十一章 改心失敗とバレる正体、冬木との取引 前編
次の日、意味もなく皆で集まっていた。
「あ、そういや次の打ち上げどこがいいよ?」
良希が急にそんなことを言い出した。そういえば改心させたら何かしら打ち上げをする気がする。
「あ、それなら遊園地に行かない?私、皆で行ってみたかったの」
ほのかがそんなことを言ってきたので蓮は別に構わないと答えた。
「じゃあ、今度行こうぜ!」
「あぁ、楽しみだな」
「僕、行ってみたかったんだ」
男子組はもう盛り上がっている。まぁいいのだが。
『オレも楽しみだ』
「お前は表に出ないだろ」
『ジョーカー』がそう言ってきたので蓮は心の中でツッコミを入れる。
「どうしたの?蓮」
もみじが急に静かになった蓮に聞いてきた。それに蓮は「いや、何でもないよ」と答える。
――まぁ、ちょっとは入れ替わってもいいかな?
そう思うが、口には出さない。
蓮もそれなりに楽しみではある。あまり皆と遊びに行かないのでたまには羽目を外したいのだ。
――まさか、あんなことになるとはこの時の蓮は思っていなかった。
夜、ヨッシーと話していると不意にあの夢を思い出した。
咲中が死ぬ夢を。
「大丈夫か?レン。顔色悪いけどよ」
「あ、あぁ、いや……ちょっと咲中が死ぬ夢を思い出してな……」
どうして急に思い出したのかは分からないが、嫌なものだ。忘れようと話題を変える。
「そういえば、遊園地楽しみだな」
「そうだな、ワガハイも行ってみたいと思ってたんだ」
どうやらヨッシーも楽しみらしい。ネコだからアトラクションに乗れるかは分からないが、お化け屋敷ぐらいは入れるだろうか。
――そういえば前、心霊系の本読んでたら怖がってたな。
そのことを思い出し、蓮はクスクスと笑い出す。
「なんで笑ってるんだよ」
「別に?ただちょっと思い出したことがあって」
さっきまで咲中のことで顔を青くしていたのに、急に笑い出した彼女を不思議に思ったのだろう。ヨッシーは首を傾げる。
「まぁ、お前がいいなら別にいいけどよ……」
しかし、ヨッシーは特に何も聞いてこなかった。楽しそうならいいと思ったらしい。
「まぁ、今日は寝ようぜ」
「そうだね。明日のこともあるし」
ベッドに転がると、蓮はヨッシーを抱え、目を閉じる。
『ジョーカー』と訓練した後、目を覚ます。ニュースを見ると咲中の会社に調べが入ったという情報が入ってきた。
(……これで、改心がうまくいってたら……)
そう願わざるを得ない。制服に着替えると、蓮はヨッシーの背中を撫でた。
「ん……?なんだ?レン」
「何でもないよ、まだ時間あるから寝てて大丈夫」
起きたヨッシーにそう言うと、彼はあくびして起きた。
「なら、制服に着替えてんなよ……確かにお前は早起きだけどよ」
「良希と一緒にするな」
「一緒にする気はねぇよ。というよりむしろなんであいつと接点があるんだって問いかけたいぐらいだ」
ヨッシーとそんな話をしているといつの間にか学校に行く時間になっていた。下に降りると藤森とりゅうがいた。
「おはよう」
「おはよう、蓮」
りゅうは蓮に近付いたと思うと、ヨッシーで遊び始めた。最近はこうするのが趣味らしい。
「うひー、ひゃれろー」
「おい、りゅう。あんまりネコをいじめるな」
藤森に言われ、りゅうはヨッシーの頬から手を離す。解放されたヨッシーは「痛かったぞ!」と叫んでいた。
「ニャーニャーうるせぇな。よく鳴くよな、そのネコ」
しかし、藤森にはヨッシーの声がネコの鳴き声にしか聞こえていない。実はしゃべるネコなんです、なんて言ったら正気を疑われることだろう。
蓮は藤森が出してくれたサンドイッチを食べ、学校に行った。
学校ではいつも通り授業を受け、当てられたら答え、窓の外を見ていた。
