↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻想怪盗団~罪と正義~  作者: 陽菜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
29/42

十四章 気付かれる計画と起死回生の作戦 後編

 月曜日、ヨッシーを仲直りした。やっと戻ってきてくれた相棒を抱き上げる。決して、泣いたりはしないが。

 デザイア攻略は水曜日からにしようとその日は解散した。

「……ごめんね、話、聞いてあげられなくて」

 二人になったところを見計らって蓮は謝る。困っている時にどうしても強引に聞き出せない。ヨッシーも「ワガハイの方が悪いだろ……本当にすまねぇ」と謝った。

「取引、もう一回しようぜ」

「当たり前だよ。それに、取引なんてなくてもお前は相棒なんだから」

 蓮の言葉にヨッシーは目を丸くし、そして嬉しそうに「ありがとよ、レン」とお礼を言った。

 水曜日、デザイア攻略が始まる。ロボット達がエネミーと一緒に妨害しに来るが、ジョーカーが一瞬で蹴散らす。そして、手袋を直しながら悪い笑みを浮かべて「次は誰が相手だ……?」と悪人のように聞く。

「あいつ、めっちゃ強くなってね……?」

「ワガハイも、まさかあそこまでなるとは思ってなかった……」

「なんか、敵に容赦なくなってきてるし」

「あれは、戦闘狂と言われてもおかしくないな」

「しかも、光と万能以外全部持ってるわね」

「調べてみたけど、あのサポートエネミーもかなり強いよ」

「頼りがいのあるリーダーだね」

 ひそひそと仲間達の話し声が聞こえてくる。一人だけ見当違いなことを言っているけれど、ジョーカーは気にしなかった。

 ジョーカーが一人で無双したおかげで、たった一日でルートを確保する。決行日は十月九日にしようと言って解散する。

 ファートルに戻り、ヨッシーを置いた後再び咲中のデザイアに入る。今回こそは、廃人化させずにちゃんと罪を償わせたい。

 しかし、いくら探しても咲中のフェイクは見つからなかった。ロボット達が妨害に入るのでこの日は諦める。

 しかし、何日も何日も入っているというのに、咲中のフェイクが見当たらない。しびれを切らし、叫びそうになる。その時、声が聞こえてきた。そちらに向かうと、咲中とあの男が話していた。

「あの女、強くないですか?」

「あいつはトリックスターだからな、強いのは当たり前だ」

「そうかもしれませんが……」

「まぁ、せいぜい抗うことだ。もしかしたら、慈悲を与えてくれるかもな?」

「どういうことですか?」

「あいつはお前を殺すことはすまい。どんなに悪人でも、救いたいと思う奴だからな」

 性格を見透かされている。まるで今まで繰り返してきているのも知っているようだ。

「ただ、あいつの片割れ……そいつはお前を殺しに来るぞ。この世界を恨んでいるからな」

 自分の、片割れ?一体何のことだろう?この男の言葉はいつも意味不明だ。

 デザイアから出て、公園に向かう。

「『ジョーカー』」

『なんだ?』

「ボクの片割れって、なんだ?」

 何となくだが、『ジョーカー』は知っている気がする。彼は悩んだ後、

『……少なくとも、オレのことではないということは分かるな?』

 と聞いてきた。

「うん。何となくは。そもそも、一緒にいるのにそんなこと出来ないだろ」

『今のところ、それだけ分かっていればいいと思うぞ』

「……分かった」

 納得出来なかったが、思い出していない今、知らない方がいいことなのだろう。蓮は周囲に気をつけながらファートルに戻った。

 ほのかに異世界を慣れさせるためにアザーワールドリィに入ったり、智樹の依頼をこなしたり、ヨッシーと共にあのよく分からないデザイアに入ったりして決行日が来た。あれから何度も入っているが、一度も白い男を見なかった。もう期限切れだと予告状を出し、デザイアに入る。

