みんな友だち
2016/08/23
本文修正しました
「さて。おぬしも遠路遥々苦労じゃったの」
居を正した楓柳の長。
影天が追加され三人になった客人に改めて挨拶を述べた。
「苦労……どころじゃねーっつの」
「ははは、若いのう」
見た目完全に少女に若いと言われる始末。
ネームレスは、さらに脱力した。
「で。なんの話してんだ?」
「さてな。俺も鍛練に勤しんでいたからな」
ネームレスは、隣の座布団に座るエルニドに小声で話し掛けた。
その二人の前方中央にリリル、対面にキリュウといった配置だ。
「その話はまだこれからですよー。――ということで、何やら深雪に手を焼いているとの話でしたけど?」
「うむ。その話じゃの」
リリルの確認にキリュウが頷いた。
「深雪さん、昔からストーカー気質なとこもありましたからねー。ずず……はふぅ」
湯呑を回すリリル。
(ストーカーって……楓柳はそんな連中ばっかかよ……)
(? 何の話だ?)
男同士、小声で会話を行う。
「どうせ荒れ狂ったベリガが、キリュウさんの下着を盗んだりお風呂を覗いたり、はたまた寝込みを襲おうとか画策してるんですよね? 困ったものです」
「「「……………………」」」
場がしばらく沈黙で包まれる。
さしものエルニドもこの発言には、頬を引き攣らせていた。
和服の少女は首を捻り、しばらく考え込んだ後に告げる。
「……や。そんな事実はないの」
「あれー?」
素っ頓狂な声を上げるリリル。
「お折檻のために呼ばれたんじゃないんですか、わたし?」
「おぬしは、一体ベリガをなんじゃと思うておるのじゃ……」
「えーっと…………有能な変態さん?」
考え込み、しばし見つめ合う。
不逞の事実はなくとも心から否定し切れない――そんな複雑な気持ちが少女のどこかにあったのかもしれない。
◇
「――っくしゅん! ずずっ」
蒼銀の鎧に金属マントの男が、鼻と口をハンカチで拭う。
「……ベリガ様、風邪ですか? 大事になさらないと」
側に控えていた男がひとり、作業を中断してそう言った。
現実世界で脳が体調不良を認識していれば、仮想世界のアバターにも影響を与えることがある。
「いや、体調管理など兵法の基礎だ。当然、抜かりはない。ほら、サボってないでさっさと潜んでいる賊を探し出すぞ!」
「はっ、了解であります!」
先導する男がマントを翻す。
しかし、部下がこちらを気遣った言葉に対し、自らの言葉はいささか思慮に欠けたのでは? そう思い直した。
ベリガは「んんっ!」と小さく喉を整えて部下に改めて告げる。
「結果次第では、キリュウ様もお喜びになるだろう。その時は、お前たちも労いの言葉もいただけるな」
「はっ、光栄であります!」
部下の言葉に、ベリガは首を縦に往復する。
だが、これでは少し甘すぎたか? そう考えた。
「無論、初めにお言葉を賜るのは、組の長たるわたしだがな?」
「はっ、至極当然であります!」
そう組の長だからだ。
いや、それでは、もしわたしが組を取り仕切っていなければ労いをいただけないのか。
「――いや、組の長だからではないか。わたしがキリュウ様の右腕ゆえだ。それも理解しているな?」
「はっ、全組員が既知の事実であります!」
「ふふふ……」
「ははは……であります!」
そうして、一通りの部下と短い会話を終えたベリガたちは。
手で合図を行うと、また都の中へと散開した。
◇
ネームレスは考えた。
自分を売った――というより毒花をけしかけさせた行いといい、言葉の端々といい。
この光天はロクな人間ではない――と。
ふぅーっ、と深く息を吐き、隣に座る男の気を引く。
(……オイ。こいつ、今の内にもげ太から遠ざけといた方が良くね?)
パクパクと口を動かして伝えると、相手は静かに唸り声を上げて吟味し始めた。
(一口に否定できないのが心苦いな)
相手も唇の動きだけで伝えてきた――読唇術だ。
同意の旨を縦の首の動きで伝える。
こうした会話方法ならば、前方に座る本人に聞こえるはずもない。
もしかしたら、対面の少女には勘付かれてしまう怖れはあるが。
――しかし、リリルは畳に寝かせたあった大杖を胸に抱き、何事かを早口で呟き始めた。
「無限の空を漂いし遊星よ。今こそ我が導きに従いて咎人に――」
以前、聞いたことのある詠唱に男は視線だけで動きを合わせた。
「センター、カットだ――!!」
「ディフェンス、任せとけ――!!」
杖を取り上げようとする男に口を塞ごうとする男。
傍から見ればただの人攫いだが、そんな猛攻を少女はプロボクサーばりのスウェーでひょいひょいかわす。
――マズイ、このままでは止められない!?
