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氷血の皇帝は俺の料理を手放せない ~追放された料理人ですが、幼い日に救った少女が皇帝になっていて離してくれません~   作者: ジモンヌ
第4章 帝国料理人と、選び直す王女

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第60話 選び直す、役割

 アルディア王国を出る前、最後に一つだけ会議があった。


 エリアーヌの食事と治療について。


 以前なら、本人のいない部屋で決まっていた会議だった。


 今は中央の席に、エリアーヌがいる。


「朝の薬は、この量を続けます」


 ドロテアが説明する。


「体調が落ちた場合は?」


「まず原因を分けます。すぐ元の処方へ戻すとは限りません」


「分かりました」


 マティアスが献立表を置く。


「柑橘は当面除外。ただし香りをすべて消す必要はありません」


 一度、王女を見る。


「殿下は、どの香りがお好きですか」


 エリアーヌは少し考えた。


「炒った木の実を」


「承知しました」


 それだけで次の献立が書き換わる。


 レオンは共同備蓄の進行表を持っていた。


「帝国との連絡は私が担当します」


「王都を空けるの?」


「必要時のみ帝国へ赴きます」


「忙しくなるね」


 タクミが言う。


「誰のせいだと」


「僕?」


 レオンは一瞬だけ黙った。


「……半分ほどは」


 最初に会った時より、声が柔らかかった。


 アルベルト三世が最後に入室した。


 以前なら、娘へ決定を伝えて終わったのかもしれない。


 今は空いている椅子へ座る。


「エリアーヌ」


「はい、父上」


「この形でよいか」


 王女は資料を一枚ずつ見た。


 薬。


 食事。


 休息。


 公務。


「はい」


「変えたくなったら」


「相談します」


「そうしろ」


 短い会話だった。


 それでも、誰かが彼女の代わりに答えることはなかった。


 身分は消えていない。


 王女は王女のまま。


 国王は国王のまま。


 ただ、決める席が一つ増えていた。


◇ ◇ ◇


 帰国の馬車で、シィルヴィアは眠っていた。


 珍しかった。


 膝には読みかけの書類。


 窓へ頭が少し傾いている。


 タクミは向かいから見ていた。


「寝たね」


 ミアが小声で言う。


「うん」


「起こす?」


「寝かせよう」


 馬車の中は、夕方になると少し冷えた。


 タクミは荷物から自分の上着を出す。


 シィルヴィアの肩へかけた。


 目は閉じたまま。


「王女にも、そうした?」


 タクミの手が止まった。


「起きてます?」


「寝てる」


「話してますよ」


「寝言」


 ミアが窓の方を向いた。


 肩が小さく揺れている。


「王女様にはしてません」


「そう」


 シィルヴィアの口元が、ほんの少し緩んだ。


 それから本当に眠った。


 タクミは自分の上着がずれないよう、端だけ直した。


 今は、起こさない方が大事だった。


◇ ◇ ◇


 帰国の馬車が王都を出て二日目。


 街道脇に、白い塔が見えた。


 遠くからでも分かるほど細く、高い。


 ミアの手から、木のスプーンが落ちた。


 乾いた音が馬車の床に響く。


「ミア?」


「大丈夫」


 拾う手が、少し震えている。


 道の先には白い外套の一団が待っていた。


 先頭の使者が、教団の紋章を掲げる。


 細長い塔と、その上に重なる輪。


 旅支度の時、ミアが隠した布と同じ印だった。


「ヴァルハイト帝国皇帝陛下へ」


 使者が頭を下げた。


「聖女セレスティア様より、書状をお預かりしております」


◇ ◇ ◇


 白い塔の使者とは、国境手前の宿で会った。


 聖女セレスティアからの書状は、白い封蝋で閉じられている。


 ミアは使者から一番遠い椅子に座った。


 タクミが見ても、「寒いだけ」と言った。


 部屋は暖かかった。


 シィルヴィアが封を切る。


 最初の頁は、アルディア王国で起きた薬と魔力の干渉についてだった。


 教団にも似た記録がある。


 オルガの目が細くなる。


「知っているのか」


 使者は答えない。


「私は書状を届ける役目です」


 シィルヴィアが次の頁をめくる。


 その前に、オルガが一度だけタクミを見た。


 王女の身体で起きたこと。


 薬と食材。


 魔力。


 そして、料理の途中でタクミが避けたもの。


「……嫌な繋がり方をしてきたな」


「何がです?」


「まだ分からん」


 シィルヴィアが次の頁をめくった。


 そこで、指が止まった。


「陛下?」


 タクミが呼ぶ。


 シィルヴィアは紙を渡した。


 短い一文だった。


 タクミは二度読む。


 知らない言葉が、一つだけあった。


 ――女神の器について、皇帝陛下と料理人へ話がある。


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。

今日の一皿はいかがでしたでしょうか。

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また次の一皿で、お会いしましょう。

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