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魔王たちの主  作者: 御家 宅
第三章

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自由な敬称

 俺が視線を無得ると、フィリエさんは緩く首を横に振って自分たちではないことを主張する。

 勿論、俺もフィリエさんたちが騎士たちを殺したとは思っていない。寧ろ、疑われているフィリエさんが心配になって視線を向けたのだ。


「勿論、私もフィリエ様ではないと理解しております。それに、フィリエ様たちの話からも、フィリエ様たちが赤子を取り戻す理由がございません。あと、私は先程までその村と交流のあった魔物がフィリエ様たちとは知りませんでしたが、今思い返せば、父はその魔物がフィリエ様たちであったことを知っていた気がいたします。その上で父が秘匿し、交流を続けたのであれば、フィリエ様たちが人間を殺していないことを、父もまた知っていたのだと思います。でなければ、交流を続けようとは思いませんので」


 俺がフィリエさんに視線を向けたことで、自分の言葉が原因で、俺がフィリエさんたちを疑ったと思ったのか、ティフェア様が、フィリエさんたちの無実の根拠を早口で羅列し始めた。


「あ、ティフェア様。俺もフィリエさんたちを微塵も疑ってません。それより、人間に疑われているフィリエさんが心配になっただけですから、大丈夫ですよ」

「あ、そうでございましたか。少しばかり早とちりをしたようでございます」


 俺の言葉にティフェア様が恥ずかしそうに苦笑いしている。

 俺としては恥ずかしがらなくても、これだけ羅列して擁護しようとするティフェア様の気持ちを称えたい気分だ。


「しかし、そうなると、その赤子も既に亡くなってるんでしょうね」

「はい。恐らくはそうだと思います」

「そうでございますね。生きていればフェイル様と同じ年頃になっていると思われますが」


 俺の呟きにティフェア様も賛同する。

 フィリエさんも同じ意見だが、それでもフィリエさんからは、赤子が生きていることを願う気持ちも垣間見える。

 今回の事件は、誰しもが誰かのことを思い、必死に生きようとしたにも関わらず、互いに理解を深め合うことを怠った結果生まれた、悲しい事件だ。それだけに、二度と繰り返してはならないと思えて来る。


「それにしても、ここでも正体不明の魔物の襲撃とは、やっぱり森全体で何か起こってるんじゃないか?」


 その赤子が俺と同じ年頃というなら、十九年も前の話だが、全く無関係とも思えない。

 やっぱり森全体で起こっているのではないだろうか。


「フィリエ、それは二十年近く前の話か?」

「あ、はい。そうでございます」


 オルフェスは真剣に何事か考えながら、フィリエさんに問い掛けた。

 しかも、オルフェスだけではなく、ベルフェもネルフェアも神妙な顔をしている。

 それに気圧されるように、フィリエさんが答えている。


「オルフェス、何か思い当たることがあるのか?」

「あ、いいえ。ちょっとした確認です。おそらく今回の件とは関係ないと思います」


 俺がオルフェスに問い掛けると、オルフェスは先程までの真剣な表情を崩して、いつも通りの顔で答えてきた。

 俺はその表情の変化が気になったが、俺より魔物のことを良く知るオルフェスが関係ないというなら、その言葉を信じるしかない。


「あの、フェイル様、何かあったのでございますか?」

「ああ、そうなんです。実は―――」


 フィリエさんが、オルフェスから問われたこともあり、気になる様子で尋ねてきた。

 此処にはフィリエさんだけでなく、ガロアやアイネラもいる。情報源はできるだけ多い方が良い。

 俺はフィリエさんに応じて、今日国境を越える際に得た魔物と村の全滅に関しての情報と、それに対する俺たちの見解を話した。


「なるほど。そういことがあったのでございますか。ですが、今のところ、わたくしの耳にもそのような情報は入ってはおりません。ただ、森で異変が起こっている可能性も捨てきれませんので、わたくしの方でも調べてみたいと存じます」

「すみませんが、お願いできますか」

「はい。かしこまりました」


 樹木の精はこの森全土に本体が点在しており、仲間同士で繋がっている。このため、森の情報であれば、フィリエさんが知っているかもと思っていたのだが、どうやらフィリエさんも知らなかったようだ。

 しかし、フィリエさんの方でも調べてくれるらしく、その情報網が使えるだけも非常に心強い。

 あとは、俺たちが旅の途中や、この国に移住してから得られる情報と併せれば、原因が分かるかもしれない。もし仮に原因が分からなくとも、それに繋がる手掛かりが見えるだけでも、充分に助かる。


