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氷血の皇帝は俺の料理を手放せない ~追放された料理人ですが、幼い日に救った少女が皇帝になっていて離してくれません~   作者: ジモンヌ
第6章 英雄の料理人と、勇者ではない彼

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第92話 女神の声

 翌朝、白い塔で、セレスティアは祈りの間へ入った。


 以前なら、一人で扉を閉じただろう。


 今はイレーネたち治癒師と時間を分け、扉の外には休憩を知らせる札が掛かっている。


「声を追いすぎないでください」


 皇城厨房の通信鏡越しに、タクミが言う。


「はい。聞こえたことだけを持って帰ります」


「疲れたら?」


「止めます」


「倒れたら?」


「その前に、イレーネが扉を開けます」


 扉の横で待つイレーネが頷いた。


 夕方、祈りの鏡にセレスティアが戻ってきた。


 疲れきった顔ではない。答えを急がず、考えている顔だった。


「女神様の声だと断言はできません」


 鏡の向こうで、ゆっくり言葉を選ぶ。


「たくさんの祈りの奥に、一つだけ、押しつぶされそうな声がありました」


「何と」


「助けて、と」


 エスペルの記憶と重なる。


 オルガは教団の古い記録を開いた。


「伝承では、女神は世界を導き、命じる存在だ。だが最初の声が救援だったなら、後世の祈りが意味を変えた可能性がある」


「助けを求めた人が、助ける役割にされた?」


 ミアが言った。


 セレスティアの手が止まる。


 白い塔で、彼女自身がされたことだった。


「仮説だ」


 オルガがすぐ釘を刺す。


「似ているからといって、同じ穴へ押し込むな」


 その時、エスペルが胸を押さえた。


 召喚紋が薄く光り、床へ円を描く。


 これまでの戦闘命令とは違う。


 赤い線は北部国境へ向かわず、空へ伸びるように消えていった。


 イリスが片眼鏡を下ろす。


「座標探索……帰還側の式です」


「帰れるのか」


 エスペルが立ち上がる。


 誰も、すぐには頷かなかった。


 希望だけが、答えより先に生まれてしまう。


「今の反応だけでは無理です」


 イリスは言葉を濁さない。


「ですが、帰還のための式が召喚紋に含まれている可能性はあります」


 エスペルの手が拳になる。


「調べてくれ」


「危険です」


「それでも」


 タクミが、握られた手を見る。


「調べましょう」


「帰れないって分かるかもしれないぞ」


「帰りたいって言ったことを、なかったことにしないために」


 エスペルは目を閉じた。


 胸元の光が消えたあとも、そこから手を離さなかった。


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。


今日の一皿はいかがでしたでしょうか。


少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価、感想で応援していただけると、とても励みになります。


また次の一皿で、お会いしましょう。

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