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氷血の皇帝は俺の料理を手放せない ~追放された料理人ですが、幼い日に救った少女が皇帝になっていて離してくれません~   作者: ジモンヌ
第3章 皇城料理人と、変わり始める帝国

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第28話 魔力酔い

 翌朝。


 オルガが並べた計測板に、魔力量の増加は見られなかった。


 食事の前後で高さはほぼ同じ。変わっていたのは、線の揺れ方だった。


「訓練直後は流れが右腕へ偏っている。食後は中央へ戻り始めている」


「料理のせいですか」


「一度では断定できない」


 オルガは即答した。


「水を先に飲ませた。食事まで半刻休ませた。脂を減らした。本人の訓練量も昨日と違う。だが、食前と食後で流れが変わった事実は残る」


 同じ傾向が出たのは十二人中四人。変化がなかった者が六人。線がさらに乱れた者も二人いた。


 こうした症状は、『魔力酔い』と呼ばれていた。


「全員じゃない」


「だから見る価値がある」


 オルガは新しい紙を出した。


「魔力が増えたのではない。流れの偏りが、わずかに緩んだ例がある」


「疲れが取れたのと違うんですか」


 ルッツが尋ねる。


「同じ現象を、別の角度から見ている可能性が高い。疲労で乱れた身体と魔力の流れが、平常時へ戻り始めている」


 難しい話をしているのに、オルガの皿には豆が三粒残っていた。


「食べないんですか」


「今は記録が先だ」


「昨日、僕が同じことをして怒られました」


 オルガの手が止まる。


 リディが横を向いた。


「よく言いました」


 オルガは豆を一粒食べた。


「観察者にも適用される規則か」


「されます」


 残り二粒も食べた。


 そこへ、シィルヴィアが軍服姿で現れた。


「私も測る」


「陛下は何をなさるおつもりですか」


「同じ訓練をする」


「条件が違いすぎます」


 オルガ、リディ、軍の教官が同時に言った。


「魔力を減らせばいい」


「減らした陛下と、全力の兵士でも条件が違います」


 タクミはシィルヴィアの手元を見た。薄い手袋の下で指先が冷えている。


「今日は朝ごはん、食べました?」


 シィルヴィアが黙る。


「何を食べました」


「茶」


「飲み物です」


 タクミは薄い肉汁とパンを差し出した。


「訓練は?」


「食べたあとです」


「許可された?」


「されてません」


 リディが短く答えた。


◇ ◇ ◇


 その日の計測では、エドガーの線だけが大きく乱れたままだった。


「水は」


「飲んだ」


「休憩は」


「した」


「食事は」


「いらない」


 タクミが一歩近づくと、エドガーは食事の盆から離れた。


「食べると戻される」


「どこへ?」


「訓練場へ」


 椀ではなく、その先を怖がっている。


 タクミは差し出しかけた盆を下げた。


「今日は、食べても食べなくても、戻さないようにできますか」


 教官が眉を寄せる。


「命令を変えろと?」


「食べる前と後を、怖がっていることとは分けて見たいです」


 オルガが計測板を閉じた。


「食べさせることを条件にするな。恐怖で身体が強張れば、計測値にも別の揺れが混ざる」


 教官は不満そうに口を結んだが、リディを見ると姿勢を正した。


「今夜だけだ」


「明日のことは、明日の記録で決めます」


 タクミが言う。


 シィルヴィアは肉汁を食べ終え、空の器を卓へ置いた。


「今夜は休ませる」


 命令は短かった。


 けれど、エドガーの肩は下がらなかった。


 一度、教官の方へ目をやる。


 タクミは温かい肉汁を別の器へ移し、脂を少しだけ除いた。


「食堂じゃなくてもいいです」


「どこで」


「訓練が終わった場所で」


 誰もいない夜の訓練場なら、椀の先に次の命令は置かれていない。


 エドガーは答えなかった。


 それでも、タクミが盆を持って歩き出すと、少し遅れてついてきた。


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。


今日の一皿はいかがでしたでしょうか。


少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価、感想で応援していただけると、とても励みになります。


また次の一皿で、お会いしましょう。

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