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氷血の皇帝は俺の料理を手放せない ~追放された料理人ですが、幼い日に救った少女が皇帝になっていて離してくれません~   作者: ジモンヌ
第4章 帝国料理人と、選び直す王女

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第56話 一人の王女として

 交渉卓へ着く前に、エリアーヌは靴を履き替えた。


 歩くための軽い靴から、王女の正式靴へ。


 ミアが箱を持っている。


「重いね」


「ええ」


「帰りはすぐ戻そう」


「そうします」


 王女は少し笑い、扉の前で背筋を伸ばした。


 中にはアルディア側と婚姻候補国側の代表が向かい合っている。


 セドリックもいた。


 シィルヴィアは第三国の代表として端の席。


 タクミとドロテアは隣室で待つ。


 政治の話は、エリアーヌたちの仕事だった。


「婚姻を破棄したいのではありません」


 王女の声が扉越しに聞こえる。


「一年、延期を求めます」


 セドリックが資料をめくる。


「理由は、お身体ですか」


「それもあります」


「それだけなら、治療後の日程を定めればよい」


「いいえ」


 声は細い。


 それでも止まらない。


「わたくしは、これまで自分の身体について自分で決めてきませんでした」


 一度、息を継ぐ。


「そのまま婚姻しても、相手国で同じことを繰り返すと思います」


 会議室が静かになる。


「一年で何が変わると?」


「仕組みを変えます」


 エリアーヌは共同備蓄案を出した。


 国境二か所。


 双方が同量を備蓄し、期限の近い穀物は市場や軍食へ回して入れ替える。


 飢饉と街道封鎖時には、婚姻関係に頼らず食料を融通できる。


 さらに主要交易路の通行税を一年固定する。


「婚姻が担っていた安全の一部を、別の形で担保します」


 セドリックは表を見た。


「実行責任者は」


「アルディア側は、わたくしが」


「療養中の王女殿下が?」


「療養しながらです」


 隣室で、タクミは水差しを持つ手を止めた。


 味がしないままここへ来たことを、彼女は隠さなかった。


「今朝、味覚が再び落ちました」


 会議室からざわめきが漏れる。


「それでも、何を食べるか、いつ薬を使うかを医師と相談し、ここまで来ています」


 セドリックの声が少し低くなる。


「弱みを交渉材料として公開するのですか」


「隠したまま婚姻する方が、後で大きな問題になります」


 レオンが立った。


「殿下の説明を、外交局として裏付けます」


「レグナート卿」


「共同備蓄の輸送量、街道、倉庫候補は調査済みです」


 以前なら「王女殿下のため」と先に言った男が、今は資料を王女の横へ置く。


「殿下がお決めになった。私は実行条件を支えます」


 エリアーヌが一度だけレオンを見る。


「ありがとう」


 セドリックは次にシィルヴィアへ向いた。


「帝国は、この案を保証しますか」


「結果は保証しない」


 シィルヴィアは答えた。


「記録方式と初回監査には協力する」


「失敗した場合は?」


「アルディアが責任を負う」


 エリアーヌが引き取る。


「その条件で構いません」


 長い沈黙のあと、セドリックは兵の配置図を閉じた。


「本国へ、条件付き撤収を進言します」


 エリアーヌの肩がわずかに下がる。


「条件は?」


「一年です」


 セドリックは新しい紙を出した。


「一年で、口約束を仕組みにしてください」


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。

今日の一皿はいかがでしたでしょうか。

少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価、感想で応援していただけると、とても励みになります。

また次の一皿で、お会いしましょう。

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