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氷血の皇帝は俺の料理を手放せない ~追放された料理人ですが、幼い日に救った少女が皇帝になっていて離してくれません~   作者: ジモンヌ
第2章 見習い料理人と、皇城の食卓

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第16話 皇帝が待つ食事

 執務室の前で、リディが扉を二度叩いた。


「陛下。タクミが戻りました」


 紙をめくる音が止まる。


「……入って」


 扉を開けると、シィルヴィアは執務机の向こうで報告書を開いていた。


 机の上には、すでに終わった会議の資料が積まれている。その一番上の頁だけが、いつまでも開かれたままだった。


 蒼い目が、入ってきたタクミへ向く。


 リディが配膳車を押し入れた。銀の蓋の下で、夕食はすっかり冷めている。


「遅くなりました」


 タクミは配膳車へ目を向けた。


「食べてないんですか?」


「食欲がなかった」


 それだけ言う。


 リディは何も言わず、タクミを見た。


 タクミは冷めた料理へ手を伸ばさなかった。


「少し待ってください」


 小厨房へ向かい、鍋に水を入れる。刻んだ根菜を煮て、米に似た穀物を加えた。火を弱めると、柔らかな湯気が上がる。


 最後に卵を落とし、白身が広がりすぎないよう、匙でそっと寄せた。


 シィルヴィアが小厨房の入口に立つ。


「孤児院はどうだった」


「運ぶだけでも難しいです。風で冷めるし、毎日行く人も必要になります」


「続けられない?」


「今のままでは」


 シィルヴィアの指がわずかに動く。


「でも、向こうでも記録してくれることになりました。週に何回かなら、できるかもしれません」


「そう」


 雑炊を前へ置く。


 卵の黄色が、白い穀物の上でゆっくり崩れる。根菜の甘い香りが、冷えた部屋へ広がった。


 シィルヴィアは匙を取った。


 一口食べてから、ようやく肩の力が抜ける。


「すみません。毎日作るって言ったのに」


「料理のことではない」


 タクミが顔を上げる。


 シィルヴィアは匙を見たまま言った。


「あなたが帰ると思っていた」


 短い言葉だった。


 タクミは少し考える。


「帰りますよ」


 シィルヴィアの目が上がる。


「遅くなっても、ここに戻ります」


「……そう」


「次からは、遅くなるなら伝えます」


「必ず」


「はい」


 机の端に薄く浮いていた霜が、それ以上広がらなかった。


 リディは冷えた銀蓋を重ねる手を止め、霜とシィルヴィアの指先を見比べた。


 シィルヴィアはもう一口食べた。



 タクミは、料理を待っていたのだと思った。


 リディは、冷えたままの銀蓋を一つずつ重ねた。


◇ ◇ ◇

 翌朝。


 皇帝の予定表へ、新しい項目が加えられた。


 夕刻。


 タクミとの食事。


 リディは無言で筆を取り、「夕食」へ書き換えた。


 次の日には、元へ戻っていた。


「陛下」


「効率的」


「何の効率でしょう」


 シィルヴィアは答えず、予定表を閉じた。



 その頃、厨房ではルッツが廃棄記録をめくっていた。


「料理長」


 声が少し上ずる。


「この数字……間違ってませんか」


 最初の週と比べ、廃棄量が半分近くまで減っていた。


 ガレスは帳簿を見たあと、タクミが書き込んだ細かな文字へ目を移した。


 誰が、何を、どれだけ残したか。


 数字の横には、食べた時間と顔色まで書かれている。


「間違いかどうかは、明日も見れば分かる」


 ページの端には、新しい空欄が残されていた。


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。


今日の一皿はいかがでしたでしょうか。


少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価、感想で応援していただけると、とても励みになります。


また次の一皿で、お会いしましょう。

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