第36話 商人の言い分
翌日、市民局の会議室で、タクミは最初に言った。
「皇城がまとめて安く買うのは、やめます」
商人組合の男が目を細めた。
「では、何をする」
「売れ残る前に、値段を決めて買います」
「皇城が?」
「市民局と食堂がです」
市場が閉まる前の規格外品だけを、あらかじめ決めた最低額で共同食堂が買う。
数量と価格は毎日記録する。
「そんな面倒な仕組みが続くか」
「続かなかったら変えます」
「お前は簡単に言うな」
商人は疲れた顔で帳簿を開いた。
荷運び代。
倉庫代。
傷んだ品の処分費。
タクミが知らない金が、野菜一つの後ろに並んでいた。
市民局の担当者が額を押さえる。
「補助金を出せば早い」
「早いですが、補助が切れたら終わります」
リディが言った。
話し合いは昼を越えた。
シィルヴィアは一度も口を挟まなかった。
商人の帳簿と、市民局の試算だけが何度も卓を往復した。
夕方、試験条件が決まった。
十日間。
市場の三店舗。
共同食堂一軒。
買い取り価格は毎朝掲示する。
売れた分は通常価格で扱い、市場が閉まる少し前から規格外品だけを共同食堂へ回す。
最初の料理は、傷あり野菜の焼き煮と麦飯だった。
表面を焼いた根菜は甘く、崩れた部分は汁へ溶けた。
形は揃わない。
それでも、匙ですくえば同じように食べられる。
商人組合の男が一口食べる。
「これなら売れる」
「共同食堂で売ります」
「うちの店でもだ」
タクミは笑った。
◇ ◇ ◇
翌日、食堂の扉に新しい札が下がった。
――安価な日替わり食。
けれど、昼になっても、誰も中へ入らなかった。
扉の横には、市民局が以前使っていた古い札の跡が残っている。
――困窮者向け配給所。
文字を外しても、意味だけが壁に残っていた。
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