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幻想怪盗団~罪と正義~  作者: 陽菜


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十五章 いつもと違う日常と真なる覚醒 後編

 六月三十日、城幹の手下達も逮捕されていったとニュースでやっていた。打ち上げは花火大会に行こうという話になった。

「蓮も浴衣、着ようね」

「でも、ボク持ってきてないぞ?」

「大丈夫、あたしが準備したから!」

 用意周到だな……と思いつつ蓮は「仕方ない」と頷く。

 七月二日、勉強会を開き、良希と風花に勉強を教えた。

 次の日、開原が学校に来る。放課後、カウンセリングを受けて、ファートルに帰った。

 それからテストがあり、打ち上げの日の九日。ファートルに来た風花に浴衣を着せられた。白い浴衣で柄は朝顔だった。

「へぇ……この柄にしたんだ」

「朝顔のこと?この柄がどうしたの?」

「朝顔の柄は、「固い絆」、「愛情」という意味があるんだ。浴衣の柄も意味を知ると奥深いから知っておくのもいいかもしれないぞ」

「そうなんだ……じゃあ、今度調べてみる!」

 そうしている内に浴衣に着替え終わった。ヨッシーの入ったカバンを持って、電車に乗る。渋谷に向かっている間に誕生日の話になった。

「蓮って、誕生日いつなの?」

「ボク?ボクは八月十五日だ。そういう風花は?」

「もう過ぎたけど、五月十二日だよ。いいなぁ、夏休み中じゃん」

「どうせ祝ってもらえないんだから、誕生日なんてあっても意味ないよ」

 蓮が思わずそう言うと、風花は「祝ってもらえない?」と聞いてきた。

「うち、そういった習慣がなくってね。せいぜい「誕生日おめでとう」と言ってもらうぐらいだ」

「そうなんだ……」

 そういえば、最初の頃は自分の誕生日の日にりゅうのオタカラを盗んだなと思い出した。誕生日など、どうでもよかったから、すっかり忘れていた。

 渋谷駅に着くと、既に良希と裕斗、それからもみじが来ていた。

「おぉ……蓮、きれいだぞ」

「よく似合ってるわ」

「ぜひ描かせてくれ」

「あー……裕斗のスイッチが入っちゃったな……」

 蓮が裕斗の様子を見て呆れたような、愛おしいような目を向ける。本当にこいつは、変わらない……きっと大人になっても変わらないのだろうなと思う。

 そうして花火を見に行ったが、雨が降り出してしまう。コンビニで雨宿りしているとファンに詰め寄られる。そこから逃げ、今日は解散することにした。

 風花と一緒にファートルに戻り、着替える。そして温泉に行き、浴衣を洗う。

「なんか、こんなの初めてだね」

「そうだな。……こんなことなら、家から浴衣持ってくればよかったな」

 実家にはたくさんの浴衣がある。それを持ってくればよかったと思った。

「蓮の実家ってどんな感じなの?」

「まぁ、世間一般的に言うお屋敷みたいな感じって言ったら分かる?」

 イメージを伝えると、風花は目を輝かせた。

「やっぱり、お嬢様だからそんな豪華な家に住んでるんだね……写真ある?」

「一応、あるにはあるけど」

「見せて!」

「ワガハイも見てみたい!」

 二人に言われ、蓮は家の写真を見せる。そこに写っているのは絵に描いたような大きな屋敷だった。

「うっわ。なんか掟とか厳しそう……」

「よく分かったな。結構厳しかったぞ。高校生になってから門限とかはなくなったけど」

「将来はこの家引き継ぐんだろ?まさにお嬢様じゃねぇか」

「うーん……でも、本当に引き継ぐべきか悩んでるっていうのが本当のところ」

 ずっと疑問に思っていた。このままでいいのかと。昔の自分ならどうでもいいと一蹴していたところだったが、今の自分はそう言えない。保護観察期間が終わっても皆と過ごしていきたい……そう思うから。

 肩書きと、絆……どちらに従うべきだろうかと蓮は悩んでいた。

 乾燥機までかけて、風花が帰った後ヨッシーが口を開いた。

「ワガハイ、無責任なことは言えねぇけど……お前の好きにしていいと思うぞ」

「ボクの、好きに……」

「あぁ。だって、お前の人生はお前だけのものだろ?何を信じようが、何をやろうが、お前の自由なんだ。少なくとも、ワガハイはそう思うぞ」

「ヨッシー……うん。そうだね」

 蓮は優しく笑った。それを見られるだけで、ヨッシーは嬉しかった。


 七月十二日、ハッカー集団アヌビスが怪盗団に挑戦状を送ってきた。皆で集まり、話し合いをする。

 土曜日、りゅうと会った。そこで少し話をして、帰る。祝日の月曜日に再び呼び出され、自分を改心してほしいと頼んできた。蓮は頷き、ファートルに戻る。

 夜、ナビに海野 りゅうと入力すると反応があった。蓮の予想が正しかったなら、ないと思っていたのだが。やはり、アルターを覚醒させていないからだろうか。

 まぁ、あったならあったで改心させて罪の意識から解放してやるだけだと蓮は眠りについた。


 ――罪の意識に苛まれているのは、もしかしたら自分の方かもしれない。

 黒い髪の男性を抱えて、白い髪の女性(自分自身)は泣いていた。彼の左胸は血に染まっていた。

 男性の顔が見えそうだった。しかし、どうしても分からない。……いや、知りたくないだけかもしれない。この人のことを思い出したら、もう後戻りが出来ない気がして……。

 かすんで見えなかったその人が見えようとしたその時、『ジョーカー』が蓮を起こした。

「……『ジョーカー』?」

「大丈夫か?うなされてたぞ」

 頬に触れてみると、濡れていた。それで自分が寝ながら泣いていたことに気付いた。

「悪い夢でも見たか?」

「悪い、夢?……そんなのじゃない気がする」

 悲しいような懐かしいような、それでいて愛おしいような、そんな夢だったと思う。

「……………………」

 『ジョーカー』は黙ったまま、蓮を抱きしめた。


 島田にアヌビスの情報を集めてもらい、終業式の日にそれをもらう。次の日の金曜日、りゅうのデザイアに入る。しかし、罠が発動し、一筋縄ではいかないと明日以降に攻略をすることになった。