 今回も蓮の方が表に出ている。『ジョーカー』に責任を負わせたくないと思ったがゆえだ。

「ジョーカー、私……」

「ディアナ、大丈夫か?」

 安全地帯でジョーカーはディアナに聞く。少し緊張している彼女はそれでも「大丈夫、自分で決めたことだもの」と笑った。

 咲中のフェイクがいる場所まで向かい、対峙する。咲中を守るために社員であるロボット達が立ちふさがった。

「ジョーカー――」

 ディアナが焦りの表情を見せる、がジョーカーはニヤリと笑った。

「ショーの始まり、だな」

 手袋をはめなおし、仮面に触れる。そして、最初の陣営を一瞬で倒した。

「次」

 咲中は次の社員を呼ぶ。しかし、それもすぐに消し炭にした。

「次」

「くそ!」

 さらに社員を呼ぶ。だが、それも一蹴してしまう。

「次!」

 叫ぶと、咲中は顔を青くしながら次を呼ぶ。ジョーカーはそれもすぐに倒す。

「次!」

 これ以上青くなるのか思うほど真っ青になりながら、咲中は次なる社員を出す。しかし、これも難なく倒してしまった。

「くそ!来い!」

 ここでようやく、弱点のないロボットが現れる。

「ふん、少しはマシなのが出てきたか」

 ジョーカーはここで初めてナイフを持つ。そして、そこから消えたかと思うとロボットの首元にいた。

 首を斬り落とすと、とどめとばかりに銃弾を撃ちつける。飛びのき、華麗に着地する。

「……次、は?」

「ひ、ひぃ!」

 動かなくなったロボットを蹴り、笑顔で聞いてくるジョーカーは咲中の目には悪魔に見えた。

「これで終わり?」

「ま、負けだ!負けを認める!だから命だけは!」

 ジョーカーに命乞いする様は何とも醜かった。

「安心しろ。オレはお前を殺すつもりはない」

「ジョーカー、オタカラは?」

 テュケーに聞かれ、ジョーカーは考えた後、

「車を貸してくれないか?お前達は先に戻っていてほしい。オレは、咲中に聞きたいことがある」

 オタカラはオレが持っていくから、と先に帰す。皆が帰ると、ジョーカーは銃を突きつける。

「さて……それじゃあ、オレの質問に答えてもらおうか」

 ジョーカーが口を開いた。咲中は怯えながら、答えようとする――。


 蓮がオタカラを持って現実に戻る。

「蓮、遅かったじゃねぇか」

「悪い、どうしても聞きたかったことがあってな」

 まぁ、得られなかったが、と分かりやすく肩を落とす。

「何について聞こうとしたんだ?」

「今は内緒」

 怪盗団に関わることではあるが、今話して困惑させるわけにもいかない。

 今日は帰ろうとりゅうを連れてファートルに戻る。

「蓮、聞こうとしてたことって?」

 りゅうが尋ねてきた。ヨッシーも顔を出している。うーんと悩んで、

「まぁいいや。いずれ話そうと思ってたし。

 確か、りゅうには話してなかったよな?白い男のこと。それから、裏で操っているであろう奴のことを聞き出そうと思ったんだ。あいつ、口が堅くて結局聞けなかったけどな」

 簡単に話す。一人で入った時に見たあの男のことは話さなかったが。りゅうは「なるほど、さすが蓮だね」と感心したが、ヨッシーは違和感を覚えた。

 しかし、それを聞けぬまま時が過ぎていく。

 咲中が会見を開く日、皆で集まった。蓮は机に向かって何かを書いていた。

 ――結果から言うと、咲中は廃人になってしまった。

 皆が驚く中、蓮はチラッとテレビの方を見ただけで再び何かを書き始めた。その姿をさすがにおかしいと思った良希が低い声で尋ねる。

「……おい、蓮」

「なんだ?」

 どうやら話は聞いているようだ。良希は彼女を睨みつける。

「お前、こうなること、知ってたのか?」

 その言葉に蓮はため息をつき、ペンを置いた。そして皆の方を見る。

「そうだとしたら、何?」

 その瞳も声も冷たかった。良希はカッとなって蓮の胸倉を掴んだ。

「じゃあ、お前が咲中を殺したのか!?」

「……どうだろうね」

 蓮は質問に答えようとせず、ただ怪しく笑うだけだった。頭に血がのぼっている良希が蓮を殴ってしまいそうになるところで裕斗に掴まれる。

「離せ!」

「落ち着け、良希」

「落ち着いていられるか!こいつが、咲中を殺したかもしれないんだぞ!?」

 それでいい。このまま、自分を恨んで離れていけば、未練などない。蓮は無意識の内に笑みを浮かべていた。

「それは違うと思うぞ」

 しかし、蓮は犯人じゃないとヨッシーは言った。違う、と言われ、良希は少し冷静になったようだ。

「……どういうことだよ?」

「そのままの意味だ。蓮は咲中を殺しちゃいない」

「……なんでそう思うの?」

 蓮は最後にデザイアから出た。むしろ、良希のように疑うのが当たり前なのではないか。ヨッシーは「まず第一に、咲中を殺してもこいつにメリットがない」と答えた。

「そうだね。確かに咲中を殺してもボクにメリットはない。むしろ、デメリットしかないもんね」

 蓮には前歴がある。ただでさえ目をつけられているのに、人殺しをして目立つようなことは出来ないだろう。

「それからもう一つ、ワガハイだからこそ気付いたことではあるが……こいつは咲中を守ろうとしていたハズだ」

 その言葉に蓮は初めて動揺を見せた。

「どうして?」

 それに気付いていない風花が聞く。ヨッシーは「こいつ、カバンはどっちに持つか覚えているか?」と聞き返した。

「確か、右で持つよね?こう、肩にかけてさ」

 風花が蓮の持ち方を真似ながら答えた。それにヨッシーは頷く。

「そうだ。だがこいつ、咲中のオタカラを盗んだ時から左で持つようになったんだ。それはなぜだ?」

「……言いたいことがよく分からないのだけど。ボクだって、左で持つことはあるさ」

「つまり、だ」

 ヨッシーが急に蓮の肩に乗ってきた。そして、服の上から腕をなめる。

「――いっ!」

 突然のことに蓮は痛みに顔を歪ませた。

「ビンゴ。お前、怪我してるだろ。あっちの世界でついた怪我だからまだ治っていないな」

「……ヨッシー」

 お前のせいでさらに痛むんだけど?と黒いオーラを放ちながら笑顔で告げる。しかし、それに怯まずヨッシーは「見せろ」と言った。

「……はぁ?」

「いいから見せろ。ワガハイの予想が正しければ、銃弾で撃たれた傷だぜ?」

 まるで見ていたかのようにそこまで言い当てられては逆らうことも出来ない。諦めて蓮は袖を捲りあげる。肩には包帯が巻かれていた。

 包帯が解かれるとそこにはヨッシーの言った通り、銃弾の痕があった。

「やっぱりな。……なぁ、レン。教えてくれよ。何があったんだ?」

「……分かったよ」

 ここまで見透かされていたのなら、話すほかない。蓮は皆が去っていった後のことを話し出した。


 あの後、ジョーカーは咲中に白い男について聞き出そうとした。だが、話し出す前にダァン!と大きな音が聞こえ、咲中の胸が赤く染まった。

「……は?」

 ジョーカーが呆然としていると、目の前にフードを被った人が現れた。

「キミだけ、行かなかったんだね?」

 その人はジョーカーに銃を向けて、引き金を引いた。間一髪、胸に当たるということはなかったが、右肩が貫かれた。そこから血が流れ落ちる。

「お前……!」

 何者だ、と聞く前にデザイアが崩れ始めた。舌打ちをして、ジョーカーはオタカラを持った後、車に乗ってその場から去った。


「じゃあ、あの場に誰かいたってこと……?」

 ほのかが震えながら確認した。蓮は頷くが、心の中ではどうせ信じてもらえないと諦めていた。しかし、

「……何、まだ隠してんだよ?」

 ヨッシーがじわじわと追い詰めていく。背中に冷や汗が流れた気がした。

 ――こいつ、どこまで「気付いている」?

「まだも何も、知っていることは「全て」話したつもりだよ?」

 焦りを表に見せないように蓮は笑って見せた。ヨッシーは「じゃあ」と彼女の顔を覗き込んだ。

「なんでお前は、一人で幻想世界に行ってたんだ?」

「……は、な、なんで、それを……」

 ここで初めて、分かりやすく動揺を見せる彼女にヨッシーはため息をついた。

「毎回夜に出かけるからおかしいと思ってお前の後をつけていたんだよ。脅されて呼び出されているわけでもなく異世界に入っていった時は驚いたぞ。しかも、コマイの時からな。……お前、最初から「白い男」のこと、知ってたんだろ?」

「……………………」

「そうじゃなけりゃ、デザイアに単独で入る理由もねぇよ。お前、本当はそんなに「戦闘狂」じゃねぇんだろ?……いや、多少「戦闘狂」だけど、それも訳ありなんだろ?」

「……はぁ」

 なんでそこまで分かるのかな?と蓮は髪をいじりながら呟く。本当に、この周回のヨッシーは頭がまわる。もしくは、自分がどこかで油断してしまったのか。どちらにしても、気付かれてしまったのだから仕方ないと割り切る。

「お前、どこまで知っている?」

 事実上の降参発言だと判断したヨッシーはさらに踏み込んだ。

「……全て」

「全て、というのは?」

「前歴事件の前日から次のターゲットまで、知ってる。お前達がどんな性格で、どこで協力者達と出会って、デザイアがどんな形で……とにかく、全て分かってた」

 それなら、とヨッシーは質問を重ねる。

「白い男の正体は?それは知ってるのか?」

「……そうだね、知ってるよ。お前達も知っている奴だ」

「誰なんだ?」

「……ヒントを教えてあげるよ。奴はヨッシー……お前の声が聞こえていた。風花と良希は心当たり、あるんじゃないか?」

 そう言われても、何も心当たりはないのだが。二人が悩んでいる中、ヨッシーはハッとなった。どうやら思い出したようだ。

「……もしかして、フユキ、か?」

「正解。ちなみに、咲中を殺したのも冬木だ」

「え?冬木君?」

 なんで彼が白い男なんだと風花は不思議そうに見てくる。それを見て、蓮は答えた。

「最初の打ち上げの後、冬木に会ったのは覚えているよな?」

「あぁ、いけすかねぇ野郎だと思ったぜ」

「あの時、あいつはビリヤードに行くのかと聞いただろ。……だが、ビリヤードと言ったのは、ヨッシーだけだったんだよ」

 その言葉に、二人もようやく思い出す。そうだ、確かにヨッシーしか言っていなかったのに彼は「ビリヤードに行くの?」と聞いてきた。「遊びに行くの?」ではなく、だ。

「あいつは、怪盗団を潰そうとしている。学園祭の時に、取引が持ち出されるんだ」

「なぜそれを知ってる?」

「言っただろ?ボクは次のターゲットのところまで知っているって」

 それにヨッシーがふと疑問に思った。

「次のターゲットまでって……どうしてそんな風に言うんだ?」

「死ぬから」

 ただ一言、それだけ言った。皆が息を飲むのが分かった。

「……皆を守るためにわざと捕まって、尋問されて、冬木に殺される。今回でもう、五十五回目だ」

「どういう、ことだよ?」

「まだ分からない?同じ時を「繰り返している」って言っているんだよ」

 無表情で告げる。そこに感情がなかった。怒りも、嘆きも、何も見せない。

 ――しかし、ヨッシーは気付いた。その手が僅かに震えていることに。

「レン……」

「もう、いいでしょ?」

 恐怖を耐えているのだと気付き、ヨッシーが呼びかけるが蓮は机に向き合い、何かを書き出した。

「さっきから何書いてるんだよ?」

「……言ったら怒ると思う」

「そんな紙切れで怒らねぇよ」

 ヨッシーの言葉に蓮は再びため息をつき、「……遺書」と答えた。

「な、に縁起わりぃもん書いてんだ!」

「ほら、怒った。ヨッシーの嘘つき」

「嘘つきとか、そんな問題じゃねぇだろ!?何死ぬ気でいるんだよ!?」

 ヨッシーが叫ぶ。蓮は動きを止めて遺書をクシャリと握った後、

「……だって……」

「え?なんて?」

「ボクだって、死にたくないよ!当たり前だろ!?でも、これしか方法がないから仕方ないだろ!?」

 それを投げつけて、大声を出した。りゅうが傍に寄ると、頬に何かが落ちた。

「……ごめん。怒鳴ったりして。ちょっと外で、頭冷やしてくる」

 下を向いたまま立ち上がり、蓮は下に降りた。ヨッシーの隣を通り過ぎたところで、彼の頭の中に映像が流れた。蓮と入れ替わりで藤森がやってくる。

「おい、どうした?あいつが怒鳴るなんて、お前ら何やったんだよ……ってりゅう!?お前、泣いてるのか!?」

「え……?」

 りゅうが頬に触れると、確かに濡れていた。だが、目は濡れていない。

「あいつ、りゅうに何やりやがった!場合によっては……!」

「しょうへい、違う。これ、僕の涙じゃないよ」

 りゅうが必死に否定する。藤森は「じゃあ、なんで濡れてんだよ?」と聞いてきた。

「これ、蓮の涙、だと思う……」

「蓮?いつも澄ましているあいつが、何に泣いたってんだよ?」

「…………」

 ――ボクだって、死にたくないよ!

 先程の言葉を思い出す。そりゃあ、誰だって死にたくない。当たり前のことだ。そのことに、なぜ気付けなかったのだろう。

「喧嘩か?」

「……うん。そんなところ」

「それなら、謝ってこい。そんな遠くには行っていないだろ」

 いいな?と藤森はりゅうの頭を撫で、下に降りた。りゅうがヨッシーの方を見ると、震えていることに気付いた。

「どうしたの?ヨッシー」

「……あいつ、なんであんなに冷静なんだよ?」

 急にそんなことを言われ、疑問符を浮かべる。

「どういうこと?」

「……頭に流れてきたんだ。恐らく、あいつが尋問を受けている時のこと。いや、あれは尋問じゃねぇ、ただの拷問だ」

「……詳しく教えて」

 拷問、と聞いて眉をひそめたが、ここで逃げてはいけないと思った。これを知らないときっと、本当に蓮を理解出来なくなる。

「……あいつ、大人達に暴行を受けていたんだ。痛いところはないだろうってくらい酷くて、顔にあざも出来てた。それに、注射……自白剤も打たれて……意識が朦朧としているんだ。あれで、よくワガハイ達のことを吐かなかったと思うぞ。……でも、もっとすごいのはあいつの心の声だ。「痛い、苦しい、寒い、息が出来ない、助けて……いや、違う。考えるのはそれじゃない。耐えろ、意識を手放すな、怯むな。――ここで負ければ、皆が死ぬ」って。……あいつは最期まで、ワガハイ達を守ろうとしたんだ」

 それが紛れもなく、彼女自身の想いだった。己が死ぬと分かっていてなお、他人を優先して心配する、優しい彼女の。

「……正直、これ以上言うのははばかれるぜ。それぐらい酷い」

 ヨッシーが顔をこれ以上ない程に歪めた。本当に、酷かったのだろう。

 ――自分達は、彼女に何をしてあげられる?

 役目をかわる、といっても不可能だ。蓮のようにはなれない。逃がす?いや、魔の手はすぐに追ってくるだろう。なら、どうしたら?

