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氷血の皇帝は俺の料理を手放せない ~追放された料理人ですが、幼い日に救った少女が皇帝になっていて離してくれません~   作者: ジモンヌ
第3章 皇城料理人と、変わり始める帝国

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第37話 施しではない食堂

 翌朝。


 タクミは食堂の向かいに座って、人の流れを見ていた。


 職人は入口を見て通り過ぎる。


 子どもを連れた母親は値札を確認するが、古い札の跡に気づくと足を止めない。


 兵士が二人入った時だけ、店内の空気が少し動いた。


「味が悪いわけじゃない」


 ルッツが残った焼き煮を食べる。


「値段も高くない」


「入ると、貧しいって思われる」


 隣で、ミアが扉を見た。


「孤児院の子って分かる」


 市民局の担当者は新しい看板案を何枚も並べた。


 『福祉食堂』

 『低所得者支援』

 『生活困窮者向け』


 どれを見ても、ミアは首を傾げた。


 話し合いには、孤児院からミアと同年代の少年も呼ばれていた。


 ノアという名の少年は、看板を一枚ずつ見てから首を横に振った。


「全部、入った人が誰か書いてある」


 タクミは看板ではなく、支払い表を見た。


「食べるものを同じにできますか」


「料金が違えば、不公平だと言われます」


「外から分からなければ?」


 通常料金。

 食券。

 手伝い。

 定期券。


 払う方法は違っても、出てくる一皿は同じにする。


 ノアが表を覗き込んだ。


「孤児院の子って、分からない?」


「言わなくていい」


「じゃあ、入れる」


◇ ◇ ◇


 昼。


 新しい札には、ただ一つだけ書いた。


 ――本日の日替わり食。


「同じものを食べるの?」


 ノアが尋ねる。


「うん」


「役人も?」


「来たら」


「皇帝も?」


 入口の外で、護衛が一斉に動いた。


 シィルヴィアが立っていた。


「食べる」


 リディが頭を抱える。


「陛下。一般客として並ぶために、近衛を二十人連れてくるのは一般ではありません」


「減らした」


「本来は五十人だったのですか」


 食堂の前が一気に狭くなった。


 シィルヴィアは列の最後へ並ぼうとする。


 その前に、ミアとノアが入った。


 二人が最初の客になった。


 麦飯と焼き煮。

 豆の薄いスープ。


 ノアは周囲を見てから、匙を取った。


「普通だ」


「何が?」


「ごはん」


 ミアは一口食べる。


「おいしい」


 次に職人が入り、空いていた長卓へ座った。


 向かいには食券を握った母親。


 その隣へ市場の商人が腰を下ろし、休暇中の兵士が同じ鍋のスープを受け取る。


 身なりも、支払い方も違う。


 けれど、卓の上に並んだ皿は同じだった。


 誰も、隣の者がどう払ったか尋ねなかった。


 シィルヴィアが入ると、全員が立ち上がりかけた。


「座って」


 短い一言で、椅子が戻る。


 彼女はタクミの向かいへ座った。


「一緒に食べる」


「仕事中です」


「休憩」


 リディが予定表を見る。


「確かに、陛下の予定にもタクミの予定にも休憩とあります」


「合わせた」


「存じています」


 シィルヴィアは焼き煮を一口食べた。


 食堂の外で、人が足を止め始める。


◇ ◇ ◇


 翌朝、扉の前には昨日の何倍もの列ができていた。


「皇帝が食べた店だって」


 誰かが言う。


 ノアは列を見て、眉を寄せた。


「今度は、入れない」


 昨日まで空いていた入口が、人の背で見えなくなっていた。


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。


今日の一皿はいかがでしたでしょうか。


少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価、感想で応援していただけると、とても励みになります。


また次の一皿で、お会いしましょう。

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