第五話【送る理由】
「だー!!レポート終わんねぇ!!
なんで提出物なんてあんだよ…この世から無くなればいいのに…」
「まーた樹がわけわかんないこと言ってる~」
「いや、マジで提出物とか無くなって欲しくね?」
「それはそう」
大学の空きコマで、友人とそんな他愛のない会話をしながら、パソコンに向かう。
レポート作成。
別に苦痛ではないが、今回はなんだか手が進まないし納得できなくて、
書いては消して、書いては消してを繰り返す。
全然進む気がしない。
作業に行き詰まり始め、回らなくなった頭を乱雑に掻いて、ため息をつく。
「ダメだ進まねぇ!一服しようぜ」
「お、いいね」
俺より先にレポートを終わらせ、ちょっかいを掛けてくる友人を連れて、喫煙所へ。
いつもは数人すでにいる喫煙所は、今日は貸し切り状態だった。
煙草に火を付けて、全身の力を抜くように、ため息も混ぜながら煙を吐く。
「ってか樹がレポートギリとか珍しくね?」
友人は、ケラケラ笑いながら、俺に問いかける。
確かにそうだ。
大体は講義と同時進行で進め、すぐに終わらせるタイプだ。
なのに、今回はなんだか進みが悪い。
頭に浮かんだ構成も全部書き出してみれば、没ってしまう。
「バイトで忙しくてよ~」
「なるほどな」
嘘だ。
この前の一件から、急な呼び出しもない。
むしろ店長から詫びだとか言われて、まばらだが休みまで貰っている。
つまり、暇だ。
……じゃあ、なんでレポートが終わってないんだよ。
その理由は、多分。
どうも俺は、悠真のことが気になっているらしい。
いや、決して変な意味ではない。
……これ、前にも言った気がする。
別に連絡先を交換したからって、何かが変わったわけではない。
何の気なしに、スマホを開いて悠真とのやり取りを見返す。
数日前の『またな』を最後に、一切連絡を取り合ってない。
結局そんなもんだ。
悠真には『たまには、くだらねぇことでも送れよ』そんなことを言っておきながら、自分だって送る気がないのだ。
開いていた画面を閉じる。
自分から言い出して、連絡先を交換しておいて、一回やり取りしてから何も音沙汰ない。
別に、連絡を取りたくないわけではない。
ただ、夜のコンビニから始まったこの関係だ。
友人みたいに、気軽に連絡するのはなんだか違う気がする。
別に用事があるわけでもないし。
送る内容だって、理由だって、思いつかない。
そんなことを一人で悶々と考えていると、隣から友人が話しかけてきた。
「なぁ、そういえば来週学園祭じゃん」
「あ?…あぁ、そんな時期か」
「今年はなんかやんのか?」
「知らね、去年行ってねぇし」
「樹、友達多いくせに意外とイベント興味ないよな~」
「人混み嫌いなんだよ」
来週に迫っているというのに、俺は学園祭の存在をすっかり忘れていた。
通りで最近大学が騒がしいし、来週の予定を聞かれるわけだ。
実際、学園祭に興味がないのは本当だ。
別にイベントそのものが嫌いなわけじゃない。
友達と騒ぐのだって嫌いじゃない。むしろ好きではある。
ただ、やたらと人が集まって、どこへ行ってもガヤガヤしているあの感じが昔から苦手だ。
「まぁでも、今年は結構気合入ってるらしいぞ」
「へぇ」
「お前、来ねぇなら誰か誘えば?」
そう言われて、真っ先に過ったのは悠真だった。
あいつ学園祭行ったことあんのかな、なんて思ってはすぐに思考を止めた。
…いやいやいや、なんでまた悠真なんだよ。
でも俺は、自然とまたスマホを持ち、悠真とのトーク画面を開いていた。
『おーい悠真』
そう送れば、すぐに『なに?』と返信が来る。
はっや…。
目を見開いて、驚きながらも続ける。
『お前、来週土日暇か?』
