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第6話:三勢力



出られない、暗闇の中。



「出して!!出して!!!」


「誰か!助けて!」


「誰か…、助けて…」



どれくらいたっただろうか?

彼女は、夢を見た。

幸せな夢だ。


「父さん、母さん」


「みんな」


みんな笑っていた。


母が、作ってくれた料理があった。

誕生日ケーキがあった。


ロウソクには火が灯されていた。

みんな楽しそうだった。

みんなが、誕生日を祝う歌を歌ってくれた。


火を消すように促された。

マヒルが火を消すと、拍手をしてくれた。

たくさんプレゼントを渡してくれた。

マヒルは、幸せだった…。



「わたしもみんなの所に行くね…」


彼女の声は、誰にも届かず消えていった。



いきなり、まばゆいばかりの光が差してきた。

波の音が聞こえる。


「なに…」




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「殺したことがある」

ソフィアは、無表情に的を見つめたまま言った。


「ソフィア!」

ローズが、叫んだ。


「それ以上はおやめなさい」


ソフィアは黙った。


「マヒル、先ほどのはソフィアの思い込みですわ」


ローズは、珍しく、強い口調だった。


「真に受けないでくださいまし」


「分かったわよ」


それから、三人は、訓練場を出た。


ソフィアが黙ったままなのは、いつものことだ。


しかし、ローズが話さないのは、居心地が悪かった。



――――――――――――――――――――――



「こんなものかしらね」


マヒルは、キッチンで鍋を見て、つぶやいた。


ソフィアがキッチンに入ってきた。



「いいところに来たわね。

 あと少しで、できるところよ」


「通常と異なる匂いがする」


「ああ、あたしの国の料理。

 久しぶりに作ってみたの」


あの訓練から数日経つが、ソフィアは、何事もなかったように過ごしている。


正直、どう考えたらいいか分からない。


マヒルは、ソフィアの頬をつまむ。


「あんた、ほんと、表情筋が死んでるわね」


「にゃにふぉひてひる?」


「結構伸びるじゃない」


面白くなって、さらに引っ張る。


「もっと動かしなさいよ」


今度は両方を引っ張る。


「変な顔」


手を離す。

ソフィアは、両方の頬をなでている。

しかし、表情に変化はない。



ソフィアが持ってきた端末が小さく鳴った。


「南方会議は三日以内に決裂。

 六日後に制裁案。九日後に共同声明」


「何の話?」


マヒルが聞く。


「国際交渉」


「相変わらずね。

 どうやって予測したの?」


「燃料備蓄量、為替変動、前回会談の発言順、軍需企業の株価、

 大統領の睡眠時間から予測可能」


「最後の何?」


「睡眠時間が短いと、強硬発言が増える」


「そんなことで世界情勢読むな」


ソフィアは、何も言わずタブレットに何か打ち込んでいる。


「まあ、いいわ」


「それ終わったら、お皿とコップ出して」


マヒルは、料理の最後の仕上げに入る。

ソフィアは、何も言わずマヒルに皿を渡す。

マヒルは、受け取ると料理をもり、テーブルに置く。


テーブルにつき二人で食べる。


「うん、なかなかじゃない?」


「同意する」


「また、気が向いたら作ってあげるわよ」


ソフィアの表情に変化は、見られない。

しかし、美味しそうにしている。

仕草で分かる。

マヒルは、笑みが出る。


「あんた、最近、部屋のカギかけてるけど、あれ何?」


「機密事項を取り扱う」


「何日も、カギかける必要ある?」


「ある」


「こっちは、あんたが、中で死んでないか、怖いんだけど」


「死なない」


「あんたのそれは説得力ないのよ」


マヒルは、スプーンを口に入れる。


「あと、やっと最近、こっちで食べる回数増えたけど、もっとこっちで食べなさいよ」


ソフィアは、スクリーンのスウィッチを押す。

ニュースが流れる。


『西連合は本日、戦略抑止力維持のための演習を実施予定です。

 世界の緊張は、高まっています。

 学校では、弾道ミサイルを想定した避難訓練が順次行なわれ…』


「あんた、そうやってはぐらかすの止めなさいよ。ほんと」


最近、マヒルに言われて、作業部屋で食事をする頻度が減っている。

それでもマヒルは、ソフィアが何を考えているか分からない。


「これは?」


ソフィアは、机に置かれた紙を指す。


「また、はぐらかすわね…。

 今日の問いよ」


そこには、こう書かれている。


“私の国は、他の国に消された。私の国を消した国は一つの国じゃない”


「根拠は?」

ソフィアが聞いた。


「地図から消されてる。誰も話さない。

 一つの国だけなら、他の国が騒ぐはずでしょ。

 なのに、みんな黙ってる」

 

