↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/20

第9話:背負う者



父の声がした。

“生きるんだ、マヒル”


ソフィアの声が重なる。

“生きて、マヒル”



目を開けると、白い天井があった。


涙が肌を伝うのを感じる。


ベッドの隣にローズがいた。


「ソフィアは」 マヒルが、聞いた。


「生きていますわ」


ローズは、少しうなずいた。


「ですが、危険な状態です」


「……勝手に助けて、勝手に死にかけて、何なのよ」


涙を拭う。


「誰がやったの」


マヒルは、上半身を起こした。


窓のそばにハンスがいた。


「誰が、あたしを襲ったの?

 ソフィアを撃ったの」


「現在、調査中ですわ」


「君は標的でもあり、象徴でもある」 ハンスが言う。


「象徴?」


「あなたは、あの国の唯一の生き残り、そして、

 その国の外務大臣の娘でもあるのです」


「ああ、三勢力を心良く思わないものは、お前を利用しようとする」


「そして、利用されることをよしとしないものは、あなたを消そうとする」


「この世界には、そう言う奴らが、大勢いるんだ。」


「想定よりも、彼らの動きが迅速でした。

 わたくしの判断ミスでしたわ」


「通信履歴を見させてもらった。

 お前、襲撃前に何者かと接触しているな」


「それはあなたを利用しようとした者でしょう。

 そして、ソフィアを撃ったのは、あなたの命を狙う者」


また、涙があふれ出る。


「……殺してやりたい」


声が、勝手に出た。


「滅多なことをいうものではありません。

 ご両親が悲しみますわ」


「父さんと母さんの話を、あんたがしないで!」


マヒルは叫んだ。


「悲しむかどうかなんて、もう聞けないのよ!」


ローズは何も言わなかった。


「あたしは、どうすればいいの?ねえ、教えてよ」


涙は止まらない。


「誰を殺せばいいの。誰を恨めば、父さんと母さんは帰ってくるの」


誰も答えなかった。


「教えてよ。あんたたち、何でも知ってるんでしょ」


「あなたの故郷のことをお伝えするのは…」


ローズが言いよどむ。


「あなたの準備が整ってからと。

 そう考えていました。そうも言っていられなくなりましたわね。」


「島を消したのは、一人じゃない」  ハンスが、ゆっくりと言った。


マヒルは、彼らを見つめる。


「一つの国でもない」


マヒルは、息を止めた。


「ええ…」


静かに、しかし、はっきりとした口調で、ローズが言う。


「世界の三勢力すべてです…」


部屋に沈黙が流れた。


「…どういうこと?」


「あのとき、三勢力の最終兵器は、互いに起動寸前のところまで進んでいました」


「……最終兵器?」


「あの島は、通信拠点として、すでに重要な拠点でしたわ」


ローズが手に持った何かを見て言った。

 

「あの日、通信異常が起きた…。

 三勢力の監視システムは、それを軍事的な兆候として認識した…」 


ハンスは一呼吸置いて言う。


「各国は互いに相手を疑った…

 確認より先に、防衛行動が走った」


ハンスが、途切れ途切れに言った。


「防衛?」


マヒルは笑った。


「私の国を攻撃したのが、防衛?」


「そう呼んだ連中がいる」


ハンスは苦い顔をした。


「俺はそう呼ばない」


「最悪」 


マヒルの口から吐き捨てるように出た。


「ええ、最悪ですわ」


「ソフィアは…」


マヒルは、こぶしを握った。


「ソフィアは、何をしたの」


ローズは資料を出した。


「ソフィアのレポートは、島を攻撃対象にするものではありませんでしたわ」


マヒルは資料を受け取る。


「三勢力の通信・外交・軍事監視を交差させることの有用性の論文ですわ」


「有用性?」


「はい、その詳細な分析です。」


「それを、攻撃対象としたと結論づける人間もいます」


ローズは、軽く首を横に振った。


「推定死者数、十一万人」 ハンスがつぶやく。


部屋に一瞬、静寂が降りた。


「何それ」


「君の島の推定人口だ」


マヒルは一瞬、理解が出来なかった。


「消失当時の推定生存者数は、一」


十一万人の一 …。


「何よ、何なの?」


マヒルは、痛いくらいに手を握る。


「数字にしたら、終わりなの?」


誰も答えない。


「十一万人って言えば、父さんも母さんも友達も全部そこに入るの?

