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氷血の皇帝は俺の料理を手放せない ~追放された料理人ですが、幼い日に救った少女が皇帝になっていて離してくれません~   作者: ジモンヌ
第8章 旅する料理人と、約束の帰り道

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第140話 まだ眠る人のいる都

 帝都の北門で、荷袋より先に石の箱が下ろされた。


 待っていた兵士が送り状を確かめ、別の荷車へ載せる。


「こちらは第三作業所へ。人は城へ案内します」


 異変から十五日目の昼だった。


 門の脇には、まだ仮設の寝台が並んでいる。人の数は減っていたが、囲いは外されていない。


 帰ってきた都は、元通りではなかった。


 石畳の割れ目に板が渡され、店先の看板には営業時間の変更が貼られている。開いている店の前では、人が並び、順番が来れば中へ入っていく。


 止まったままでも、なかった。


 城の入口で、ミアが走りかけた。


 途中で止まり、後ろのイレーネを見上げる。頷いてもらってから、残りを駆けた。


「おかえり」


 タクミは荷袋を下ろした。


「戻りました」


 ミアは腕ではなく、上着の端を掴んだ。


「食べた?」


「朝は。ミアは?」


「食べた。お昼もある」


 その報告が、思ったより胸にきた。


 厨房では、ガレスがいつもと同じ場所に立っていた。


 ルッツが盆を出し、タクミの分のパンを置く。


 豪華な食卓ではないが、帰ってきた三人の席が用意されていた。


「荷は後だ。まず座れ」


 タクミは座った。


 具の多い煮込みにパンを浸し、口へ運ぶ。肉の繊維がほどけ、香草の匂いが鼻へ抜ける。


「美味しいです」


「知ってる」


 言われて、タクミはもう一口食べた。


 旅の間に作った汁とは、少し違う。肉が多いだけではない。根菜の角が崩れる寸前で残り、噛むと煮汁より甘かった。


「今日は、これなんですね」


「お前らが着く頃に柔らかくなるようにした」


 ガレスは鍋へ目を戻した。


 帰る時刻を知らせた紙は、ちゃんと厨房まで届いていた。


 タクミは顔を上げるのをやめ、熱いうちに食べた。


 ガレスは空になりかけたリディの椀へ、先に足した。


 食後、資料はオルガが会議室へ運んだ。


◇◇◇


 タクミは手を洗い、着替えてから、シィルヴィアの部屋へ向かった。


 扉の前の兵士が道を開ける。


 窓の位置も、寝台も、出発した時と同じだった。


 彼女は、まだ動かなかった。


 帰れば、何かが変わっていてほしかったのかもしれない。


 タクミは寝台の脇へ座り、自分の膝を見た。


「遅くなりました」


 返事はない。


「シラスさんが、甘いものを選んだ日がありました。森では、茸の焼き方を教わりました」


 持ち帰った話を、短く置いていく。森の食卓で、リディが端の欠けた平焼きを取った話もした。


 窓辺には、新しい枝が挿してあった。出発前の枝ではない。水も替えられている。


「みんな、ここにいたんですね」


 誰へ言うともなく呟く。


 彼女の時間が止まっている間も、この部屋を誰かが訪れた。世話をして、話をして、仕事へ戻った。


 足元の荷袋から、小さなフライパンの柄が覗いていた。タクミはそこへ手を添え、寝台へ顔を向けた。


「固定を解く手順を、持って帰りました。これから、治療班の皆さんと確かめます」


 机には、出発前に残した紙があった。


『必ず戻ります』


 戻る約束は、守れた。


 今度は、約束した卵料理を彼女に食べてもらいたい。最初の二枚は、その時に焼く。


 扉の外で、控えめな声がした。


「治療班が揃いました」


 タクミは椅子から立った。


「行ってきます。今度は、この城の中です」


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。


今日の一皿はいかがでしたでしょうか。


少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価、感想で応援していただけると、とても励みになります。


また次の一皿で、お会いしましょう。

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