表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷血の皇帝は俺の料理を手放せない ~追放された料理人ですが、幼い日に救った少女が皇帝になっていて離してくれません~   作者: ジモンヌ
第3章 皇城料理人と、変わり始める帝国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
32/58

第32話 奇跡ではない料理

 翌朝。

 エレナは患者の記録を閉じた。


「傷は悪化していません。熱も昨夜よりわずかに下がっています。ただし、食べられなければ治療に耐えられません」


 タクミは青年の枕元に、器を三つ並べた。


 常温の補水液。冷ました鶏の汁。香りをほとんど消した麦湯。


「どれがいいですか」


 青年の指が、中央の器へ動いた。


 鶏の汁だった。


 一匙。


 昨日より薄い。量も半分。


 青年は飲み込んだ。


 すぐには次を出さない。


 呼吸が落ち着くまで待つ。


「もう一口」


 かすれた声だった。


 父親が寝台へ近づこうとする。


 エレナが手で止めた。


 二匙目。


 青年は目を閉じたまま飲んだ。


 それ以上は求めなかった。


 タクミも勧めなかった。


 部屋を出ると、シィルヴィアが隣を歩く。


「辛い?」


「治せないって言うのが?」


「そう」


「少し」


 タクミは空にならなかった器を見た。


「でも、治せるって言った方が怖いです」


 シィルヴィアは足を止める。


「私なら、言わせない」


「何をですか」


「治せと」


「言いたくなると思います」


「それでも」


 シィルヴィアの指が、タクミの袖をつまむ。


「できないことまで、あなたの役目にしない」


 タクミは返事をせず、袖を見た。


 その夜、青年は薬を飲めた。


 熱はまだ高い。


 傷も消えない。


 けれど、治療を続けるための一口が戻った。


◇ ◇ ◇


 翌朝、オルガは軍で取った記録と、青年の計測結果を同じ卓へ並べた。


「可能性ではない。作用は確認できた」


「ただし、仕組みはまだ仮説だ」


 指先が、食後に揺れの小さくなった線をなぞる。


「魔力を増やしているわけではない。傷や病気を治してもいない。乱れていた魔力循環を、その者が本来戻れる状態へ近づけている」


「料理だけで?」


「違う」


 オルガは補水液、薬、休息時間の記録を順に指した。


「食事、治療、休息。そのどれか一つでは足りない。この料理は、戻ろうとする身体を助けている」


 記録帳の見出しが書き換えられた。


 ――魔力循環の調整作用。


 タクミはその文字を何度か読んだ。


「僕が、魔力を動かしてるんですか」


「そうとは言っていない」


 オルガは別の紙へ、食前、食後、休息後の三本の線を描く。


「料理だけで変化した例はない。水分を取らず、休まず、治療も受けなければ戻らない者もいる。お前の料理は、戻るための邪魔を一つ減らしている可能性が高い」


「邪魔?」


「偏り、詰まり、過剰な緊張。呼び方はまだ決めない」


 シィルヴィアが記録を覗き込む。


「健康な者には?」


「ほとんど変化がない」


「乱れているほど、大きい?」


「傾向はある。ただし重症なら大きく効く、という意味ではない。本人が戻れない状態なら料理では戻せない」


 タクミは青年の高熱を思い出した。


 傷は消えない。病気も治らない。


 それでも、薬を飲むための一口は戻った。


「名前が付くと、できることが増えたみたいですね」


「逆だ」


 オルガは記録帳を閉じる。


「できることと、できないことを分けられるようになった」


 扉の向こうで、青年が三匙目を求める声がした。


 奇跡ではない。


 だから、同じ条件を探し、次の人へ渡せる。


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。


今日の一皿はいかがでしたでしょうか。


少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価、感想で応援していただけると、とても励みになります。


また次の一皿で、お会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