 次の日、武器や薬の調達をし、皆を集める。

「はい、これ。カスタマイズしているからいつもの武器より強くなってるハズだよ」

「ありがとう。……蓮ってこういうこともしているのね」

「一応、それなりに詳しいからな」

 何度もループしていると、どの武器にどんな効果をつければいいか分かってくる。

「大変よね……私達も出来ることがあったらするから、教えてね」

「大丈夫、資金を入れてくれるだけで充分だから」

 実際、そのおかげでバイトの量も減ったし、自由な時間が増えた。それだけで十分だ。

「そう?それならいいけど……」

「それより、早くデザイアに入ろう。早くりゅうを助けてやりたい」

 そう言うと皆頷き、デザイアの中に入った。

 なぜかいつもいるエネミーはいなかったが、謎解きはあった。それを解くと、オタカラまでの扉の前が開く。そこでりゅうのフェイクに本人に開けてもらえと言われたので現実に戻った。

 実行は七月三十一日にしようということで話はまとまり、解散する。蓮はヨッシーと共にアザーワールドリィに入った。今回は協力者達に依頼されたターゲットを改心させに行くのだ。

 そうして改心させ、まだ行けそうだったので鍛えたり宝箱があったのでそれを開けたりした。

「はぁ……ワガハイも共犯になっちまったな……」

「でも、これで協力者達が助かるんだ。いいだろ?」

 ファートルに帰る途中、ヨッシーがため息をついた。蓮は笑いながらそう言うと、急にしゃがみ込んだ。

「げほっげほっ」

 ポタポタと血が地面に落ちる。運が悪いことに、ファートルまでは遠かった。まさか外で血を吐くなんて思っていなかったので対策もしていない。どうしようか悩んでいると、

「おい!大丈夫か、蓮!」

 後ろから良希が駆けつけてきた。なんでこんないいタイミングで……とも思ったが、今はそれどころじゃない。

「血ぃ吐いてんじゃねぇか!ほら、ベンチに座れ!」

 良希が蓮の脇に腕を入れ、ベンチに座らせた。そして、近くのコンビニでタオル買ってくるとその場を去る。

 頭がくらくらしてきたので横になる。ヨッシーが心配そうに見てきた。

「大丈夫か?レン……」

「ちょっとくらくらする……血、吐きすぎたかも……」

 心なしか焦点が合っていない気もする。相当やばいようだ。

 良希がタオルと飲み物を持って帰ってきた。

「ほら、起き上がれるか?」

「あぁ……」

 身を起こすと、良希はタオルを渡す。それで拭くと今度は飲み物を渡してきた。彼にしては気を利かし麦茶のようだ。

「今日は送ってくから、おとなしく寝とけ。明日、ファートルに来るからな」

「悪いな……何から何まで」

 申し訳ない気持ちになっていると、彼は「いいって!たまには俺らを頼れよ」と笑った。

 ファートルまで送ってもらい、蓮はベッドに転がる。そのまま眠りについた。

 次の日、良希達が朝から来た。どうやら他の人達にも連絡していたらしい。

「ごめん、朝から迷惑かけて……」

「ううん、いいの。それより、いつから血を吐くようになったの?」

「えっと……四月から……」

 正直に答えると「本当?そんな最初から無理させてたの……」と風花が申し訳なさそうな顔をした。

「そんな顔しないでくれ。ボクが勝手にやってるだけなんだから」

 そんな顔をさせたいために黙っていたわけではないのだ。心配かけたくなかったから、黙っていただけ。

「そうかもしれないけど……蓮、いろいろやってるでしょ?やっぱり頼ってよ。身体、ちゃんと休めて」

「でも……ボクしか出来ないこともあるし……」

「まぁ、確かに何もかも蓮に頼りっぱなしだもんね……」

 武器と薬の調達も潜入道具の作成も蓮がやっていた。バイトの量を少なくしているとはいえ、まだ蓮の負担は大きい。だが、何も出来ないのも事実で。

「今は大丈夫だから、心配しないで。あれ、発作的なものだから」

 今度から外でも対処出来るようにしないとと思いながら今日は帰るように皆に告げた。


 そんなことがあったが、三十一日、無事に決行することが出来た。りゅうに直接予告状を渡し、デザイアの中に入る。すると、りゅうの母親が化け物になった姿が現れた。

 戦っていると、りゅうが来た。化け物の攻撃からりゅうを守るために自身を盾にしながら、りゅうに問いかける。それでりゅうはアルターを覚醒させ、化け物を倒すために協力してくれた。

 倒すと、本当の母親の姿が現れ、りゅうにお礼を言う。そして、りゅうは一人現実に戻った。デザイアが崩れ始め、慌てて脱出する。

 もみじとヨッシーと一緒にりゅうのところに行くと、彼は家の前で寝ていた。藤森に伝え、その日は解散になる。

 次の日、りゅうが起きてきた。いつもギリギリに起きてくるので驚いたが、アヌビスを倒すのは指定された期限の日にしてくれと頼んだ。そちらの方が黒幕も油断するだろうと思ったのだ。

 ある日、朝から約束もしていないのにりゅうを含む仲間達が来た。

「どうした?今日は集まる日じゃなかったと思うが……」

「蓮――誕生日おめでとう!」

 クラッカーを鳴らされ、蓮はキョトンとする。そして、スマホで日付を確認する。……八月十五日、確かに自分の誕生日だ。

「蓮、ケーキ買ってきたぞ。それからこれ、誕生日プレゼントだ」

「あたしも、どうせならおしゃれしてほしいなって思って服を買ってきた」

「俺は何せ金がないからな……絵を描いてきた」

「私はシャーペンを買ってきたわ。実用的でいいんじゃないかって」

「ぼ、僕は何も準備出来なかったけど……」

「えっと……ちょっと待て。なんで知ってる?確かに風花とヨッシーには言った覚えがあるが」

 それに、誕生日を祝う習慣がないとも言ったハズだ。それなのになぜ?