 今まで蓮はその手で救ってくれた。それなのに、自分達は何も出来ない。そこでふと、もみじが考えついた。

「そういえば、次のターゲットのデザイアまでは覚えているって言っていたわよね?」

「そうだな」

「その人のデザイアにもよるけど……取引を持ち掛けられるってことは、冬木君も知っている人ってことになる。捕まるってことを考えた時、警察関係者の可能性が高いわよね?」

「何が言いたいんだ?」

 裕斗が腕を組みながら尋ねた。もみじは意を決して告げた。

「……多分、私のお姉ちゃんが次のターゲットになるのよ」

 だからさっき、言うのを控えたのだろうともみじはそう思った。

「それ、飛躍しすぎじゃねぇ?」

 良希が言うが、もみじは「お姉ちゃんは怪盗団を追ってるの。怪盗が捕まっているって知ったらすぐに食いつくと思うわ」と答えた。

「……じゃあ、どうするってんだよ?」

「それを逆手に取るのよ。蓮もそれを狙っていると思うわ。あの子が考えなしに何回も捕まるとは思えないもの」

「……もみじのおねえさんも共犯者にするってこと?」

「そういうこと。……でもその前に、蓮のところに行った方がいいわね」

 もみじはすぐに作戦を言わず、蓮のところに行こうと告げた。


 外は雨が降っていた。しかし、蓮は傘もささず公園のベンチに座っていた。濡れているため分からないが、その目からは涙が流れている。

 ――皆に知られても、また死ぬだけなのに。

 蓮だって、何度も秋川を使って生き残る作戦を考えた。しかし、どうしても失敗してしまうのだ。これ以上、何をしろと言うのだろうか。

「蓮」

 名前を呼ばれ、そちらを見る。そこには仲間達がいた。

「濡れるよ、蓮」

「……別に、どうでもいいし」

 雨が降っていてよかったと心から思う。泣き顔を見られずにすむから。

 しかし、ほのかが傘を蓮の方に傾ける。

「風邪、ひいちゃうよ?」

「……一か月もしたら死ぬ人間に意味ないでしょ」

 もう隠さないでいいと思うと幾分か楽にはなった気がするが、その分八つ当たりにも似た言動をとってしまう。

 ――早く、こんな醜いボクを見捨ててよ。

 そうすれば、これ以上皆を傷つけずにすむのだから。しかし、その願いは聞き届けられない。

「蓮、聞きたいことがあるの」

「……何?」

 冷めた目でもみじを見る。今までそんな目で見られたことがなかったので驚いたが、それでも勇気を出して尋ねる。

「次のターゲット、私のお姉ちゃんよね?」

「……そうだけど、何?そもそもなんで分かったの?」

 ボク、言ってないよねと訝しげに聞き返す。

「ちょっとした推理よ。お姉ちゃんは怪盗団を追っている。お姉ちゃんは冬木君も知っている。デザイアがあるのかは分からないけど、もし取引を持ち掛けるならお姉ちゃんが手頃のハズ。そうじゃない?」

「……さすが、秋川さんの妹だね」

 拍手でも送ってやりたいが、あいにくとそんなことをするような空気ではない。そもそも、ふざける気力すらない。

「レン、お前、尋問って言ってたけどよ……あれはどう考えても「拷問」だろ」

「何言ってるんだ?尋問は尋問だ」

 ヨッシーが聞いてくるが、蓮は首を振る。だが、彼は確信を持ったように告げた。

「ワガハイには誤魔化しても無駄だぜ。……見えたんだよ、その時の光景」

「……は?」

 そんなの、成雲家の人間でもなければありえないハズ……。だが、嘘をついているようにも見えない。

 ヨッシーは自分が濡れるのも気にせず蓮の肩に乗り、頬をなめた。

「こことか、手の甲とか……見えていないところにもあざがたくさんあったよな?首や腕には注射痕があったんだろ?」

「よ、ヨッシー……」

「……なぁ、ワガハイ、お前に何が出来る?」

 助けてやりたいんだ、理不尽な運命から。

 救い出してやりたかった。この少女を、地獄のような運命から。

 しかし、本人は首を横に振る。

「……前も言っただろ?傍にいてくれるだけでいいって。それ以上は、望まないから……」

 だって、これは自分に与えられた運命なのだから。

 だが、ヨッシーは食い下がる。

「なぁ、レン。もみじが作戦を考えてくれたんだ。聞くだけでもいいから……」

「……作戦?」

 一体何なのだろう。もみじは蓮の前でしゃがみ込むと、顔を覗き込んだ。

「異世界を利用するの。これならきっとうまくいくハズよ」

「……冬木を欺けると思うか?そもそも、捕まった時にスマホは秋川さんに渡ってる。ロックは複雑なものをかけているから解けないけど」

「なら、なお好都合だわ。いい?よく聞いて」

 もみじの考えた作戦はこうだ。

 秋川と取引し、蓮のスマホを冬木に見せる。りゅうがゲンソウナビを遠隔からつけて、冬木が幻想世界の蓮を殺すよう仕向ける……というものだ。

「お姉ちゃんのデザイアってどんな感じなの?」

「……裁判所がカジノになっている以外は、特に風景は変わっていなかった」

「なら、使えるわね」

「ちょっと待て。それだと秋川さんはデザイアに入ってしまうことになるだろ?」

 秋川を利用することを考えた上で、絶対に選択肢に入れなかった作戦がある。それが異世界を使う方法だった。なぜなら、秋川が入ってしまった後、彼女が現実に戻る方法がなかったからだ。元の場所に戻ればいいだけの話だが、そこに考えが至らない可能性の方が高い。だから、一度は考えたが没にしたのだ。それを、やろうというのか。

「そこはりゅうに何とかしてもらうわ」

 出来るわよね?と聞かれ、りゅうは「任せて」と胸を張った。

「……でも」

「蓮は」

 なお何か言おうとする蓮を風花は遮った。

「いつもさ、あたし達を助けてくれるじゃん。だから今度はあたし達の番」

「蓮が死んだら、もう怪盗団じゃねぇしな」

「私も、あなたのためなら何でもやるよ。……あなたみたいな他人を考えられる人が、人殺しなんてするわけないもの」

「僕も、蓮に死んでほしくないから、緊張するけど頑張るよ」

 風花、良希、ほのか、りゅうがそう言ってくる。ヨッシーは肩から降り、蓮の膝に陣とった。

「分かるだろ?皆、お前が大好きなんだ。大好きだし、大切だから生きていてほしいって願ってる。だから、もう一人で抱え込まなくていいんだ」

「……………………」

 蓮は下を向く。しかし、ヨッシーには見えてしまっているだろう。今、相当酷い顔をしているハズだ。

「それより、いいか?」

 その時、裕斗がお決まりのポーズをしだした。

「水も滴るいい男……まさにこのことだな!ぜひ描かせてくれ!」

「おい!裕斗、空気読め!あとそれを言うなら「水も滴るいい女」だろ!」

 良希がツッコミを入れる。それを見て、蓮は初めて吹き出す。

「あはは!ほんっとうに、お前らは「昔」から変わらないな」

 昔、という言葉の重さにようやく気付く。彼女はたった一人で、誰一人覚えていない記憶を抱え続けたのだ。過去に想いを馳せて、皆を守るために一人で頑張って。

 蓮は膝に乗っているヨッシーを抱き上げた。

「……大好きだよ。ボクだって、許されるなら、皆と一緒に生きたい」

 ずっと抱えてきた願いをこぼす。

 ――築き上げてきた絆は、無駄じゃなかった。

 まだ始まったばかりだと言っても他言ではないが、それでも仲間に恵まれた。こうして、生きることを望んでくれている。それが嬉しかった。

「ワガハイ、お前とずっと一緒にいるぜ」

「……そうだね。お前はずっと一緒にいてくれた」

 皆が仲間にならなかった時も、彼だけが傍にいてくれた。そのことを思い出す。

「ありがとう、ヨッシー。ずっと傍にいてくれて」

 文字通り、ずっと一緒だったのだ。たとえ出て行っても、最後には戻ってきてくれる。

 ヨッシーは蓮のその言葉の意味をようやく知った。

「……ワガハイ、覚えてねぇけどよ……お前が傍にいて本当によかったって思うぜ」

 そう言って、彼女の頬をなめた。ようやく、蓮と平等に立てた気がした。

「それにしても、水臭いぜ。言ってくれたらよかっただろ?まぁ、俺が理解出来たか分かんねぇけどよ……」

「それは無理でしょ。「繰り返してます」なんて、他人に言っても信じてもらえないよ」

「いや、ワガハイは信じたかもしれないぞ。こいつ、全てのことについて「知りすぎていた」からな。だから、繰り返してますって言われてむしろ納得いったな」

 古参組がそんな会話をしている。ヨッシーなんて、腕の中から話していた。

「蓮、早く帰りましょう……って、その状態じゃマスターに迷惑よね……。着替え、持ってくるから温泉に行きましょうか」

 服はどこにあるの?と聞かれ、服を置いてある場所を伝える。いつの間にか、雨はやんでいた。

 温泉に入り、コインランドリーで洗濯物を洗っている間会話がなかった。しかし、雰囲気も沈黙も暗いものではなかった。

 洗濯機から取り出し、そのまま持って帰ろうとする蓮をもみじが止める。

「あなた、乾燥機使わないの?」

「だって、もったいないし……」

「百円じゃない」

「それはそうだけど……怪盗団の資金が」

「それは考えない。それくらい必要経費でしょ」

「でも、節約出来るならした方がいいし……」

「あのね……あなた、バイトとかしているんだし、怪盗団のリーダーもしているのよ?ただでさえ忙しいんだから、楽出来るところは楽しなさい」

 なんだかんだ言い合いをして、結局乾燥機を使うことになった。

「蓮、いつもどうしてたの?」

 待っている間、もみじが聞いてくる。どうしているも何も、

「部屋に干してる。皆が来る時までにはちゃんと取り込んでいるよ。さすがに下着を見られる趣味はないからな」

「ワガハイは何度も言ったんだぞ。乾燥機使えって。でも、聞かなくてよ……」

「……怪盗団に関すること、ほとんどリーダーに任せきりだもんね」

 思えば資金だけでなく、武器や回復薬、怪盗稼業に必要な道具まで全部そろえてもらっている。何もかもが彼女任せだったことに今更ながら後悔する。

「……バイト、やろうかしら」

「急にどうした?」

「何もかもあなたに任せきりだったって思って」

「一応、ボクがいなくても続けられるようにそれなりの蓄えはあるぞ」

 何度も皆に内緒でアザーワールドリィにも行ったのだ、数えたことがないが、恐らく千万程は貯まっているだろう。余程変な使い方をしない限りすぐになくなるということはない。

「そういや、それで思い出したけどよ。お前なんで、一人でアザーワールドリィやデザイアに行ってたんだ?」

「一つは、まぁ、鍛えるためだな。他には情報収集とか……後は皆に知らせていない依頼とか……」

「待て、鍛えるためと情報収集はまだ分かるが、依頼は全会一致だろ?リーダーが破ってどうするんだよ」

「……いろいろと、皆にも言えない依頼だったんだよ。強姦魔だったり、殺人犯だったり、極道だったり……強姦魔がエネミーに変わった姿、見たくないものだったな……少なくとも、女性には見てほしくないものだ」

 珍しく遠い目をしている。

「どんなんだったんだよ?」

「最初にマがつくご立派様」

「ヨッシー、これ以上聞くな。これは女に言わせちゃいけない奴だ」

 珍しく真っ先に悟った良希が顔を真っ赤にしながら止めた。りゅうも分かったらしく、「そ、そうだね……」と良希と同じように顔を赤くしていた。しかし、他の人達はよく分かっていないようだった。なんでこの少女はこんな真顔で言えるのだろうか?

