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氷血の皇帝は俺の料理を手放せない ~追放された料理人ですが、幼い日に救った少女が皇帝になっていて離してくれません~   作者: ジモンヌ
第5章 異端の料理人と、名前を失った聖女

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第68話 聖女の同意

「皆が助かるなら、私は続けます」


 会談は、その一言で終わらなかった。


 シィルヴィアが終わらせなかった。


「続けたい?」


「はい」


「休みたい?」


 セレスティアの返事が止まる。


 グレゴリウスが口を挟もうとした。


 シィルヴィアは視線だけで止めた。


「あなたに聞いている」


 聖女ではなく、目の前の本人へ。


「……分かりません」


 初めて、整っていない答えが出た。


◇ ◇ ◇


 会談の後、タクミは台所で昼食を作った。


 大きなものではない。


 薄い野菜のスープと、柔らかいパン。


 セレスティアは窓際の席に座っている。


「さっきの質問、難しかったですか」


「はい」


「じゃあ、別の聞き方にします」


 タクミはパンを一口分だけ皿へ置く。


「祈りを断ったら、何がしたいですか」


 セレスティアが瞬きをした。


「何を、とは?」


「何でも」


「誰かを治す以外で?」


「はい」


 返事が来ない。


 スープの湯気が薄くなる。


 タクミは急がせなかった。


 ミアは隣で木のスプーンを布で磨いている。


 やがて、セレスティアが言った。


「朝」


「朝?」


「一度だけ」


 指が皿の端へ触れる。


「誰にも呼ばれずに、起きてみたいです」


 タクミは頷いた。


「じゃあ、それを試せますか」


「祈りを、休むのですか」


「一回だけ」


 セレスティアの顔から血の気が引いた。


「その間に、助からない人が出たら」


「代わりを用意します」


 声をかけたのはユリウスだった。


 扉のところに、赤茶の短髪の女性が立っている。


「イレーネ・ファル。中央施療院の治癒師です」


 女性は頭を下げた。


「聖女様にしかできないことと、聖女様にしかさせてこなかったことは違います」


「でも」


「一朝だけ、任せてください」


 セレスティアはイレーネの左手を見た。


 薄い魔力過負荷の痕。


「あなたも、無理をしている」


「します」


 イレーネはあっさり認めた。


「だから一人でやりません。四人で分けます」


 オルガが配置表を机へ広げる。


「対象を限定する。高難度の治癒は延期できるものを選ぶ。緊急時はセレスティアを起こす」


「起こして、よいのですか」


 セレスティアの問いに、シィルヴィアが答えた。


「あなたが、起こしていいと決めるなら」


 長い沈黙の後。


 セレスティアは、自分で配置表の余白へ線を引いた。


 朝の鐘から、二刻。


 その時間だけ、空白にする。


「……試します」


 翌朝。


 聖女が一度だけ、祈らない朝が始まることになった。


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。

今日の一皿はいかがでしたでしょうか。

少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価、感想で応援していただけると、とても励みになります。

また次の一皿で、お会いしましょう。

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