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氷血の皇帝は俺の料理を手放せない ~追放された料理人ですが、幼い日に救った少女が皇帝になっていて離してくれません~   作者: ジモンヌ
第4章 帝国料理人と、選び直す王女

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第59話 手紙の宛名

「読まない」


 シィルヴィアが言った。


「まだ何も聞いてません」


「手紙」


 タクミの手には、昨日エリアーヌから渡された封筒がある。


「陛下宛てじゃないですよ」


「知ってる」


 朝食の卓だった。


 シィルヴィアは自分のパンを切りながら、封筒を見ない。


 見ないまま、少しだけ首を傾ける。


「厚い」


「見てますよね」


「見てない」


「封も確認しました?」


「王家の封蝋ではない」


「見てる」


 リディが茶を飲んだ。


「タクミ殿」


「はい」


「その話はここまでにしてください」


「どうしてです?」


「朝食を終わらせたいので」


 ガレスが向かいで笑いをこらえていた。


 タクミは封筒をしまった。


 シィルヴィアの返事が少しだけ戻る。


◇ ◇ ◇


 昼、帰国準備の合間に手紙を開いた。


 字は細く、丁寧だった。


 書かれていたのは、料理の礼だけではない。


 最初に窓を開けたこと。


 何を食べられるかではなく、何なら嫌ではないかと聞いたこと。


 残してもよいと言ったこと。


 自分で決めた半分の食事を、記録に残したこと。


 最後に一文あった。


 ――王女ではない私を、最初に見てくださったことへ感謝します。



「何て?」


 ミアが横から聞く。


「ありがとう、って」


「それだけ?」


「もっと長いけど」


「皇帝に言ったら?」


「どうして」


 ミアはタクミを見る。


「知らない」


 行ってしまった。


 タクミは手紙を畳む。


 朝のシィルヴィアを思い出した。


 見ないと言って、厚さは見ていた。


 エリアーヌと話すと返事が短くなった。


 食事時間がずれると、予定を先へ動かした。


「……嫉妬?」


 口に出してから、自分で妙な気持ちになった。


 なぜシィルヴィアが。


 そこまで考えて、止める。


 答えは出ない。


 ただ、少し気になった。


◇ ◇ ◇


 その日の夕方、シィルヴィアは帰国後の裁可書を馬車へ積ませていた。


「これ全部、帰りに読むんですか」


「溜まった」


「寝てくださいね」


「読む」


「寝る時間も」


「読む」


 タクミは紙束を半分持った。


「じゃあ、僕が夕食の時間に止めます」


「命令?」


「お願いです」


 シィルヴィアは紙を一つ戻した。


「分かった」


 タクミは残った紙束を抱え直した。


 食べずに仕事を続けるから気になる――そのはずなのに、朝の「嫉妬」という言葉だけは、まだ片づかなかった。


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。

今日の一皿はいかがでしたでしょうか。

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また次の一皿で、お会いしましょう。

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