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氷血の皇帝は俺の料理を手放せない ~追放された料理人ですが、幼い日に救った少女が皇帝になっていて離してくれません~   作者: ジモンヌ
第3章 皇城料理人と、変わり始める帝国

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第35話 市場の値段

 帝都の市場は、朝から声で満ちていた。


 呼び込み。値切り。荷車の軋み。


 タクミは野菜の山ではなく、その脇に積まれた傷ものを見た。


「これは売らないんですか」


「形が悪い。食堂は揃ったものを欲しがる」


 商人は答えながら、傷のある根菜を別の籠へ放る。


「安くできますか」


「安く売れば、普通の品まで値切られる」


 別の店では、昨年より麦袋が三割高い。


 不作だけではない。北の街道が雪で遅れ、倉庫にある品が帝都へ届いていなかった。


「料理で安くはできないね」


 ミアが言う。


「うん」


「でも、捨てるのは減らせる」


 タクミはミアを見る。


「そうかも」


 二人は市場の端を歩いた。


 白い塔が屋根の向こうに見えた時、ミアの指がタクミの袖をつかむ。


 以前より強くはない。


 それでも、離さなかった。


 塔の紋章をつけた買い付け人が、薬草と保存食を大量に運ばせている。


 リディが視線だけを向けた。


「教団の者です」


「たくさん買ってる?」


「必要な量を確保しているだけかもしれません」


 追及はしない。


 今は、食材がどこで止まっているのかを見る方が先だった。


◇ ◇ ◇


 市民局の担当者は、傷あり野菜を共同食堂へ回す案を聞くと頷いた。


 だが、隣にいた商人組合の男は机を叩いた。


「皇城が安く買い集めれば、我々の商売が死ぬ」


「捨てるものですよね」


「今日は捨てる。明日は売れるかもしれない」


「でも、今食べられない人が」


「そのために、農家と商人を潰すのか」


 タクミは言葉を失った。


 善意で安く集めれば、今度は売る側が続かない。


 話し合いのあと、市場へ戻った。


 籠には、まだ食べられる野菜が残っていた。


 その前を、空の袋を持った親子が通り過ぎた。


 最初に話した商人が、傷ものを入れていた籠を引き寄せる。


 札へ大きく書いた。


 ――共同食堂試験分。通常品とは別に扱う。


「売る約束はまだだ」


「はい」


「だが、捨てる前に数えるくらいはできる」


 傷のある根菜が、廃棄用ではない籠へ移された。


 料理はまだ一皿もできていない。


 それでも、市場で一つ、食材の行き先が変わった。


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。


今日の一皿はいかがでしたでしょうか。


少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価、感想で応援していただけると、とても励みになります。


また次の一皿で、お会いしましょう。

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