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氷血の皇帝は俺の料理を手放せない ~追放された料理人ですが、幼い日に救った少女が皇帝になっていて離してくれません~   作者: ジモンヌ
第3章 皇城料理人と、変わり始める帝国

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第39話 名前の噂

 翌朝、厨房へ入った瞬間、全員がタクミを見た。


「おはようございます」


 返事が遅れる。


 ルッツだけが豆を洗いながら言った。


「有名人」


「昨日の食堂のこと?」


「そっちじゃない」


 ガレスが包丁の背で作業台を叩いた。


「手を動かせ」


 厨房が一斉に動き出す。


 けれど、視線だけは時々タクミへ戻った。


 侍女は配膳口で妙に丁寧に頭を下げる。文官は廊下ですれ違うたび、口元を隠す。近衛兵はリディを見てから、何も聞かずに姿勢を正した。


「失礼でしたよね」


 タクミが言うと、リディは歩みを止めない。


「陛下に直接聞いてください」


「怒ってます?」


「私は疲れています」


「どうして」


「朝から同じ質問を十五回受けたからです」


 執務室で、シィルヴィアは書類を読んでいた。


「昨日のことなんですけど」


「許可した」


「でも、人前で」


「許可した」


「皇帝を名前で呼ぶのは」


 シィルヴィアが顔を上げる。


「私が許可した」


 机の端には、二枚の予定表が重ねて置かれていた。


 以前は隣だった。今は、一枚の留め具でまとめられている。


「仕事を減らす?」


「え?」


「名前で呼ばれるのが嫌なら、人のいる場所へ行かせない」


「それは困ります」


「私も困る」


 シィルヴィアは視線を戻した。


「だから、そのままでいい」


◇ ◇ ◇


 午後。


 軍、施療院、市民局から届いた紙を、タクミは机の上で重ねた。


 タクミが書いたところより、知らない字の方が多かった。


「寂しい?」


 ミアが尋ねる。


「どうして?」


「タクミがいなくてもできるから」


 タクミは少し考えた。


「嬉しいよ」


「少しも?」


「少しは、見に行きたい」


 ミアは頷く。


「それは分かる」


 シィルヴィアは二人の会話を聞きながら、タクミの予定表へ勝手に『皇城で夕食』と書き込んだ。


「増えてます」


「戻る場所」


「仕事ですか」


「両方」


 リディは訂正しなかった。



 夕方、市民局に、国外の紋章をつけた商人が現れた。


「食堂の記録を見せてほしい」


「買いたい」


 男は金貨の袋を卓へ置く。


「料理ではない。仕組みごとだ」


 タクミは袋ではなく、男の袖に刺繍された隣国の紋章を見た。


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。


今日の一皿はいかがでしたでしょうか。


少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価、感想で応援していただけると、とても励みになります。


また次の一皿で、お会いしましょう。

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