↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君だけが、俺を見ていた。  作者: けい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/20

第四話【名前が増えただけ】

引き込まれるような綺麗に染められた金髪。

少し乱れた髪も、その人の派手な印象を余計に強くしていた。

切れ長で少し鋭い目。

その奥にある青い瞳は、澄んだ海を思わせる程綺麗で、しっかり俺を見据えていた。

耳たぶに三つずつ、軟骨にも一つ、ピアスが光り主張していた。

左の口元には小さなほくろが一つ。

それが無造作な笑みをこぼしたとき、妙に目を引いた。


正直、最初は苦手だった。


父さんに連れられて、居酒屋に行った時。

突然名前を呼ばれ、話しかけられて怖い人だと思った。

父さんと話している姿も、俺とは住んでいる世界が違うように見えた。


だからコンビニで声を掛けられた時も、できれば関わりたくなかった。

本を読んでいても話しかけてくるし、勝手に隣に座るし、名前で呼ぶように言ってくるし、居酒屋で会う時と違って、青い丸サングラスつけてるし…

怖いし面倒くさい…。


でも俺は、コンビニに行くのをやめなかった。

面倒くさいと思いながら、家から近いコンビニはここだけだし…。

まぁ、それだけが理由と言うわけでもないけど。

仕方なく、受け入れるしかなかった。


会う回数が増えるたびに、あの人の事が少しずつ分かってきた。

大学生なのは元々知っていたけど、話すほどに私生活が垣間見える。


友達がたくさんいてずっと遊んでいるとか、意外と自炊しているとか、同じバイトを続ける程真面目とか…。

見た目から想像できないような一面を、少しずつ知っていった。


俺が思っているより怖い人じゃないのかもしれない。


そう思い始めた時だった。

またコンビニで本を読む。

その日、あの人は来なかった。

あの人が来なかった夜のコンビニは、

あまりにも静かで、どうも落ち着かなかったのをよく覚えている。


夜のコンビニから始まった、この日常。

樹は相変わらず、大学やバイトで忙しそうだった。

それでも、本人は楽しいらしい。

疲れたなんて言いながら、次の日にはまた友達と遊びに行く。

そんなことを聞いていれば、俺もバイトでも始めようかな…と考えるが、今の生活に手一杯の俺には樹のように要領よくできないだろうな。

そして今日も今日とて約束もしてないのに、コンビニで会う。


「よぉ、悠真~

またこんな時間にうろついて、補導されるぞ~?」


最初の頃は、声が聞こえれば体に力が入っていたが、最近はもう違う。

この軽い口調なのに、低く、落ち着いた声に安心する。


「今日は、委員会終わりで遅くなっちゃったから、休憩がてら…」

「ふーん、なるほどな」

「樹こそ、なにしてんの?」


自然と会話が続く。

いつの間にか、樹に対しての怖いという印象は無くなっていた。

そして樹は、俺の隣に来るなりすぐに、煙草に火を付けた。


「あ~…飲み帰り?」

「…何ではてなマーク?」

「陰キャくんにはまだ早い話だな!」

「またそうやってはぐらかす…」


…なんとなく、察しはつく。

女の人と遊んでいたんだろう。

樹の話の中で出てくる女の人は、いつもコロコロ変わっている。

きっと、そういう意味で遊んでいるのだろう。

なんだかチクリと胸の奥が痛む。


「…よし、今日は気分がいいからなんか奢ってやる!」

「おわっ!?ちょ、ちょっと!」


吸い終わった煙草を、灰皿に押し付けて消したと思えば、俺の手首を急に掴んではそう言い、店内に引っ張っていく。

慣れてきたとはいえ、やっぱり少し怖いし強引かもしれない…。

それに今日は、と言いながらもなんだかんだ会うたびに、なにか奢ってくれるからいつもと変わらない。

最初こそ遠慮していたが、樹の勢いに負けてもう素直に受け取ることにしている。


「じゃあ、これで」

「ん、ホットコーヒー?それだけでいいのか?なんか飯食わねぇの?」

「うん、さっき買って食べたから」

「あっそ」


少しつまんなそうに、口を尖らせながら樹は会計をしてくれた。

何で不服そうなんだろう、なんて口には出さないで、ありがとうと一言。

