第8話:襲撃
「ねぇ、どうしたの?」
薄い赤色の髪、赤い瞳をした少女が聞いてきた。
白い髪をした少女のそばに、赤い瞳の少女がいる。
ここは海岸。
「体調でもわるいの?」
「問題ない、島を観察していた」
白い髪の少女が答える。
「あなた、他の国の子よね?髪の色が違う」 聞いてくる。
「仕事で、ここに来た」
少女が答える。
「この海岸、とても綺麗でしょう?」
笑って、赤い瞳の子が言う。
聞かれた少女は、黙っていた。
彼女は、その赤い瞳をしばらく見つめていた。
「うつくしい…」
少女が言う。
「そうでしょ!この国が好きになってくれたらうれしい」
「そう思っている…」返事をする。
後ろから、
「マヒル!早くしなさい。行くわよ」 と女性の声がした。
「あたし行かなきゃ。それじゃあ、また来てね」
薄い赤色の髪の子は、手を振って、行ってしまった。
白い髪の少女は、歩き出す。
そして振り返る。
小さくなっていく、薄い赤い髪の少女。
そしてまた、歩き出した。
彼女は、空を見る。
赤い瞳だけが、脳裏から離れない。
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「君の国を、覚えている者の一人だ」
前の学校のクラスメイト、その兄が言った。
マヒルは胸が跳ねた。
「“我々は、この島を消させない”」
「……どうして」
「我々の言葉だからだ」
男は、笑った。
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ソフィアは、一人、巨大なスクリーンに話しかける。
「ノーススター、観測状況は?」
『太陽風は安定。磁気嵐の兆候なし。通信障害の可能性は低い。』
「しばらく、安定している」
『ああ、しかし、油断は禁物だ』
「各国の状況は?」
『メリディア共和国で、核ミサイル数を増やす動きが見られた』
「根拠は?」
「関連部品搬入の履歴が見つかった」
ソフィアは、しばらく黙った。
「部品会社に圧力をかける」
『ああ…』
別のスクリーンに屋敷の玄関が映し出された。
マヒルが扉を開いている。
「時間となった」
『了解、またな、キング』
通信が切れた。
すぐにソフィアの作業部屋にマヒルが現れた。
手には、なにやら資料を持っている。
「ソフィア!」マヒルが大きめの声で言った。
ソフィアは、マヒルの手にあるものを観察した。
「これ、あんたが書いたの?」
ソフィアに資料を押しつける。
著者名、Sophia Grayの文字がある。
「……書いた」
ソフィアは言った。
「じゃあ、本当なんだ」
「あんたがこんなものを書いたから
あたしの国が攻撃されたって聞いた!」
いつの間にか叫び声になっていた。
「本当なの?!」
マヒルの声が響き渡る。
ソフィアは、黙る。
「なんで、黙っているのよ」
ソフィアは答えない。
「答えなさいよ!」
ソフィアは、ゆっくり目をつぶる。
「あんたは、私の島を危険地帯って書いた。
その論文が、他国の判断に使われた。
あたしの国は、あんたの論文に殺された」
ソフィアは目をあけた。
しかし、黙ったまま。
「そうなの?!」
沈黙が続く。
「何とか言いなさいよ!」
マヒルは、ソフィアの目の前に論文をもっていく。
「どうなのよ?!!」
しかし、答えない。
「最悪…」
マヒルは言った。
そのまま自室に戻った。
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マヒルは、荷物をまとめていた。
あれから、何度聞いてもソフィアは、黙ったまま。
ローズに聞いても、
「冷静になりなさい」
ただそれだけ。
「出ていきますのね」
「止めに来たの?」
「いいえ、あなたはこれからどうしますの?」
「あんたたちに関係ないでしょ」
マヒルは、接触してきた男と合流する予定だ。
廊下に出ると、ソフィアがいた。
いつも通りの無表情。
「何」
マヒルが聞くと、ソフィアは少しだけ目を伏せた。
「行くべき」
「は?」
「ここから離れた方がいい」
マヒルは、思わず笑った。
「そう。あんたもそう思うんだ」
「あなたは、日常に戻るべき」
「違うでしょ!私に見られたくないからでしょ?
違うなら違うって言いなさいよ」
ソフィアは答えない。
「……もういい」
マヒルは、ソフィアの横を通り過ぎた。
廊下を小走りで抜ける。
扉の前に止まっている車に乗り込む。
車のドアが閉まる音。
マヒルの肩が小さく跳ねた。
シェルターの扉の音に、似ていた。
「大丈夫ですの?」
車外にいるローズが聞いた。
「あんたに心配されたくない」
車は発車してしまった。
「ソフィア」
ローズの声は、いつもより柔らかかった。
「これで良かったんですの?」
「マヒルに資料を渡した人間は?」
「およそ目星がつきましたわ」
ソフィアは、目を閉じた。
「理解した」
「あの子は、あなたに必要だったのではないですか?」
ソフィアは答えなかった。
ローズは屋敷を後にした。
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マヒルは、車の中、怒りで、頭がいっぱいだった。
何も言わずただ、怒りに耐えていた。
ソフィアとローズと過ごした日々を思い出す。
そして、父と母と過ごした思い出も思い出す。
その時、車が大きく揺れた。
タイヤが音を立てる。
「わああ!!」悲鳴が聞こえた。
次の瞬間、前方のガラスに白い亀裂が走った。
運転手は、車のハンドルに倒れ込んでいた。
「な、なんなの?」
車を何者かに取り囲まれていることが分かる。
「うそ…」
マヒルは身構えた。
車のドアがロックされているかを確認した。
こういうときは、どうすれいい?考えろ。
訓練を必死に思い出す。
数秒、考えを巡らせた。
鞄を開ける。
とにかく武器になりそうなもの。
他にない。とにかく、折りたたみカサを手にした。
車を取り囲む人間が、近づいてくる。
マヒルは、心臓が痛いくらいだった。
その時、爆音が聞こえた。
“ゴォォオーー”
そしてブレーキ音がした。
“キィーイイー”
別の車が、何人かの人間を蹴散らしたのが分かった。
黒い車だった。
”パァン!!パァン!!パァン!!”
マヒルは、耳を塞いだ。
「銃声?」
ガラス越しに人影が見えた。
マヒルは、身構える。
ガチャ!
ドアが開いた。
「ソフィア!」
マヒルが驚きで声を上げる。
「なんで!」
「あれは、ハンスの特別仕様車。
防弾仕様が施されている」
「何を言っているの?!」
運転席をソフィアが見る。
「運転手の救助が必要」
ソフィアがつぶやく。
「ちょっと!肩、怪我してるじゃないの!?」
ソフィアが、マヒルの腕を掴んだ。
驚くほど強かった。
「乗って」
「何」
ソフィアに引っ張られ、押し込められる。
車のシートに倒れ込む。
車のエンジン音が聞こえた。
ソフィアは、マヒルの頬に手のひらを当てた。
マヒルの瞳を見つめる。
「あなたは、生きて、マヒル」
手のひらが離れていく。
車のドアが閉まる。
その音が、シェルターの扉の音に変わった。
父の声が、よみがえる。
「生きるんだ!マヒル!」
「やだ」
マヒルは、声にならない声を漏らした。
「やだ、また置いていかないで」




