第22話 あなたが食べる番
翌朝。
シィルヴィアがスプーンを持っていた。
その持ち方を見て、タクミは料理より先に不安になった。
「自分で食べられます」
「まだ熱がある」
「もう下がってます」
「少しある」
「少しです」
シィルヴィアはスプーンを差し出そうとした。
椀の縁に当たり、かすかな音が鳴る。中のスープが揺れ、あと少しで寝台へ落ちそうになった。
タクミは両手で椀を受け取った。
「本当に、自分で大丈夫です」
「……そう」
不満そうだった。
それでも椀は渡してくれた。
「食べ終わるまで、ここにいる」
「仕事は?」
「ここでする」
机には、昨日より減ったものの、まだかなりの書類が積まれている。
タクミは諦めてスープを飲んだ。
午前にはミアが切った果物を持ってきた。
大きさはそろっていない。薄いものと厚いものが混じっている。
「小さい方が食べやすい」
「ミアが切ったの?」
「ガレスが見てた」
「ありがとう」
「全部食べる」
果物の皿を置くと、ミアは椅子へ座った。見張るつもりらしい。
昼にはリディが水を置いた。
「今日は厨房のことを聞くな」
「何も聞いてません」
「顔が聞いている」
「ルッツの鍋は」
「聞くなと言った」
夕方にはガレスが、塩気を抑えたスープを持ってきた。
「味が薄いですね」
「寝ている奴にはこれでいい」
「香りは」
「仕事の話をするな」
全員が、何かを持ってくる。
けれど、誰も仕事を頼まない。
タクミは椀を見ながら呟いた。
「何もしてないのに」
「何がだ」
リディが尋ねる。
「料理も作ってないし、手伝ってもいないのに、皆が来るから」
リディはしばらく黙っていた。
「料理がなくても、お前はお前だ」
タクミは顔を上げた。
「役に立たない日があっても、いなくなる理由にはならん」
リディはそれだけ言い、椅子から立った。
タクミは手の中の椀を少し強く持つ。
「ありがとう」
今度は、言葉が自然に出た。
夜になると、眠気が戻ってきた。
目を閉じる前、シィルヴィアが寝台の横に座っているのが見えた。
「陛下も休んでください」
「休んでいる」
「そこ、椅子です」
「問題ない」
「寝台は一つしかないですよ」
「増やせる」
扉の近くでリディの眉が動く。
「増やしません」
「空いている部屋から運べば」
「そういう問題ではありません」
タクミは二人の声を聞きながら、眠りへ落ちていった。
眠ったあと、シィルヴィアはそっと手を握った。
料理を作る手。
自分を見つけ、もう一度ここへ戻ってきた手。
今日は冷たくない。
◇ ◇ ◇
翌朝。
熱は下がっていた。
枕元には、新しい紙が置かれている。
最終評価まで、あと一週間。
記録帳の最後の頁だけが、まだ白かった。
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また次の一皿で、お会いしましょう。




