第139話 帰り道の荷物
番人に迂回路の入口まで案内してもらうと、すぐ脇に通行止めの橋が見えた。
橋の入口近くで、荷車が傾いている。橋板が抜けた穴に片輪がはまり、二人の男が持ち上げようとしていた。
足元の板がきしんだ。リディが岸から声を掛ける。
「荷車は後だ。先に戻れ」
男たちは手を離し、一人ずつ岸へ戻った。最後の一人が座り込むと、タクミは水を差し出した。
橋脚には白い結晶がこびりついていた。番人によれば、昨夜の魔力異常で橋が傷んだという。
帝都が落ち着いても、ここではまだ被害が続いている。
水を飲んだ男が、荷台の箱へ目を向けた。タクミもそちらを見た。
「何を運んでいたんですか」
「帝都へ送る石だ。今日中に、次の宿の運送屋へ渡すはずだった」
男が差し出した送り状を、オルガが確かめた。
「受け石の交換用だ。帝都で加工して使う」
昨夜、鏡越しに聞いた受け石の作業計画を、タクミは思い出した。
帰って手順書を渡すだけでなく、こうした材料も届かなければならない。
番人が迂回路を指した。
「人と馬なら、こちらを通れる。荷車は別の道を回すから、一日余計にかかる」
タクミは馬に載せた自分の荷袋を見た。
「石を、僕たちの馬で運べませんか」
「全部は無理だ。積める分を確かめる」
リディが答え、荷袋を下ろし始めた。
街道の作業員たちは、はまった車輪の下へ厚板を差し込み、荷車を岸へ引き戻した。男たちも加わって箱を下ろす。
オルガが送り状を見ながら急ぎの石を選び、リディが馬に積める重さを確かめた。
先に運ぶ分は二箱に収め、残りは街道の班へ託すことになった。
石を載せる分、自分たちの荷物は背負う。
タクミは荷袋から、旅用に借りた大鍋を取り出した。これを預ければ、背負う荷を少し減らせる。
「後便で返します」
作業員の言葉に頷き、タクミは鍋に詰めていた布を抜いた。
「積み替えの間に、これで食事を作ってもいいですか」
街道の班から水を分けてもらい、火を起こした。薄く切った干し肉と干し野菜を大鍋で煮る。
荷を縛り直す音のそばで、煮汁に少しずつ香りが出た。
作業を交代した人から食べるよう、椀を三つ並べた。
荷車を持ち上げようとしていた男の指が、温かい椀を包むうちに、ゆっくりほぐれた。
自分たちも食べ、空になった大鍋を洗って預けた。
小さい鍋だけを荷袋へ戻し、タクミは馬の手綱を取った。
橋を離れると、すぐに道が細くなった。石を積んだ馬を引いて歩くため、いつもより足が重い。
「余計な時間を使ったと、思っているか」
オルガの問いに、タクミは少し迷った。
「早く帰りたいです」
「ああ」
「でも、あの石も届かないと」
リディが前を見たまま頷いた。
「だから、二箱だけ一緒に帰る」
タクミは肩へ食い込む自分の荷袋の紐を直した。隣では、馬の背で石の箱が小さく揺れている。
振り返ると、作業員たちが残りの箱へ雨除けの布を掛けていた。
◇◇◇
その夕方、宿へ着くと、中継所から帝都へ知らせを送った。
石を二箱運んでいることと、翌日の昼には到着できることを伝えた。
翌朝、返事が届いた。
石は門で受け取る。治療班は午後に集まれる。
追記は、ガレスの字だった。
『飯はある。寄り道せず来い』
タクミは紙を丁寧に畳んだ。
もう、帰る先の食卓を想像するのに、無理は要らなかった。
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また次の一皿で、お会いしましょう。