「蓮にはいつもお世話になってるからさ。こういう時ぐらいしか、日頃のお礼とか出来ないでしょ?」

「だから、皆で蓮にプレゼントを贈ろうという話になったんだ。りゅうは昨日聞いたから準備が出来なかったみたいだ」

 別に、わざわざ祝ってもらわなくていいのに。そう言ったが、「たまにはそういう立場になってみろって」と言われた。蓮も、せっかく祝ってくれたのだからと受け取っておくことにした。ケーキを皆で食べて、話をする。正直に言って、意外と楽しかった。

 夕方になり、皆が帰る。

「楽しかったな」

「そうだね。初めて、誕生日を祝われたよ」

 ――蓮、生まれてきてくれてありがとう。蓮のおかげで今こうやって幸せに過ごせてる。

 母親にも言われたことのない言葉だ。どんなプレゼントよりも、その言葉が嬉しかった。なぜこんなに心が温かくなるのか。

 ――きっと、白い髪の女性の蔑まれた記憶があるからだ。

 白い髪の女性の、人々から疎まれた記憶。それがあるから。誰も彼女を必要とせず、もうやってられないと思っていたその時、白い髪の女性は一人の男性に出会った。その人に言われた台詞と同じだったからかもしれない。

 理由は分からないが、とにかく嬉しかった。それだけは確かだった。


 夜、目覚めると『ジョーカー』が笑って「誕生日おめでとう」と言ってきた。

「ん。ありがとう」

 蓮が素直にお礼を言うと「それにしても、お前はあいつと同じ日に誕生日なんだな」と言ってきた。

「あいつ?」

「冬木だ。あいつもお前と同じ日に誕生日なんだぞ」

「なぜそれを知っている?」

 その質問には笑うだけだった。やはり、自分と冬木には何か秘密があるのだろう。

「こんなもので悪いが」

 『ジョーカー』は蓮の頭の上に何かを乗せた。触ってみると、それは花冠だった。

「これ……」

「兄貴が作ってくれたろ?覚えてるか?」

「……もちろん」

 優しい記憶だ。誕生日のたびにこれを作ってくれた。あの時は、器用な兄だと思ったものだ。

 頭に乗っているものは兄が作ってくれたものより少し歪なものだった。『ジョーカー』が自らの手で作ってくれたのだろう。

「嬉しいよ、まさかお前から貰うとは思ってなかった」

「お前が自分を大事にするようになったからな。その記念でもある」

 そして、耳元に顔を寄せ、

「ハッピーバースデー、蓮」

 そう言ってくれた。蓮は嬉しさのあまり『ジョーカー』に抱きついた。


 二十二日、りゅうがアヌビスを撃退してくれる。その後彼はすぐに寝たが、大丈夫だろうとファートルに戻った。

 次の日、皆で集まり、結果を見て喜んだ。そして打ち上げを三十一日にしようと風花が言い出し、海に行こうと良希が言った。りゅうはこの日までにトレーニングしていたから人前に出てもある程度大丈夫になっている。

 時間がある時に風花と一緒に水着を買いに行き、三十一日になった。りゅうを連れて渋谷駅に来た。大勢の人の前ではまだ慣れないのか、蓮の後ろに隠れている。

 皆が集まり、海に向かう。蓮は水着に着替え、すぐにヨッシーのもとに向かった。

「お、今回は上着着ないんだな」

「一応、持ってきてるけどね」

 それに、着なくても自傷行為はなくなったし、虐待の痕も見えないから大丈夫と判断したのだ。

 初めて見たその姿はスタイルがよく、肌が白くてまさに美女だった。モデル体型とも言えるだろう。これは確かに、男達がナンパしたくなる気持ちも分かる。

 しかし、ヨッシーには「蓮の相棒」という特等席があるのでそんなことしようとは思わなかった。蓮が膝にヨッシーを乗せていると、男達が言い寄ってきた。しかし、裕斗が来てくれたので事なきを得る。

「すまないな、裕斗」

「いや、いいさ。それより、その格好……素晴らしいな、モデルになってほしい程だ」

 裕斗がいつも通り指で枠を作り、蓮をその中に入れた。

 その後、皆が集まり、海で遊んだ。りゅうも怪盗団に入ることになり、コードネームを「ヘルメス」にした。


 九月四日、新学期が始まり、智樹と会う。取引をし、ファートルに帰った。

「そういや、ワガハイこの後どうしたらいいんだ?」

「あぁ、えっと……一応、出ていってくれないか?ほのかがアルターを覚醒させるために必要だと思うから」

 修学旅行の前の日、ヨッシーに問われたので少し考え、そう頼む。ヨッシーは「分かった」と頷いた。

 修学旅行では二日目の夜に風花と良希が蓮と島田の部屋に来た。

「うわ!なんで来てんだよ!」

 島田が驚いたような声をあげる。二人は「同じ部屋の人が恋人連れ込んだから部屋にいられない」と言ってきた。

「そうか、それなら仕方ないな」

 しかし、ベッドは二つである。もう一人はソファで寝られるとして、あと一人は床で寝ることが確定している。

「春鳴と成雲はベッドで寝るとして……どっちがソファで寝る?」

「あぁ、ボクはソファでいい」

 島田が女性達を優先してベッドに寝かせようとしたので蓮がそう申し出る。別に床でもいいのだが、この二人が許しそうにない。

「じゃあ、どっちがベッドで寝るかじゃんけんで決めようぜ!」

 良希が島田に勝負を仕掛けた。しかし、そうなると言い出しっぺが負けるのは定番なわけで。

「クッソー!俺が床かよ!」

「公平な勝負だ、諦めろ」

 蓮はソファに転がり、天井を見上げた。

 最終日、皆に誘われるが蓮は無視して一人で過ごすことにした。

 ――いや、正確には一人ではない。

「『ジョーカー』。どこか行きたい場所はあるか?」

『じゃあ、浜辺に行きたい』

 浜辺に行くと、屋台がたくさんあった。

『ガーリックシュリンプというものを食べてみたい』

「入れ替わるか?」

 蓮が目を閉じ、意識を集中させると心にたゆたう感覚になった。入れ替わったのだ。

 ガーリックシュリンプを買い、『ジョーカー』は蓮の身体で食べる。

「おいしいな」

『だろうね。同時に一緒に味わえないのが残念だ』

 一緒の味を、同じように味わいたいと何度願ったか。

「きっと、その願いも叶うさ」

『お前が言うとそうなる気がするからすごいよな』

 『ジョーカー』は半分食べると、蓮と入れ替わった。蓮が残りを食べる。

 夕方、ベンチに座っていると皆が来た。もう遊べる時間は少ないが、あとの時間は皆と過ごした。


 日曜日、ヨッシーが出ていく。しかし、絶対に戻ってくると知っているのでそこまで精神的に来なかった。

 咲中のデザイアに入ったりアザーワールドリィに行ったりして説得(するふり)をした。二十五日、ヨッシーが戻ってくる。そして二十七日から攻略を始めようとなった。

 期限が開始し、一日でルートを確保した。そろそろステータス的にきつい頃だろうとオタカラを盗むのは十月三日にしてアザーワールドリィで鍛えることにした。

 そうして血を吐きながらもアザーワールドリィで十分に鍛えた。例の誰のものか分からないデザイアにも入る。そして、オタカラを盗む日、蓮の「ショータイム!」の言葉と共にデザイアに入った。

