幕間 白き少女の記憶
二千年前、幻想世界の白い祭壇で光から生まれた少女がいた。名前は「レンカ・ピースガーディアン」。彼女は人々の望みから生まれた、いわば幻想世界の王女であり「守り神」だった。
少女は白い祭壇で日々を過ごしていた。ある日、現実の存在を知ったレンカは外の世界に興味を持った。
――自分を生み出した「人間」という存在は、一体どんなものなのだろうか?
そう思ったレンカは従者であり弟であるコウノスケ・ピースガーディアンを光から作り出し、同じように光と闇をあわせて作り出したシャーロックに「夢の使者」としての役目を与えて幻想世界を見張らせて、コウノスケと共に現実の世界へ向かった。
現実に行くと、背中についていた天使のような白い羽が消えた。しかし、特徴的な白い髪と青い目は変わらず、人々から恐れられた。
――あぁ、私、異質な存在なんだ。
レンカは想像していた人間とは違い、自分達が生み出したハズの守り神に冷たく当たる彼らに絶望した。
それから、レンカは「普通」の人間に憧れた。だが、人間と彼女の間には確かに超えられない壁があった。
しばらくして、異世界で悪人を改心させることが出来ると気付いたレンカはコウノスケと一緒に人助けをしようと改心させていった。
レンカの分身は彼女と同じく白い羽を持つ「ミカエル」だった。レンカ自体はレイピアを携え、光の弓を使う者だ。しかし、それでも人々はレンカを受け入れようとはしなかった。
――こんな人達のために、私は生まれてきたの?
悲しかった。でも、それを弟に言うわけにもいかず、こんな生活から逃げ出したいと雨の日に森の中を歩いていると転んでしまい、呆然としていると黒髪の青年に会った。
「大丈夫か?」
その人は癖毛だったが、顔はレンカに限りなく似ていた。男性版のレンカと言えるだろう。唖然としながら見ていると、彼は手を差し伸べてきた。その手を取り、起き上がると彼はレンカを見つめ、
「お前、「あちらの世界」で生まれた奴だよな?」
そう聞いてきた。あちらの世界、と聞いてレンカは肩を震わせた。しかし、彼は笑って「安心しろ」と言った。
「オレも、あの世界で生まれたんだ。オレの場合、お前とは違い「作られた」と言った方が正しいがな」
「え……?」
「あぁ、名前、まだだったな。オレはジョーカー。お前は?」
優しく聞かれ、レンカは思わず「わ、私はレンカと申します……」と答えた。
「レンカ、か。いい名前だな」
彼が浮かべた笑顔に心臓が高鳴った。それと同時に熱い想いも湧き上がってくる。
――何?この、感情は……。
悲しいとも苦しいとも違う、初めての感情にレンカは戸惑いながら彼と行動するようになった。
――それが恋だと気付くまでに時間はかからなかった。ある日、ジョーカーが「従者にしてくれ」と言ってきた。
「なんで?」
レンカが尋ねると、彼は「お前を守りたいんだ」と答えた。
「お前はあちらでは「王女」だ。だから、傍でお前を守りたい」
レンカは考えた。そして、
「……分かった。でも、私はあなたに特別な感情を持っているの」
「と、言うと?」
「……私も、あなたを守りたい。でも、それ以上にあなたに傍にいて欲しいって強く思うの。……こんな感情は初めて。一体、この感情はなんていうの?」
コウノスケや他人に抱くものとは違う感情。それの正体は何なのか。ジョーカーは笑い、「それは恋というものだ」と教えてくれた。
「恋……」
「そう。……オレも、お前が好きだ。だからこそ、傍にいたい」
その言葉にストンと何かが腑に落ちた気がした。
――あぁ、そうだ。確かに私は彼が「好き」だ。だから、彼と「生きたい」。
レンカにとって、他の人達は守る対象だ。それ以上でもそれ以下でもない。そのように生まれたのだから。でも、ジョーカーは少しだけ違った。確かに彼も守る対象だ、だけどそれ以上に傍にいて支えたい。
そうやって、二人は恋人同士になった。二人の間には双子の女の子や後に成雲家の先祖となる男の子など、五人の子供が産まれた。弟も、姉の子供が生まれた時は祝ってくれた。双子の女の子はレンカと同じ白い髪に青い瞳を持っていたが、後の子供達はジョーカーのような黒髪だった。
――しかし、その幸せも長くは続かなかった。
異世界に悪神が誕生したのだ。人々の悪い心が生み出した、もう一人の神。
悪神の名前はユミフラデス。彼はレンカに恋をしていた。しかしその恋が叶うことはないと知ると、その力を暴走させてしまったのだ。
ユミフラデスが力を暴走させたことを知ったレンカは子供達を弟に預け、ジョーカーと共に地下に向かった。ジョーカーの分身は「アテン」だった。
だが、暴走したユミフラデスに、二人は負けてしまう。ユミフラデスは「世界を守りたいなら、その男を殺せ」とレンカに告げた。
レンカは悩んだ。愛する人と、世界……レンカの揺れる心をジョーカーは見ていた。
「……ごめんなさい」
悩んだ末、レンカはジョーカーを自らの手で殺した。
時間が止まった気がした。あぁ、愛する人が死ぬというのはここまでつらいことなのか。レンカの瞳からは涙が止めどなく流れた。
「ごめんなさい、ごめんなさい……!」
ジョーカーの遺体を抱えながら、レンカは謝り続けた。ユミフラデスはそんな彼女を見て狂ったように笑った。これで自分のものに出来ると思ったのだ。
しかし、彼女のジョーカーに対する愛情はそんなものではなかった。レンカはジョーカーの魂を回収し、自分の心に住まわせた。
いつか、再び会うことが出来るように。
それを知ったユミフラデスは今度こそ壊れた。レンカは一人で再び戦うが相打ちになり、倒すことは出来ないと判断したレンカは己の身体を生贄にユミフラデスを封じ込めることを決意した。
地下にある牢屋でシャーロックによってレンカは閉じ込められ、祈りの歌を歌い続けた。そんな中、双子の女の子が同じ場所に来た。
「なんで来たの!?」
レンカは驚き、そう尋ねた。彼女達は「お母さんがここにいるって聞いて。私達も、お母さんと同じ運命を背負うよ」と言った。最初は帰るように言ったレンカだったが、聞かない彼女達に折れ、「分かった。でも牢屋には入ってこないで」と言った。牢屋に入ると自分と同じく「囚人」になることが分かっていたからだ。
祈りの歌でユミフラデスを封じ、消える直前、ミカエルが現れた。
「私はあなた。あなたは私。たとえあなたのその身が一時的に消え失せても、私はあなたと共にいましょう。また二千年後に、あなたは地に足をつけるのだから」
その言葉と共に、二人は花びらのように散っていった。双子の子供達はそれを見送った。
コウノスケはそれを知って、この世界を恨んだ。
――なぜ、姉さんがあんな目に遭わないといけなかったのか。
自分達が望んだくせに、人々から疎まれ、愛する人を失い。挙句、まだ運命に縛るのか。
それなら、解放しよう。この世界を滅ぼすことによって、理不尽な運命から姉を。
そう心に誓い、コウノスケも同じように散っていった。
――これが、白き巫女伝説の悲しき物語。二千年後にこの地に再び足をつけることが許された者の、儚い真実。