外に出てからも、特にいつもと変わりない。

他愛のない話をして、笑って、怒って…。


「…でよ~ひどくねぇか?俺何もしてなかったんだぜ??」

「ふふっ…」

「あ、笑ったな!!」

「いや、樹は見た目で誤解されやすいから…ふふっ…」

「悠真もなかなか酷いこと言うな」


そう言いながらも、樹はどこか楽しそうに笑っていた。

…最初は、あんなに怖かったのに。


「そんなこと言ったら、悠真だって放っておいたら本の世界に逃げるじゃねぇか、見た目通り」

「…うるさい」

「あ、悠真が怒った!」

「……」


本当に、面倒くさい。

そう思いながらも、不思議と嫌な気はしなかった。


もうすぐ十一月も終わる。

そんな冬になろうとしている時期に、俺は少し心の奥を温めた。


同級生とは違う、この関係性に…。


なんて気軽な関係なんだろ。

ただコンビニで再会した、青沼樹という人に、なにかをほぐされるような感覚は、なぜか心地いい。

そんなことを思っていれば、樹がボソッと呟く。


「…そういえばさ~」

「ん?」

「俺達、連絡先知らなくね?」


言われて初めて気が付いた。

これだけ何度も会っているのに。

何度も話して、隣に座っていたのに。

樹の連絡先を知らない。


…っていうか、なんて今更なことに、樹は気づいたんだろう。

今でも、きっとこれからも、知らなくても支障はない関係だ。

別に個人的に用もない。


「今更?」

「ホント今更だな」

「…何か用あった時どうしてたの?」

「会えばいいかなって」

「会えなかったら?」

「…知らん」

「適当すぎでしょ」


思わずそう言うと、樹は悪びれる様子もなく笑って、スマホを取り出す。


「スマホ」


樹は、そう言って俺の前に手を差し出した。

言われるがままロックを解除して、スマホを渡す。


…あ。


渡した後になって、ロック番号を見られてないかな、なんて思った。

そんな俺の心配も知らずに、樹は慣れた手つきで操作をしている。


「ん」


それだけ言って返されたスマホの画面を見る。

そこには、新しく追加された名前が表示される。


『青沼樹』


…たったそれだけなのに。

何故か、少しだけ嬉しいと思ってしまった。


「たまに、くだらねぇことでも連絡しろよ~」


なんて言いながら、樹は夜勤だとバイト先へ向かっていった。

その背中を見送りながら、俺もそろそろ帰らなきゃな、なんて思う。

スマホをポケットにしまって、歩き出した。

さっきまでホットコーヒーで温まっていた体は、とっくに冷えていた。



**


「…ただいま」


家に帰って、そう言っても誰からも返事はない。

まぁ、夜中だし仕方ないか…。

なんて思いながら物音を立てないようにし、自分の部屋に向かうために、階段を上がる。

部屋に入って、持っていたバッグは適当に机に置いて、着ていた制服を脱いでハンガーにかける。

部屋着に着替えては、制服のポケットにしまっていたスマホを取り出し、画面を付ける。


『青沼樹』


また、その文字を見る。

別に特別なわけでもないのに、頬が緩む。

ベッドに体を沈め、せっかくなら何か送ろうかなと思っていれば…。


ピコンッ

「わっ…!」


通知が鳴った。

急な通知音に、スマホを落としかける。

すんでの所で、キャッチして画面を見る。

どうやら、樹に先を越されたようでメッセージが来ていた。


『さっさと帰れよー陰キャくーん』


一言そう送られてきた。

…樹はメッセージでも変わらないな。

笑いながら言っているのを、安易に想像できる。


『樹こそバイト頑張って』

そこまで入力して、消した。


『今帰ってきて、お風呂入ろうと思ってた』

今度こそと返信をする。


『報告いらねぇわ笑』

そんな返信に、思わず小さく笑ってしまった。


『そっちが連絡してきたんでしょ』

『確かにそうだけどよ笑

ま、俺これからバイト始まるし、またな』

『またね』


それだけ返して、スマホを閉じた。

着替えを準備して、俺はお風呂に向かう。

少し浮足立ち、鼻歌を歌いながら…。


……今日は悪くない一日だったかも。

そんなこと思いながら、俺は目を閉じて眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。