相変わらず蓮の噂は後を絶たないが、怪盗団の活躍を期待する声が多く気にならなかった。
「怪盗団は何やってるんだよ?」
「次のターゲット咲中って奴だろ?予告状が来てたって噂だぞ」
「マジで?あの大企業の社長じゃん」
「悪は成敗する!みたいな?」
『……噂になってるみたいだな』
『ジョーカー』が話しかけてきたので、「前からじゃん」と答える。
『そうだけど、気にならないか?』
「……最近、変に怪盗団の支持があがってるってこと?」
蓮が聞くと、彼は『あぁ、そうだ』と答えた。
「確かにおかしいよな。前々から思っていたことだけど」
『……咲中が捨て駒って話、案外嘘ではないかもな』
「そうだね、最後に見たことも考えると……」
倒れている咲中を思い出し、顔が曇る。だが、ヨッシー以外は気付いていない。
「レン?どうしたんだ?」
ヨッシーが机の中から聞いてきた。蓮は「あぁ、今『ジョーカー』と話してるんだ」と言うと、「そうか、まぁ普段から無口だから怪しまれないだろうけど気をつけろよ」と言われた。言われなくても気を付けている。
『もし何かあった場合、真っ先に狙われるのはリーダーであるお前だ』
「心得ている。……でも、ちょっと怖い」
本心を言うと、『ジョーカー』は『大丈夫、オレはどんな時でも一緒だ』と告げた。
「うん……ありがとう」
この半身は優しい。蓮が死ねば彼も死ぬハズなのに、それに文句も言わない。やはり、自分自身だからだろうか?
『じゃあ、話はここまでにするか。また夢でな』
「うん、また」
そこまで言って、『ジョーカー』との会話は終わる。
チャットを見ると、智樹から連絡が来ていたのですぐに向かう。
「おねえさん、今日も訓練するよ」
智樹はそう言って銃のコントローラーを持った。蓮も続けて持つ。
訓練が終わると、智樹が嬉しそうに蓮に話しかけてきた。
「おねえさん、前に比べて上手になったね」
「まぁな……」
怪盗団でよく銃を使ってるし……とは口が裂けても言えない。彼は『ジョーカー』と仲良くなれそうだなと思いながら聞いていると、不意に顔が曇った。
「……どうした?智樹」
気になって聞いてみると、彼は「おねえさんには話してもいいかな……」と呟いた後、
「ぼくさ、お父さんがいないんだよね……だからお母さんが一人で頑張って働いてるんだ」
「そうなんだ……」
「だから、家に帰ってもいつも一人で寂しいんだ……」
「ボクの知り合いにも、同じような奴がいるんだ。そいつも大変でな……」
話していると、夕食をとるにはいい時間になったので智樹を食事に誘う。
「え?いいの?」
「もちろん。あ、でも待って。もう一人誘う奴がいるんだ」
そう言ってチャットを開く。そして連絡先を開いた。
『裕斗、今時間あるか?秋葉原にいるんだが』
『大丈夫だが、どうした?』
『電車代はあるか?今から食事に行くんだが』
『本当か?でもなんで急に』
『銃の扱い方を教えてもらっている子がいるんだが、その子と一緒に食べようと思ってな。お前、また食事抜いてるんだろ?なら一緒にどうだ?』
『いいのか?迷惑ではないのか?』
『倒れられる方が困るからな。別に構わない。何なら食事代も出す』
『君がそこまで言うのなら、今から行く』
『じゃあ、また後で』
チャットが終わると、智樹にちょっとだけ待つように告げる。
裕斗を待っている間、二人で話をしていると、
「そういえばおねえさん。目が悪いの?」
智樹が聞いてきた。
「いや、目は悪くない。これは伊達メガネだ」
「じゃあ、外しても見えるの?」
「そういうことになるな」
「じゃあ、外してみてよ。おねえさんの素顔見てみたい」
小学生に何言われてんだろ……と思いながら、蓮はメガネを外す。素顔を見た智樹は感嘆の声を漏らした。
「綺麗……成雲家の人は綺麗な人が多いって聞いたことがあったけど……」
