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氷血の皇帝は俺の料理を手放せない ~追放された料理人ですが、幼い日に救った少女が皇帝になっていて離してくれません~   作者: ジモンヌ
第5章 異端の料理人と、名前を失った聖女

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第65話 空腹の祈り

「食べると、祈れなくなるから」


 翌朝、タクミはその意味を聞いた。


 否定から入らないように、鍋を火へかけながら。


「食べると魔力が落ちるんですか」


「いいえ」


 セレスティアは首を振る。


「祈りの前は、空腹の方が感覚が澄むと教えられました」


「どれくらい抜くんです?」


「前夜から」


 タクミの手が止まった。


「毎回?」


「大きな祈祷の前は」


 ラウルが壁際で目を伏せる。


「終わった後は?」


「すぐには食べられません」


「なぜですか」


 今度はラウルが答えた。


「吐き気が出る」


 短い声だった。


「夜中に水まで戻すことがあります」


 セレスティアが振り返る。


「ラウル」


「事実です」


「皆には必要のない――」


「必要あります」


 タクミが言った。


 強い声にはならなかった。


「食べられるものを決めるのに」


 鍋の中は、穀物を多めの湯で煮ただけだった。


 香りを立てない。


 すり潰した白い根菜を少量。


 塩は器へ移す直前に、ほんの少し。


「祈りをやめてくださいとは言いません」


 セレスティアがタクミを見る。


「でも、祈る前に食べられないなら、終わった後に戻せるものを探したいです」


「私だけのために?」


「今、食べられないのはセレスティアさんなので」


 その答えに、彼女はまた返事が遅れた。


 最初の一匙は、半分で止まった。


「匂いは?」


「大丈夫です」


「熱さは?」


「少し、熱い」


 次の器は少し冷ます。


 二匙目。


 三匙目。


 完食はしない。


 けれど、昨日のパン粥より多く入った。


 ラウルが時計を見る。


「この時間にこれだけ食べたのは、久しぶりです」


 タクミは器ではなく、セレスティアの顔を見た。


 唇の色が少し戻っている。


 そこで、不思議な感覚がした。


 料理の仕上がりを見る時とは違う。


 王女の食材を選んだ時とも違う。


「……変だ」


「何がだ」


 オルガがすぐ反応する。


 タクミは言葉を探した。


「戻ろうとしてる感じは、あります」


「魔力循環か」


「それだけじゃない気がします」


 セレスティアの中で、食事を受け取った身体がゆっくり落ち着いていく。


 その流れへ、別の小さな流れがいくつも逆らっているように感じた。


「同じ人の中に」


 タクミは自分の指先を見る。


「違う人の食べ残しが混ざってるみたいな」


「食べ残し?」


「たとえです」


 オルガの目が細くなる。


「具体的に」


「セレスティアさん自身の魔力とは、動き方が違うものがあります」


 セレスティアの表情が止まった。


 ラウルが一歩前へ出る。


「何が入っている」


「分かりません」


 タクミは首を振った。


「でも」


 もう一度、彼女の器を見る。


「他の人の魔力が、残ってる気がします」


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。

今日の一皿はいかがでしたでしょうか。

少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価、感想で応援していただけると、とても励みになります。

また次の一皿で、お会いしましょう。

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