マヒルは、スクリーンを見ながら言った。


「つまり、都合が悪い国が多いんじゃないの?」


ソフィアは、しばらく、黙って、咀嚼していた。


「ローズと話をする」

とだけ言った。



――――――――――――――――――――――



学園の中庭のテラスで、優雅に紅茶をたしなむ少年少女。


「黙っていればいいものを」


マヒルは、言う。


生徒会長及びアストラ合衆国大統領の子供レン。

彼は、なかなかの美男子だ。

均整の取れた体つき。

銀髪、紫の瞳。


その横に金色の髪、青い眼の少女、ローズ。

財閥の令嬢。

美しい顔立ちをしている。

制服を着ているだけなのに、どこかドレスのように見える。


ソフィア。

透き通るような白さの肌、華奢で、かわいらしい少女。

青みがかった白い髪。瞳も青みがかった白をしている。


「口を開くな…」


マヒルはつぶやく。


「聞いてくれよ、ローズ。

 僕の写真集の発行部数が100万部を突破したんだよ」

とレン。


「流石、お兄様ですわ。

 そのままいけば、近いうちに州知事しゅうちじにもなれますわね。

 そのときは、わたくしも、州知事の知人(ちじん)ですわね。

 このことは、知人(ちじん)周知しゅうちしておかなければ、ですわ。

 州知事だけに」

とローズ。


「先ほどのローズの台詞で、体感温度が2度下がったと推定する」

真顔で返すソフィア。


「なんか、むかつくわ…」


「まあ、雑談はこれくらいにして、今日の本題に入ろうか?」


「あら、嫌だ、お兄様。お兄様の写真集100万部も重要なお話ですわよ」

ふふっとローズ笑う。


「ありがとうローズ。君は気配り上手だね」


レンが前髪を掻き上げる。

キラキラという幻聴が聞こえてくる。


「ほんと、いい加減にしろ」


「均衡についての話の方が、緊急度を有すると考える」


ソフィアが、抑揚のない声で割って入る。


「分かりましたわよ。仕方ありませんわ」


ローズが息を吐く。


「それでは、新しいメンバーもいますし、基本のおさらいから行きますわよ」


やっと話が進みそうだ。


「そうだな、マヒル、世界の人口はいくらだったかな?」


「100億人でしょ?」


「じゃあ、国の数は?」


「200」


「ご名答。

 そして、その200は、バラバラではない」

 

「バラバラではない?」


「国は、思想が近いもの同士が集まって、グループをつくる」

ソフィアが言う。


「人が同じ共通意識を持つ同士で、国を作るようにね」

レンが補足する。


ローズが、扇子を開く。

【友達選びは大切】

の文字。


「いま、国家レベルの話をしてるのよね」


「政治、理念、経済、軍事、地域などの項目で分類する。

 4つや5つにわけることもあるが、ほとんどの場合、3つとなる」


ソフィアが無表情で言う。


「ああ、『西連合』、『東連盟』、『南同盟』だね」


「それは、知ってるわ」


「まず、美しい僕にふさわしい西連合。

 アストラ合衆国が中心となる勢力」

とレン。


「外見は関係ない」ソフィア。


「最も個人の自由を尊重するのよね」

マヒルが言う。


「しかし、理念が異なる国へは力の干渉を行なう」

ソフィア。


「それでは、東連盟はどういう勢力かマヒルは言えますか?」

ローズが、聞く。


「国の力が、強いのよね。その分、国が安定する」


「ええ、それが逆に個人の自由が低くなることになります」


「最後の南同盟、資源と成長力がある。しかし、内紛と軍拡の火種を抱える」

ソフィアが言う。


「なんか、改めて確認するとややこしいわね」


ローズは涼しい顔で扇子を開いた。

【世界は面倒】


「あんたが言うと説得力だけはあるわね」


「光栄ですわ」


「褒めてない」


「西連合は自由、東連盟は秩序、南同盟は利益を優先事項としている」

ソフィアが言う。


「そうだね」とレン。


「そして、その面倒くさい集団が、今のところぎりぎり均衡を保っている」 


「ぎりぎり?」


ソフィアが言う。


「一つが強くなれば、残り二つが警戒する。

 一つが新兵器を持てば、残り二つも持とうとする。

 一つが守りを固めれば、別の二つには攻撃準備に見える

 互いに世界を滅ぼせる兵器を抱えたまま、平和と呼ぶ」


「……それは、平和と言えないでしょ」 マヒルが言う。


「でも、人類はそれを何十年も平和と呼んできた。」 レンが言う。


「……最悪じゃない」


「政治とは、だいたい最悪を少しだけましに見せる技術だよ」

レンが、涼しげに笑う。


「大統領の子供が言う台詞じゃないでしょ」


「だから、美しい僕が言っているのさ」


レンは、笑顔でマヒルの言葉を受け流す。


「あんたね…」


マヒルは、少し考えた。


「でも、あたしの島は、それと何の関係があったの」


「あなたの島は、中立国だった」

ソフィアが言った。


「それは知ってる」


「しかし、三勢力すべての通信を中継していた」


マヒルは、考えを巡らす。


「そういえば、島の北側には立入禁止の研究施設があった……。

 高いフェンスに囲まれていて、外国人をよく見かけた気がする。

 大人は近づくなって言ってた。

 あれと関係あるの?」


「そう、あれは、重要な通信施設だった」


「通信施設?」


「世界中の情報が、その島を経由していた。

 表向きには民間通信。実態は、三勢力すべてが利用する中継点」

 

マヒルは眉をひそめた。


「中立というのは、美しい言葉だけどね。マヒル」

レンが、ティーカップを置いた。


「誰にも属さないということは、時々、誰からも守られないという意味にもなる」


チャイムが鳴った。


「あら、残念ですわね。楽しいティータイムの終わりですわ」


「絶対わざとでしょ」


「続きは、教室ではなく現場でお話ししましょう」


「現場?」


――――――――――――――――――――――



船は、静かに海を進んだ。



「あの時の気温、湿度、日照度に近いと考える。」

ソフィアが言った。


「ここは……」


マヒルは、言葉を失った。


小さい頃から見ていた海岸の形。


間違いない。


祖国の島があった場所だ…。





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