「それと、話は変わるけど、ガロア。灰色狼をもう一体連れて行きたいんだけど、いいか?」

「もう一体でございますか?」


 フィリエさんに森の異変の調査を頼むことができたので、この件について、今これ以上話せることはない。

 そのため、今日、森へ来た目的の二つ目に要件に話を切り替えた。


「ああ、ティフェア様が冒険者登録するから、護衛も兼ねてティフェア様に付けたいんだよ。だから、灰色狼の中で一番強い者を頼めるか?」

「弱い者ではなく、強い者でございますか?」


 俺が要望を告げると、ガロアが不思議そうに首を傾げた。

 テオたちの時は、弱い者を選んでもらうように頼んだので、それを覚えていたのだろう。


「ああ、それなんだけど、普通の灰色狼と比べて、既にテオたちが強くなり過ぎてるんだよ。で、それならもう今更かなって感じなんだ。だから、どうせ護衛を兼ねるなら、強い方が良いと思ってな」

「なるほど、そうでございましたか。確かにオルフェス様とベルフェ様に鍛えていただきましたので、他の灰色狼と比べると強いかもしれませんね。分かりました。では、一番強い雌を選出するようにいたします」


 俺が強い物を頼む理由を説明すると、ガロアも納得してくれる。しかも、それだけではなく、ティフェア様に合わせて、雌から選んでくれるという気遣いまで見せてくれた。

 ネルフェアに付ける灰色狼を選出してもらった時もそうだが、こういう配慮は非常に助かる。


「ああ、申し訳ないけど、それで頼む。それと、連れて行くんじゃなくて召喚するから、できるだけ早めに選出して、連絡をもらえると助かる。召喚の日時とか方法は、決まったら教えるからさ」


 召喚するためには、事前に個体の特定ができていないといけない。それに加えて召喚時に、召喚した灰色狼とティフェア様が戦うことになるので、ティフェア様が勝ったことが不自然に見えないよう、召喚までに手合わせをしておく必要がある。

 そのため、ガロアを急かすようで申し訳ないが、早めに選出してもらうよう頼んでおいた。


「はい。かしこまりました」

「ガロア様、お手数をお掛けいたしますが、よろしくお願いいたします」

「うむ。我もティフェア様のお役に立てて何よりでございます」


 ガロアが俺の依頼を了承してくれたところで、ティフェア様も感謝を述べた。

 これで森で予定していた話は全て終了し、あとは適当に戻るだけとなった。


「う~ん」


 話も一通り終わり、俺が寛ぎながら周りに座っている者たちを見渡した時、何故かアイネラが腕を組んで難しい顔をしながら唸っていた。


「うん? アイネラ、難しい顔をして、どうしたんだ?」


 そういえば、今日はアイネラとはあまり話ができていないことに思い至り、それもあって、アイネラに声を掛けてみた。


「う~ん。フェイル様はティフェア様のことを、ティフェア『様』と呼ばれてるじゃないですか。なので、私たちもティフェア『様』と呼んでるんですけど、ティフェア様はフィリエちゃんのことやガロアさんにも『様』を付けて呼ばれてますよね。それがなんだか不思議で、本当はどう呼ぶのが正しいのか考えてたら、分からなくなってきたんです」


 確かに言われればその通りだ。普通階級は、誰かを頂点に階層構造をしているので、このような三竦みのような関係は起こらない。

 俺は人間の国で生まれ育っているため、俺より立場の高い人には『様』を付けて呼ぶのが普通になっている。だが、これは俺に限ったことで、オルフェスたちは俺に従っているだけで、彼らには一国の王という立場がある。それに、フィリエさんについて言えば、ティフェア様と協力関係とはいえ、ティフェア様の方が立場が弱いと思えるので、ティフェア様がフィリエ様と呼ぶことも、それと同列のアイネラやガロアに『様』を付けて呼ぶことも不思議なことではない。全体的に見るから不思議なだけで、こうやって一つ一つ見れば、全てが正しいのだ。


「あぁ~、なるほど、そういうことか。それなら、好きに呼んでいいと思うぞ。俺は人間の国での関係があるからティフェア『様』と呼んでるけど、オルフェスたちは王という立場から、ティフェア様に敬称を付けていないしな。それに、アイネラもだけど、ガロアやフィリエさんにしても、ティフェア様と主従の関係じゃないんだから、畏まった敬称とかもいらないと思うぞ。あとついでに言うと、俺たちが冒険者として外で活動している時は、オルフェスたちも俺のことを『フェイル』と敬称なしで呼ぶことになっているくらいだ。立場や状況によって変わるし、呼び易いように呼べばいいんだよ」

