↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷血の皇帝は俺の料理を手放せない ~追放された料理人ですが、幼い日に救った少女が皇帝になっていて離してくれません~   作者: ジモンヌ
第8章 旅する料理人と、約束の帰り道

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
141/143

第141話 止める人の席

 異変から十六日目。帝都へ帰った翌日、タクミは明日の治療に備えた予行練習へ来ていた。


 会議室の中央には、寝台に見立てた卓がある。そのすぐ脇の椅子を引こうとすると、治療班の責任者に止められた。


「そこは、固定の解除を止める担当者の席です」


 タクミは手を離し、壁際の椅子へ座った。卓のそばは、すべて担当者の席で埋まっている。


 エレナが、シィルヴィアの胸の傷を描いた図を広げた。


「先に魔力を受け石へ逃がし、陛下への接続を切り離します。それを確かめてから、身体の固定を少しずつ解きます」


「解いたところから、私たちが治療します」


 セレスティアが傷の周りを指した。固定が解ければ、出血も再開する。解く人と治療する人が、同じ場所を見ながら進めるのだという。


 タクミは図を覗き込んだ。森から持ち帰った記録の隣に、彼女の身体を実際に診た結果が並んでいた。


 次に、卓へ透明な管の模型が置かれた。血液に見立てた色水で、解除と治療の手順を練習する。


 一人が模型の固定を解き始めると、部屋の端から声が上がった。


「中止してください」


 近くの者が復唱し、卓の脇の担当者が合図を出す。解除する手が止まった。管を支える者と、流れを見ている者は、手を離さなかった。


 タクミは、自分が引こうとした椅子を見た。


「異常に気づいた人は、誰でも中止を告げてください。解除を止めても、身体を支える処置と治療は続けます」


 責任者の言葉に、担当者たちが頷いた。


 オルガが、受け石の準備も確かめていく。交換する石と放流先は、治療を始める前に用意するという。


「それでも、受けきれなくなったら?」


「次の解除へ進まない」


 オルガは答えた。


「彼女へ、魔力を戻すことはないんですね」


「戻さない」


 エレナから作業表が回ってきた。治療室の担当者だけでなく、受け石の交換や放流路の見張りにも、人の名が並んでいる。


 タクミは、自分の名前を探した。治療をする人の欄にはない。


 休憩時の食事。それから、本人が目を覚まし、飲み込めることを確かめた後の食事相談。


 指先が、少し冷えた。


「最初は、部屋の外ですか」


 責任者は頷いた。


「隣室で待っていてください。必要になれば、すぐに呼びます」


「端で、見ているだけでも」


 タクミは卓の反対側を指した。


「そこも、担当者が使います」


「僕が呼ばれて行くまでに、彼女に何かあったら」


 声が大きくなった。作業表をめくっていた手が、いくつか止まる。


 戻ってきたのに、また扉の外にいる。


 エレナが隣室の図を出した。治療室と厨房の間に待機する場所があり、知らせに来る担当者の名も書かれていた。


「ここで待てます。厨房へ動く時も、私たちに知らせてください。どこにいても、すぐに知らせが届くようにします」


 彼女が自分を庇った時も、すぐそばにいた。


 それでも傷を防げず、その後も、目を覚まさせることはできなかった。


 タクミは作業表の端を握り込んでいた。


 ここで彼女の隣の席を取っても、自分に治療ができるわけではない。


「……呼んでください」


 紙から指を離し、両手を膝へ戻した。


「食事の途中でも、すぐに」


「祭壇で、料理を食べてもらった時の記録もあります」


 エレナが別の紙を出した。


「ご本人の反応を確かめる時には、あなたの力が必要になるかもしれません。ただし、口から食べられることを、先に私たちが確認します」


 タクミは、食事相談の欄へ指を置いた。


 今、彼女へ渡せる料理は、まだなかった。


「食べられるところまで、お願いします」


 エレナが頷く。


「そこからは、一緒に見てください」


「分かりました。皆さんが休憩で食べられるよう、僕も準備します」


◇ ◇ ◇


 会議室を出ると、庭師が小さな箱を抱えて通った。オルガが預けた、三粒の種の箱だった。


 一粒をほかの植物と分けた苗床で育て、残りは比較と保管に回すという。タクミは箱を見送り、手元の食事の予定表を折り直した。


 それでも、足は厨房へ向かなかった。廊下の先には、シィルヴィアの部屋がある。


 リディは先を促さず、隣に立っていた。


「明日、危険があれば解除は止める。目を覚ますところまで、進めなくても」


 タクミは予定表へ目を落とした。


「……早く、声が聞きたいです」


「ああ」


 リディも、彼女の部屋の方を見た。


「また、食事のことで呼びつけられたいものだな」


 タクミは顔を上げた。リディは廊下の先を見たまま、口元だけをわずかに緩めた。


 彼女も、待っている。命令でも、短いひと言でも、あの声が戻るのを。


「途中で止まったら、もう少しだけって、言ってしまうかもしれません」


 リディはすぐには答えなかった。タクミへ向き直り、静かに頷く。


「その時は、聞く。だが、危なければ止める」


 止められた時、自分が何を言うかは分からない。それでも、明日の彼女を危険にさらしたくはなかった。


「……止めてください。それでも」


「ああ」


 リディの返事を聞いてから、タクミは予定表を懐へしまった。


「明日の食事、作ってきます」


 リディが頷いた。今度はタクミも、厨房へ続く廊下を歩き出した。


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。


今日の一皿はいかがでしたでしょうか。


少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価、感想で応援していただけると、とても励みになります。


また次の一皿で、お会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。