「逆に気になるんだけど、それ」

「あぁ、えっと、いわばだ「蓮、言うな!お前真顔でそれを答えるな!せめてもう少し恥ずかしがってくれ!」

 蓮が馬鹿真面目に答えようとすると良希が彼女の口を塞ぐ。もごもごと何か文句を言っているが、他人のためにも話さないでほしい。

「蓮、出来たら言ってほしくないな……?」

 りゅうが必殺、弟のお願いをすると蓮は頷いた。いつになってもヨッシーとりゅうには弱いのだ。

 解放されると、丁度乾燥機が止まった。かごに入れて、ファートルに戻る。

「帰ってきたか。仲直りはしたのか?」

「うん。もう大丈夫」

 藤森とりゅうの言葉に蓮は疑問符を浮かべる。仲直り……?そしてすぐに自分が怒鳴ってファートルから出たことを思い出した。

「あ、その……いきなり大声出してすみませんでした……」

 蓮が藤森に謝ると彼は「別に、仲が良くても喧嘩する時ぐらいあるだろ。急に怒鳴り声が聞こえてきた時は驚いたけどよ」と言ってくれた。そんな彼を裏切ってしまうと考えると少し心苦しい。

 二階に上がると、作戦をもっと具体的にするために話し合った。

「蓮、スマホ貸してくれる?」

「いいけど、ロックかけてるよ?どうしたらいい?」

 この時期から、誰にも解けないような(りゅうは分からないが)ロックをかけるようにしているのだ。

「ロック解除して。アプリ入れるから」

 アプリ……?と思いながら蓮はロックを解除する。それをりゅうに渡すと、彼はいじりだす。そして、蓮にスマホを返した。見るが、アプリが増えた形跡がない。

「今入れたのは録音するやつだよ。見えないようにちょっといじったんだ」

「なるほど。つまり、それを使って秋川さんを現実に戻すってわけか」

「そういうこと。だけどその前に確かめないといけないんだよね」

 りゅうが自分のスマホで「僕は元祖アヌビスだ。君にしか怪盗団のリーダー……成雲 蓮を救うことが出来ない」と言って、蓮の録音アプリに送った。そして、「蓮、異世界に行ってくれる?」と言われたので蓮は言われた通りナビを開く。すると、先程録音した音声が流れた。りゅうが操作したのだろう。

『すごいな』

「異世界でも使えるアプリがあるんだね……」

 蓮と『ジョーカー』が感心したように呟く。現実に戻り、「どうだった?」と聞かれたので「ちゃんと聞こえたよ」と答えた。

「これで問題なく作戦を実行できるんじゃない?」

「……まぁ、そうかも」

 まだ不安が残るが、これなら異世界を使う方法も考えられるだろう。りゅうに感謝する。

「ごめんなさい、あなたのかわりを務められなくて」

 突然もみじが謝ってきたので「なんで謝るの?」と聞いた。

「だって、あなたにばかり負担をかけてしまうもの。私なんて、あなたより年上なのに」

「ボクがリーダーなんだから仕方がない。それに、これはなるべくしてなった役目なんだ。もみじが気に病む必要はない」

 相手はリーダー……いや、特別な力を持つ蓮を狙っているのだ。たとえ怪盗団のリーダーでなくとも、蓮が最初に狙われただろう。だから、蓮がこの役目を背負うのは当然のことなのだ。

「でも……」

「じゃあさ、お願いがあるんだけど」

 それでもなお複雑そうな表情を浮かべる彼女に、蓮はそう言った。

「お願い?」

「この作戦が上手くいったら、ご褒美が欲しい」

「……!えぇ、もちろんよ!何がいいの?」

 彼女が自ら甘えることは滅多にしない。珍しさのあまり、思わず詰め寄ってしまった。しかし、蓮は気にしない。

「今決めるの?そうだね……クレープ食べたい」

 困ったような笑みを浮かべた後、少し考えてそう言った。

「クレープ?そんなものでいいの?」

「昔……皆が覚えていない周回の時、風花と食べたのおいしかったから。だから、それがいい」

 別に甘いものを禁止にしているわけではないが、一人で食べるのははばかれていた。だから、丁度いい機会だと思ったのだ。

「もちろん、皆でだよ?」

「あったりまえよ!お前の望み、叶えてぇしな!」

「俺も、腹が減ってるだろうからな」

「お前のご褒美じゃねぇんだぞ?」

 ヨッシーが裕斗にツッコミを入れる。いつも通りだなぁと思うと同時にこの日々が続けばいいと願った。


 夜、蓮は夢の中で『ジョーカー』と向き合っていた。

「いつか言った通りだっただろ?仲間達に協力してもらう方が近道かもしれないと」

「……うん、そうだね」

 『ジョーカー』に身を預けて、蓮は頷く。その時、目の前に青い炎が現れたかと思うとそこにリベリオンの姿が現れた。

「あぁ、リベリオンか」

「我が主に心の住人よ、ようやく運命が動き出しそうだな」

 リベリオンがここに現れたのに驚かないのは、何度か似たようなことがあったからだ。ここは蓮の心の中、リベリオンが現れてもおかしくはないだろう。

 そして、リベリオンがいるのなら他のサポートエネミーもいるわけで。

「私もご主人様と遊びたい!」

「僕だって、構ってほしいもん!」

「我も同じだ」

 ワイワイと様々な声が聞こえてくる。自分の心の中はにぎわっているな……と思う。

「それにしても……『ジョーカー』ってリベリオンじゃないんだね」

 リベリオンも『ジョーカー』も男性だ。もしかしたら、と思っていたのだが違うようだ。

「我はそやつとは違う。なぜならそやつは「お前」であり「お前ではない」からな」

 我は汝、汝は我。お前の反逆の意志が我を生んだわけで、そやつは我より昔からいた。

 リベリオンのその言葉に蓮は疑問符を浮かべた。

 『ジョーカー』は、昔からいた?

 そのままの意味で理解するなら、蓮が生まれた時から、ということになるだろう。だが、どうしても含みがある気がする。そもそも、リベリオンが蓮の生まれた時から一緒にいるわけだから、それより前ということになるのではないか。

「……リベリオン、余計なことは言うな」

 『ジョーカー』は低い声でリベリオンに告げる。しかし、リベリオンは臆することもなく、むしろ笑って「事実だろう?」と言った。

「主が真実に気付くことを祈るぞ」

 それだけ言ってリベリオンは姿を消した。

「悪かったな、あいつが変なことを言って」

「ううん……でも、リベリオンってボク自身だよね?」

 何か知っているような口調だった。やはり、蓮は何かを忘れているのだろう。

「時が来たら、きっと思い出せるさ」

 『ジョーカー』はそう言って、寝るように促した。

「おやすみ、蓮。愛してるよ――」

 その言葉と共に現実に引き上げられた。


 学園祭の前の日、皆でアザーワールドリィに入った。資金集めをするためだ。これ以上集めて何をする気だと言いたいところではあるが、貯めていて損はない。

「あ、宝箱じゃん」

 ジョーカーが運転する中、ウェヌスが助手席に身を乗り出して指差した。確かに、宝箱がある。エネミーをひきながら向かい、宝箱を開ける。実はこれが少し楽しみでもあるのだ。なぜなら売ればお金になるものもたくさん入っているから。

 ジョーカーが運転席から降りて、宝箱を開ける。テュケーも助手席から降りてジョーカーの肩に乗った。

「何が入ってた?」

「……武器だな。感電力をあげる鞭だ」

 これはウェヌスの武器だが、あいにくこれは既に持っているし、そもそもこれより強い武器を持たせているので必要ない。

「仕方ないな、これは後で売るか」

「そうだな、複数あっても意味ないし」

 荷台にそれを置いて再び運転する。

 また宝箱があったのでそれも開ける、がそれも同じものだった。

「まぁ、こんな偶然もあるよな」

「そうだな、そうだよね」

 そう言って同じように荷台に積む。

 しかし、その後何度も宝箱を開けるが、同じものばかりが出てきた。十あたりでジョーカーが少し怒っているのに気付き、十五を超えたあたりから数えていない。

「……どんだけ……」

「じょ、ジョーカー?」

「どんだけ同じものが出てくんだよ!」

 恐らく百ぐらい出てきた時、とうとうジョーカーがキレた。宝箱をドン!と強く蹴る。

「あれか!?女警官の服着て鞭でも振り回しとけってか!?ふざけんなよ!」

「ジョーカーがご乱心だぞ!というよりやけに具体的だなおい!」

 テュケーがジョーカーを止めようと蹴っていない足に引っ付きながら仲間達を呼ぶ。ただ事ではない空気に皆が降りてきた。そして、宝箱の中身を見て事情を察知した。

「あー、その……た、多分大衆の望みなんじゃないかな!?」

「それフォローになってないから!ヘルメス!」

「嫌な欲望だな」

 ヘルメスが必死にフォローしようとするがウェヌスがそれじゃ逆効果だと言い、アポロが正直な感想を告げる。しかし聞こえていないのか、ジョーカーはテュケーを離し、荷台から手に入れた鞭を全て取り出し、それを少し遠くに置いて……、