「ボクはよく分からないな。自分のことだからってこともあるんだろうけど……でも、周りの人からはよく美人だのなんだの言われてるな」
話していると、裕斗が来た。
「やぁ、蓮。……その子が君の師匠か?」
裕斗が不思議そうに聞いてきた。それに蓮は答える。
「そうだよ。智樹、この人はボクの友人の裕斗だ。ボクと同じく高校二年生だよ」
「さっき話してた人?」
「いや、こいつはもっと酷いかもな。裕斗は両親ともいなくて、絵描きの師匠に拾われたみたいなんだ。今は学校の寮に入っている」
智樹が尋ねてきたのでそれにも答えていると、二人のお腹から音がした。
「……とりあえず、ファミレスに行くか」
蓮は笑いをこらえながらそう言った。
二人の相性はよかったらしく、すぐに仲良くなった。
「おにいさんはどうしておねえさんと会ったの?同じ学校?」
「いや、俺と蓮は別の学校だ。いろいろあってな、苦しかったところを蓮が助けてくれたんだ」
「そうなんだ……。なんだかおねえさんってヒーローみたいだね」
「そうだな。彼女は困っている人を放ってはおけない人だ」
「おにいさんとおねえさんって付き合ってるの?」
「いや、そんな関係じゃない」
何やら二人で話しているようだが、蓮は気にしない。怪盗団のことさえ言わなければいいのだ。
注文したものが届くと、それを食べ始める。食べ終えると、蓮が会計に行く。
「ありがとう!おねえさん」
「いいよ、これぐらい。じゃあ、暗くなったら何があるか分からないから、早く帰るんだぞ」
「うん!またね」
そう言って智樹と別れた。彼との絆が深まった気がする。
「じゃあ、ボク達も帰ろうか」
「そうだな」
「ワガハイ、カバンの中にずっと入っていて疲れた……早く帰って出してくれ……」
ヨッシーのこともあり、二人は渋谷まで行く。そして駅前で別れる。最後に見た顔は少し寂しそうだったのは気のせいだろうか。
ファートルに戻ると、まずはヨッシーをカバンから出す。今日は誰かのところに行こうかな……と思ったが、ヨッシーが疲れているようなのでやめておく。
コーヒーを作っていると、ヨッシーが「潜入用か?」と聞いてきた。
「いや、今飲む。明日は潜入予定ないからな」
そう言ってカウンター席に座る。するとカランカランと扉の開く音がした。誰かが来たらしい。
「ごめんね、急に来て」
「……冬木?」
どうしたのだろう?もう閉店しているのにこんなところに来るなんて。
「実はさっきまで仕事でね。疲れたからここのコーヒー飲みたくなったんだ。今から頼めるかな?」
「……特別営業だぞ」
蓮は立ち上がり、コーヒーを淹れ始める。ヨッシーはそんな彼女の様子を眺めている。
「毎回思うけど、君のペットおとなしいよね。人の言葉が分かるみたいだ」
「ヨッシーはいい子だからな」
「あはは、君らしい」
ヨッシーは何か言いたげに見ているが、何も言ってこなかった。冬木のところにコーヒーを置くと、蓮も元の席に戻る。図らずも隣同士だ。
「ありがとう、いただくよ」
「どうぞ。マスターよりはおいしくないだろうけど」
冬木がコーヒーを飲むと、「全然おいしいよ」と感想を告げた。その顔は笑顔だが、蓮には胡散臭く見えた。
「……それで?なんでここに来たんだ?」
「さっきも言っただろ?コーヒーを飲みたくなったんだよ」
嘘だと本能が告げる。彼は探偵だ、蓮が怪盗だと知っていてもおかしくない。
――様子を見に来たのか?
そうとしか思えない。だからといって帰れとも言えないし……。
しかし、彼はそんなことを気にしていないようだ。のんきにコーヒーをすすっている。まさか、本当に蓮が怪盗だと気付いていないのか?いや、こんな時間に来ているんだ、そんなわけない。それとも、蓮の勘違いだろうか?
