第33話 一口の回復
青年の器は、毎回違う量で戻ってきた。
一匙だけの日。半分の日。何も飲めない日。
タクミは空になったかではなく、何度で咳き込んだか、どの温度なら手を伸ばしたかを記した。
「昨日より減った」
父親が不安そうに言う。
「昨日より熱があります」
エレナが答える。
「では悪くなったのか」
「一つの数字だけでは決めません」
オルガの計測板では、青年の魔力量は低いままだった。
ただ、食後と休息のあと、胸元で詰まるように揺れていた線は少しずつ緩んでいた。
「調整作用は出ている」
オルガは記録へ印を付けた。
「だが、病気も傷も残っている。魔力が増えたわけでもない。料理が治したと記録するな」
「じゃあ、何が戻ったんですか」
「治療と休息を受け入れられるところまで、戻り始めた」
紙には、『魔力循環の偏りが縮小。治療・休息併用』と書かれた。
五日目、青年は自分で匙を持った。
手は震え、半分をこぼす。
タクミが支えようとすると、エレナが首を横に振った。
青年はもう一度すくう。
口へ運ぶ。
飲み込む。
「薄い」
初めて、味への不満が出た。
タクミは笑った。
「次は少しだけ濃くします」
「肉も」
「エレナさんが許したら」
エレナは記録を見た。
「明日の熱が下がれば、一欠片」
◇ ◇ ◇
翌朝。
エレナは青年の額から手を離した。
「少し下がっています。一欠片だけなら」
タクミは昨日より少し濃くした汁を器へよそった。
細く裂いた鶏肉を、一欠片だけ沈める。
青年は最初、その一欠片を避けた。
汁を二口飲み、三口目で匙に乗せる。
ゆっくり噛んだ。
「薄い」
「昨日も言いました」
「昨日よりは、ましだ」
父親は壁際で顔を伏せた。
青年はもう一度、匙を汁へ沈めた。
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また次の一皿で、お会いしましょう。