『なんで?多分暇だけど』
『じゃあ俺んとこの学園祭来ねぇか?』
『え、急だね』
悠真の驚いている顔が目に浮かぶ。
頬が緩み、クスッと笑いながらも『暇ですることねぇなら来いよ』と送る。
悠真は悩んだのか、数分後。
『樹も一緒に回るなら行くよ』
なんだそれ。
俺が誘っておいて、ついて行かないとでも思っていたのだろうか。
誘ってるんだから一緒に回るに決まってんだろ。
…いや、別に決まってはないか。
「誰と連絡してんだー?」
「…知り合い?」
「何ではてなマークなんだよ」
「…お前が誰か誘えばって言ったから、誘ってんだよ」
「お、じゃあ今年は参加か!」
「まだ決まってねぇ」
「いや、誘っといて何言ってんだよ」
なんて呆れた声が飛んでくる。
…うるせぇな。
友達っていうのは、なんだか違う気がする。
だからといって、知り合いと言うのもしっくりこない。
でも、ただの知り合いだ。
なんて送るかと考えながら、送られてきたその一文をもう一度見る。
なんだか、妙におかしくなった。
でも、返信はすっと思いついた。
『俺が誘ったんだから、当たり前だろ』
送ってから数秒。
『じゃあ、行く』
すぐに返ってきた、その短い一文に。
俺の口角は、少しだけ上がった。
なんで口角が上がったのか俺にも分からない。
でも、さっきまで進まずにイライラしていたレポートが、今なら終わらせられそうな気がする。
悶々と一人で考えていたことも、なんだったか忘れて、煙草の火を消した。
「うっし…さっさとレポート終わらすか!」
「お、誘った人はどうだったんだよ」
「ノーコメント」
「はぁ、ずりぃ!どうなんだよ!!女か!?」
「うっせぇ、お前に関係ねぇー」
わちゃわちゃと面倒くさい友人を適当にいなした。
今こいつに悠真の事を言った所で、関係ないし意味がない。
まだ少ししか吸っていないというのに、
友人は、俺が喫煙所を出ようとすれば、急いで消して後ろをついてくる。
お前はひよこか。
なんて思いながらやたらと絡んできて面倒ではある友人を少し待って歩く。
荷物を置きっぱなしにしている場所に向かいながら、少し憂鬱だったレポート作成をどうするかと頭の中にいくつも考えた。
頭の中のモヤもなんだか晴れてきた気がする。
さーて。
来週、どうっすかな。
なんだか少し足取りが軽い気がして、友人と雑談をしながら大学内へ戻っていく。
友人にちょっかいを掛けられながらも、なんとかレポートを完成させて提出期限に間に合う。
今回は本当にギリすぎた…。
講師の人に提出を終えて、大きく背伸びする。
「んーあー…終わったー!!」
「お、やっとか!」
「おう」
「んじゃ、このまま飲み行こうぜ」
こいつ、それが狙いですることもないのにずっと待ってたのかよ…。
まぁ、気晴らしにはちょうどいいか。
今日はバイトないし、断る理由も特にない。
「お前の奢りなら、行くぞ?」
「うわぁ、ひで…」
「俺と飲み行く気満々で待ってた奴に言われたくねぇー」
「はいはい、奢らせていただきますー」
「よし、行くぞ」
そうと分かれば俺はすぐに、机に広げていた資料とパソコンを片付ける。
あ、パソコンのバッテリー少なくなってるな。
後で充電しねぇと…。
そんなこと頭の片隅に入れて、まずは荷物を置くのに俺の家に向かう。
帰り道の道中。
これから行く居酒屋を探す友人。
『めんどくさいからいつも行く居酒屋でいいか?』なんて聞いてくる。
俺は、別に煙草が吸えればいいから『どこでもいい』と答える。
悩みながらも、結局いつもの居酒屋に行くことになる。
その日はなんだかんだ二軒、三軒と梯子をしては、気が付けば人数も増えてパーティー状態で飲んだ。