 咲中のところまで来ると、ロボットを召喚した。しかし、ジョーカーの呪文で全て薙ぎ払う。最後にはバアルの風呪文「アネモス」でロボットを倒した。

 ジョーカーが咲中に聞くことがあるから先に行ってほしいと言うと、皆は残ると首を振った。別にいいかと思い、ジョーカーは銃を突きつける。

「質問に答えろ、いいな?」

 そうやって聞こうとすると、気配を感じた。すぐに咲中の前に立ち、壁をはる。それと同時に銃弾が跳ね返った。

「……こざかしい……!」

 フードを被った男がナイフを持ってジョーカーに襲い掛かる。ジョーカーも同じようにナイフを持ち、対抗する。

「早くオタカラを盗め!」

 叫ぶと、テュケーは頷きオタカラを持った。その瞬間、デザイアが崩れ始める。咲中も、元の自分の心の中に戻ったようだ。これ以上やっても無駄だと悟ったのか、男は立ち去っていく。ジョーカー達も車に乗り、すぐに脱出した。

 咲中のオタカラはプラモデルだった。しかも古いもの。ほのか曰く、咲中はプラモデルが好きで集めていたそうだ。

 これで廃人化の心配もないだろう。少なくとも、蓮はそう思っていた。

 ――しかし、事態は予想外の方向へ進んだ。

 咲中が会見を開く日、確かに咲中は廃人にならなかった。しかし、その後のニュースで凛条高校の校長が不審死したというニュースが流れた。しかも、校長室には予告状があったという。

「なんで……!私達、校長に予告状を出してない!」

「誰が出したんだよ!」

 皆がパニックになる中、蓮だけが冷静に考えていた。

 つまり、校長も黒幕と繋がっていたと……。

 他人の命を何とも思っていないような所業、やはり許せるものではなかった。

 しかし、日に日に怪盗団の支持率は下がっていった。人殺し集団だの精神崩壊事件の実行犯だのいわれのないことを書き込まれる。それで皆の雰囲気も暗くなっていく。

 いつまでも暗いままだと士気もあがらないだろうからとリーダーが皆を集め、アザーワールドリィに入った。ジョーカーが運転しているが、いつものジョーカーの運転技術ならエネミーに不意打ちをくらわせることが出来たハズだった。

 しかし、その日のジョーカーは事故を起こし、運悪くエネミーに見つかってしまう。逆に先制を取られてしまい、アポロが怪我をする。

「アポロ!?待ってろ、今……!」

 責任を感じているのか、ジョーカーが近付こうとするが膝をついてしまう。テュケーが近付くと、肩が僅かに震えていることに気付いた。これでは戦うことは出来ないだろう。

「ジョーカーの様子がおかしい!ワガハイとアテナでジョーカーを近くの安全地帯に連れて行く!」

 テュケーが言うと、アテナはジョーカーを車に乗せ、近くの安全地帯へ向かった。

 ジョーカーの指示のない戦闘は大変なものだった。普段どれ程彼女が先読みして指示を出していたかよく分かった。

「ジョーカーがすごいって改めて思うね……」

「そうだ、ジョーカー……!」

 皆で安全地帯に向かうと、ジョーカーがソファで横になっていた。目元は腕でおおわれている。

「おい、大丈夫か?」

「あぁ……大丈夫……」

 ジョーカーの口元は笑ったが、それがやせ我慢だということは一目瞭然だった。大丈夫なら、そんなに顔が真っ白なわけがない。

「どうしたんだよ!?」

「……実は、異世界に入ると身体が痛くなるんだ。普段は気にならない程度だったんだが……っ……!」

 不意に顔を歪ませたジョーカーに、これはただ事ではないと全員が思った。

「ワガハイから説明する。ジョーカーは前から幻想世界に入ると全身に痛みが走っていたみたいなんだ。今日はそれが一段と酷かったらしくてな、事故を起こした時には半分以上意識が飛んでいたらしい」

 ヨッシーが伝えると、他の人達は口元を覆った。

「マジか……そんな中こいつ運転してたのかよ」

「大丈夫だと思ったんだ。……悪かった、オレの判断ミスだ」

 目元を覆ったまま、ジョーカーは謝る。息は切れていて、顔色もさっきより酷い。

「ジョーカー、あまり話さない方がいい。今日は引き上げるぞ、この状態で続けるのは危険だ」

「……分かった。でも、一つだけ聞かせてくれ」

「なんだ?」

「皆に、この症状はないよな?」

 その言葉に、全員が頷いた。それを見ていたジョーカーは「よかった……」と笑みをこぼした。

 何が「よかった」なのだろう。自分は苦しんでいるのに。そう思いながら、アポロは気を失ったジョーカーを背負う。怪盗団の中では二番目に背が高い彼女だが、軽く感じた。

(やはり、女性なんだな……)

 自分とは体格が違う。こんな小さい肩で、全てを背負っているのだ。家のこと、前歴のこと、協力者達のこと、そして怪盗団のこと――その細い身で抱えるには重すぎる荷を、彼女は一人で背負っている。

