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氷血の皇帝は俺の料理を手放せない ~追放された料理人ですが、幼い日に救った少女が皇帝になっていて離してくれません~   作者: ジモンヌ
第4章 帝国料理人と、選び直す王女

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第48話 料理人の責任

 会議室の机には、焼き菓子ではなく記録が並んだ。


 エリアーヌが口にした量。


 材料。


 服薬時間。


 三年間に追加された処方。


 それぞれの医師が見ていた症状。


「外交問題へ発展させる必要はないと考えます」


 王国の高官が言った。


「直接の発症は、帝国料理人が用いた柑橘の摂取直後です」


 シィルヴィアは何も言わない。


 高官は続けた。


「王家の医療体制に不備があったと公表すれば、殿下の婚姻、ひいては国境協定へ影響が出ます」


「だから、僕のせいにする?」


 タクミが聞いた。


「責任を問うという意味ではありません。事故原因を簡潔にするだけです」


「柑橘を使ったのは僕です」


 レオンがタクミを見る。


「タクミ殿」


「そこは記録に残してください」


 高官が少し安堵した。


 タクミは次の紙を指した。


「でも、この薬を飲んでたことも残してください」


 安堵が消える。


「料理だけが原因だったか、僕には分かりません」


 ドロテアが立った。


「私には分かります」


 全員の目が向く。


「単独の柑橘摂取で同様の症状が出た記録はありません。安定薬との干渉が疑われます」


「院長」


「三年間の処方を、一つの治療計画として統合できていませんでした」


 言い切ると、薬草で染まった指を机へ置いた。


「私の管理責任です」


「一人の責任にしないでください」


 タクミが言う。


 今度はドロテアが眉を寄せた。


「あなたは庇われる側でしょう」


「僕も確認して作りました」


「既知の禁忌にはなかった」


「だから、次は一緒に見るんですよね」


 ドロテアは返事をしなかった。


 シィルヴィアが、一番上の記録を取った。


「公開する」


 王国側がざわめく。


「陛下」


 リディが呼ぶ。


「全部ではない」


 シィルヴィアは紙を分けた。


「王女本人の個人情報、外交上の機密、処方の詳細は守る」


 次の束。


「ただし、料理の材料、服薬との時間、複数処方が重なっていた事実、調査経過は共同記録にする」


 高官が顔をこわばらせる。


「帝国として王国へ圧力を?」


「違う」


「では」


「同じ失敗を、別の食卓で繰り返さないため」


 シィルヴィアの声は平らだった。


「帝国も、治せない料理を公開した」


 タクミは横顔を見た。


 軍でも、施療院でも、都合の悪い記録まで残してきた。


 シィルヴィアは今も、紙の束を王国側へ向けている。



 タクミは、目を離すのが少し遅れた。


「タクミ?」


 シィルヴィアがこちらを見る。


「なんでもないです」


「顔が違う」


「そうですか」


 リディが記録の束を、二人の前へすっと滑らせた。


「今は会議です」


 アルベルト三世は長く黙っていた。


 やがて、王家の印章を机へ置く。


「共同調査を認める」


 高官が息を呑む。


「父としては、娘を守りたい」


 国王は続けた。


「王としては、王家の失態を軽々にさらせぬ」


 指が印章から離れない。


「だが、他者へ責を移して守ったことにはならぬ」


 レオンが深く頭を下げた。


 会議が終わりかけた時、扉が開いた。


 侍女が立っている。


「第一王女殿下より、お願いがございます」


「休ませろ」


 王が即座に言う。


 侍女は頭を下げたまま続けた。


「殿下は、次の会議へご自身も出席したいと」


 室内が静かになる。


「お言葉を、そのまま申し上げます」


 侍女が顔を上げた。


「『私の身体のことです。私が話します』と」


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。

今日の一皿はいかがでしたでしょうか。

少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価、感想で応援していただけると、とても励みになります。

また次の一皿で、お会いしましょう。

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