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氷血の皇帝は俺の料理を手放せない ~追放された料理人ですが、幼い日に救った少女が皇帝になっていて離してくれません~   作者: ジモンヌ
第6章 英雄の料理人と、勇者ではない彼

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第97話 守る場所を選ぶ

 召喚紋の暴走が止まった翌日、エスペルは勇者隊の前に立った。


 重い白銀の鎧ではなく、普段の上着を着ている。


 胸元の紋は残った。その上には、ノエルが休止命令の札を付けている。


「俺は、帰還研究を続けたい」


 誰もすぐには拍手しなかった。


 それでいい、とエスペルは続ける。


「帰りたい気持ちは変わらない。でも、今ここで守りたい人もいる」


 ダグラスが腕を組む。


「勇者だからか」


「違う」


 答えは早かった。


「一緒に戦って、一緒に飯を食って、帰ってきてほしい奴がいるから」


 部隊の中で、誰かが鼻をすすった。


「泣くところじゃないだろ」


「勇者殿がまともなことを言ったので」


「エスペルだ」


「エスペルが、まともなことを言ったので」


 今度は笑いが起きた。


 ダグラスが新しい指揮規定を掲げる。


 出動には本人の同意。


 治癒師に休止権。


 部隊ごとの撤退線。


 帰還研究を理由とした隊内処分の禁止。


「これで、勇者一人がいなければ崩れる部隊を終わらせる」


 エスペルは自分の名で署名した。


◇ ◇ ◇


 午後、タクミとエスペルは裏庭で小鍋を洗った。


「一緒に帰るって、変な約束だな」


 エスペルが水を切る。


「エスペルさんは別の世界へ帰るかもしれないのに」


「それでも、今の任務からは一緒に帰る」


「誰かを置いて、一人で終わらせない?」


「そういうこと」


 二人は濡れた手を見比べて笑った。


「タクミも約束しろよ」


「僕も?」


「自分は炊事場にいるから安全、みたいな顔をするな。前線まで椀を持ってくる奴だろ」


「必要なら行きます」


「だからだよ」


「……分かりました。約束します」


 そこへシィルヴィアが来た。


「何を約束したの」


「一緒に帰ることです」


 タクミが答えると、青白い目がエスペルへ向いた。


「タクミは私と帰る」


「陛下、そういう話じゃ」


「同じ」


 エスペルは笑いを堪える。


「じゃあ、全員で帰りましょう」


「それならいい」


 リディが庭の入口で息を吐いた。


「陛下の許可が下りた。世界を救っても単独帰還は禁止だ」


 その時、城壁の外で警鐘が鳴った。


 一つではない。


 北門。東門。市場の方角。


 空を黒い雲が流れている。


 伝令兵が駆け込んだ。


「帝都周辺で魔力災害を確認! 魔物化した群れが複数の街道から接近しています!」


 オルガが地図を広げる。


 赤い点は、帝都を囲むように並んでいた。


「封印が弱まった影響が、もう来た」


 ノエルが駆け寄り、エスペルの脈を取った。


「異常が出たら、すぐ離脱してください」


 ノエルは胸元の札を外す。


「分かった」


 エスペルは誰にも命じられず、剣を取る。


「全員で帰るために、守る」


 今度の声は、誰の期待も真似ていなかった。


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。


今日の一皿はいかがでしたでしょうか。


少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価、感想で応援していただけると、とても励みになります。


また次の一皿で、お会いしましょう。

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