などと考えていると冬木は「ごちそうさま、コーヒーおいしかったよ。二代目になれるんじゃない?」と笑いながら言った。それに蓮は「ありがとう、そう言ってもらえてうれしいよ」と答えた。
「もう時間が時間だから、オレは帰るよ。それじゃあ、また今度」
「あぁ。だが次はせめて連絡してから来てくれ」
冬木がファートルから出ようとした時、
「じゃあね、――――」
小さい声で何か言ったような気がしたが、聞こえなかった。
「やぁ、蓮。起きたか」
目の前に『ジョーカー』がいたので、ここが夢の中だと気付く。起き上がると、彼は隣に座った。
「それにしても、面白いことになったな」
「……こっちは全く面白くないよ。多分、あいつは気付いてるんだろうな」
『ジョーカー』が不思議に笑うので蓮は呆れる。こんな奴が自分なのだ。……まぁ、スリルを楽しむ方が怪盗らしいのだろうが。
「よく分かってるじゃないか。探偵に正体がバレる……そんな状況をお前がどうするか楽しみだ」
「楽しまれてもな……あいつがどう出るかも分からないのに」
心配する蓮をよそに『ジョーカー』は楽しそうだ。どこをどう考えたらそんなに楽しめるのか蓮には分からない。
「だが気をつけろよ。あいつが見た目通りのいい奴だとは思えない」
「それは同感だ。……ああいう奴ほど裏があるからな」
だが本質は同じだ。冬木が怪しいという意見は一致する。
「さて……それじゃあ今日はここまでにしようか」
「そうだな」
蓮が頷くと『ジョーカー』は彼女の肩を寄せる。それにもすっかり慣れ、そのまま目を閉じる。
「おやすみ、蓮。愛してるよ」
最後にいつもの言葉を聞いて、蓮は眠りについた。
次の日、開原に呼ばれたので保健室に向かう。
「やぁ、成雲さん。入って」
優しい笑みを浮かべる開原はしかし、何か悩んでいるようだった。
「どうしたんですか?開原先生」
蓮が聞くと、彼は「実はちょっと君の意見が聞きたくて」と言った。
「聞きたいこと?」
「うん。……あのさ、もし周囲に期待されている人が期待されたような結果を出せなかったら、どうなると思う?」
「……あまり言いたくないですけど、手のひら返されるでしょうね」
蓮も体験したことだ。蓮の場合不可抗力のところがあったが、それでも地元にいた時は勝手に期待され、前歴がつくと勝手に悪い噂が広がった。
「うん。そうだろうね。……でも、その人だってきっと裏で苦しんでいるハズなんだ」
「まぁ、そうですね」
確かにそうだろうが……。でも、現実は無常なものなのだ。誰も味方になってくれない時だって、あるのだから。
「僕はさ、そんな人も助けたいんだ」
一瞬だけ彼の瞳が黄色になった気がした。
(気のせい、か?)
本当に一瞬だけだったから、どうだったか分からない。蓮は気にしないことにした。
「話につき合ってくれてありがとう。これあげる」
開原から焼き菓子をもらい、蓮は保健室を後にした。
夜、金井のところに向かうと彼は驚いていた。
「どうしたんですか?金井さん」
聞いてみると、どうやら石野がもういいと言ってきたようだ。改心していたようでホッとする。
誰かが店内に入ってきた。晃だ。
「お父さん……」
「あぁ、どうした?晃」
「あのさ、危険なこと、してない?」
急にそんなことを言ってきたので、蓮は驚いた。金井も同じだったようだ。
「何言ってるんだ?晃」
「だってお父さん、元は極道だったんでしょ?ぼく、知ってるんだよ」
「え……?」
「ぼくを引き取ったってことで脅されてたってことも知ってる。だから、ぼくに隠してたんでしょ?」
なんだ、結局彼は知っていたんじゃないか。その上で受け入れようとしている。
「……金井さん、話したらいいんじゃないですか?」
蓮は金井に言うと、彼は「いや、しかし……」とまだ躊躇っているようだった。それに踏み出したのは晃。
「ぼくさ、何も知らない方が怖いよ。だから教えて」
その言葉に、金井も覚悟を決めたらしい。少しずつ話し始めた。
話し終えると、晃は「そうだったんだ……」と呟いた。
――これで家族の仲が深まればいい。
蓮はそう思った。
「ところで晃。今日はお前が食事の準備の係じゃなかったか?」
「あ、そうだった!蓮さん、また今度!」
晃は慌てた様子で店内から出た。その様子を見計らって金井は蓮に聞く。