 現実に戻るが、蓮が目覚める様子がない。近くのカラオケボックスで休ませようとカラオケ店に向かう。

 蓮が目覚めたのはカラオケボックスに入って十分後だった。

「う……ん……」

「大丈夫か?」

 裕斗の顔が上にあり、蓮は驚いた。跳ね起きて彼の顎にクリーンヒットしなかった自分を褒めてほしい。

 ゆっくり起き上がると、カラオケボックスであることが分かった。痛みはある程度引いている。

「大丈夫?蓮」

「あぁ……すまなかった。まさかあそこまで酷くなるとは思わなかった」

 自分の管理の甘さを恨んでいると、風花が「いいよ、そんなの」と笑った。

「でも、せめて言ってほしかったな。そうじゃないと私達も何も出来ないし。だから頼って」

「……ごめん」

「そこは、ごめんじゃなくて「ありがとう」と言うべきところよ」

 もみじに言われ、蓮は疑問符を浮かべる。

「そうやって謝られても困るものなのよ、こっちは。だから、感謝される方がいいの」

「……そんなものなの?」

「そう。確かに悪いことをやったのなら謝るべきだけど、今回のは不可抗力でしょ?だから仕方ないの。そんなことで怒るほど、私だって鬼じゃないわ」

 蓮は俯いた後、小さく「……ありがとう」と呟いた。

「じゃあ、蓮も目覚めたことだしカラオケしちゃおう!」

 風花の言葉に全員が笑って賛成した。


 目の前に『ジョーカー』が立っている。

「……なぁ」

 前から感じていた違和感を彼に投げかける。

「お前、本当は「ボク」じゃないんだろ?」

「……なぜ、そう思う?」

 彼は挑戦的な笑みを浮かべた。

「何となくだ。……いや、何となく、というわけでもないな。だって、普通「自分自身」なら男になるか?もちろんボクは「男」として過ごしてきたから、考えられることではあるが……「自分自身」なのに雰囲気が他の人に分かりやすく変わるか?最初は男と女で変わってくるものだろうと考えたが、よくよく考えれば「ボク自身」である限り、そう雰囲気が変わるわけがないだろ」

 多重人格者なら、まだ分かる。だが蓮は決して「多重人格」ではない。だって、その定義に当てはまらないのだ。なら、なぜ雰囲気が変わるのか?答えは簡単。本当は「別人」だからだ。

「……そうだな。確かに、オレは「お前」じゃない」

「じゃあ、何者だ?」

「それに答えることは出来ない。それはお前が自分で見つけて初めて意味を見出せるものだ」

 肝心なところを言わないのが彼らしい。

 ――だが、彼が確かに大切な人であったことだけは分かった。


 学園祭の日、一緒に回っているといつもの事件が起きる。男達と対峙していると良希達が来た。それをちらりと見つめる。

 ――たまには頼って。

 不意に、その言葉を思い出す。

「……えっと、助けて、くれ……?」

 なぜに疑問形。

 良希と裕斗はそう思ったが、せっかく頼ってくれたのだ。ここは自分達の出番だと二人が前に出る。

「はっ!男のくせに意気地ねぇ!」

 男の内の一人が蓮に対してそう言ってきたが、

「言っとくが、こいつ女だぞ」

 良希がそう言ったので男達は驚く。蓮はウィッグを外し、長い髪を見せた。

 その後、先生達が来て男達が連れて行かれる。それを見届けた後、裕斗が「よく俺達を頼ってくれたな」と笑った。

「お前達がずっと言っていたからな。頼れって」

 そうやって見せた笑みにその場にいた人達皆が衝撃を受けた。

「あいつ、あんな風に笑うこと出来るんだな……」

「美人すぎねぇ?メガネ外してほしい……」

「本当にナイフとか持ってんの?」

 そんな周囲の言葉など聞く気もない蓮は良希達と一緒にどこかに行った。

 次の日、冬木が取引を持ち掛けてくる。体育教官室で解散した後、蓮はヨッシーと話す。

「……ここからか」

「うん。……りゅうには言わないとだな」

 あの作戦をやるためにはどうしてもりゅうの力が必要だ。

「……でも、どうする気だ?」

「正直に話す。それしか協力してもらう方法がない」

 そう言うと、「やっぱりだよな……」とヨッシーは伏せた。蓮は「大丈夫、絶対協力してくれるから」と笑った。

 ファートルに戻り、藤森がりゅうに渡した予告状を見せる。蓮が事情を話し、藤森は皆を庇うことを約束する。

 皆が帰った後、蓮はりゅうに個人的なチャットを送る。

『明日、時間ある?皆が来る前に話がしたい』

『大丈夫、どうしたの?』

『ここでは言えないことだ。協力してほしいことがある』

『分かった。詳しいことは明日聞くね』

 そう送って蓮はベッドに横になった。

 次の日、約束通り皆が来る前にりゅうが屋根裏部屋に来た。事情を話し、協力してほしいと頼むと彼は「分かった、じゃあスマホを貸して」と言われたのでスマホを渡す。そして、自作の録音アプリを入れて言葉を録音する。

「これでよしっと。……確か、幻想世界でも使えたんだよね」

「あぁ。そこは前の周回で確認済みだ」

「じゃあ、後はこれを遠隔で操作するだけから」

 話している内に裕斗と冬木以外の人達が集まった。夕方、二人も来て秋川を改心させてほしいと冬木が言ってきた。それを了承し、解散する。

 次の日、秋川のデザイアに入った。途中まで進み、現実に帰る。

「成雲さん、キミ、銃を使い分けてるんだね」

 帰り道、冬木に話しかけられる。

「あぁ、普段は最初から持っている銃を使っているんだが、状態異常をつけたい時はある人から貰った方を使っているな」

 金井のことは伏せる。何かあったら蓮も責任が持てない。

「そうなんだ。ならオレの武器も調達してくれる?」

「別に構わないぞ。お前の奴はボクとほとんど同じものだしな」

 違いと言えば蓮より少し大きいところだろうか。これならあったハズだ。

 皆を別れて、りゅうと一緒にファートルに戻る。

 ルートを確保したのは十一月五日だった。冬木に武器を渡し、二十五日にオタカラを盗もうということになり、解散する。

 十日の金曜日、開原が学校を去る日に蓮は保健室で彼と共に昼食を食べた。保健室から出る直前、彼の瞳の色が変わったような気がした。

 そうして決行日、ジョーカーはいつも以上に緊張しながらデザイアに入った。

 秋川のフェイクをスノーマンの氷呪文「リオート」で倒し、オタカラを盗む。するとヘルメスが「警察が入ってきた!」と慌てたように言ってきた。ジョーカーは自分が囮になると言って皆を逃がす。

 いつも通り捕まり、尋問を受ける。秋川が入ってきて、事件の全てを聞いてきた。校長のことに関しては自分達がやったわけではないので分からないと言ったが。

 その時、女性の声が聞こえてきた。

『これは極めて理不尽なゲーム……勝機はほぼ無いに等しいでしょう。けれど、この声が届いているのなら、まだ可能性は残っている……あなたは、囚われの運命……心さえ牢獄に繋がれた、哀れな少女……解放されるには、この世界を変えるしかない……どうか、仲間達との絆を大切にし、世界を……救って……』

