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氷血の皇帝は俺の料理を手放せない ~追放された料理人ですが、幼い日に救った少女が皇帝になっていて離してくれません~   作者: ジモンヌ
第5章 異端の料理人と、名前を失った聖女

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第67話 強くする料理ではない

 ――《聖女強化法》。


「違います」


 タクミは要請書を机へ戻した。


 翌日の会談には、白髪の枢機卿が来ていた。


 グレゴリウス・ヴァレル。


 古い白衣と杖。


 豪華な装飾はない。


「何が違うのですかな」


「強くしてません」


「聖女様は昨日、通常より多く食事を取れたと聞いている」


「それは食べられた量です」


「回復が早まれば、祈祷の間隔を短縮できる」


「短くするために作ったんじゃないです」


 グレゴリウスは怒らなかった。


「一度の祈祷で救われる者がいる」


 杖の上で両手を重ねる。


「二度できれば、さらに救える」


「その二度目で、セレスティアさんが食べられなくなるなら?」


「それでも救われる人数が上回る場合、我々は選ばねばならない」


 室内が静かになる。


 私欲で言っている顔ではなかった。


 だから、余計に重かった。


「タクミ」


 シィルヴィアが呼ぶ。


 タクミは一歩下がった。


 代わりに、彼女が会議卓の前へ出る。


「帝国は料理人を貸し出さない」


「陛下。これは多くの命に関わる――」


「料理人の意思も、聖女の身体も、計算から消す制度には協力しない」


 グレゴリウスの目が細くなる。


「では、代替を示していただきたい」


「示す」


「理想ではなく」


「記録で」


 短い言葉がぶつかる。


 タクミは気づけば、シィルヴィアの隣へ立っていた。


 彼女は見ない。


 けれど、少しだけ肩の位置が近くなった。


 もう一人、会談へ参加していた男が口を開いた。


 ユリウス・アーデン。


 簡素な黒い司祭服に、細い眼鏡。


「教団内にも、祈祷の分担案はあります」


 グレゴリウスがそちらを見る。


「実績が不足している」


「実績を積む機会そのものが少なかった、とも言えます」


「失敗すれば、救われない者が出る」


「集中し続ければ、聖女様が先に倒れます」


 ユリウスの声は静かだった。


「私は、それを知りながら十分に動かなかった」


 誰かを悪人にすれば、話は早かった。


 けれど、この部屋には自分なりに人を救おうとしてきた者ばかりいる。


 その結果、一人へ重さが集まっていた。


「本人に聞く」


 シィルヴィアが言った。


 セレスティアが顔を上げる。


「続けるか、休むか。食べるか、祈るか。まず本人が決める」


 グレゴリウスは少し考えた。


「聖女様ご本人が、これまでの運用継続を望まれるなら?」


「その時は、なぜ望むのかも聞く」


 視線が一斉にセレスティアへ集まった。


 彼女は膝の上で指を組む。


 いつもの、整った微笑み。


「皆が助かるなら」


 タクミは、その言葉をもう知っていた。


「私は、続けます」


 同意の言葉なのに。


 どうしてか、断る言葉より遠く聞こえた。


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。

今日の一皿はいかがでしたでしょうか。

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また次の一皿で、お会いしましょう。

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