「リベリオン!」

 全て燃やしつくそうとアルターを召喚する。

「待て待て!落ち着け!」

 マルスがジョーカーを押さえつけるが、彼女はジタバタと暴れる。

「止めるなマルス!この歪んだ大人共の欲望を燃やさないと気が済まない!」

「お前の気持ちも分かるけどよ!一旦冷静になれ!」

「そうよ!これは売りましょう!今回はあなたの好きに使っていいわ!」

 ねっ?と子供をあやすような声でアテナに言われ、少しずつジョーカーは落ち着く。

「す、すまない、取り乱したりして……」

「いえ、今回のは仕方ないと思うよ……」

 ディアナが改めて鞭の山を見て、そう言った。よくこんなになるまでジョーカーも耐えたものだと思う。

 今日はもう帰ろうという話になり、現実に戻った。

「それにしても、怖かったな、レン……」

「悪い……さすがにムカついてしまってな……」

 先程の怒りを払うように頭を振ると、裕斗がスケッチブックに何かを描いていることに気付く。

「……何描いてるんだ?裕斗」

「あぁ、先程の鬼神の如き表情の蓮を……」

「……………………」

 ドスッ!と蓮は裕斗のみぞうちを蹴った。

「くはっ!なんて、威力だ……!」

 裕斗があまりの痛みにしゃがみ込んだ。それを見て、蓮はハッとなる。

「あ、ごめん。さっきの怒りがぶり返してきたから、つい」

「……蓮って、現実でも足癖悪いんだね……」

 リーダーをあまり怒らせないようにしよう……と心の中で皆が呟いたのを蓮は知らない。


 夜、ミリタリーショップに行って金井に鞭を売りに行った。

「……ちょっと待て」

「え?何ですか?」

「いや、なんだ?この鞭の量は」

「……怪盗業で、いろいろあったんです」

 あんまり深く掘り下げないでください、と蓮は目を逸らす。金井は何かあったんだなと思い、黙って換金してくれた。

「すみません、いつも」

「いや、構わねぇぜ。……だが、この量、どうしろってんだよ」

 金井が頭を抱えたその時、扉が開いた。そちらを見ると、そこに立っていたのは金井の息子の晃。

「…………」

「…………」

「…………」

 全員が無言になる。当たり前だ、彼にとっては父親の目の前に同じ鞭がそれはもうたくさんあるのだから。

「……えっと、晃君。誤解しないで、金井さんに変な趣味はないから」

 蓮が精一杯の言葉を吐く。

「そ、そうだよね!うん……」

 あ、これ、まだ疑っているな。

 なんて言うか悩み、仕方ないと腹をくくる。

「晃君、よく聞いて」

「え、うん」

「ボク、実は怪盗なんだ」

「えっ!?蓮さんが、怪盗!?」

「そうなんだ。その仕事の時に、あれがたくさん宝箱から出て来てね……いつも不要なものはここに売りに来るんだ。だから本当に、君のお父さんの趣味じゃないんだよ」

 これは金井の父親としての威厳を保つためなのだ、だから仕方ない……。

 晃は「すごい!蓮さんって、怪盗だったんだ!」と感動したように手を握った。

「晃、このことは絶対に言うなよ」

 金井がため息をつきながら告げると、彼は頷いた。

「分かってるよ。今、怪盗はピンチだもんね」

 智樹といい、彼といい、子供は本当に純粋だなと思った。

 晃に怪盗の話をせがまれ、支障がない程度に話した後ファートルに帰った。


 学園祭当日、この日は皆で楽しもうと言うが、例の事件が起こる。

 ――はぁ、今回はそんな周か……。

 面倒だな、と思いながら現場に向かい、男達の前に立つ。スマホは左手に持って、いつでも警察に連絡出来るようにしている。

「迷惑なんです。早く出て行ってください」

「あぁ?お前みたいな男に用はねぇんだよ」

「彼女、怖がっているでしょう。お酒なら外で飲んでください」

 女子生徒を庇いながら詰め寄ってくる男を睨む。

 ――最悪、彼女に怪我させなければいい。

 何度か同じことになっているので、男の手首を掴める自信はあるが、もしもの時のために周囲を見渡す。すると、扉のところに仲間がいることに気付いた。

 ――よし。

「いいですか、合図したら、風谷のところに行ってください」

 女子生徒にそう指示を出す。女子生徒も扉を見て、良希がいることに気付いたようだ。

 その時、男が蓮に殴りかかってきた。しかし、蓮は男の手首を掴む。

「今です!」

 その言葉と共に、女子生徒が扉の方に向かった。蓮はギリギリと男の手首をひねる。

「いっ……!」

「悪いですが、これ以上迷惑行為をすると警察に突き出します。それが嫌なら、早く立ち去りなさい」

 そう言って、離す。この男は顔を青くしたが、他の仲間達は「この……!」と殴りかかってきた。蓮は気付いたが、避けきれず当たってしまい、メガネとウィッグが飛んだ。

「おい!てめぇ!」

 すると、良希が乱入してきた。続けて裕斗も入ってくる。二人は蓮を庇うように前に出た。

「ちょっと、二人共……!」

 落ち着け、と言うリーダーに構わず、良希は怒りをあらわにする。

「よくも俺らのリーダーを殴ってくれたな!」

「だから、落ち着け!そこまで酷い怪我じゃない!」

 迷惑な客を相手にしていたハズなのに、なぜ仲間を止める羽目になっているのだろうか。

 本人の言う通り、確かに殴られたが言うほどの怪我ではない。だが、良希はそんなこと関係ないらしい。

「女の顔を殴ったんだぞ!お前が許しても、俺が許さねぇ!」

「それは俺も同意見だな。君は優しすぎる」

「だからって、暴力沙汰になるのはやばいだろ!」

 ここでこちらも殴ってしまえば意味がない。下手をすれば退学だ。

 丁度その時、先生達が来た。良希が殴る前に来てくれてよかったと心の底から思う。

 帰り道、りゅうに「あれ、毎回あるの?」と聞かれた。

「あぁ、ある時とない時がある。確か、前の周ではなかったな」

 思い出しながら、そう答える。あれがない時は平和に過ごせるのだが。

「そうなんだ。今回は運がなかったってこと?」

「まぁ、ある意味ではそうだな。だけど、半身であるリベリオンが運のステータス低いからな……むしろ運がいい方が珍しい」

「……現実と異世界は繋がってるんだね……」

 蓮の場合、サポートエネミーをつけていればステータスがあがるが、それでも低いものは低い。だからどうしようもない。

「というより、リベリオンって運が悪いんだね」

「あぁ……。ボクを体現しているみたいだよ」

 女性を助けたら前歴がつくし狛井のせいで学校でも孤立するし実家の環境も良くないし、蓮は本当に運が悪い。そのかわり他のステータス(力、魔力、耐久、速さ)が高いのでいいのだが。

「ちなみに、他の人達はどうなんだ?」

 ヨッシーが尋ねると、蓮は少し考えた後、

「ヨッシーは分かる通り魔力が高いな。そのかわり耐久力が低い。風花も似たような感じだな。良希は力が強いが、魔力が低い。裕斗は少しだけ魔力が低い程度でバランスとしてはいい。もみじも耐久力が少し低いぐらいだな。ほのかは運がいいが、速さが低い」

