表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷血の皇帝は俺の料理を手放せない ~追放された料理人ですが、幼い日に救った少女が皇帝になっていて離してくれません~   作者: ジモンヌ
第2章 見習い料理人と、皇城の食卓

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/54

第13話 同じにならない味

「一粒も変えるな」


 ガレスの声で、ルッツが豆を量り直した。


 昨日と同じ鶏肉。同じ根菜。同じ鍋。同じ薪。


 材料は二組に分けられた。


 ガレスとタクミが、それぞれの鍋へ向かう。


 エレナは食べる門番の勤務時間と睡眠をそろえ、オルガは計測器を並べた。


「料理を食べるだけなのに、大変ですね」


「大変だから、簡単に奇跡と呼ばずに済む」


 オルガは短く答えた。


 ガレスが包丁を取る。


 音が一定だった。鶏肉の大きさはそろい、根菜は薄さまでほとんど変わらない。鍋から立つ香りは、昨日タクミが作ったものより豊かだった。


「いい匂い」


 ミアが鼻を動かす。


「ガレスさんの方が香りはいいです」


 タクミが言うと、ガレスの手が一瞬止まった。


「今、それを言うのか」


「本当にそうなので」


 ルッツが吹き出しかけ、ガレスに見られて口を閉じた。


 出来上がった二つのスープは、昨日と同じ勤務の門番たちへ分けて出された。


「うまい」


 最初の一口で声が出た。


 味だけなら、ガレスの料理を好む者もいた。鶏の香りは濃く、塩の輪郭もはっきりしている。


 ただ、食べ進めるうち、一人が肉を口の中で長く噛んだ。根菜の中心にも、わずかな硬さが残っていた。


 味見を終えた若い料理人が、タクミの鍋へもう一度匙を入れる。古参の一人は何も言わず、肉の断面を指で押した。


◇ ◇ ◇


 翌朝の記録には、差が残った。


 ガレスのスープを食べた者も、よく眠れている。味と香りでは、タクミのものより好まれた。


 それでも、最初の鐘で目を覚ました男は、タクミのスープを食べた日だけだった。昼まで動かしにくかった指のこわばりが消えたのも、その日だけだ。


「料理としては再現できています」


 エレナが記録を重ねる。


「ですが、食後の変化までは同じではありません」


「手順の差だけではない」


 オルガが計測器を閉じた。


「タクミが作った時だけ、食べた者の状態に合う。そう考える方が自然だ」


 ガレスはタクミへ向き直った。


「火力は同じだ。お前は、いつ肉を入れた」


「鍋が落ち着いてからです」


「何を見て、落ち着いたと判断した」


「音と……鍋が少し軽くなった感じです」


「鍋の重さは変わらん」


「そうなんですけど」


「肉は?」


「まだ嫌がっていたので、少し待ちました」


 厨房員たちが黙る。


 包丁の音まで止まっていた。昨日までタクミを皇帝の客人として見ていた者も、今は鍋の火と、その手元を見ている。


 ガレスは額を押さえた。


「肉に意思を持たせるな」


「意思ではないです」


「では何だ」


「縮みたくない感じです」


「悪化したな」


 ルッツが小さく笑った。


「俺にも分からない」


「僕も、言葉にするのは難しいです」


「じゃあ、どうやって覚えろっていうんだよ」


 タクミは昨日の鍋を思い出す。音、湯気、肉の表面。どれか一つではない。


「一緒に見ますか?」


「……見て分かるならな」


「分からなかったら、別の言い方を考えます」


 ガレスは二人を見た。



「次は、お前が俺から香りを教われ」


「はい」


「その代わり、俺はお前の分からん言葉を聞く」


 ガレスは鍋の蓋を閉じた。


「いいな、タクミ」


 名前で呼ばれたことに気づき、タクミは少し遅れて頷いた。


「はい」


 ガレスは厨房員たちへ向き直る。


「明日から、煮込みの火入れはタクミにも確認させろ」


 若い料理人が、まっすぐタクミを見た。


 ルッツが横を向く。


「俺も聞く」


「うん」


「肉が嫌がる以外の言葉にしろよ」


「考えます」


 若い料理人が自分の鍋へ肉を入れかけ、手を止めた。


 タクミの鍋の音を、一度だけ聞く。


 その時、厨房の入口からリディが封書を差し出した。


「孤児院への試験提供が許可されました」


 タクミが受け取る。


 許可書には、衛生条件、運搬方法、提供回数が細かく書かれている。


 末尾には、小さな文字が添えられていた。


 継続を保証するものではない。


 ガレスはその一文を読み、紙を返した。


「一度うまく作るより、難しいぞ」


「はい」


「明日も届く形にしろ」


 タクミは許可書を畳んだ。


 料理を作る前から、次の一杯が続くかどうかを考える仕事が始まっていた。



最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。


今日の一皿はいかがでしたでしょうか。


少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価、感想で応援していただけると、とても励みになります。


また次の一皿で、お会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