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氷血の皇帝は俺の料理を手放せない ~追放された料理人ですが、幼い日に救った少女が皇帝になっていて離してくれません~   作者: ジモンヌ
第3章 皇城料理人と、変わり始める帝国

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第34話 教える料理人

 その日の午後、施療院の料理係たちが厨房へ集まった。


「同じものを作りたい」


 年配の料理係が言う。


「患者ごとに変えるなら、タクミ殿だけでは続かない」


 タクミは鍋を見た。


「僕の味を作らなくていいです」


「では何を教える」


「誰に、いつ、どの温度で出すかです」


 ガレスが後ろで腕を組んだ。


「それを教えるのが一番難しい」


「鶏を何刻煮ればいいですか」


 別の料理係が尋ねた。


「患者さんによります」


「塩は何匙ですか」


「それも、飲める濃さで」


「答えになっていません」


 タクミは困って、ガレスを見る。


「今までのお前も同じことを言っていた」


「僕、こんなに分かりにくかったですか」


「もっと分かりにくい」


 ガレスは三つの器を並べた。


「まず、同じ汁を温度だけ変えろ」


 料理係たちが作る。


 一つは温かい。二つ目は人肌。三つ目は冷たい。


「誰に出す」


 ガレスが問う。


 答えは揃わない。


 タクミは記録札を指した。


「治療の直後で喉が痛い人は?」


「人肌」


「熱が高くて匂いで吐きそうな人は?」


「冷たい方」


「冷たいと咳が出る人は?」


「温かいものを少し冷まして」


 料理係自身が答え始めた。


 タクミは三つの器を見た。


 教えたのは、一つの味ではなかった。


◇ ◇ ◇


 翌朝、施療院厨房の戸口に、十人分の記録札が並んだ。


 患者の名前ではなく、飲み込み、熱、治療後の時間が書かれている。


 昼には、タクミは鍋へ触れなかった。


 料理係が作り、別の者が記録を見て器を選ぶ。


 患者の一人が半分を残した。


 作った料理係は肩を落とす。


「失敗ですか」


 タクミは返却された器を見る。


「昨日は一口でした」


 料理係が記録札を見直した。


「今日は半分」


「次は、残った理由を聞けます」


 その日のうちに、最初の十枚は書き直された。


 『熱い』だけでは分からない。


 口に入れた時か、飲み込んだ時か。治療の直後か、眠ったあとか。


 料理係たちは自分たちで欄を増やした。


 タクミは一枚目へ手を伸ばしかけ、止める。


「直さないのか」


 ガレスが尋ねる。


「僕より、ここで毎日見る人の方が分かるから」


 夕方、年配の料理係が新しい札を壁へ留めた。


 食べた量だけでなく、『熱い』『匂いが強い』『治療後すぐ』と欄が増えている。


 タクミが書いたものではない。


 施療院の人たちが、自分たちに必要な形へ変えていた。


 帰り道、ガレスが言う。


「教えるのは、同じものを作らせることじゃない」


「はい」


「お前がいなくなったあとも、考えられるようにすることだ」


◇ ◇ ◇


 その夜、帝都市民局から資料が届いた。


 食事を買えない者が増える一方、共同食堂では料理が残っている。


「食べられない人がいるのに、残ってる」


 ミアが頁を押さえた。


 タクミは、市場価格と残食量を並べて見た。


 料理を作る前に、食材がどこで止まっているのか確かめる必要があった。


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。


今日の一皿はいかがでしたでしょうか。


少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価、感想で応援していただけると、とても励みになります。


また次の一皿で、お会いしましょう。

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