そんな切羽詰まった状況に城の主も気が付いたのか、
「この詠唱は……はっ! “スターダスト・レイ”か――!?」
席を立ったキリュウが扇を開き、優雅に踊りだす。
周囲に金色の亀甲文様が浮かび上がっていく。
「防壁を築け――四神・玄武の舞!」
術者を中心に金色の障壁が周囲に展開された。
――ただし、中心はリリルの方なのだが。
「さぁ、こちらの防備は完璧ぞ! 存分にやりませい!」
「いや、止めろよ――!?」
嬉々として告げるキリュウ。
亀甲ドームの中、リリル、エルニドと共に放り出されたネームレスは堪らずにツッコミを入れた。
◇
それから数分後。
場が落ち着きを取り戻し、顔を見合わせたエルニドとネームレスが「やっぱ類友(略語)なんだよなぁ……」などと小声で呟きながら新たに点てられたお茶で舌を濡らす頃。
「さて。少し逸れたの。話を戻すのじゃ」
――誰のせいか。
なんて心の声を拒絶するかのような咳払いをコホンひとつ。
居を正し、仕切り直しを促すキリュウ。
「光のにはともかく、焔のと影のには改めて説明が必要じゃしの」
光のことリリルは、キリュウと仲が良いようだが、脱線が多すぎて会話が進行する気配がない。
ネームレスは……案外まともな気があるものの、行動方針を一任するリーダーシップを備えているかというと首を傾げる。
そう解釈した焔のことエルニドは、リリルと席を入れ替えて対面に座した。
「あぁ。話というのは一体?」
「うむ。実はの――」
◇
「革命――ですか?」
招待された――もとり、正確には軟禁された倉庫にて、もげ太は首を傾げた。
問う先、向かいの木箱に腰掛けるのは例の法被姿の男。
彼の名をゲンマという。
「おうよ。キヨウにでっかい花火を上げてやれ――ってな!」
ゲンマは、どうやら単独で動いているわけではないようだ。
その周囲――倉庫内には多くの人間が犇めいている。
無論、彼らはここで倉庫整理に精を出している丈夫ではない。
「花火ですか……。いいですねっ!」
自らの境遇や雲行きなどはさっぱり理解していないのだろう。
もげ太は、夜空に咲く大きな花を想像すると小さくグーを握って喜んだ。
「おぉう、テメェも理解してくれんのか!? ビギナーだが、中々見所はあんじゃねぇか!」
ゲンマは、もげ太の肩を肘で突き、悪人相ながらも嬉しそうに白い歯を見せていた。
「うし! んじゃあ、これからはテメェ――いや、“もげ太”っつたな? 俺たち【神無風】の仲間入りだ!」
もげ太の視界に、
[ギルドへの招待があります]
という通知が表示される。
「僕が仲間に……? いいんですか?」
「おう、もちの餅屋よ!」
もげ太がコンソールを操作して、加入申請を承諾した。
[もげ太が《神無風》に参加しました]
通知が、もげ太を含めた神無風のメンバー全員と、例外としてPTを組んでいるメンバーの各々に送信された。
「うっしゃあ! テメェら、新しい仲間だぞ!!」
「「「うぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!」」」
ゲンマが声を張り上げると、倉庫に居るメンバーたちも応じるように歓待の声を上げる!
「ありがとうございます!」
もげ太は、向きを変えてはお辞儀を繰り返し、差し出された大きな掌を両手でがっちりと握り返した。
◇
その時、楓柳でキリュウと対談をしていたエルニドは、視界の左隅に表示された通知に我が目を疑った。
◇
通知対象:ギルドメンバーおよびパーティメンバー
[もげ太が≪神無風≫に参加しました]
◇
「…………は?」
それは何故か――。
“神無風”というギルド名は、つい今しがた楓柳の長から聞かされたばかりの――つまり、賊団とやらの名前だったからだ。