「……俺は改心とやらはよく分からねぇが、石野のあれは人が変わったようだった。あれが改心じゃねぇか?」
「……それがどうしたんです?」
「石野のことはお前にしか話していない。……お前が例の「怪盗」なんだろ?」
「……だとしたら、何です?」
蓮は不敵に笑う。その姿は怪盗のようだった。その様子を見て、金井も笑った。
「くくく……まさか元極道を騙すなんてな。大した嬢ちゃんだぜ」
「「シェイプシフター」ですから」
シェイプシフターとは、様々な姿に変化する妖怪の名前だ。蓮はサポートエネミーをいくつも持っているのである意味合っているだろう。そういった意味で言ったのだ。
「しかし、ここにあるものは全部偽物なんだがな。安い包丁より役に立つとは思えないが、どうやって使うんだか」
確かに、普通なら役に立たないが、幻想世界では大いに役立っている。そんなことは言えないが。
「本当にありがとな。これからも頼ってくれ」
その言葉に蓮は頷いた。彼との絆が深まった気がする。
次の日、良希がつき合ってほしいと言ってきた。
「どうした?」
「陸上部の連中が話あるってよ」
中庭に行くと、既に陸上部の人達がいた。
「なんだよ?いきなり……」
「良希……お前、陸上部に戻る気はないか?」
それは、蓮が懸念していたことだ。
『お前はその人の意思を尊重するんだろ?』
「当然だろ?」
それはリーダーとして受け入れるべきことだ。その人のやりたいことを最後まで見届ける。
「……いや、せっかくだけど遠慮するわ」
しかし、彼はその誘いを断った。
「そうか。……まぁ、お前を変えてくれたのはそこの転校生だもんな」
「もう転校生じゃないだろ。なぁ良希」
「蓮のことか?こいつはお前達が思ってるよりずっといい奴だぜ」
「頑固なお前が変わるぐらいなんだ、本当にそうなんだろうな」
良希は陸上部の人達と楽しく話していた。その様子を見て蓮は嬉しくなる。また陸上部の人達と仲良くなれてよかったと思っているのだ。
もちろん、寂しくはある。だが、人生は痛みを乗り越えてこそ意味があるのだ。
「じゃあ、ボクはこれで」
蓮はその場を立ち去ろうとする。この場に自分はいらないと思ったからだ。しかし、
「成雲、お前も一緒にトレーニングしようぜ」
なんと、陸上部の人達が蓮を引き留めたのだ。それに蓮は驚く。
「お前、本当は言うほど悪い奴じゃないんだろ?」
「メガネ外せよ、こいつ結構美人だぜ?」
「あ……」
良希にメガネをとられ、蓮は慌ててそれを取り返そうとする。
「返せ、良希……!」
「嫌だ。お前本当は目悪くないんだろ?たまには学校でも外せよ、モテるぜ?」
「ボクは地味でいたいんだ……!」
前歴のことでただでさえ目立っているのだからこれ以上目立ちたくない。羞恥と怒りで顔を赤くする。
「うわっ。成雲ってメガネ外すとこんなに美人なのか」
「スゲ、惚れそう……」
「こんなの、ライバル多いに決まってる……」
しかし、既に遅かったらしい。陸上部の人達は様々な反応をする。
「は、や、く、か、え、せ!」
それに気付いていない蓮はメガネを奪い返し、すぐにつける。
「お前、見た目いいのに本当に損してるよな」
「地味でいたいって言ってるだろ!そんなの構うもんか!」
というより人間不信の奴に何やっているのだろう、こいつは。そりゃあ地元ではメガネはつけてなかったけど。
そこでふと周囲の様子がおかしいことに気付いた。
「……どうしたんですか?」
蓮が聞くと、「い、いや!?なんでもアリマセンヨ!?」と全員目を逸らした。その顔は真っ赤だ。さすが魔性の女、どんな人をも惑わせる。
「???」
だが、それに全く気付かず。その様子を見て良希は「こいつ分かってねぇ……」とため息をつく。いつものことだ。
その後皆でトレーニングをして、解散する。その場には良希と蓮だけが残された。
「蓮、ありがとよ。俺をここまで導いてくれて」
「ボクは何もしていない。お前が彼らと向き合った結果だ」
良希がお礼を言ったので蓮は首を横に振る。
「いや、お前がいなかったら俺、あのまま腐ってた。狛井に足潰されて、あいつらと仲たがいしたままでよ……お前がいなかったらきっとずっとそのままだった」
「ボクはただきっかけを与えただけだ」
「そうだとしても、礼を言わせてくれ」
本当にこの男は見た目に反して義理堅い。狛井に足を潰されなければ、本当は慕われる人になっていただろう。