 そうだ、ここで負けてられない。必ず勝たなければ。

 そうして秋川と取引をして、彼女は一度外に出る。十分くらい経っただろうか、再び扉が開き、そこに立っていたのは秋川。今回も成功したようだ。

 秋川の車に乗ってファートルに戻ると、藤森がホッとしたような顔をした。怪盗団の人達も二階から降りてきた。ニュースを見ると、蓮が自殺したと報道されていた。

 この日は解散しようと皆が帰った。りゅうと藤森が蓮の様子を看ることになった。


 次の日、協力者達も皆やって来た。そこで蓮はため息をつき、「皆に聞きたいことがあるけど」と一言前置きをして、

「皆、繰り返しているんだろ?」

 そう聞いた。やけに確信している口調だ。

「それに、ワガハイの声も聞こえてんだろ?ワガハイ達、知ってるんだぜ?」

 ヨッシーの言葉も相まって、皆が白状する。

「……なんで気付いた?」

 裕斗が問いかけると再びため息をついて答えた。

「最初は気のせいですませようと思ってた。だが、ヨッシーが繰り返していると聞いて、お前達もそうなんじゃないかって疑った」

「それって良希のせいじゃないの!?最初に会う人ってあたしか良希でしょ!?」

 風花がそう聞いてくるが、

「いや、むしろ良希は分からなかった。こいつならやりかねないからな。確信したのはもみじの時だ、普段のもみじなら城幹と接触した後、謝ってくる。だが、今回は「信じてた」と言った。つまり、ボクが助けに来ると分かっていたということだ」

 そう言うと、もう隠す必要がなくなったと思ったのか、晃が「ヨッシーだっけ?蓮さんとよくしゃべるよね!」とヨッシーを撫でた。

 その時、後ろから気配を感じた。振り返ると同時に蓮は怪盗服にかわる。そこにいたのはシャーロックとユリナ、マリナだった。

「ほう……今回はすぐに怪盗服にかわったか」

 シャーロックは笑い、エネミーを召喚する。蓮はエンリルの水呪文「ヒュドール」でそれを倒す。

 次は今の蓮でも倒せるか分からないほど強いエネミーが現れた。呪文を唱えたり、ナイフで斬りつけたり、銃弾を撃ったりするのだが、徐々に体力と気力が尽きていく。

 いよいよ体力が尽き、膝が崩れる。

 ――諦めないと、いけないのか?

 悔しさに拳を握りしめた、その時。

『諦めるのですか?』

 蓮の心の中から、リベリオンでも『ジョーカー』でもない、女の人の声が聞こえてきた。

『皆を守ろうとは思わないのですか?このままではあなたも皆も死んでしまいます。それとも、今まであなたがやって来たことは間違っていたのですか?』

「え……?」

 思い出したのは今まで改心させてきた悪人達、蓮を冤罪に追い込んだ男。そして、被害に遭っていた人達。蓮はゆらりと立ち上がった。

「……そんなわけない。確かに、ボクのやって来たことは、法律的には間違っていたのかもしれない。でも、ボクのやって来たことは間違っていない!」

 その言葉と共に、頭が割れるほど痛みだした。

「うっ……!」

 頭を抱え、その痛みに耐える。目元が熱くなっていった。

 前を見ると、一瞬だけ白い髪の女性が現れた。それと同時に全ての記憶が流れ込む。

「そうだ、思い出した……「私」がいかにして、この世界を守ったのかを」

 蓮は仮面に触れる。いつものあの仮面ではない、羽の形をした仮面を。

 両手でそれを掴んで、力を込めて剥がす。すると風が巻き起こり、光が蓮を包み込んだ。光から出てきたのは白い髪に青い瞳、白い長そでのワンピースに白い手袋、それから白い羽を生やした、まるで別人になったかのような姿になった蓮。長い髪は高く一つ結びにされている。そんな彼女の後ろには白い衣を着た天使の姿。

「ほぅ……」

 シャーロックは興味深そうに彼女を見た。

『私の名はミカエル。人々を守る者よ、あなたは何を求めますか?』

 蓮の後ろにいた天使――ミカエルが蓮に尋ねた。彼女はミカエルを見て、言った。

「……力が欲しい。皆を守れるだけの力が」

『いいでしょう。存分にその力を振るいなさい』

 その言葉にあわせ、蓮はエネミーに向かい合う。

「ルミエール!」

 呪文を唱えると、光がエネミーを包み込む。悲鳴をあげながら、エネミーは消えていった。シャーロックはさらにエネミーを召喚する。蓮が後ろに飛びのくと、足のついた場所から光が出現し、怪盗団のメンバーも怪盗服になった。

「よし!これで戦える!」

 りゅうがアルターに乗りながらそう言った。蓮は皆に向かって笑い、仲間達と共に戦う。数十体エネミーを倒した後、

「もういい」

 シャーロックの言葉にエネミーの動きが止まる。そして、蓮に話しかけた。

「思い出したか。成雲 蓮……いや、「レンカ・ピースガーディアン」」

「……はい」

 蓮が頷くと、シャーロックは笑う。

「ならば、お前がやるべきことも、その役目も思い出したな?」

「えぇ。ボクの役目は「人々を守り、悪人を懲らしめること」、それから「人々の痛みを癒すこと」……そして、「悪神から世界を救うこと」、ですよね?」

「その通り。そのためにお前は「幻想世界」で人々に望まれた、光から生まれた「守り神」……ちゃんと思い出したようだな」

 シャーロックの言葉に全員が驚く。

「レン、どういう意味だ?」

 代表してヨッシーが聞く。蓮は「聞いた通りだよ」と答えた。

「ボクは二千年前に生まれた「守り神」で、幻想世界の王女だ。……この姿は、二千年前の姿だよ」

「信じられない……」

 風花が呟く。蓮は「でも、事実だよ」と答えた。

「二千年前も、同じように悪い大人達を改心させてきたんだ。ある時、悪神ユミフラデスが世界を破壊しようとした。だから一人の従者と共にボクは戦ったけど、一度は負け、二度目は相打ちになった。ボクはユミフラデスを封印するために自ら生贄になったんだ。でも、それも長くは持たないと分かっていたから、再び生を受け、今度こそユミフラデスの計画を止めないといけなかったんだ」

「だからレンカは「成雲 蓮」として生を受けた。彼女には愛する人との間に子供が五人いたが、その長男が成雲家の先祖だ。成雲家に女が生まれなかったのは、私が呪いをかけたからだ。レンカ以外の女子に期待をかけられたら困るからな」

