第十九話【問題】
スマホで時間を確認すれば、ちょうど昼時だ。
腹も空いてきたことだし、どっか飯食いに行くかな。
そう思って時計を確認する流れで、そのまま近くの飯屋を探す。
和食、洋食、中華…色々と検索に引っかかる。
「…昼飯なににする?」
「俺、別に食べたいものないから樹が決めて?」
俺が決めんのかよ。
決めるの面倒くさいから悠真に投げたのに…。
そんなこと思いながら、目に留まったのは数分の距離でちょうど帰り道にあるラーメン屋だった。
「ラーメンでいいか?」
「うん、いいよ」
「んじゃ、決まり」
そんな感じでラーメンに決まり昼時だし、混んでないといいな。
なんて思いながら、俺たちは店へ向かって歩き続ける。
目的地に向かいながら、いつも通り他愛のない話をする。
そんな俺の頭の中には、さっきまでの本屋での出来事ではなく。
悠真が泊まる原因となった、俺自身のことでいっぱいだった。
悠真が話したがらないからと考えないようにしていた。
でも。
結局は俺が原因…。
一度考えてしまうと気になってしょうがない。
メッセージでも俺は普段と同じ言い方をする。
決して良い言い方ではない。
自分でも分かってる。
それに文面だけだと、余計に悪く見えてしまうだろう。
それのせいだけではないとはいえ、悠真は親と喧嘩をして飛び出した。
少なからず俺が原因だ。
申し訳ないと思わないはずがない。
チラッと悠真の横顔を見る。
今はそんなこと忘れているかのように楽しそうに俺に話しかけてくる。
詳しいことを聞きたい。
…でも俺が聞いたところで何になる?
悠真が言いたくないことをわざわざ聞いて、俺に何ができるって言うんだ。
そう思ってんのに、どうにも気になるし引っかかる。
きっと悠真は嫌なことを忘れたくて、俺を呼んだんだろう。
まぁそれだけではないとは思うが…。
それなのに、また俺が聞いてぶり返したら意味がない。
気になる気持ちを胸に押し殺し、言いかけた言葉も飲み込む。
「それでね?…樹?聞いてる?」
「あ?…あぁ聞いてる聞いてる」
「…嘘くさい」
「なんだと、学校でクラスメイトに絡まれてなんだよ」
「あ、ちゃんと聞いてた」
「だから、聞いてるって言ってんだろ…んで?なに?」
「うん、それでね…」
考え事しているのがバレたかと思ったが、持ち前の器用さで乗り越える。
気が付けば目的地のラーメン屋に着いた。
昼時で混んでいるかと思っていたが、思ったよりは混んでいなかった。
並ぶことなく席に案内される。
席に着いては、すぐ注文用のタブレットを操作する。
「なに食う?」
「んん~……醤油ラーメンにしようかな」
「トッピングは?」
「特にしないでいいや」
そんな会話をしながら悠真の注文をタブレットに入れる。
俺はどうっすかなぁ。
考え事ばかりしていて昼飯を決めるのも面倒くさい。
悠真とおんなじのでいいか…。
脳死でもしているかのように、注文を×2にして送信する。
「樹も醤油にしたの?」
「おう、めんどいからおんなじのにした」
「…相変わらずだね」
「いいんだよ、今日は食いたい味なかっただけだし」
混んではいないが、店の中はそこそこガヤガヤとしている。
余計なことを考える暇がない雑音に少し感謝する。
数十分もすれば注文したラーメンが席に届く。
「お待たせしました、醤油ラーメン二つになります」
「わー…ありがとうございます」
「ありがとうございます…うまそ~」
届いたラーメンはモクモクと湯気を立て熱々だった。
美味そうな匂いに誘われ、早々と割り箸を割る。
フーフーと冷まし、熱々のラーメンを一口。
冷ましているとはいえ出来立てだから熱い。
「美味しい」
「ほうだな」
食事しているのもあり、お互い黙々と食べ進める。
そして俺は悠真より数分先に食べ終わった。
俺が食べ終わったのを見て、急いで食べようとする悠真。
「落ち着いてゆっくり食えよ」
なんて笑いながら言う。
一口が小さいのか、毎回俺の方が先に食べ終わるんだよな…。
なんて思いながら悠真が食べ終わるのを、のんびりスマホを弄りながら待つ。
少しSNSを見た後。
悠真とのメッセージの履歴を見る。
やっぱり、我ながら口が悪いなと履歴を見ながら思う。
俺のことを知っていれば、何も思わないだろうが知らない人からすれば、ただの悪口だ。
改めた方がいいだろうなと思いながら、長年の癖はなかなか直せるものではない。
そんなことを考えていれば、悠真がラーメンを食べ終え話しかけてくる。
「食べ終わったよ…何か考え事でもしてた?」
「ん?別に、食べ終わったなら店出るか~」
「うん」
席を立ち、会計しようとすれば悠真は『俺も払うよ』と言うが、そんなの無視してさっさと会計を済ます。
店を出た後も『俺も払えたのに…』と俯く様子に、俺は悠真の頭を雑にがしゃがしゃと撫で『うるせぇ黙って奢られてろ』と笑って言う。
そんないつも通りの俺にムスッとしながら、ありがとうと一言。
本当、ザ後輩って感じで面白いんだよなぁ、悠真は…。
なんてさらに面白くなり笑うと、何笑ってるんだとでも言うように覗き込み少し睨んでくる。
そんな悠真を見て、俺はまた雑に頭を撫でる。
**
ラーメン屋を後にして、そのまま俺の家に二人で帰る。
手洗い、うがいを済ませ、部屋でくつろぐ。
悠真は、早々に買った本を開けて読み始める。
俺もスマホを少しいじった後に、買った本を読もうと開ける。
お互い読書を始めたせいで、部屋は二人居るとは思えないほど静かになる。
読書に集中できるいい環境が自然と出来上がる。
…でも。
内容は、一切頭に入って来なかった。
文字は読める。
なんて書いてあるのかも理解できる。
なのにストーリーとして、頭に入って来ない。
ごちゃごちゃとさっきみたいな余計な考えばかり、頭を満たす。
俺のせい…。
また一人になるかもしれない…。
愛想を尽かされるかもしれない…。
そんな過去の嫌なことばかり過って、読書に集中できなくなる。
だんだん読むのも億劫になる。
本を閉じて、キッチンに行き煙草を吸う。
「…フゥーー……」
煙草の煙は、付けている換気扇に綺麗に吸い込まれて行く。
そんな様子をぼーっと眺めながら、一本…二本……。
気が付けば、四本ぐらい連続で吸っていた。
「…樹、吸いすぎだよ」
なんて本を読むのをやめて、顔をひょこっとキッチンに出し、俺に言ってくる。
…半分ぐらいお前のせいなんだよなぁ。
「別にいいだろうが」
「ダメとは言ってないけど…吸いすぎは体に悪いよ…?」
「うっせぇ、うっせぇ」
適当にあしらいながら、最後の煙草の火を水で消す。
部屋に戻って、雑にベッドに飛び込む。
なんだか悠真が話しかけてきていた気がするが、面倒くさくて無視した。
だんだんと瞼が重たくなって、俺はそのまま目を閉じた。




