥底で見えている世界だ。欲望がかなり強いとデザイアが生まれる。普段は「アザーワールドリィ」という、いわば皆のデザイアに「フェイク」と呼ばれるもう一人の自分がいる。アルター使いはそのもう一人の自分と向き合うことでアルターを使えるんだ」

「ぼく達にもデザイアってあるの?」

 島田が聞いてきたが、蓮はそれはないと答えた。

「さっきも言ったように、あれは欲望が強い奴だけだ。皆にはない。アルター使いにはデザイアどころかアザーワールドリィにもフェイクがいないな。アルターがフェイクだから」

「でも、おねえさんってアルター?がたくさんあるよね?」

 智樹がそれを思い出すと、蓮は「少し違うな」と笑った。

「ボクのアルター自体はリベリオンとミカエルだけだ。あとは愛良のアルターと「サポートエネミー」って言って、敵を仲間にしたり新しく作ることで使えるようになる。ボクと愛良にしかない力だな」

「ジョーカーって呼ばれてたけど、それは?」

「あっちではコードネームで呼ぶ決まりなんだ。本名で呼び合って、現実に何か影響が出たら困るからな」

「コードネーム!?まさに「怪盗」じゃん!それに「ジョーカー」って名前も怪盗っぽい!」

 質問に淡々と答えていくと、「じゃあ、移動って歩き?」という質問が来た。

「いや、場合によっては車も使ってる」

「誰が運転してるの?」

 智樹の純粋な質問に、蓮と愛良含む怪盗団の皆が目を一斉に逸らした。藤森が「まさか……」と何かに思い至ったようだ。

「蓮が運転してるのか?」

「……はい、そうです。無免許運転してます……」

 もちろん現実ではやっていない。やっていないが……さすがに後ろめたい。

「確か、もみじは免許持ってたわよね?」

 秋川が聞くが、

「運転は五月からやってます……」

 蓮が運転を始めたのはもみじが怪盗団に入る前だ。なんてここでこの話になっているんだろ……と思いながら白状する。

「現実だったら捕まる案件だぞ、それ……」

「すみません……」

「他にやってないだろうな」

「エネミーひき殺してるよな、車飛ばして」

「墓穴掘るな、愛良」

「スピード違反と殺人じゃん。あれが人かは置いておいて」

 長谷が冷静に返してくる。確かに現実で人相手ならアウトだ。エネミーはある種化け物なので問題はない。……多分。

「それから、なんだっけ?サポートエネミーを処刑したりカツアゲしたり……あぁ、電源装置を足で壊したりもしてたよな?」

「これ以上墓穴掘るなって……それだけ聞くとただの強盗か極悪人なんだけど」

「怪盗なのか強盗なのか分からなくなってきたぞ……」

 ただ聞いているだけだと強盗にしか聞こえなかった。しかし、ルートを確保し、華麗にオタカラを盗んでいるという点においては怪盗だろう。

「オレ達は怪盗だ」

「いや、それは分かってるよ?ただ、お前が言ったセリフだとどうしても強盗にしかならないよ?」

 しかも、本気でやりかねないという。恐ろしいと蓮は思った。

 明日から攻略するということで解散した。協力者達は明日以降もファートルに来られたら来るらしい。

「それにしても、傲慢の悪魔、か。確かに、成雲家の令嬢さえも蹴落として一番になりたいっていうのは傲慢だよな」

 屋根裏部屋で話していると、義明が「それって大罪のやつ?」と聞いてきた。

「そうだな。狛井は「色欲」、白野は「虚飾」、城幹は「暴食」、りゅうは「憤怒」、咲中は「強欲」、秋川さんは「嫉妬」……全部「大罪」に入るな。りゅうは多少特殊だが」

 欲望は程よく持たないといけないものだが、度を過ぎればそうなってしまうということだ。だからこそ、改心しないといけない。だが、自分ではそれがなかなか出来ないのが人間なのだ。

「……守り神ってさ、見たくないものまで見えてしまうんだよ。人間って欲望だらけで弱いものだから。だから、もし本当に神様っていうのがいたらすごいなって思う。ボクだったら、全て見えてしまうなんて耐えられない」

 レンカは人間が望んで幻想世界で生まれた守り神だ。本物の神様とは違う。だからこそ好き勝手やってはいけない。そこら辺はわきまえているつもりだ。

『助けて……この理不尽な世界、歪んだ箱庭から』

『世界を、救って……あの人を、闇の世界から救って……』

『あなたしか、頼れないの……。どうか、仲間達と絆を深めて、この罪の連鎖を終わらせて……』

『どうか、思い出して……』

『あなたが、幻想世界で生まれたこの世界の守り神であることを……』

『この世界を救う、「トリックスター」であることを』

 不意に、そんな言葉を思い出した。よく頭の中に聞こえてきていた女性の声。

『わたくしはこの世界の守り神。伝説のトリックスターと呼ばれている者。あなたの魂に宿っている存在。でも、今は牢獄に囚われている。どうか、思い出して。そして、あの子と世界を救って』

 今思えば、これはレンカの声だったのだろう。自分の中に宿る、もう一人の魂。

「どうした?蓮」

「いや?ただ、よく聞こえていた声がレンカだったんだろうなって思ってただけ」

 そう言うと、愛良は笑って「よく思い出したな、辛い記憶だったろうに」と頭を撫でてくれた。

「辛いだけじゃない。お前といた日々は優しくて、温かい記憶だ。……だから、思い出せてよかった」

 蓮は微笑んだ。それを見て、本当に愛良のことが好きなんだなと義明は思った。

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