 シャーロックが蓮に続いて話した。シャーロックの後ろからユリナとマリナが顔を出す。

「ユリナ、マリナ」

 蓮が優しく名前を呼ぶと、二人は「……お母さん」と泣きながら抱きついてきた。その様子を見て、二人がレンカの子供であるとすぐに分かった。

「この子達は、レンカが牢屋に閉じ込められた後母親を探して来た子達だ。レンカの双子の娘で長子と二子だ」

 二千年ぶりの親子の再会、ということだ。蓮は困った顔をしながら「ごめんね、置いて行ったりして」と二人の頭を撫でる。

「レンカ、これを受け取るがいい」

 シャーロックは蓮を呼ぶ。蓮は彼に向き合い、光に包まれたカードを受け取る。

「これは……」

「「世界」のアルカナだ。お前の真のアルカナでもある。始まりであり、終わりである……それがお前だったのだ。それから、一つのサポートエネミーも渡した。存分に使うがいい」

「なるほど……なら、受け取っておきます」

 握ると、それは蓮の中に入っていった。力が湧いてくる気がする。

「では、そろそろ私は戻らなければならないが……」

「この子達は後で送って行きます」

 蓮がそう言うと、シャーロックは「分かった」と頷いた。シャーロックが帰ると同時に全員の格好が戻った。しかし、蓮の姿が少し変わっていた。

「お前、それ……!」

「あぁ、瞳の色?それとも髪の色?どっちもミカエルを覚醒させたからだよ」

 蓮の瞳は右が黒色、左が青色になっており、長い髪の色も下半分が白色になっていた。しかし、当の本人は特に驚いた様子もなく自分の娘を撫でていた。むしろ、これが当たり前と言いたげだ。

