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氷血の皇帝は俺の料理を手放せない ~追放された料理人ですが、幼い日に救った少女が皇帝になっていて離してくれません~   作者: ジモンヌ
第4章 帝国料理人と、選び直す王女

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第54話 嫌ではない

「嫌ではない」


 シィルヴィアは即答した。


「そうですか」


「そう」


 廊下の窓から、夜の国境道が見える。


 遠くに松明が並んでいた。


 タクミは少し考えた。


「じゃあ、僕が何かしました?」


「してない」


「機嫌悪いです?」


「悪くない」


「……そうですか」


 全部否定される。


 それでも、昨日から少し違う。


「王女様と話したあとだけ、返事が短い気がします」


 シィルヴィアが黙った。


「気のせい?」


「必要な会話」


「はい」


「嫌ではない」


「はい」


 また沈黙。


 タクミは答えを待った。


 しばらくして、シィルヴィアが言う。


「長い」


「何がですか」


「話す時間」


「ああ」


 タクミはやっと一つ分かった気がした。


「食事の時間、ずれましたね」


 シィルヴィアの目が細くなる。


「……そこ?」


「違いました?」


「もういい」


「すみません」


「謝らなくていい」


 やっぱり分からない。


 ただ、放っておくのも違う気がした。


「今度から、王女様と長く話す時は先に言います」


「なぜ」


「陛下の食事が遅れるから」


 シィルヴィアは窓の外へ顔を戻した。


「……分かった」


 さっきより、声が少し柔らかかった。


 宿の小さな食堂には、もう誰もいなかった。


 二人分の夜食だけが残されている。


 豆の薄いスープと、平焼きパン。


 タクミはスープを温め直した。


「熱いですよ」


「分かってる」


「前もそう言ってすぐ食べました」


「今日は待つ」


 シィルヴィアは匙を置いたまま、タクミが座るのを待った。


「どうぞ」


「一緒に」


「はい」


 二人で食べ始める。


 昼の会議も、明日の国境も、今は話さなかった。


 パンをスープへ浸す。


 向かいで同じことをする。


「これ、王国に来てから好きになりました」


「私も」


「豆?」


「一緒に食べるのが」


 タクミの手が止まった。


 シィルヴィアは何もなかったように次の一口を食べる。


「……そうですか」


「そう」


 今度の短い返事は、嫌ではなかった。


◇ ◇ ◇


 翌朝。


 まだ空が白み始めたばかりの時間に、ドロテアが扉を叩いた。


「タクミさん」


 顔が固い。


「殿下が」


 エリアーヌの部屋へ入る。


 王女は朝食の前に座っていた。


 粥を一匙、口に入れる。


 ゆっくり飲み込んだ。


「どうです?」


 タクミが聞く。


 エリアーヌは匙を見た。


「味が」


 指先が少し震える。


「何も、しません」


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。

今日の一皿はいかがでしたでしょうか。

少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価、感想で応援していただけると、とても励みになります。

また次の一皿で、お会いしましょう。

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