「僕は?」

「りゅうは魔力と耐久力が意外とある。ただ、戦闘向きじゃないからもちろん力が低いな」

「え?オーバーカムにあるの?力なんて」

「あるよ。今度自分で調べてみるといい」

 そんな話をしていると、ファートルに着いた。藤森が「おかえり」と出迎えてくれた。

「悪いな、りゅうを任せて」

「いえ、別に大丈夫ですよ。ボクもりゅうと過ごすのは楽しいですし」

「それならいいが」

 それじゃあ、閉めてくれと言って藤森とりゅうは帰った。

「……それで?今日はアザーワールドリィに行くのか?」

 ヨッシーが聞いてくる。蓮は「そうしようかな」と言ってヨッシーと共に外に出た。

 アザーワールドリィでエネミーと戦っていると、あの男がいた。蓮とヨッシーはとっさに隠れる。

「……あの男は?」

「冬木じゃないぞ。あいつ、りゅう以外のデザイアにも来ていたんだ」

「なぜ言い切れる?」

「冬木はここのことを知らないんだ。それに、あんな服装じゃない」

 咲中を殺した時の冬木もフードを被っていたが、あの服装ではなかった。

「じゃあ、ワガハイ達も知らない侵入者ということか?」

「オレ達はな。狛井も白野も城幹も咲中も、皆知っていたみたいだが」

「謎だな……」

 ヨッシーがあの男をじっと見て、「……でも」と呟いた。

「ワガハイ、あの男知っている気がする」

「……お前も?」

 蓮が眉をひそめて尋ねた。ヨッシーも知っているというのはどういうことだろうか。

「もちろん、正体とかは分かんねぇよ。でも、あの姿……どこかで見たことがある気がする」

 蓮も、あの男をどこかで見たことがあるのか?と聞かれたので頷いた。

「ただ、オレの場合、あいつの正体を霧がかかっているみたいに思い出せないんだ。絶対に知っているハズなのに」

「……そうか」

「それに……あいつとは何か因縁がある気がするんだ」

 あの男のことは誰にも言わないでくれ、と言って二人は現実に戻った。

「お前、あの男のことも知っていたのか?」

 帰り道、ヨッシーがカバンから顔を出して聞いてきた。恐らく、繰り返している内に分かったのかという意味だろう。

「いや、あの男のことに関してはこの周回で知った」

「そうなのか?」

「あぁ。不自然だよな。繰り返してきた中で何度も一人で異世界に入っていたのに、今まで見たことがなかったんだ」

 嘘を言っているようには見えなかったのだろう、「それは確かに不自然だよな……」とヨッシーも呟いた。

 ファートルに着き、シャワーを浴びた後二階に上がるとヨッシーが「そういや、フユキが取引を持ち掛けてくるのは明日なんだよな?」と聞いてきた。

「そうだ。……だが、気付いていないフリしろよ?あいつはお前の声が今まで聞こえてこなかったというような反応するからな」

 特に良希には口酸っぱく言わないとな……と思い出し、すぐ皆にチャットを送る。良希から「気を付ける」と返ってきたが、正直心配である。

 しかし、なるようにしかならないと開き直り、ベッドに転がった。


 次の日、冬木に取引を持ち掛けられる。良希と風花はボロが出ないようにと黙ったままだった。

 そして月曜日、秋川を改心したいと言ってくる。もみじも頷いたので、彼女の姉をターゲットにする。

 次の日、キーワードを探すために裁判所に向かう。そして、もみじが「カジノ」と言うとヒットしたのでデザイアに入る。

 ――ここからが正念場が。

 冬木に気付かれず、どう進むか。今回は皆も巻き込んだのだ、負けるわけにはいかない。

 デザイア攻略は三日で終わらせた。途中、冬木に「戦闘狂」と呼ばれたが気にしないことにした。

 そして十一月二十五日まで作戦を何度も練ったり冬木には内緒でアザーワールドリィに行ったり、協力者達にもしものことがあった時の保険をかけたりして、実行の日が訪れた。

 ――大丈夫、絶対に成功させる。

 その決意のもと、ジョーカーは行動する。

 秋川のフェイクを倒し、オタカラを盗む。すると、冬木が仕向けた警官達が入ってきた。ジョーカーは「自分が囮になる」と言って、皆を先に行かせた。

 警官達の目を引いて、ステンドグラスを割り、外に出る。いつものようにそこで捕まった。

 そこから、非人道的な尋問が始まる。しかし、意識を飛ばさないように耐える。記憶が飛んだところもあるが、ある程度は覚えていた。

 秋川が入り、取り調べが始まる。それが終わり、秋川が出ようとするところを蓮が引き留めた。

「秋川さん」

「どうしたの?」

「取引、しませんか?」

 その言葉に彼女は目を見開き、「えぇ、いいわよ」と身を乗り出してくる。

「ボクが指示を出した通りにしてください。その代わり、他に語らなかった真実を教えます」

「……分かったわ。何をすればいいの?」

「……押収品、あるでしょう?それをある人物に見せてください。ただ、見せるだけでいい」

「ある人物って?」

「……彼は仲間じゃない」

 秋川は首を傾げたが、すぐに思い至ったのか「まさか」と声をこぼした。

 ――冬木君は、あなた達の味方だったの?

 ――いえ、違います。彼は仲間じゃない。

 その会話を思い出したのだ。つまり、精神崩壊事件を起こしているのは……。

 そんなわけない、と思いながら蓮のスマホを持ち、外に出た。すると前から歩いてくる人物がいた。

 ――そう、冬木だった。彼はいつもの優しい笑みで「ちょっと彼女に用があって」と告げた。秋川は蓮の言葉を思い出し、どうするか迷った後、

「……冬木君、これ、見覚えがある?」

 そう言って蓮のスマホを見せた。その途端、世界が歪んだ気がしたが気のせいだと思うことにした。

「……さぁ、どこかで見たような気がしないでもありませんけど」

「……そう。それならいいわ」

 そう言って、秋川はその場を去った。


 冬木が蓮のいる尋問室に入る。そこには拳銃を持った警官と怪盗団のリーダーであり容疑者である蓮がいた。

「すみません、殺人犯が一緒なのでちょっと傍にいてくれませんか?」

 冬木が笑顔で警官に言う。彼は頷き、冬木の傍に来た。すると冬木が警官の持っている拳銃を奪い取り、その警官を撃ち殺した。そしてそのまま、蓮の額に銃口を向ける。目の前の「ジョーカー」と仲間達に呼ばれた少女は驚いたように見ていた。

「キミ達のしてきたことは何ともくだらない。これがくだらない、正義の成れの果てだ」

 歪んだ笑みでそう言って、頭を撃ち抜いた。そして、自殺したように見せるため拳銃を蓮の手に握らせた。そしてそのまま部屋から出ていった。


 秋川が曲がり角で考え込んでいると、蓮のスマホから音声が流れてきた。

『僕は元祖アヌビスだ。君にしか怪盗団のリーダー……成雲 蓮を救うことが出来ない。すぐに戻ってくれ』

 アヌビスは確か、世界的ハッカーの名前だったハズだ。取り調べの時、このことを聞いたら別の人を改心させていたから驚いたのだ。

 すぐに尋問室に戻ると、扉の前に撃ち殺されたはずの警官が立っていた。

「ここに誰か来ていないかしら?」

 秋川が尋ねると、彼は「いえ、来ていませんが……」と答えた。それに疑問符を浮かべながら「あなた、殺されるかもしれないわ。早く逃げなさい」と言って警官を立ち去らせた。そして、中に入ると蓮がいた。

「成雲さん、どういうこと?」

 秋川が尋ねるが、彼女を見て蓮は意識を飛ばしたかのように倒れた。自白剤と疲れと安心が一気に襲ってきたのだ。秋川は彼女をこっそり連れて、彼女の居候先であるファートルに向かった。

 車の中で蓮は意識を取り戻す。全身が痛い。

「起きた?今、あなたの居候先に向かっているわ」

「……ここは」

「私の車よ。まだ時間かかるだろうし、もう少し眠っていてもいいわよ」

 そう言われても、痛みで眠れない。気だるい身体を無理やり起こし、周囲を見渡すと外の景色だった。

 ――あぁ、成功したんだ。

 ようやく実感が湧いてきた。痛みも相まって泣きそうになるが、それを耐える。

「……後で事情、話してもらうわよ」

 もちろんだ、そんな取引だったのだから。

 秋川に肩を貸してもらいながらファートルに入ると、藤森が驚いたような表情を浮かべる。しかしすぐに「店、閉めるから安心しろ」と言って看板を「CLAUSE」にした。

 二階から、仲間達が降りてくる。そして、蓮の姿を見て安心した顔をすると共に辛そうに歪めた。

「酷い……」

「大丈夫、痛むけど何とか意識は保っているから」

 というより痛みがなかったら自白剤のせいで頭がクリアになっていなかっただろう。ヨッシーが足元に来たので、蓮はしゃがみ込み、抱き上げた。

「あー、ふわふわ……昨日はりゅうに洗ってもらったの?」

「おい、レン!痛むだろ!?降ろせ!そして休め!」

「ヨッシーの言う通りだよ、早く休まないと」

「だって、ヨッシーの毛がふわふわなんだもん。癒される……」

 まるで何事もなかったかのように振る舞う彼女を見て、仲間達は脱力した。しかし、藤森と秋川はりゅうの言葉に首を傾げた。

「ヨッシーの、言う通り……?」

「ただのネコよね?」

「ネコじゃねぇ!」

「いたっ……」

 ヨッシーが腕の中で暴れ始めた。それがあざや怪我に当たって痛い。

「あ、悪い……」

「いや、いいんだヨッシー。怪我してるのに抱き上げているボクも悪いから」

「……確かに、会話しているように見えるわね」

 秋川が不思議なものを見る目でヨッシーを降ろす蓮を見つめていた。

「あー、実は……ヨッシー、しゃべるんです。秋川さんには話したでしょう?」

 その視線に気付いた蓮は答える。

「……えぇ。作り話だと思っていたのだけど……あなたのお仲間さんを見る限り、そのようね」

 信じられないだろうが、これを見ると事実と受け止めるほかない。

「異世界に行けば、ヨッシーの声が聞こえるんだ」

 りゅうが得意げに話した。その時、蓮の身体がクラッと傾いた。それを傍にいた裕斗が支えた。

「大丈夫か?」

「あー、ごめん。ちょっとソファに座らせてくれる?」

 さすがに限界が来たのか、そう頼んでくる彼女に裕斗は頷き、近くの席に座らせた。

「何か飲むか?」

「コーヒー……はさすがにアウトか。お茶くれるか?」

 そういえば、丸一日何も飲んでいなかった。スマホで日付を見ると、二十六日。やはり、日はまたいでいたようだ。

 風花からお茶を受け取り、それを飲むと秋川に「それで、何を聞きたいんですか?」と尋ねた。

「何って……」

「なんでもいいですよ。取引したのはボクですから」

 語らなかった真実を教えると言ったのは紛れもなく蓮だ。だから、それはちゃんとしようと聞こうとする。

「そうね。それじゃあまずは、なんで冬木君があなたのところに来ていないことになっていたの?」

 ずっと疑問に思っていたことだ。それに答えたのはりゅう。

「それは、異世界を使ったからだよ」

「異世界……成雲さんの話にも出てきたわね」

「そう。今回はあなたのデザイア……認知欲望世界を利用させてもらったんだ。そこにいると思えば、その人が出てくる。冬木が殺したのは認知上の蓮だったってわけ」

「スマホを見せたのは?」

「ゲンソウナビを開くため……僕が遠隔から操作したんだ」

「そのナビ、見てみますか?」

 蓮がスマホのロックを解除し、画面を見せた。そこには普通のアプリの他に赤い目のアプリが入っていた。

「もしかして、これが?」

「そう、異世界に入るためのナビです。これを使って怪盗団は異世界に入り、ターゲットを改心させます」

「なるほど……じゃあ、なんで冬木君が殺しに来ると知っていたの?」

「それは、蓮が真っ先に冬木の初歩的なミスに気付いたからですよ」

「初歩的なミス?」

 風花が答えると、良希は「さっき、ヨッシーの声のことについて話したろ?」と言った。

「えぇ。確か、異世界に行けば聞こえる……だったわよね?」

「狛井の改心の後、打ち上げをしたんだ。その後、冬木に会ったんだけどよ、そこでヨッシーしか言わなかった言葉を言ったんだ。……まぁ、俺らはそれに気付かなかったんだけどよ……」