――この世は理不尽に作られてしまった。
だからこそ、歪んだ異世界が出来てしまったのだ。そこまで思って、蓮はおかしいと感じた。
なんでそんなことを思ったのだろう?自分はあの世界について何も知らないハズなのに。
――まぁ、今は考えても仕方ないか。
そう思い、思考を外に出す。
「本当にありがとよ。これからはお前も俺を頼れよ?」
良希にそう言われた。彼との絆が深まった気がする。
夜、早坂のところに行くとニコニコとしていた。
「どうしたんですか?そんなに笑顔で」
気になって聞くと、彼女は「ありがとうございます、成雲さん」と急にお礼を言ってきた。
「え?急に何ですか?」
「あなたが怪盗なんでしょう?」
言い当てられ、蓮は驚く。
「実は占ったんです、あなたのこと。そしたらあなたが例の怪盗で私を救ってくれる「トリックスター」であると出たんですよ」
「……………………」
開いた口が塞がらない。まさか彼女の占いはそこまで当ててしまうのか。さすが、何でも見通すだけの能力がある。
「驚きましたか?」
「……えぇ、バレないと思っていたので」
胸を張る彼女に蓮は素直に頷く。あの様子なら、彼女にはバレずにすむと思っていたから。
「私だって気になりますよ、救ってくれた人が誰か。……でも、確かにあなたにしか会長について話してなかったから、あなたしかいないですよね」
占いで調べなくとも、それで気付くのではないか?そう思ったが言わなかった。
「私、今までよりも占いを頑張りますね!あなたならいつでも占いますから!」
早坂は張り切っていた。彼女との絆が深まった気がする。
次の日、もみじにつき合ってほしいと言われ、買い物に来ていた。
「蓮ってなんか買ったりするの?」
「いや、あんまり買わないな。必要最低限のものしかない」
こっちに来てあまり買っていない。ファートルにあるのはほとんど実家から持ってきたものだ。
「そうなのね。確かにあなたの部屋ってものがあまり置いてないものね」
「しかもそのほとんどが段ボールの中に入ったままだからな」
前に母親からいろいろなものが届いたが、それもまだ出していない。
「こいつ、最初以外ほとんど段ボールを触ってないからな」
「着替えは?」
「適当なものを着てるんだよな、こいつ」
「……今度風花と一緒に買いに行く?」
「やだ。絶対女性らしい服を着せられる」
ヨッシーの言葉にもみじがそんな提案を出すが、すぐに断る。絶対に女性らしい服は着たくない。
そういえば彼女は何を買いに来たのだろうか。聞いてみると、
「ノートがなくなったの。それでどんなのがいいか聞きたくて」
なるほど、もみじらしい。良希も彼女を見習ってほしい。
「ボクが使ってるやつも普通のだけど、それでいいなら」
「えぇ。それで、もしよければだけどあなたの勉強法も教えてほしいの」
「別に構わないぞ」
もみじがノートを買った後、ファートルに行き勉強法を教える。彼女との絆が深まった気がした。
夜、久しぶりに段ボールを開く。
「どうしたんだ?」
ヨッシーが聞く。蓮は「怪盗団も人数が増えてきただろ?だから使えるものがあるかなって思って」と答える。
「あー、水筒は買ってきた方がいいかもな……紙コップも必要かな?あ、これ潜入道具作る時に役立つかも」
整理していると、テレビで咲中が明日会見を開くと聞いた。
「改心してるか、明日分かるってことだな」
「そうだな……」
チャットを開き、明日ファートルに集合しようと送ると分かったと返事が来た。
「じゃあ、今日はもう寝るか。段ボールは明日片付ける」
「分かった。おやすみ」
蓮は段ボールをそのままにしてベッドに転がった。
「ヨッシー?寝ないのか?」
「ワガハイはまだ大丈夫。お前が寝たら寝るよ」
そう言ったので蓮は分かったと言って目を閉じた。
ヨッシーは蓮が寝たのを確認して、段ボールの中を見てみる。彼女らしいものばかり入っていたが、一つ不穏なものが入っていた。
「……こいつ……」
明日聞き出してやろうとそれを取り出し、蓮にバレないところに置いた。
次の日、皆が蓮の部屋に集まる。
「いらっしゃい。どうぞ」
椅子を取り出し、皆を座らせる。するとヨッシーが「おい、レン」と呼んだのでそちらを見る。
「どうした?ヨッシー」