 それで終わり?」


マヒルは資料を掴んだ


「あなたには怒る権利があります。誰よりも」


ローズがマヒルをまっすぐ見る。


「ですが、その怒りに飲まれてはいけません」


「意味分かんない!」


マヒルはにらんだ。


「あなたに接触した者たちは、あなたを利用しようとしました。

 そして、あなたを殺そうとした者もいる。

 そのためにソフィアは負傷した」


マヒルは、泣きながら息をする。


「次は、もっと大きなものを壊すことになるかもしれません。

 自分を見失ってはいけないのです」


「マヒル」


ハンスが言った。


「一つ聞くぞ」


「何よ!!」


「もし、お前があの島の子供じゃなかったら」


「は?」


「もし、お前がこの国の子供で、新聞の隅に“遠い小国が消えた”って

 記事を見ただけだったら」


ハンスは、天井を仰いだ。


「お前は、十一万人のことを知ろうとしたか?」


マヒルは、一瞬押し黙る。しかし、止まらない。


「だから何!!」


マヒルは叫んだ!


「私が他の国の子供だったら気にしなかったかもしれない。だから何?!!」


声が震える。


「だから、黙ってろって言いたいの?!」


「違う」


「違わない!」


止まらない、この感情をどうすれば良いかマヒルは、分からない。


「あたしは当事者なの!あたしの父さんと母さんが死んだの!

 あたしの国が消えたの!あたしが怒らなかったら、誰が怒るのよ!」


涙が止まらない。息を吸い上げながら激しく泣く。


「お前の言うことは、もっともだ。

 しかし、冷静さを欠いた行動は、ほとんどの場合正しい方向に向かわない」


ハンスは言う。


「怒るなとは言いませんわ」


ローズは言った。


「そんなことを言う権利は、わたくしにはありません」


マヒルは、ローズをまたにらむ。


「じゃあ、どうしろっていうのよ?!!」


「背負いなさい」


低い声でローズが、言う。


「投げ出さず、その思いを背負いなさい。

 あなたは、あの島のたった一人の生き残りなのです」


マヒルはこぶしを握る。


目をつぶる。


「あの日、あの島の人たちは、何も知らされずに突然すべてを奪われた。

 何の準備もなく、そこにいるだけで消されてしまった」


マヒルはぐっと息をのむ。


島のみんなのことを思い出す。


優しかった父と母、仲が良かった友人たち…。


「当たりだった日常が突然、奪われた。

 それを知っているのはあなただけです。

 あの人たちの無念を、思いを、それを言えるのは、あなただけなのです。

 世界は無かったことにしようとしている…」


ローズの目から涙があふれる。


マヒルは、泣き声を上げそうになった。

涙を拭う。何度も。


ハンスは、何も言わない。


「あなたが背負うしかないのです。

 あなたにしかできないのです。

 悔しいでしょう…。

 悲しいでしょう…」


マヒルは、こぶしに落ち続けるしずくを見るしかない。


ローズは、涙を拭おうともしない。


彼女の声は震えている。


「何かにぶつけたいのも当たり前です。

 それでも、それをしてしまったら…」


ローズは、大きく息を吐いた。


「ただ周りを傷つけ、あなた自身が傷つきそれで終わるだけです。

 あなたが生き残った意味が無くなってしまいます」



マヒルはまた、目を閉じた。

それと同時にたくさんのしずくが目から流れ落ちる。



「あなたは、その無念を、生き残った意味を示しなさい…。マヒル…」



ローズは、少し目を伏せ、再び見開く。



「あなたは、たった一人生き残った人間として、

 その役目を果たさないといけないのです」




ハンスは、窓の方を見ていて表情が見えない。


マヒルは、ただあふれ出る涙を拭っていた。


ただ、静寂が部屋を覆った。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。