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第12話:ローズ、百発の核ミサイルを発射――核戦争時代




アストラ合衆国軍の最高司令部。


その内部には核ミサイルの操作台が置かれている。


核ミサイルの操作台の前にマヒルは立っていた。


マヒルは、指をミサイル発射ボタンの上に置いていた。


彼女の息は乱れていた。


彼女には自分の鼓動だけが聞こえる。


マヒルはまだ、発射ボタンを押していない……。


冷たい汗が、背中を伝っていた。






「どうしましたの、マヒル?」


ローズが優しく声をかけた。


マヒルは、ローズを見る。


ローズの後ろにモニターがあった。


モニターに一人の少女が母親の手を強く握っているのが見える。


その少女が、過去の自分と重なって見えた。


このボタンを押せば、あの少女からも家族と故郷を奪ってしまう。


「違う!!」


マヒルは、叫び、ローズを押しのけた。


ローズは、カードを差し込まないと発射しないと言っていた。


操作台に差し込まれていたカードを抜き取る。


カードを握りしめ、必死に走り出す。


男たちが動こうとした瞬間、ローズが片手を上げた。


「お待ちなさい」


その言葉によって男たちが動きを止める。


ローズは、逃げるマヒルを眺めていた。


「やはり、最後まで分かってくださいませんのね、マヒル……」


ローズは、悲しそうに言った。


マヒルは扉へ向かって全力で駆けた。


あと一歩で、扉に手が届くところまで来た。


「もう十分ですわ。捕まえなさい」


ローズが言った。


男たちが、一斉に動き出す。


扉に触れそうなところで、強い力によって、服の襟を後ろからつかまれた。


そして、床に叩きつけられた……。


胸を強く打ち、一瞬、息ができなかった。




「仕方ない子ですわね」 ローズは、穏やかな声で言う。


ローズは、マヒルからカードを取り上げた。


マヒルは、男たちに取り押さえられて動けなかった。


ローズは、何事もなかったように、核ミサイルの操作台へ歩いていった。


「ローズ!待ちなさい!ローズ!ローズ!!!」


マヒルは、叫んだ。


ローズは、振り向こうともしなかった。


「待って、ローズ、お願い……。お願いよ、やめて……」


声は届いているはずなのに、ローズは振り返らなかった。


マヒルは、再び、両手に拘束具を付けられた。


男たちは、マヒルから離れていく。


拘束具をほどこうとする。


強い痛みを感じるだけで、どうにもならないことが分かった。




ローズは、再びカードを操作台に差し込んだ。


いくつかのボタンを押していく。


「マヒル、あなたと押したかったのですが、残念ですわ……」


そう言って、赤いボタンに指を置いた。


「やめてぇぇぇ!!!!」


マヒルの声が響き渡った。


ローズの指が、赤いボタンを沈めた。


カチリ。


小さな音だった。


一秒。


二秒。


何も起こらない。




次の瞬間、司令室に警報音が鳴り響く。


耳をつんざくような音だった。


『発射命令を確認。第一群、百発。発射シーケンスに移行』


世界中のテレビと配信画面が、衛星映像へ切り替わった。


地下発射施設の巨大な隔壁が開いた。


白煙が噴き出し、最初の一発が夜空へ飛び出す。


続いて二発目。


更に、三発目。


核ミサイルが、次々とボレア連邦へ向けて発射されていった。


そして、無数の光が地上から上空へ昇っていく。






「ああ……」


マヒルの喉から、声にならない音が漏れた。


止められなかった。


自分はボタンを押さなかった。


でも、一瞬、すべてを終わらせようとしてしまった。


「あたしにはどうすることもできなかった……」


言い訳をすることしかできなかった。


「終わってしまう……」




軍事司令部のモニターには、世界中の街の映像が映し出された。


街の人々の反応は様々だった。


呆然と立ち尽くす人、車で逃げようとする人、激しく言い争う人。


街は混乱に包まれていた。




――――――――――――――――――――――




アストラ合衆国、ある都市の市庁舎。


市長執務室に、銀色の髪の男が座っていた。


レンだった。


ミサイルが発射されていく映像をただ見つめていた。


「ローズ、君はすごいね」


賞賛とも諦めともつかない笑みを浮かべ、彼は目を閉じた。




――――――――――――――――――――――




モニターの前に、黒髪の人物が座っていた。


黒いパンツスーツ、白いシャツを着ていた。


その人物は、死人のような白い肌をしていた。


瞳も死んでいるような瞳だった。


男性か、女性かも分からない。


その人物の前のモニターにも、ミサイルが発射されていく映像が投影されていた。


「やりましたか……」


その人物は、曖昧な表情をしていた。


怒っていたのか、悲しんでいたのか、安堵していたのか……。


どのようにも読み取れ、そして、どのようにも読み取れない表情だった。




――――――――――――――――――――――




アストラ合衆国軍最高司令部。


ローズは、モニターの方を向いていた。


ミサイルが発射された様子が映っている。


扉の向こうから、断続的な銃声が近づいてきた。


そして、轟音が司令室を揺らした。


「ローズ様、伏せてください!」


覆面の男はローズを床へ伏せさせ、その体に覆いかぶさった。


次の瞬間、爆薬で破壊された扉が、司令室の内側へ吹き飛んだ。


爆風が床を走り、マヒルの体を巻き上げた。


「ローズ様、政府軍が突入してきます」


ローズの近くにいた男が言う。


「せっかくよいところでしたのに……」


ローズは、当たりを見回しながら、歩きだした。




「あら……」


爆風に巻き込まれ、気を失ったマヒルを、ローズは見つけた。


残った男たちが、突入してくる政府軍へ銃を向けた。


銃声と白煙が司令室を満たす。


そのわずかな時間に、ローズは倒れたマヒルへ近づいた。


ローズはかがみ、マヒルの髪を優しくなでた。


「これで、お別れですわね。

 哀れで、愛しいマヒル。わたくしは、あなたのことを本当に愛していましたわ」


「ローズ様、こちらです」


男は、破壊された扉とは反対側の壁を指し示した。


継ぎ目のなかった壁が静かに開いた。


ローズは、司令室から姿を消した。



【更新予定について】

今後は、毎週火・木・日曜日の19時頃に更新する予定です。

物語の続きを安定してお届けするため、更新頻度を調整いたします。

引き続きお読みいただけましたら幸いです。

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