第114話 帰路をつなぐ者たち
最初の光は、エスペルの剣に弾かれた。
金属音ではない。
硬い石を叩いたような音が地下へ響く。
「左へ! 柱の陰まで!」
タクミはシィルヴィアの手を取った。
リディの後ろへ入る。
床へ線を引く白い光が、こちらを追うように角度を変えた。
――調律因子を排除。
「僕を狙ってる……」
「感想は後だ!」
リディが二本目を払う。
エスペルは一歩ずつ下がりながら、進む場所を示した。
「次の柱まで三歩。右は踏むな!」
オルガが床の紋を見て頷く。
衛兵たちは、足を止めたアベルを両側から引いた。
「歩けますか」
「……歩く」
アベルも自分の足を動かす。
「次の柱までなら保つ」
シィルヴィアが振り返る。
氷の壁が立ち上がった。
白い光がぶつかる。
その形のまま、一瞬だけ動きを止めた。
ひびが走る。
「長くは無理だ!」
オルガの声が飛ぶ。
「分かっている」
シィルヴィアも残らない。
ひびが広がる前に、全員が次の影へ移った。
タクミは椀と小鍋を、布で包んで鞄へ押し込んだ。
火床は置いていく。
炭も。
鍋の蓋も一つ落ちた。
拾わない。
「ここで一度止まる!」
エスペルが太い柱の裏へ入る。
追ってきた光が、石の角を削った。
「水を飲め。今のうちだ」
リディが前を見張る間に、エスペルが平焼きパンを差し出した。
タクミは一口かじる。冷めても、薄い皮はやわらかかった。
水と一緒に飲み込むと、指の震えが少し収まった。
セレスティアが流れを逃がし、床の光が一本細くなる。
「行けるか」
エスペルが聞く。
「はい」
「陛下」
「行ける」
シィルヴィアも短く答えた。
エスペルは残りのパンを包み直す。
剣を持つ。
「次で出口だ」
柱から出る。
セレスティアが最後の祈りの糸を外へ逃がす。
リディが彼女の肩を引く。
オルガは床へ落ちた測定具を見た。
一瞬だけ。
それから走った。
拾わない。
シィルヴィアも、タクミの手を離さなかった。
扉まで、あと数歩。
「先に衛兵!」
エスペルが道を開く。
アベルを挟んだ二人が抜ける。
セレスティア。
オルガ。
リディは扉の脇で足を止めた。
「二人とも、こっちへ!」
タクミはシィルヴィアと並んで走る。
あと三歩。
二歩。
その時。
背後の祭壇が静かになった。
音が消える。
光も、一瞬だけ消えた。
タクミは振り返らなかった。
決めた。
出口を見る。
「止まるな!」
エスペルの声。
次の瞬間、白い光が祭壇ではなく、出口の床から立ち上がった。
「下だ!」
リディの剣が最初の一本を払う。
氷が二本目を止める。
その陰から。
もう一本。
細い光が、タクミの胸へ向かった。
足を引く。
間に合わない。
握っていた手が、強く動いた。
身体が横へ押される。
銀色の髪が、目の前へ落ちた。
白い光が、その向こうで止まらなかった。
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