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氷血の皇帝は俺の料理を手放せない ~追放された料理人ですが、幼い日に救った少女が皇帝になっていて離してくれません~   作者: ジモンヌ
第4章 帝国料理人と、選び直す王女

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第57話 退かない一条件

 兵は、その日のうちには退かなかった。


 翌朝も、国境の丘に旗が見えた。


「約束したのに」


 ミアが窓から見る。


「条件付き、だからね」


 タクミは答えた。


 交渉は二日目に入った。


 今度は言葉ではなく、期限と数字を決める。


 共同備蓄庫は二か所。


 三か月以内に候補地を確定。


 半年以内に一棟を稼働。


 一年以内に双方の備蓄量と輸送路を監査。


 婚姻は白紙にしない。


 一年延期。


 実行できなければ、婚姻日程を含めて再交渉する。


「最後の一つは外せません」


 セドリックが言った。


 アルディア側の官吏が反発する。


「殿下の身体を条件にするのか」


「国境の安定を条件にしています」


「同じことだ」


「違います」


 エリアーヌが止めた。


 全員が王女を見る。


「わたくしは、婚姻を永遠に拒絶すると申し上げたのではありません」


 指先で一年の欄を押さえる。


「今のまま、何も選べない状態で進むことを拒みました」


「殿下」


「一年後、わたくしが同じ答えを出すかもしれません」


 少し間を置く。


「違う答えを出すかもしれません」


 アルベルト三世は娘を見た。


「それでもよいのか」


「はい」


「国の責任は消えぬぞ」


「消したくありません」


 王の手が、机の上でゆっくり開く。


「分かった」


 エリアーヌ自身が、条件書へ署名した。


 セドリックも続く。


 シィルヴィアは保証人ではなく、監査協力国として署名する。


 昼過ぎ。


 丘の旗が一つ、下りた。


 次にもう一つ。


 部隊は完全撤収ではなく、通常配置まで後退した。


「勝った?」


 ミアが聞く。


 リディが首を振る。


「期限を得ただけです」


「負けた?」


「それも違います」


 エリアーヌが窓辺へ来た。


「自分で約束しました」


 丘から消えていく旗を見つめる。


「だから、これから守ります」


 タクミは、その横顔を見ただけだった。


 料理で戦争を止めたわけではない。


 ただ、共同備蓄の書類には、帝国の食事記録と同じように、数量、期限、運び先を残す欄が増えていた。


 厨房で始めた「先に見る」ための記録が、今は国境の食料を動かそうとしている。


◇ ◇ ◇


 王都へ戻る馬車の中で、エリアーヌは軽い靴へ履き替えた。


「楽です」


「最初からそれで交渉したら?」


 ミアが言う。


「まだ、そこまでは」


「次は?」


「考えます」



 エリアーヌは窓の外を見る。


「戻ったら、行きたいところがあります」


 レオンが予定表を開く。


「どちらへ」


「厨房です」


 同乗していたマティアスが盛大に咳き込んだ。


「市場の菓子を」


 王女は続けた。


「今度は、自分で作ってみたいです」


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。

今日の一皿はいかがでしたでしょうか。

少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価、感想で応援していただけると、とても励みになります。

また次の一皿で、お会いしましょう。

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