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魔王たちの主  作者: 御家 宅
第三章

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皇都到着

 俺たちが森から帰ってくると、魔法師団長たちはまだ起きていた。

 手早く要件を片付けて戻って来たので、それも当然かもしれないが、それでも寝ていてもおかしくない時間になっている。


「ガレリックさん、お土産を貰ってきたんですけど、今食べられますか?」

「なんと。そのように頻繁にいただいて、よろしいのかの?」

「はい。どうぞ遠慮せず食べてください」


 この程度のことで、俺たちだけ森で美味しい料理を食べた後ろめたさが消えるなら、嬉しい限りだ。尤も、これも俺が作ったものじゃないので、フィリエさんに感謝だが。


「何度食べても美味しい物は美味しいですの」

「はい。魔法師団長の仰る通りです」


 魔法師団長とバルアさんが美味しそうに食べている。

 勿論、俺たちの分もあるので一緒に食べているのだが、俺たちは森でこれ以上の物を食べたばかりなので、味わうというよりは、この二人が美味しそうに食べてくれる姿を見ている方が、心が満たされる。


「それで、フェイル殿、森で有益な情報はございましたかの?」

「いえ、これといってはなかったですね。ただ、調べてもらうようには頼んでおきました」


 魔法師団長が満足そうな顔で、お腹を擦りながら尋ねてきた。

 有益な情報とは、魔物が村を襲う原因が森にあったかどうか、だと理解できる。

 十九年前に村が滅んだ事件は気になるが、これはオルフェスが関係ないと言っているので除外する。


「ふむ。そうでござりますか」


 魔法師団長としても、この問題が将来、自国にまで被害が及ぶか気になるところだろう。

 もし、森全体で何かが起こっているのなら、その可能性はぐっと上がる。


「数日後にはまた森へ行って聞きたいと思っているので、その時にでも情報が得られればいいんですけどね」

「うむ、そうですな。それで、フェイル殿。実はこの件を国王陛下のお耳にも入れたいと考えておるのじゃが、もしよろしければ、儂を王都へ運んではもらえませんでしょうかの?」


 王国としても事前に対処を打っておきたいのは理解できる。何かあってからでは遅いからだ。


「それは構いませんけど、お役に立つ情報はありませんが、それでも大丈夫ですか?」

「うむ。それでも構いませんじゃ。実は二十年近く前に王国でも同じようなことが起こっておるのですじゃ。もしかすれば、それと関連しているかもしれませんでの」


 それを聞いて、魔法師団長が何を気にしているのかが腑に落ちた。俺も同じことを考えたので、魔法師団長の言いたいことが理解できる。


「ああ、それなら関係はないみたいですよ」

「うむ? フェイル殿は何かご存じなのですかな?」


 魔法師団長が行きたいというなら構わないが、関係ないと分かっている事象を気にして時間を割くのは勿体ない。特に王様はそれほど暇とは思えない。寧ろ、王様のところで話すなら、ここで事前に情報を提供した方が良い気がする。


「はい。それはフィリエさん、俺の配下の樹木の精が絡んでいるんです。とは言っても、村と騎士たちを全滅させたのは樹木の精ではないですし、その犯人の魔物も分かりませんけど、それでも関係ないみたいです」

「ガレリック、フェイル様の仰る通り、その件はこの国で起こっていることとは関係ない」


 俺は魔法師団長に説明しながら、オルフェスの方に視線を送る。

 関係ないと言ったのはオルフェスなので、オルフェスに話を振る方が良いと思ったからだ。


「オルフェス殿、それは何か根拠でもおありなのですかな?」

「根拠というほどではないが、予想は立っている」


 魔法師団長が、オルフェスの言葉の真偽を確認しようとしたが、オルフェスは詳細を語る気はないようだ。

 これ以上は話す気はないとばかりに、威圧めいた視線を返している。


「ふむ、分かりました。では、オルフェス様を信じて、この件は関係ないと理解しておきますじゃ」


 魔法師団長もオルフェスが話す気がないと悟り、早々に引き下がった。

 尤も、『信じる』という言葉には、問題が起こった時の見返りを求める意味合いも含まれている気がする。


「ああ、そうしておけ」


 だが、オルフェスはそんな交渉には応じないとばかりに、威圧的な言葉で返した。

 最近のオルフェスを考えれば、こういう態度を取るのは珍しい。それだけに余程言いたくないことなのだと理解できる。それに、オルフェスは俺にすら語らないのだから、魔法師団長に教えるとも思えない。


「もし、何か関係していることが分かったらお知らせしますね。オルフェスもそれでいいな」


 俺はオルフェスと魔法師団長の仲を取り持つように口を挟んだ。

 俺としては、オルフェスのことも魔法師団長のことも理解できる。魔法師団長は国民の命を背負った立場なので、それを守ることを一番に考えている。それに対し、オルフェスは冥界の王として魔物の立場がある。十九年前の件と今回の件が関係あるのなら、オルフェスも教えてくれたと思うが、そうでないと言う以上、他者がそれ以上踏み込むべきではないのも事実だ。