「それで、調べてみたら彼が「白い男」だと分かったんです。そして、精神崩壊事件を起こしている実行犯も彼だと分かりました」

「廃人化してしまうのは?」

「廃人化してしまうのは、異世界で分身なるものが殺されるからです。その分身をボク達は「フェイク」と呼んでいます。咲中も、そのフェイクが殺されたから死んだんです」

 そこまで答えると、チャットが届いた音が聞こえてきた。

「ごめんなさい、ボクだ」

 蓮がスマホを見ると、そこには心配する協力者達のチャットの数々。全てに「無事だ」とか「大丈夫だ」とか送り、ポケットに入れる。

「すみません、もう大丈夫ですよ」

「分かったわ。じゃあ、他には……」

 秋川の質問に丁寧に教えていくと、もう夜になっていた。

「もうこんな時間か。今日は解散しよう」

 仲間達に向けて言うと、皆が頷いた。秋川も「そうね、あまり無理させると悪いし」と今日のところはこれで終了になった。ニュースを見ると、怪盗団のリーダーが自殺したことが報道されていた。

「学校はどうするの?」

「死亡届出されてるのに行けるわけないだろ」

 長谷先生には適当に誤魔化しておくように言っておくと蓮が言うと、いつもの癖で皿を洗おうとする。

「おい、蓮。さすがにその状態で任せらんねぇからな」

 藤森に言われ、蓮は渋々と頷く。「とにかく二階に上がっとけ」と言われ、二階に上がろうとするが痛くて足があがらない。

「大丈夫かよ?ほら、手ぇ貸すからゆっくりあがろうぜ」

 良希に支えてもらいながら、二階へ上がる。そして、さすがにベッドじゃ固くて痛いだろうからとソファに寝かされた。りゅうが掛布団を持ってきて蓮に被せる。

「このままじゃ、何かあった時困るわね。誰か残っておいた方がいいかしら……」

 もみじの言葉にりゅうが「僕なら学校もないし、大丈夫だよ」と立候補した。

「分かったわ、ここはりゅうに任せるわね。何かあったらすぐに連絡するのよ」

「分かってるよ。おやすみ」

「……おやすみ」

 皆が下に降りると、ヨッシーが隣に来た。

「……やっぱ、実際に見ると酷いな……女にやる所業かよ」

「ムキになって吐かせようとしてたからな。それに、見た目男だし」

 ヨッシーを撫でながら心配させないように言った。ギシギシと階段をのぼってくる音が聞こえ、そちらを見ると藤森が来た。

「あー、その……大丈夫……なわけねぇよな」

「どうしました?」

「医者、呼んできた方がいいか?」

 彼なりの気遣いなのだろう。それに甘え、「それなら、近くのお医者さん……敷井さんを呼んでくれませんか」と頼んだ。「分かった」と頷き、彼は外に出る。

「来るまで顔のあざ、冷やしとく?」

「そうしようかな……痛くて困ってるし」

 その言葉にりゅうも慌てて下に降りた。

「……悪いな」

 そんな中、ヨッシーが謝ってくる。

「どうした?」

「その……ワガハイ何も出来ないから……」

 なんだ、そんなことかと蓮は笑った。なぜここで笑うんだよ、とヨッシーに睨まれる。

「何度も言わせるな。文字通り傍にいてくれるだけでいいんだ」

 それだけで、孤独を紛らわせてくれるから。

 そう言うと、ヨッシーは目を見開いた後擦り寄ってきた。

「……そうか。お前、ずっと一人だったもんな」

 たった一人で同じ時を繰り返していて、孤独を感じないわけがない。誰も知らない中で一人だけ、それを覚えているのはどれ程のものだっただろうか。

 りゅうが氷水の入った桶とタオルを持ってあがってきた。そして、それを絞り、赤く腫れているところにつけた。

「……ひんやりする」

「氷水だもん」

 今の時期だと少し寒いハズなのに気持ちがいい。自分では気付かなかっただけで熱を持っていたのだろう。

 藤森が敷井を連れて戻ってきた。手当てすると二人とついでにヨッシーにも一階に降りてもらった。

「これは?」

「踏まれたあざです」

「じゃあ、ここは?」

「殴られた痕です」

「これは何?」

「多分、注射痕だと思います」

 一つ一つの質問に答えていると、だんだん顔が曇っていることに気付いた。

「……どうしたんですか?」

「いえ……なんであなただけがこんな理不尽な目に遭わないといけないのかって思っていただけよ」

「皆を守るためですから、仕方ないことです」

 そう答えると、彼女は「あなたはそうやって、他人のために動くことが出来るのね」と困ったように笑った。

「それじゃあ、また明日の夕方来るわ。今日は遅いし、痛いだろうけどちゃんと寝るのよ」

 敷井はそう言って下に降りた。下で話し声が聞こえてきたと思うと、りゅうとヨッシーがあがってきた。

「明日、皆で集まるだろ?」

 ヨッシーが確認すると、蓮は「そうだな……一刻も早く改心させたい奴がいるからな」と頷いた。りゅうが「それじゃあ、皆に集まってもらうよう連絡するね」と言ってスマホを触り出した。その間に藤森があがってくる。

「蓮、りゅう。今日は俺も下にいるから、何かあったら言えよ」

「分かった。しょうへい、おやすみ」

 りゅうの寝る挨拶に彼は微笑んで、「おやすみ」と返した。

 藤森が下に降りたことを確認すると、りゅうが「改心させたい人って?」と聞いてきた。

「悪徳政治家だ。詳しいことは明日、皆が集まった時に話したい」

「悪徳政治家?でも、関連はないよね?」

「そいつが精神崩壊事件の黒幕である可能性が高いんだ。それに、冬木とも関係ある」

 冬木、と聞いてりゅうは顔を曇らせた。生還トリックをやるにあたって、蓮が全てを話したのだ。もちろん、りゅうの母親の死のことも。だから、冬木に苦手意識があるのは当然のことだ。

「そう、か。それなら、やるしかないね」

「りゅう、無理はするなよ。お前のナビがあってこそなんだから」

 無理に笑顔を浮かべようとする彼の頭を撫でる。りゅうは「ううん。大丈夫」と言った。

「それより、早く寝た方がいいよ」

「まぁ、そうだな。……起こしたらごめん」

 先に謝り、蓮は目を閉じる。りゅうとヨッシーも蓮が普段使っているベッドに転がった。

「これ、結構固いね」

「いつもそれで寝てるんだぜ、こいつ」

「よく寝れるね……僕、ふかふかのベッドじゃないと無理」

 二人でそんな会話をしている内に、蓮から寝息が聞こえてきた。それを確かめてから、りゅう達も眠りについた。

 全身の痛みで蓮が起きる。時間を見ると二時過ぎ。まだ二時間しか眠れていない。りゅう達を起こすわけにもいかないと思い、もう一度寝ようとするが、一度覚えた痛みがなかなか消えない。

「ん……レン?起きたのか?」

 ヨッシーが薄く目を開き、寝ぼけた声で聞いてくる。

「あぁ、まだ寝ていて大丈夫だ。全身が痛いだけだから」

 いろいろと痛みを出来るだけ感じないように工夫を凝らしながらそう答えると、「でも、お前うなされてたぞ」と先程より少し覚醒した声で言ってきた。

「それは悪かった。ちゃんと眠れなかっただろう?」

「ワガハイのことはいいんだよ」

 ヨッシーが傍に来て、丸くなる。

「どうだ?眠れそうか?」

「うん。癒される」

 正直な感想を告げると、彼は「ネコじゃねぇ、けど、まぁ今は、この姿に感謝だな」と言った。

「ほら、お前が寝るまで傍にいてやるから」

 そう言って蓮の右手の甲をなめる。くすぐったいと思いながら、安心したのか眠気が襲ってくる。ウトウトし始めた蓮に「寝ていいぞ」と囁くと、蓮は微笑んで目を閉じた。


 次の日、下に降りると藤森に「動いて大丈夫なのか?」と聞かれた。

「一応、足の痛みはある程度引いたので」

 痛まないわけではないが、昨日よりはマシだ。そう答えると「それならいいけどよ、あまり無理はするなよ」と言われた。

「それから、会議するんなら一階も使っていいぞ。死人がいるんだ、気付かれるとまずいんだろ?」

「そうですけど、いいんですか?ほとんど毎日使うことになると思うんですけど……」

「客があまり来ないからな。早くに閉めたって問題ないさ」

 それなら、言葉に甘えさせてもらおうと皆にそのことを連絡する。

 夕方、怪盗団のメンバーと秋川が来たので次のターゲットについて話そうとするとファートルの扉が開いた。

「あぁ、悪い。今日はもう店じまい……」

 藤森が言おうとするが、その人数に驚く。

「成雲!本当に生きてたんだね!」

「思ったより元気そうね」

「おう、本当に無事みてぇだな」

「蓮さん、よかったです」

「君ってすごいね。また記事が増えたよ」

「自殺なんて報道があったから、何事かと思ったわよ」

「占いで無事と出たので、会いに来ました!」

「おねえさん!生きててよかった!」

 前から順に島田、敷井、金井、晃、水谷、長谷、早坂、智樹だ。これで晃を除く冬木と母親以外の協力者達が全員集合したということになる。

「なんだ?知り合いか?」

「えっと……まぁ、取引した人達ですね」

 まさか皆来るとは思っていなかったので、苦笑いを浮かべた。ここまで揃うのも珍しい。

「それにしても……大丈夫なの?そのあざ」

 島田が蓮の顔を見て、聞いてきた。蓮は「大丈夫、殴られただけだから」と何でもないように答えた。

「殴られただけって……」

「それだけ聞くと、狛井を思い出すな」

 狛井は学校を城のように思い、バレー部員に体罰をしていた、許されざる悪人だった。蓮がこちらに来なければ、きっと改心することなく今もなお悪行を繰り返していたことだろう。

