マヒルの選択――高校時代
ソフィアの前に出したのは、2つの論文。
男がマヒルに渡してきた論文とローズからもらったら論文。
「この2つの論文、あたしの島のこととか一切書かれてない。
なんでこれが、あたしの国と関係するわけ?」
ソフィアは、一瞬沈黙。
「それは、プログラムを走らせないと理解出来ない」 と言った。
「プログラム?」
「そう、プログラムを走らせると理解出来る
人間では、追えないほどの組み合わせを計算する」
ソフィアは、論文をめくった。
「勢力が二つの場合と三つの場合の均衡の差が判明する」
「均衡の差?」
「そう。
例えば、1対1の場合は、相手だけを見れば良い。
単純」
ソフィアが淡々と話す。
「三人の場合、見るのは一人ではない。
二人の選択が、影響し合い、それが自分の判断も変える」
「なんか、難しそうね…」
「じゃんけんを考えればいい。
二人の場合は、相手が出すものを予測さえ出来れば、勝てる。
しかし、三人の場合、二人目に勝てるものを出したとしても、三人目が干渉して引き分けになる。
実際はこれが、さらに複雑化する」ソフィアが言う。
「勢力の数で、状況が大きく異なる」マヒルがつぶやいた
自分の頭の中に入れるために少し整理する。
「でも、それがどうして、島とつながるのが分からないわよ」
「その先、人類はある選択をした」
そのとき、キラキラとしたものが流れてきた。
不穏な空気。
「ソフィア、久しぶり」
「あ~」 マヒルから声が出た。
大きな花束を持って、レンが病室に入ってきた。
「すまない。
僕以上に美しい花を用意することが出来なくて。
これで許してくれ。」
レンは、不敵な笑みとウィンクをする。
ウィンクと同時に飛んでくるハートマークがうっとおしい。
「レンお兄様、相変わらずですわね。」
ローズの扇子には【いっそすがすがしい】とかいてある。
先ほどまであったハリセンが見当たらない。
「ハリセンどこにやったの?」
「ちょうど良いですわね。
ちょっと、お話よろしいですか?」
ローズとレンは、病室を出て行った。
部屋に沈黙が流れる。
マヒルはなにを話していいか、考える。
さっきの論文の続きを聞くべきか?
「怪我の具合どうなの?」
ソフィアを見ずに聞く。
「問題ない、医師の想定速度で回復している」
「そう」とだけ返す。
また、沈黙が流れる。
論文の続きを聞きづらくなった。
ソフィアは、ためらいながらもマヒルを見る。
それで、マヒルは、分かってしまった。
「謝罪とかそういうのいらないから。
あたしも、あんたに礼は言わない」
「分かった…」
そして、またも沈黙。
本当は、論文以外にも、聞きたいことがあるのだ。
それが聞けない。
それで彼女をどう見るか変わってしまうと思う。
聞くのが怖い。
二人は押し黙ったまま。
沈黙に耐えかねていると、ローズとレンが病室に戻ってきた。
「マヒル、あなたにご提案です」
「何?」
「わたくしたちは、3つ選択肢を用意しています」
「選択?」
「最近、意見を押しつけてこなくなったわね」
「あなたは、自分でなにをするか決めていかなくてはいけません」
「それが何?」
「わたくしの意見をそのまま、聞いているようではいけませんわ」
パタパタと扇子を仰ぐローズ。
「それでは、選択肢だ。
僕が、華麗に説明しよう」 レンが話す。
「かれん、いらんだろ」とマヒル。
「レンだけに」うれしそうにローズ。
「あんたはうるさいわね」とマヒル。
「1つ目」
「無視か?」
「このまま、ソフィアの屋敷で、過ごす。
ソフィアは、今入院中だが、屋敷に戻っても君に教育はできない」
「教育?」 ソフィアを見る。
「努力はする」とソフィア。
「あんたじゃ無理ね」マヒルは、諦める。
「そうだ。だから君は、そのときは、君のペースで知らないといけないことを学ぶ。
メリットは、君の負荷は軽い。デメリットは、時間がかかる」
「2つ目、僕たちは、君に課題を出す。
その回答を教官が、添削する。
そのやりとりを繰り返す。
そして、クリアする」
「課題?学校みたいね」
「ああそうだ、学校みたいだ」 ふっとレンが笑う。
「メリットは、自分一人で行なうよりは、早い。
デメリットは、君がそれを出来れば満足してしまわないかという点だ。
テストの点数が満点でも、現実では満点が取れるわけではないのさ」
【カンニングも出来ませんわ】ローズの扇子に文字。
「いや、テストでもできんわ」
「3つ目、教官の教育を直接君に受けてもらう」
「教官?」
「これが、一番スパルタだ。君の負荷が高い。
しかし、修得も早い。あと、君の性格だ。
教官に反発するだろうから考え方が押しつけにならない」
「つまり、メリットは、修得が早い。あたしの考えは保たれたまま。
デメリットは、あたしの負荷が高いということね」
「そうだ」とレン。
マヒルは、すぐに答える。
「決まってるでしょ。3つ目よ」
「先ほども言いましたが、自分で選んだと言うことは、自分に責任がありますわよ」
「そんなの望む所よ」
「あなたならそう言うと思っていましたわ」
ローズが、扇子を仰ぎながら弾んだ声で言った。
「それでは、プレゼントですわ」
ローズがマヒルに何かを手渡す。
「サングラス?」
「ええ、必需品です」
「照度が高いと、網膜にダメージを与える」 とソフィア。
「あなたが、泣いて投げ出さないようにです」
「教官って…」
「スパルタ教官ですわ」
レンが、輝いた笑顔でこちらを見ている。
まぶしい。
「嫌な予感しかしない…」
2人は微笑みながら、1人は憂鬱な面持ちで、病室を出て行った。
病室の扉が閉まる。
静寂。
ソフィアは小さく息を吐いた。
「……機嫌が改善した」
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レンは邸宅で、スクリーンを眺めている。
スクリーンから音声が流れている。
” ボレア連邦で、核戦力の増強を行なうと見られています
これに対し、西連合は強く反発しています。
南同盟も警戒を強めており…“
「変わらないね。この世界は」彼はつぶやく。
彼の目には、いつものような輝きはない。
「レン様」
使用人の男が声をかける。
そして、資料を渡す。
レンは、資料をみて微笑む。
「ありがとう。ちゃんとあの島が入った地図が手に入ったんだね」
レンは、地図上の線をなでる。
「それじゃあ、マヒル、地理の授業を始めようか」
【更新予定について】
今後は、毎週火・木・日曜日の19時頃に更新する予定です。
物語の続きを安定してお届けするため、更新頻度を調整いたします。
引き続きお読みいただけましたら幸いです。