 ただし、俺に限っては、どちらの立場にも関係している。お互いの立場は分かるが、こんなことで仲が拗れるのは避けたい。


「フェイル殿がそう仰っていただけて助かります」

「はい。それで構いません」


 魔法師団長もオルフェスも、俺の提案を尊重してくれる。彼らがお互いの立場を尊重できる者たちで良かった。


「それで、ガレリックさん。王様への報告はどうされますか?」

「ふむ。それであれば、今回は控えた方がよさそうですな。この国の皇都に着いた後、国王陛下に最後の報告をしたいと考えておりますゆえ、その時はお願いできますかの?」

「はい。分かりました」


 魔法師団長が気にしていた点がなくなったことで、急ぎ報告することもなくなったため、今回の王様への報告は流れることになった。

 しかし、この国の皇都に着いた時に最終報告をしたいようで、事前にそれをお願いされる。俺としても、無事到着したことを報告するべきだと考えているので、否はない。


 こうしてこの国に入った俺たちは、一路皇都へ向けて旅を進めた。

 数日後には、ガロアから選別ができたという連絡が入り、俺たちは森へも行っている。そこで、新たに連れて行くことになる灰色狼に名を付けたり、ティフェアさんとの手合わせや、召喚した時の段取りの説明などを行った。

 ちなみに、新たに連れて行く灰色狼の名は『ティア』に決まった。これは、ティフェアさんが名付けたのだが、悩んだ挙句、自分の名前から付けたそうだ。これには俺も大いに共感したのは言うまでもない。

 旅の途中、立ち寄った街では、国境の砦にいた代官が言ったように、街の入口に魔物の収容施設があり、そこにテオたちを預けて街に入る必要があった。俺たちは街中に出てはいないが、騎士たちからの報告では、住民の誰しもが魔物に忌避感を抱いている様子だと教えてくれた。これを聞いて、テオたちに肩身が狭い思いをさせないためにも、早急にこの事件を解決したい思いが湧いてくる。


「いよいよ皇都でございますな」

「はい。そうですね。ここまでこれといった有益な情報はなかったですけど、皇都なら得られますかね?」


 国境を越えてからここまで有益な情報は得られていない。森でのフィリエさんの調査も同様だ。

 フィリエさんの調査では、森で獲物が枯渇しているようなことも、頻繁に魔物が森から出ているといった情報も見当たらなかったという報告を受けている。念のため、調査は継続してもらっているが、あまり期待できそうにはない。


「どうですかの。ここまで碌な情報はございませんでしたからの」


 魔法師団長も神妙な顔になっている。

 これは意外と長期戦になりそうな予感がしてきた。魔法師団長は王様の名代としての仕事が終わると王国へ帰ってしまう。そのため、それまでに分からなければ、王国に帰ってからも、見えない相手への警戒をすることになってしまう。実際問題、森で異変がない以上、王国で警戒する必要もないのだが、原因が分からず、森の魔物が関与している疑いがある以上、無視するのも難しいといった状況だろう。


「取り合えず、ガレリックさんがこの国におられる数日間で、調べられるだけ調べてみますね」

「うむ。そうしてくださると助かりますじゃ。儂の方でも得た情報を提供しますので、お願いいたしますじゃ」


 魔法師団長や騎士たちは使節団のため自由に動けないので、俺たちが得る情報を提供することにした。その代わり、魔法師団長からは、王侯貴族から得られた情報を教えてもらえるみたいだ。

 話も纏まったところで、馬車がゆっくりと速度を落として止まった。皇都の入口に着いたようだ。

 俺たちは貴族街までは、このまま魔法師団長に付いていく予定だが、テオたちだけは入口の収容所に入れる必要がある。このため、一旦馬車を降りてテオたちを収容所の檻に誘導する。


「灰色狼たち来い」


 俺は『テオたち』と名前で呼ばず、敢えて『灰色狼たち』と呼んだ。この国では現在、魔物への忌避感が高まっており、名前で呼ぶと国民の風当たりが強くなるのだ。そうなってしまえば、情報を得るどころか、この国で動き難くなる。それを避けるためとはいえ、俺としては結構辛い。


『テオ、テグ、テラ、テナ、すまないな』

『フェイル様が謝られることではございません。それに、本来、人間と我らはこのような関係でございます。お気になさらず、この国での活動を楽しんでくださいませ』


 俺はテオたちに念話を繋いで謝罪した。だが、テオはそれを快く許してくれる。

 テオの言う通り、人間と魔物は仲が良くない。俺のいた王国でも敵対関係とまではいかないが、フィリエさんと村の交流が秘匿される程度には忌避されている。王様や魔法師団長、騎士団長を筆頭にした一部の騎士たち、それとウィアズ伯爵とティフェアさんといった国の重鎮が、俺たちに好意を持って接してくれているために勘違いしがちだが、この方々の方が異例といえる。


『それじゃあ、此処で待っていてくれ』

『はい。かしこまりました』


 俺はテオたちを収容所の檻の中に入れると、踵を返して馬車に戻った。


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