「もっと魅力的になったな。男装姿もいいが、その姿もいい。今度モデルになってくれ」

 裕斗が指で作った枠に蓮を入れる。敷井は「研究のしがいがありそうね」と笑い、水谷も「ネタが増えたよ」と言った。

 そんな中、島田が蓮の名前を呼んだ。

「どうした?島田」

 しかし、彼は緊張していて言葉を発せなかった。あまりにも美しく、眩しいと思ったからだ。

 蓮が優しく微笑む。「ゆっくりでいいよ」と言っているようだった。島田は深呼吸し、そして声を発する。

「ぼく、君のことが好きなんだ」

 時が止まったような気がした。周りからは「人の前で告白なんて大胆だね」とか「蓮、どうするんだ?」とか言った声が聞こえてきた。

「……ごめん、その気持ちは嬉しい」

 そんな中、蓮は断った。それでも島田は満足げだった。

 ――蓮の爆弾発言がなければ。

「でも、ボク他に好きな人がいるんだ」

 沈黙が流れた。そして、「えぇー!」と驚きの声があがる。

「これ、大スクープだよ!「成雲家の令嬢、恋人出来る」的な!」

「で、でも、占いに恋人の存在なんて出てないですよ!?」

「あー、えっと、そいつはなんていうか……」

 蓮が弁解しようとしたその時、ファートルの扉が開いた。そちらを見ると、全員が動きを止めた。

 ――そこにいたのは、男装姿の蓮と瓜二つの男だった。

「は?は!?どうなってんの!?」

 良希が蓮を見るが、当の本人もどうなっているのか分からないという顔をしていた。そして、

「なんでお前、ここにいるの!?」

 我に返ったようにそう叫んだ。しかし、その男は蓮の言葉も気にせず「どうも」と言った。

「蓮の兄の愛良と言います。よろしく」

「いや、違うから!ボクに兄なんていとこの兄さん以外いないから!」

 何言ってるんだと蓮は愛良と名乗った男を睨む。すると彼は蓮に近付き、その腰を抱く。

「そうだな、きょうだいだったらお前の「恋人」なんて務められないよな」

「……え?蓮の恋人?」

 皆がキョトンとする。蓮はややこしいことになったと頭を抱えた。

「……あー、ちょっと待って。ごちゃごちゃしてきた。お前、愛良、でいいんだよな?」

「あぁ」

 愛良が頷くと、蓮は彼の腕から逃れ「あいら、あいら、あいら……」と何度もその名を呟く。そして「覚えた」と言い、

「愛良」

 慈しみ深く、はっきりとした意志で彼の名を呼んだ。

「おい、そろそろ教えてくれ。レン、こいつは何者なんだ?」

 ヨッシーが呆れたように聞いてきた。しかし、蓮は「愛良については、ボクもなんて言えばいいか分からないんだ」と困ったような顔をした。

「名前、気に入ってくれたようでよかった」

「最初はなんで愛良?って思ったけどね」

 愛良は笑い、ネタ明かしした。

「仕方ないだろ?『ジョーカー』なんてどう考えても日本人とは思えない名前、こちらでは使えないからな」

「………………はぁ!?」

 蓮とユリナ、マリナ以外の全員が驚きの声をあげる。

「ジョーカー!?お前、ジョーカーだったのか!?」

「言っておくが、幻想世界で活動していたわけじゃない。あれはオレを指針とした蓮だ」

「時々入れ替わったりすることもあったけどな」

「えっと、つまり心の中に住んでいたってこと?」

 りゅうが確認すると、愛良は「その通りだ」と頷いた。そうなると疑問が残る。

「どうやって出てきたの?」

「それはボクも気になってた。どうしてだ?お前は二千年前にボクが、殺しちゃって……心の中で過ごせるようにって……」

「これに関してはお前にも責任があるぞ、蓮」

「え?ボク?」

 蓮はキョトンとする。愛良は腕を組み、

「お前がオレと一緒にいたいって望んだから、オレがシャーロックに頼んできたんだ。「トリックスターにはお前も必要だろう」とシャーロックは言ってたぞ」

 なるほど、確かにそれは蓮にも責任がある。

 ――「レンカ」として覚醒した。だからこそ、彼を求めた。それを自覚していたから。

「でも、お前はいいのか?その……ボク、お前を愛していたのに殺したんだぞ……?」

 蓮が不安げに聞く。

 そう、レンカはかつてこの世界を守るために彼を……ジョーカーを殺した。それからずっと罪の意識に囚われていた。だからこそ、心の中に彼の魂を取り込んだ。

 責められてもいいと思った。愛しているのに、殺してしまったから。最悪の決断を、あの時してしまったから。

 愛良は笑い、蓮を抱きしめた。

「当然だろ?オレはお前が好きなんだ。……殺されても、ずっと愛していた」

 蓮は顔を上げる。愛良と目が合った。確かに怒っているわけではないようだ。全てを許す……そんな意志が感じられた。

「……ふふ、ばかな男だね。でも、ボクも好きだよ。殺した後も、ずっと愛してた」

 思わず笑ってしまう。でも、この気持ちに嘘をつくことは出来ない。

「お父さん、ずるい!」

「私達だって、お母さんに構ってほしい」

 ユリナとマリナが下からそう言ってきた。家族団らん……まさにそんな雰囲気だ。

「って、今はそれどころじゃない」

 蓮が慌てて離れると、尋問された時の怪我が治っていることに気付いた。

「あれ?痛くない……」

 どこを動かしても、全く痛くなかった。

「オレが癒しの力を使ったからな」

 それに気付いた愛良が自慢げに胸を張った。

「え?でも、お前、癒しの力使えなかったよな?……あ、まさか」

「勘がいいな。お前の思ってる通りだよ、お前と一体になったから使えるようになった」

 なるほど、これは予想外だった。でも、考えられる事態ではあっただろう。あの時はそこまで考えが至らなかったが。

「でも、お前ほど性能がいいわけではない。オレの場合、回復が出来るだけ……まぁ、言ってしまえば劣化版だ」

「ボクと同じだったら、それこそやばいよ」

 「癒しの力」は成雲家の中でも伝説の能力と言われていた力だ。なぜなら今までそれを持って生まれてきた人がいなかったから。だから昔の人が作った伝説の能力だろうとずっと言われてきた。

 ――なぜならこの「癒しの力」こそ、人の心を変える、いわば「改心」を行うことが出来る唯一の能力だから。しかし、それには代償がいる。

 そしてそれは蓮が生まれたことによって伝説から本当だったということが分かった。

「それで、どうすんの?」

 良希が遮って聞いてきたので蓮は「詳しい話は明日したいが……」とヨッシーを見た。

「その前に、ヨッシーの正体を思い出さないといけないよな」

 多分、今なら思い出せる。そう言って、蓮は「ヨッシー……ヨシ……よし……」とブツブツ呟いた。そして、何かを思い出したように蓮は乗り出した。

「お前、もしかして……成雲 義明じゃないか?ボクの、いとこの兄の」

 その言葉を聞いて、ヨッシーはキョトンとした後、彼の身体が光った。そして、人の姿になる。黒髪に青目の、蓮と同い年ぐらいか一つ年上であろう男性だった。

「そうだ、思い出した。俺は蓮を助けようとして囮になって……そこでシャーロックが俺を黒ネコの姿にしたんだ。目覚めた時は牢屋の中で……そこから幻想世界を彷徨って自分の本当の姿を探してた」

 語られる真実に彼が本当に兄であることを知った。偽物ではない、本物の、ずっと会いたかった兄。

 皆の頭の容量がパンクしそうになったところで蓮は詳しい話は明日しようと切り上げる。

「そういや、愛良。お前、名字どうするの?どうせ学校に行く、とか言い出すだろ?」

 そう言うと、彼は「よく分かったな」と笑った。彼の考えていることは何となく分かるようになっている。

 ちなみに、成雲はなしと先に告げた。

「なんでだ?」

「きょうだいと勘違いされるのが面倒だ。それに、恋人なら苗字が違う方が都合いいだろ」

 なるほど、と頷かれ、彼は考えた後、

「じゃあ、雨宮はどうだ?成雲家の分家の」

「まぁ、いいんじゃないか?じゃあ、お前の名前は「雨宮 愛良」だな」

 さて、と蓮は考えこむ。

「それから、寝る場所どうする?」

「蓮の隣は……」

「狭い、却下」

 愛良の提案を即座に断った蓮だったが、絶対に折れないという瞳に見つめられる。

「…………えっと、藤森さん」

「なんだ?」

「今度、ベッド買ってきていいですか?その、ダブルベッド」

「お前の部屋だから、別に構わないが……」

 結局、その瞳に負けてしまう。明日にでも買ってこよう……。

「あぁ、あと愛良と兄さんにもスマホが必要か……さすがにそれは怪盗団の資金から出そう」

「いいのか?」

「連絡手段ないと困るからな、必要経費だ」

 そうやって考えていくと、あることに思い至る。

「あ、そういえば服、あったっけ……」

 パーカーは二着ある、ハズ。何せ同じ顔の人間が二人いるのだ、警察に顔を見られたら終わりだ。

「ちょっと待ってて」

 二階に行き、段ボールの中を確認する。ちゃんとパーカーを入れていた。下に持っていき、愛良に渡す。

「一応、似たような身長だから着れると思う。二階に上がって着てみて」

 蓮がそう言うと彼は「分かった」と頷き、二階に上がった。数分後、パーカーを着た愛良が降りてきた。

「ぴったりだぞ」

「よかった。でも、一応服も買っとくか」

 同じような身長だが、彼用の服も必要だろう。明日の予定を頭の中で組み込み、今度こそ解散した。その場に残ったのは藤森とりゅうと義明、愛良、そして双子だった。

「さて……ユリナとマリナは……」

 二人を見ると、ウトウトしていた。この状態ではシャーロックのもとに帰せないだろう。

「仕方ない……明日送って行くか」

 蓮がソファに座り、二人を呼ぶ。二人は蓮の膝に頭を乗せ、眠り始めた。

「本当にこの二人は、お前のことが好きだな」

 愛良がそれを見守っている。見ていて思うが、この二人はお似合いだと思った。

「そういえば、前恋人のこと話してたよね?それってもしかして……」

「もちろん、愛良のことだよ」

 義明が思い出したように聞くと、蓮は頷いた。愛良は「そういえばそんな話もしてたな」と思い出した。

「愛良も聞いてたの?」

「蓮の心の中からな。まぁ、これからよろしく。兄貴」

 愛良が笑うと、義明も「うん。よろしく」と笑った。

 りゅうと藤森が帰ると、蓮と愛良は双子を抱え、三人で二階に上がった。二人をベッドに寝かせると、どこで寝るかという話になった。

「ボク、別に床でも構わないけど」

「駄目。俺が下のソファで寝るから蓮と愛良はどうするか話しなよ」

 義明はそう言って下に降りた。少し話して、蓮はベッドで双子と、愛良はソファで寝ることになった。

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