尋ねると、彼はどこからか紐を取り出した。それに見覚えのある蓮は途端に気まずくなり目を逸らす。
「あ、えーと……」
「これ、何だよ?」
笑顔で聞いてくるヨッシーが怖いと初めて思った。
「とりあえず、そこに正座しろ」
「……はい」
逆らうことが出来ず、蓮は床に正座する。ヨッシーはそんな彼女の前に座った。
「もう一度聞くぞ?これはなんだ?」
「え、えっと……もしこっちに来た時に、耐えられなくなったらって思って……」
ヨッシーの問いかけに蓮の声は少しずつ小さくなっていく。それにヨッシーは呆れる。
「お前、自傷行為に飽き足らず自殺まで考えてたのかよ?」
「だ、だってあの時は自暴自棄になってたし……」
これは本当だ。家系のことだけならまだ耐えられたが、前歴のことで心が悲鳴をあげてしまった。だからこそ精神安定剤をたくさん飲む羽目になっているのだが。
「あのよ、確かにお前の過去を考えたら死にたくなるのも分かるぞ?だからってよ、ワガハイ達に何も言わないのはどうかと思うぞ?」
「はい、ごめんなさい」
ヨッシーの言うことがよく分かるので素直に謝る。ヨッシーはその紐をゴミ箱に捨て、
「これ、ちゃんと捨てろよ?不吉すぎるからな」
「……分かりました」
なぜ自分はネコに説教されているのだろうか?いや、確かに自分が悪いのだが。
解放された蓮は椅子に座り、テレビをつける。丁度咲中が会見を開こうとしているところだった。
「おっ!来たぜ!」
良希が身を乗り出した。蓮は心配しながらテレビを見ていた。
やがて咲中が現れ、謝罪会見を開いた。その途中――。
――咲中が夢と同じようにもがき苦しみ、血を吐きながら倒れた。
急に起こった放送事故に皆が信じられないというように目を見開いた。
「何!?何が起こった!?」
皆が騒ぎ出す中、蓮は顔を真っ青にした。それにヨッシーが気付いたらしい、
「どうした?レン」
「――夢で見た光景と、同じだ……」
その言葉に全員が再び驚いた顔をする。
「じゃあ、お前が見た夢は本当だったってことかよ……」
「……………………」
良希が言うが、蓮は返事することが出来なかった。
――やっぱり、あの場に白い男がいたんだ。
バックミラーを見た時のあの人影がそうだったのだろう。やはり、蓮の予想は当たっていたのだ。怪盗団は白い男と黒幕にはめられた。
「蓮?どうしたの?」
りゅうが蓮の顔を覗き込んで聞いてきた。余計なことを言って不安にさせる必要はないと蓮は「何でもない」と首を横に振る。ヨッシーは何か言いたげだったが、黙ったままだった。恐らく、蓮の意思を尊重したのだろう。
その場の雰囲気が重たくなる。その時、電話がかかってきた。ほのかのスマホからだ。
「ごめんなさい」
ほのかは立ち上がり、背を向けて電話に出る。内容的に咲中のことだろう。
電話が終わると彼女は「早く帰って来いってお父様から」と告げた。
「それなら、早く帰った方がいい。皆も混乱しているだろうから、今日は解散しよう。また夜、連絡する。くれぐれも、怪しまれないようにな」
リーダーの言葉に皆頷き、帰っていった。りゅうも下に行き、その場に蓮とヨッシーだけが残される。
「……よかったのか?皆に話さなくて」
ヨッシーが聞く。それに蓮は「言わない方がいいだろ。皆動揺している」と言った。
「それに、ボクも憶測にしか過ぎないからな。混乱させるわけにはいかない」
「確かにその通りだけどよ……」
だからって、そのままにしておくのか。ヨッシーは目の前の少女が何を考えているのか分からなかった。ただ、何かの覚悟をしているということだけは分かった。
夜、蓮はチャットを開く。
『皆に話しておくことがある』
『なんだ?』
『多分だが、ボク達ははめられた。それは分かるな?』
『さすがの俺でも分かるぜ』
『でも、それがどうしたの?』
『実は、裏ルートを使ってアヌビスについて調べてみたんだ。……あれはアヌビスじゃない』
『どういうこと?』
『怪盗団を挑発したアヌビスは、どこのアヌビスでもなかったんだ。……それでりゅう。お前に確認したいことがある』
『何?』
『お前が元祖アヌビスだな?義賊と言われていた時のアヌビス』
『……よく分かったね。どうして?』
『それも調べた。勉強すればボクでもある程度はハッキング出来るからな。……だが、初心者のボクでも偽物と気付いたぐらいだ。お前は気付いていたのか?』
