第5話:理由
「父さん!どうしたの?!父さん!!」
金属の塊の中に押し込められる。
「元気で、幸せになって」
母は、しっかりと彼女を抱きしめ、そして離れていった。
「何を言っているの?母さん?!」
「いいか?!ここにいれば安全だ!!」
中にあったベルトをかけられる。
父は、歯を食いしばっている。
母は、優しく微笑んでいる。
「生きるんだ!マヒル!」
扉を閉められる。
「あなた…」
「すまない…。ミサイルが発射された。
迎撃システムを起動させているがどうなるか分からない。
あと数分だ。」
「そう…」
二人は堅く抱き合って、涙を流す。
そして、目を閉じた。
島の上空に世界を包み込むような巨大な白い発光体が発生した。
マヒルの両親を白い光が包み込んだ。
そして、光に溶けていった。
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「一体誰なの?!誰が、島を消したの!!」
叫ぶマヒルに誰も答えない。
数秒の間が流れる。
沈黙を破ったのは、ハンスだった。
「残念だが、犯人あては、俺の仕事じゃない。
話せるのはここまでだ」
「なにそれ?」
涙がこぼれそうになるのをなんとかこらえる。
「マヒル、あなたはまだ“問い”が出来ていません。
まだ、あなたは準備が出来ていないのです
今日は、ここまでです」
ローズが言う。
「待ちなさいよ!
そんなの、納得出来るわけ無いじゃない」
「マヒル、言ったはずです。
これは、サービスです」
「何よ!それ!」
「これ以上は、契約違反です。
これ以上を望むのは今はおやめなさい。
あなたに、元の学校に戻ってもらってもいいのですよ」
ローズが、静かな、しかし、はっきりとした口調で言う。
マヒル、口を閉じる。
我慢する。
「…分かったわよ」
マヒルは何とか声を絞り出せた。
ソフィアは、スクリーンを見たまま何も言わなかった。
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「あんた、髪の毛乾かしなさいよ」
マヒルは、島が消えた理由に近づけた気がした。
それでソフィアに気になっていたことを言えた。
「自然乾燥で問題ない」
「問題ある。床に水が落ちてる。
あんた、電子機器の近くで液体がどうとか言ってなかった?」
ソフィアは、ほんの少し黙った。
「指摘は妥当」
「でしょうね」
「座って」
「自分でできる」
「できる人間は、濡れたままパソコンの前に座らない」
「反論不能」
「なら座れ」
ドライヤーのスウィッチをオンにする。
ソフィアは、おとなしくドライヤーの風を受ける。
「あんたたちってさ、四歳の時に会ったのよね」
「会った」
「あんたたちどういう子供だったの?」
「ローズは、世界がどういうふうに見えているか聞いてきた。
わたしは、不合理だと答えた」
「いや、それ四歳児の会話なの」
ソフィアの髪は、見た目よりずっと柔らかい。
水分がなくなると指の間を簡単にすり抜けていく。
しばらく、ドライヤーの音だけとなった。
「あんた、なんで、そんなに頑張ってんの?」
「守るため」
「守るため?」
「そう、なくさないため」
「何を?」
「わたしが守れるものすべて」
「すべてって」
「それでもどうしても守れないものもある」
「だから、出来ることはすべて行なう」
「あんた、たまに父さんみたいで、ちょっと腹立つわ」
ソフィアが首を傾ける。
「わたしは、男性でも、中年でもない」
「中身のこと言ってるのよ」
「中身は知らない」
「中身って、あんた、父さんの見た目、知ってんの?」
「画像は観察した」
白い光沢のある髪が、ドライヤーの風で揺れる。
「マヒルの父親の中身はどういう性質だった?」
「わたしの父さんは、優しくて、頑張り屋さんで、
忙しいのにわざわざ、あたしと遊ぶ時間を作ってくれた」
マヒルは、ふと笑みが出た。
「みんなに慕われてて、あたしの自慢だった
いっぱいあたしの話を聞いてくれた」
あまり話せない父のことを話せる。
少しうれしくなる。
「あたしも父さんのようになりたかっ…」
言いかけて、目の前の白い髪の少女を見る。
また、頭を傾けるソフィア。
彼女は、マヒルの瞳を見つめる。
「なんか、やっぱりムカつくわ」
相変わらず、ソフィアの表情筋は死んでいる。
なのにマヒルには、喜んでいるように見えた。
感情をごまかして、マヒルは、ドライヤーの風を当てた。
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マヒルは、ソフィアの後ろ姿を見た。
流れるような光沢のある髪だ。
「やっぱり、ちゃんと乾かした方が良いじゃない」
ソフィアは、振返り、首を傾ける。
マヒルの目を見つめる。
「なんでもないわよ。
行きましょう」
ローズからの連絡で、いきなり出かけることになったのだ。
言われた場所は訓練場。
岩みたいな男が立っていた。
黒い訓練服。
太い腕。短く刈られた髪。
「本日の教官ですわ」
「いや、なんでこんなことになってんの?」
「なんども注意されていますでしょう?
今、あなたを守るものが無い状態です
自分自身で身を守ることは知っておくべきですわ」
「いきなりは無いでしょう」
「ローズの脈絡がない行動は、統計データでは確率が高い」
「いや、ちょっと待ってよ」
マヒルは、頭を抱える。
「本日の目標は、生存判断、退避行動、緊急時通信、近距離回避、基礎射撃です」
岩の男が続ける。
「いきなり物騒」
「ローズ様の指示です」
「全部あいつのせいか…」
最初の訓練は、逃げることだった。
「戦うんじゃないの?」
マヒルが聞くと、教官は即答した。
「戦うのは最後です。最初にやるべきことは逃げることです」
「まともなこと言った」
「わたくしの方針ですわ」
「障害物があるあのルートを可能な限り早く通り抜けください」
教官の指示がでる。
ソフィアが走り出す。
「ちょっと!」
マヒルもつられて走り出した。
ソフィアは淡々と障害物を抜けていく。
速いというより、無駄がない。
曲がる位置。
身を低くする角度。
障害物を避けるタイミング。
「すごい」
マヒルが息を切らしながら言う。
大きな差を作って二人はゴールした。
いくつかの訓練をこなした。
ソフィアは、マヒルを大きく引き離す。
ローズは、その中間くらいだった。
「あんた、なんでも出来るのね」
「実行可能なことは、限られる」
彼女は無表情だった。
「なんか、謙遜…ではなさそうね」
マヒルは、言った。
「最後の訓練です」
「ローズ様」
教官が言った。
ローズは、にこりと笑った。
「わたくしには必要ありませんわ」
「言い出しっぺが逃げた」
「逃げてなどいませんわ。わたくしは指揮官型ですの」
「便利な分類作るな」
ソフィアは、淡々と拳銃に弾を詰めていた。
「なれてるわね」
「ソフィアですからね」
「それは意味がわからんわ」
彼女は、的を狙って、撃った。
「全部、真ん中って…」
マヒルは、言葉を失った。
ソフィアは、イヤーマフラーを外す。
「ねえ」
気づけば、マヒルは聞いていた。
「ソフィアって、人を殺したことあるの?」
聞いてから、しまったと思った。
けれど、ソフィアは表情を変えなかった。
「ある」
マヒルは、言葉を失った。