「はい。フェイル様の仰る通りです。私に敬称は不要ですので、お好きなようにお呼びください」


 俺がアイネラの疑問に答えると、ティフェア様がそれに追随してくる。


「じゃあ、私がティフェア様のことを、ティフェアちゃんと呼んでもいいってことですか?」

「はい。構いません。その方が親近感があって嬉しいです」


 ティフェア様の返答を受けたアイネラが呼び方を確認すると、ティフェア様が嬉しそうにそれを了承した。

 俺もティフェア様の意見に賛成だ。『様』を付けて呼ばれるのって、呼ばれた方も何気に臆してしまう。それに、変に『様』を付けるから、序列みたいなものができてしまって、俺の仕事がなくなるのだ。


「あ、じゃあ、俺も『フェイルさん』とかでいいぞ。なんなら『フェイル』でもいいしな」

「フェイル様、御冗談はお止めください。変に真に受ける者がいたら困ります」


 俺が真剣に俺の呼び方の是正を求めたのに、何故かフィリエさんに冗談として処理されてしまった。

 周りにいる者たちも全員、真剣な顔でフィリエさんに頷いて賛同している。

 というか、フィリエさんの顔が、今まで見たこともないほど怖いんですけど。ねぇ、なんで!?


「あ、はい。分かりました…」

「ご理解いただけたようで何よりでございます」


 俺がフィリエさんに謝罪し理解を示すと、フィリエさんはゆっくりと首を縦に振って許してくれた。

 ふぅ、危なかった。なんとか危機は回避できたようだ。

 こういう時は踏み込まずに、素直に退くのが一番の打開策だと決まっている。だが、俺は絶対に諦めたりはしない。次の機会は必ずや勝って、この手に掴み取ってみせる。


「それでは、わたくしは、村との関係もございますので、ティフェア殿と呼ばせていただきますね」

「うむ。では、我もティフェア殿と呼ばせてもらおう」

「はい。よろしくお願いいたします。それと、フェイル様も『ティフェア』とお呼びください」


 フィリエさんとガロアのティフェア様の呼び方が決まったところで、ティフェア様が俺に向かって呼び方を提案してきた。

 ティフェア様も貴族の令嬢という立場に馴染めなかったそうなので、その提案も頷ける。

 俺はその提案を受けて、ここであることを閃いた。


「分かりました。それじゃあ、これからは『ティフェアさん』と呼びますね。それで、俺のことは『フェイルさん』とでも呼んでください」


 俺は、先程の失敗はフィリエさんたちを相手に提案したのが悪かったことに気付いた。

 これが同じ国出身のティフェア様なら、きっと分かってくれるはずだ。そう思い、俺も期待を込めて提案してみた。

 すると、ティフェア様は一瞬ちらりとフィリエさんの方を見てから口を開き始めた。


「ありがとうございます。『ティフェアさん』と呼んでいただけることには感謝いたします。しかし、あの、申し訳ありませんが、『フェイルさん』とお呼びするのは、ご辞退させていただきます」


 え? なんで? この流れは了承する流れだよね? ねぇ、どうして裏切るの? ねぇ、どうして自分だけ昇った梯子をはずしちゃかな!? というか、なんでそこでフィリエさんの顔を見たんだよ! ああ、そこ見ちゃ駄目だろ!

 俺は、フィリエさんがいないところで提案すべきだったことに気付き、肩を落とした。

 俺が意気消沈している中、みんなが揃って『うんうん』と首を縦に振り、みんなの結束力の高さを見せつけてくる。

 あぁ、もう駄目だ。俺にはこれを覆す手段も勇気もない。これも庶民の性というやつだろうか。


「フェイル様。呼び方も固まったところで、そろそろ戻りませんか?」

「ああ、そうだな」


 俺が肩を落としていると、オルフェスが戻る時間を告げてきた。

 俺たちはまだ旅の途中で、明日の朝も早い。このため、此処に長居はできないのだ。


「フェイル様、それではこれをお持ちください」

「フィリエさん、無理を言ってすみません。助かります」

「いえ、わたくしもフェイル様のためにお作りできて嬉しいので、いつでもお申し付けくださいませ」

「ありがとうございます」


 俺たちが天幕から出ると、フィリエさんが魔法師団長たちへのお土産を手渡してきた。

 俺はそれを受け取ると、フィリエさんに礼を言う。

 その後、これとは別に、アイネラから次はいつ来るのかと問われたが、近い内とだけ答えている。実際、ティフェアさんに付く灰色狼の特定と、事前にティフェアさんとの顔合わせや手合わせをしておく必要がある。このため、近い内には来ないといけないのだが、日にちまでは今決められないので、その回答で許してもらった。それでも、アイネラは喜んでいたので、今はこれで充分だろう。


「それじゃあ、また近い内に来るから、それまでに何かあれば連絡してくれ」

「「「はい、かしこまりました。お気を付けていってらっしゃいませ。お早いお戻りをお待ちしております」」」


 こうして俺たちは別れの挨拶をすると、久しぶりの森を後にした。


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