「ぼくのことはいいよ!早く手当て……!」

「お前の隣に医者がいる」

 そう言うと、彼は「え、この人が?」と聞いてきた。

「この人って……敷井さん、結構すごい人だからな?」

 今はこの近くの町医者をやっているけど、元は大きな病院で働いていたらしいぞ、と言ってやると敷井は「それは過去の話。今はあの子が助かっただけでいいんだから」と笑った。

「それより、怪我を見せて。まだ全然治っていないでしょ?」

 服の下は薬さえ塗っていれば今見せなくていいから、と言われ、蓮は頷く。腕を見せると注射痕がたくさんあった。

「これ……」

「自白剤を打たれた痕だよ。薬自体は抜けてるし、もう大丈夫」

「いやそれ、大丈夫じゃないよ……おねえさん」

「最近の警察って、そんなの使ってるんだ……」

 皆が呆然としている中、敷井は蓮を診察しながら「やっぱり、成雲家の人間はすごいわね」と言ってきた。

「と言うと?」

「いくら抜けているとはいえ、違法な薬なら身体に影響が残ることも多いのよ。でも、あなたからそれが見られないの」

「うーん……癒しの力があるからですかね?」

 蓮が生まれつき持っている力だ。今ではこちらに来るまでに様々な力を開花させているが、最初からあった特別な能力と言ったらそれしかない。

「あぁ、確か、成雲家は特別な力を持つ巫女の家系だっけ?女の子が生まれたのは君が初めてだったとか」

「そういえば、水谷さんには話してましたね」

 その時、何かの記憶が流れてきた。蓮のものではないハズの、白い髪の女性の記憶。思わず頭を抱えてしまったので、皆が驚いたように見てきた。

「この、血……だれか、を、ころした……?ちがう……ぼく、は……「わたし」、は……」

 混濁しているのかと思ったが、意識ははっきりとしている。しかし、椅子に座っていられなくなり、床にしゃがみ込んでしまう。

「これは、だれの、きおく……?」

「それは、確かにお前の記憶だ。成雲 蓮」

 後ろから声が聞こえてきた。まさか、彼がここにいるわけがないと思いながら後ろを振り返るとシャーロックが立っていた。彼の傍にはユリナとマリナ。

「シャーロック……なんで、ここに?」

 ふらふらと立ち上がり、ここにいるハズのない彼に問いかける。シャーロックは夢の住人のハズだ。それなのになぜ……?

「正確には、私がいる場所は夢ではない。夢と現実の間の空間だ。言っただろう?契約を結んだ者のみが来ることが出来るのだと」

 シャーロックの言葉と共に、蓮の服が囚人の服に変わっていく。ジャラッと手首についている手錠が音をたてた。しかし、他の人達の姿は変わっていない。

「……この姿になるということは、ここは牢獄世界ってことですか?だとしたら、皆を巻き込んだということになりますけど」

「そうとも言えるし、そうではないとも言える。私は現実にも姿を現すことが出来るからな。お前がその姿になったのは、囚われであるからに過ぎない」

「ようやく、あの尋問室から生きて帰ることが出来たのに?」

「あの尋問室からの脱出は第一関門に過ぎない。まだお前は運命に囚われている」

「「囚われの運命」、か」

 ――世界の歪みに挑む覚悟はあるか?

 最初の頃に言われた言葉を思い出す。世界の歪み……悪人達を改心させることだろうか?いや、他に何かある気がする。

「お前はまだ真実に辿り着いていないみたいだな。

 ――なら、この世界に託しても意味がない。死刑だ」

 その言葉に皆が目を見開いた。ユリナとマリナも驚いている。しかし、シャーロックは至って真面目なようだ。

「な……!主、彼女には手出しはしないと言ったではありませんか!」

「そうです。我々看守の役目は囚人を「更生」させること……殺してしまったら意味がありません」

 こんなに慌てている二人を初めて見たな……と他人事のように思っている自分がいた。死刑なんて、現実離れした単語が実感出来なかったというのもある。

 しかし、見えない力に押し出され、床に倒れ込んだ。周りにエネミーが現れ、本気なのだと急に実感する。

 ――ここで死ぬのだろうか……?

 そう思った途端、プツンと頭の中で何かが切れた音が聞こえた気がした。

「ふざけるなよ……!」

 怒りが蓮の心を満たす。床を強くひっかいたせいで血が指の動きに合わせて付いた。轟くような低い声に皆が驚いていた。

「こんなところで……死んでたまるか!」

 ユラリと蓮が立ち上がると同時に青い炎に包まれ、怪盗服の姿になった。力を込めて手錠を壊し、仮面に触れるとパキンと乾いた音が鳴り、リベリオンが現れる。

「現実でも我を呼ぶか。お前は何を求める?」

 リベリオンは笑いながら、蓮に尋ねる。何を求めるか?……そんなの、たった一つだけだ。

「力を――よこせ!」

 蓮が叫ぶと同時に、闇の力が渦巻き、周りにいたエネミーが倒れた。

「ほう……現実でもアルターを覚醒させるか」

 結構結構と余興を楽しむかのように手を叩きながらシャーロックは笑う。

 リベリオンが仮面に戻った。蓮はナイフを握りしめ、シャーロックと対峙する。

「さすが、「反逆の正義」。理不尽なことを許さぬ者よ」

 たまりにたまった怒りが爆発してこうなったのだと彼は言う。しかし、蓮としてはそんなこと関係ない。

 ――皆と一緒に生きたい。

 初めて、強くそう願ったから。何度も願ってきたが、諦めていた。しかしこうして希望が持てたのだ、そう思って何が悪い。なぜそれを奪う?

 パチン、とシャーロックが指を鳴らした。するとさらに無数のエネミーが現れる。だが、蓮は不敵な笑みを浮かべた。

 空中に飛び、銃を撃つ。それで何体か倒れる。着地すると同時にナイフで斬りつけ一体。リベリオンを召喚し、残りのエネミーを全滅させる。

「す、すごい……!」

 初めて戦い方を見た人達は感嘆の声を出す。しかし、仲間達には分かった。蓮が本気を出していないことに。

「さすが、「神の祝福」を持つ者。この程度では動じないか」

 シャーロックは笑い、先程より強そうなエネミーを召喚する。蓮はニヤリと笑ってそのエネミーの肩に乗り、

「正体を見せろ!」

 エネミーの仮面を剥がす。そして、華麗に着地する。

 敵は三体。実力はこちらが上。これなら勝てるとナイフを構えた。事実、この戦いには勝てた。

 ――しかし、もう一体忍んでいたことに気付かなかった。

 完全に油断しているとシャーロックの影から先がとがった細い指みたいなのが伸び、近くにいた藤森を刺そうとした。

「危ない!」

 藤森を突き飛ばし、後ろを振り返る前に左胸――丁度心臓のところにそれが刺さった。口の端から血が流れる。

 カラン、とナイフが手から滑り落ちた。その音にあわせ、蓮も膝をつく。胸を押さえるが、血が止まらない。

 シャーロックはなおもエネミーを召喚する。そのエネミーは蓮に近付いてきた。蓮はナイフをギュッと握りしめ、振り向きさまエネミーを斬り捨てた。そして、そのまま立ち上がる。

「蓮!やめろ!」

 なおも戦おうとする彼女を藤森が止める。しかし、蓮は聞こうとしなかった。

「この身が動かなくなろうとも、皆だけは守り抜く……!」

 その顔は決意に満ちていた。どうせ死んでしまう身なのだ、それなら他人の役に立って死のうと心に決めたのだ。

「……レン」

 ヨッシーが心配そうに見てくる。蓮は微笑み、「大丈夫」と伝える。

 蓮はエネミーを倒すために再びリベリオンを召喚する。

「オスクリタ」

 呪文を唱えると、より強い闇の力がエネミーを包み、消滅する。エネミーが消えたと同時に蓮も倒れ込む。

「レン!」

 ヨッシーが近付いてきたのが分かった。

「よっ……しー……」

 蓮が左手で弱々しく彼の頭を撫でた。もうかすんで、ほとんど見えない。

「ごめんな……お前の本当の姿、見つけてやれなくて……ごめん……」

 唯一、彼だけが問題を解決出来ていない。その謝罪の言葉を告げながら、蓮は涙を流す。

「なんで……!お前が謝ることじゃない!」

 その言葉と同時に彼の身体が光り――あの二頭身の姿になった。

「頼むから、死なないでくれ……!レン……!」

 ヨッシーも泣きながら、蓮の手を両手で掴む。蓮は困ったような、どこか幸せそうな笑顔を浮かべ、

「ヨッシー……傍にいてくれて、ありがとう……」

 再び撫でようとする手はしかし、力なく地に落ちてしまった。息はもう、なかった。だが、その横顔はどこか笑っているようだった。

 しばらく蓮の顔を見ていたヨッシーだったが、不意に「シャーロック」と声を出した。

「ワガハイも死ねば、レンと同じように繰り返すことは可能か?」

「あぁ、関係者であれば、期限までに……二月十三日までに死ねば、彼女と同じように繰り返すことが出来る」

「なら」

 シャーロックが答えると、ヨッシーは顔をあげた。その瞳は決意に満ちたものだった。

「ワガハイを殺してくれ」

「ヨッシー……!?」

 りゅうが慌てた声を出す。シャーロックは「ほぅ……」と珍しいものを見るような目をした。それでも、彼の意思は変わらない。

「こいつはずっと繰り返してるんだろ?死の苦しみを味わっているんだろ?なら、ワガハイもこいつと同じ苦しみを味わいたい」

「……いいだろう」

 シャーロックは笑うと、ヨッシーに近付き、どこからか出したナイフで刺した。ヨッシーも倒れ、手を蓮の手を合わせる。冷たくなっていく、相棒の手。

「今……いくからな……」

 意識が遠のいていくのが分かった。あぁ、こいつもこんな感じだったんだな……。

「お前達はどうする?」

「……俺達は――」

 シャーロックは皆に尋ねていたが、最後まで聞こえてこなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。