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クイズで殺しまSHOW  作者: ユタカ
クイズで殺しまSHOW

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10/11

豪華客船の哄笑と焦げた匂い(第4ステージ・第1問)

――同時刻。

東京湾の中心を静かに進む、レーダーにすら映らない漆黒の非合法クルーズ船。

その最上階にある超VIPルームでは、最高級のシャンパンと葉巻の煙が立ち込める中、燕尾服やドレスを纏った世界中の富裕層たちが、巨大なモニターを見上げて歓声を上げていた。

『さあ、張った張った! 次の女は何問目で死ぬか! あの冷血漢はどこまで正解するか!』

『私は公康の全問正解に1億ドル! 日本の広告代理店のモラル崩壊、最高のエンタメじゃないか!』

『ハハハ、あの娘の指を踏んだ時の顔を見たか? 私の飼っている闘犬よりいい目をする!』

彼らにとって、数百万人が熱狂し、日本の警察が血眼になって探しているこの「サイバーテロ事件」は、退屈な日常を紛らわせるための極上のギャンブル・ショーでしかない。

彼らがチップとして投げ打つ国家予算レベルの金こそが、「10兆円」という途方もない賞金の出所だった。彼らは公康の命も、出題者の女たちの悲劇も、すべてを消費して嗤っていた。

一方、彼らの嘲笑の的となっているスタジオ。

公康は、ミナが落下して弾けた生々しい音を耳の奥に残しながら、解答席に立っていた。

『さて公康氏。ここから少し、趣向を変えましょう。……第4ステージ、入場です!』

司会者の声とともに現れたのは、これまでの若く華やかな女たちとは違う。

黒い喪服に身を包み、骨と皮だけのように痩せこけた50代の女性――**真紀子(52)**だった。彼女はカラーのついた首を垂れ、その手には、若い女性の遺影が抱えられている。

「……初めまして、佐藤公康さん。でも、あなたは私の娘をよく知っているはずよ」

真紀子の掠れた声が、スタジオに重く響く。

公康は彼女の顔を値踏みするように見た。

(直接の面識はない。だが……思い出した。数年前、俺が手がけたクライアントの『炎上商法』の身代わりに仕立て上げた、あの一般人の母親か)

「私の娘は、あなたの会社のネット工作のせいで、全世界からいわれのない誹謗中傷を受けて……首を吊ったのよ。娘は最後まで『私はやってない』と泣いていたわ」

真紀子の目から、血の涙のような大粒の雫がこぼれる。

「第4ステージ・第1問。……娘がネットで大炎上するよう仕向ける際、あなたが部下たちとの社内チャットで使っていた、私の娘の『隠語』。……なんだったか、答えてちょうだい」

母親の悲痛な声。しかし公康は、心の中で冷たく舌打ちをした。

(俺の直接のミスじゃない。ただの業務上の『処理』だ。……過去の記憶を正確に引き出せばいいだけだ)

「10、9、8……」

「……**よく燃える『まき』**だ」

「ッ……!!」

真紀子が遺影を抱きしめたまま、その場に崩れ落ちた。

「あの案件は話題性が命だった。だから俺たちは、少しでも隙のある素人のSNSアカウントをピックアップし、意図的に火を放って炎上させた。お前の娘のアカウントは、燃料として非常に優秀だった。だから社内では『薪』と呼んで管理していたんだ」

ピンポン、ピンポン、ピンポン!

残酷な正解音が鳴る。

しかし、いつもなら足元が開いて落下するはずの真紀子の解答席に、異変が起きた。

ガシャン! という重い金属音とともに、真紀子の周囲を分厚い透明な防弾ガラスが覆い尽くし、彼女を完全に密閉してしまったのだ。

「な、何よこれ……! 出して!」

真紀子がガラスを叩く。

『おや。言い忘れていましたが、公康氏。ここからの処刑は、少々”熱気”を帯びますので、お下がりください』

司会者がそう言った瞬間。

密閉された真紀子の頭上から、ドロリとした可燃性の液体が降り注ぎ、彼女の喪服を濡らした。

「え……?」

公康の目が、驚愕に見開かれた。

「おい、まさか……」

公康が後ずさったのと同時に、ガラスのケース内に火花が散った。

ボワァァァッ!! という爆発音とともに、ケースの内部が一瞬にして紅蓮の炎に包まれる。

「熱ッ!! ぎゃあああああああああっ!!」

炎上被害者の母が、文字通り「炎上」する。

ガラス越しに、真紀子が火ダルマになってのたうち回る姿が見えた。生きた人間が焼かれるすさまじい熱線が、距離の離れた公康の顔すらもチリチリと焼く。

そして、換気口から漏れ出した「肉と髪の毛が焦げる強烈な悪臭」が、公康の鼻腔を容赦なく犯した。

「うっ……おぇ……ッ!」

公康は思わず口元を抑え、胃液を込み上げさせた。

落下死とは違う。目の前で人間が黒焦げになっていく、あまりにも圧倒的な暴力と死の匂い。

(……もし、俺が記憶を間違えたら……俺がこうなるのか……?)

初めて実感する、絶対的な「死の恐怖」。

公康の脚が、微かに、だが確実に震え始めていた。彼は自らの両手を強く握り締め、震えを悟られまいと奥歯を噛み締めた。

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