『うん。……正確には、今調べて分かったんだけど、あれはハッキングの知識が全くない奴の仕業だね』
『そうだ。ボクもそれに気付いた。……つまりボク達は、アヌビスの件から既に罠にはめられていたんだよ。「白い男達」に』
『白い男って確か……』
『それに、「達」って……』
『そう、複数いるということだ。白い男は実行犯に過ぎない。黒幕は別にいるとボクは推測している』
『だが、なんでそう思う?』
『アルター使いにデザイア持ちはいない。ボクの時が異例だっただけで。実際、皆の名前を入力してみたけどそこは大丈夫だった』
『なんでそこでアルター使いが出てくるんだよ?』
『白野や城幹のフェイクが言っていただろ?異世界を悪用している奴がいるって。そこからアルター使いが実行犯であることが分かる』
『じゃあ、黒幕がいるというのは?』
『ある人物からの情報をボクなりに考えた結果だ。咲中は「精神崩壊事件」に関わっていると聞いた。だから聞き出そうとしたんだが無理だった』
『咲中さんも?』
『あぁ。ほのかには酷かもしれないが、はっきり言う。咲中は「捨て駒」だったんだよ』
『……!』
『ボクも、これぐらいしか調べられていない。……ただ、言えることは、黒幕は恐らくそれなりに権力を持っている人じゃないか、ということ。そして怪盗団を潰そうとしていること。もちろん、憶測に過ぎないが』
『マジかよ……』
『いいか?帰る時も言ったが、怪盗団だとバレないようにしろ。今まで以上に周りを警戒した方がいい』
『分かった。……と言っても、あちらのことなんて誰も信じないだろうがな』
『警察も、証拠がないと逮捕出来ないからな。一時は大丈夫だろう。……そもそも、怪盗団は咲中を殺していない』
『あぁ、そうだよな……』
『うん……そう信じるしかないよね……』
『夜遅くに悪かったな。それじゃあ』
チャットを終えると、見ていたヨッシーが口を開く。
「お前、何を考えているんだ?」
「急にどうした?」
蓮は首を傾げる。ヨッシーは「お前、ちょっと変だ。『ジョーカー』に変わっているわけでもないだろ。……なんかロクでもないこと考えてんだろ」と続けた。全く、なんでこいつは何でも分かってしまうのだろうか。
「……ここまで罠にはまったんだ。逆に利用してやろうかなって思ってね」
「利用?どうする気だ?」
この最悪の状況を打開する方法があるというのか?
「――ヨッシー。いいか、よく聞け。もしボクに何かあったら、その時はお前が怪盗団のリーダーになってくれ。それ以上はいくらお前でも言えない」
「何かあったらって……お前、まさか……」
ヨッシーはすぐに思い当たったようだ。ハッと蓮の顔を見る。
その顔は笑っていた。しかし、目は笑っていない。
――こいつ、本気だ……。
本気で、死のうとしている。蓮はヨッシーの頭を撫でながら、
「……こうするしか、皆を守れないから」
そう呟いた。そして、机に向かう。何か書いているようだ。そしてそれを引き出しの中に入れる。
「ヨッシー、ここに皆の連絡先を書いた紙を入れている。怪盗団の軍資金もここだ。もしボクに何かあって、戻ってくることがなかったら、どんな手を使ってでも逃げてくれ。いいな?」
「お前……」
ヨッシーはそれ以上何も言えなかった。そこに彼女なりの強い覚悟があったから。
「……分かった」
だから、頷くしか出来なかった。
「蓮、起きろ」
『ジョーカー』に起こされ、蓮は身を起こす。
「どうした?」
尋ねると、彼はくくく、と喉を鳴らした。
「まさか、自首しようとしているわけじゃないだろ?」
「当たり前だ。……ボクはあえて罠にはまる。それでどうなるか分からないけど、もし死んだとしても後は皆に任せる」
「その時まで情報を集める、か。その方がいいかもな」
「あいつはすぐにでも動き出す。気付かれないようにしないとな」
『ジョーカー』と作戦をたてながら蓮は皆のことを考える。
――皆にこのことを言うわけにはいかない。大丈夫、ヨッシーがいるからボクがいなくても皆ならやっていける。
敷井と金井、早坂と藤森は解決したから大丈夫だろう。水谷と智樹は今まで以上に関わって、何かあったら早めに解決した方がいい。長谷はどうだろうか?開原の研究は?
意外とやり残していることがある。これは今まで以上に忙しくなりそうだ。




