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氷血の皇帝は俺の料理を手放せない ~追放された料理人ですが、幼い日に救った少女が皇帝になっていて離してくれません~   作者: ジモンヌ
第8章 旅する料理人と、約束の帰り道

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第139話 帰り道の荷物

 番人に迂回路の入口まで案内してもらうと、すぐ脇に通行止めの橋が見えた。


 橋の入口近くで、荷車が傾いている。橋板が抜けた穴に片輪がはまり、二人の男が持ち上げようとしていた。


 足元の板がきしんだ。リディが岸から声を掛ける。


「荷車は後だ。先に戻れ」


 男たちは手を離し、一人ずつ岸へ戻った。最後の一人が座り込むと、タクミは水を差し出した。


 橋脚には白い結晶がこびりついていた。番人によれば、昨夜の魔力異常で橋が傷んだという。


 帝都が落ち着いても、ここではまだ被害が続いている。


 水を飲んだ男が、荷台の箱へ目を向けた。タクミもそちらを見た。


「何を運んでいたんですか」


「帝都へ送る石だ。今日中に、次の宿の運送屋へ渡すはずだった」


 男が差し出した送り状を、オルガが確かめた。


「受け石の交換用だ。帝都で加工して使う」


 昨夜、鏡越しに聞いた受け石の作業計画を、タクミは思い出した。


 帰って手順書を渡すだけでなく、こうした材料も届かなければならない。


 番人が迂回路を指した。


「人と馬なら、こちらを通れる。荷車は別の道を回すから、一日余計にかかる」


 タクミは馬に載せた自分の荷袋を見た。


「石を、僕たちの馬で運べませんか」


「全部は無理だ。積める分を確かめる」


 リディが答え、荷袋を下ろし始めた。


 街道の作業員たちは、はまった車輪の下へ厚板を差し込み、荷車を岸へ引き戻した。男たちも加わって箱を下ろす。


 オルガが送り状を見ながら急ぎの石を選び、リディが馬に積める重さを確かめた。


 先に運ぶ分は二箱に収め、残りは街道の班へ託すことになった。


 石を載せる分、自分たちの荷物は背負う。


 タクミは荷袋から、旅用に借りた大鍋を取り出した。これを預ければ、背負う荷を少し減らせる。


「後便で返します」


 作業員の言葉に頷き、タクミは鍋に詰めていた布を抜いた。


「積み替えの間に、これで食事を作ってもいいですか」


 街道の班から水を分けてもらい、火を起こした。薄く切った干し肉と干し野菜を大鍋で煮る。


 荷を縛り直す音のそばで、煮汁に少しずつ香りが出た。


 作業を交代した人から食べるよう、椀を三つ並べた。


 荷車を持ち上げようとしていた男の指が、温かい椀を包むうちに、ゆっくりほぐれた。


 自分たちも食べ、空になった大鍋を洗って預けた。


 小さい鍋だけを荷袋へ戻し、タクミは馬の手綱を取った。


 橋を離れると、すぐに道が細くなった。石を積んだ馬を引いて歩くため、いつもより足が重い。


「余計な時間を使ったと、思っているか」


 オルガの問いに、タクミは少し迷った。


「早く帰りたいです」


「ああ」


「でも、あの石も届かないと」


 リディが前を見たまま頷いた。


「だから、二箱だけ一緒に帰る」


 タクミは肩へ食い込む自分の荷袋の紐を直した。隣では、馬の背で石の箱が小さく揺れている。


 振り返ると、作業員たちが残りの箱へ雨除けの布を掛けていた。


◇◇◇


 その夕方、宿へ着くと、中継所から帝都へ知らせを送った。


 石を二箱運んでいることと、翌日の昼には到着できることを伝えた。


 翌朝、返事が届いた。


 石は門で受け取る。治療班は午後に集まれる。


 追記は、ガレスの字だった。


『飯はある。寄り道せず来い』


 タクミは紙を丁寧に畳んだ。


 もう、帰る先の食卓を想像するのに、無理は要らなかった。


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。


今日の一皿はいかがでしたでしょうか。


少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価、感想で応援していただけると、とても励みになります。


また次の一皿で、お会いしましょう。

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