第十八話【休日】
なんだかいい夢を見た気がしながら、ゆっくり目を覚ます。
でも、もう覚えていない。
ぼーっとしながらも体を起こせば、樹の姿がない。
「…あれ、樹?」
寝起きで出ない声は、驚くほどガサガサだった。
ベッドから起きて、キッチンの方に向かう。
それと同時に、玄関のドアが開いた。
どうやら樹は朝食の買い出しに行ってくれていたみたいだった。
笑いながら朝の挨拶してくれる樹の手には、ビニール袋が一つ。
寝起きで働かない頭を必死に動かしながら考える。
樹は何時に起きたんだろう…。
シャキッとしてる姿を見て、そう思った。
樹とは対照的にぽわぽわとする俺。
顔洗ってこいと言われ、寝ぼけ眼を擦りながら慣れない家で洗面所を探す。
なにかごちゃごちゃと言われた気がするけど、何も頭に入って来ない。
そうすれば腕が引っ張られる感覚がして、そのまま身を委ねる。
数分の間の後。
急に顔に冷たい感覚がして、やっと目が冴える。
寝ぼけている俺に樹が水をかけてくれたらしい。
荒療治すぎる…。
なんて思いながら、前を見れば樹の顔が至近距離にあった。
びっくりして後ろに下がれば、すぐに壁があり頭をぶつける。
でも、何故か痛みを感じなかった。
「あぶねぇな、お前は…ったく」
「あ、ありがと…」
樹は俺の頭と壁の間に手を入れていてくれたようだった。
「ご、ごめん痛かったよね…」
「こんぐらい屁でもねぇわ、目覚めたならさっさと飯食おうぜ」
「…うん」
寝起きの思考から、通常の思考に戻った俺は頭が茹で上がりそうになった。
朝苦手とはいえ、だいぶ醜態を晒した気がする…。
恥ずかしさを胸に募らせながら、樹が準備してくれた朝食を食べる。
俺は鮭と梅のおにぎりを貰い、樹はハムとキャベツのサンドイッチを取った。
飲み物も買ってきてくれて、麦茶と緑茶どっちがいいかと聞かれ、少し悩みながら緑茶を貰った。
…なんだか至れり尽くせり過ぎて、申し訳なくなる。
でもきっと樹は、なにも思ってないんだろうな。
ごめんなんて謝ったら頭叩かれそう…。
おにぎりを食べながら、そう思った。
朝食を食べ終えれば、お互いのんびりスマホをいじる。
そうすれば、樹がどこか行きたいところあるかと聞いてくる。
俺はてっきりこのまま家で過ごすと思っていたから驚く。
それに、急に言われても行きたいところなんてすぐに出てこない。
そしてまるで、脊髄反射かのように本屋と俺は答えた。
なんでだよ、なんて樹は言いながらも結局本屋行くことになった。
さっきコンビニに買い出しに行った樹は、もう家を出る準備ができていて、何も準備できていない俺を急かしてくる。
少し慌てながらもすぐに準備は終わり、本屋に向かう。
家を出て、向かっている間も色々な話をした。
樹の隣を歩き、話をする。
俺はそれだけでなんだか特別に感じてしまった。
違う人間同士が、こうも距離を縮められるという事実。
それに今更ながら嬉しさが込み上げてくる。
チラッと横目に樹の顔を見る。
楽しそうに俺と話をしてくれている。
樹と自分の違いに打ちのめされながらも、やっぱりそんなことどうでもいいのかもしれない。
そんないつもとは違う考え方に、自分でも少し驚く。
「…なんだよ」
「え…?」
「俺のこと見すぎー」
「あ、ご、ごめん考え事してた…」
見ていたことがバレて、サッとすぐに目線を逸らす。
動揺しすぎだとケタケタ笑う樹。
笑わないで欲しい…。
そう思っていれば、目的地の本屋に着いたみたいで樹に先導されるように店内に入って行く。
店内に入って、お互い真っ直ぐに文庫本コーナーへ行く。
普段来ない本屋さんだったから、俺は早々に本棚を真剣に見る。
いつもの本屋には置いてない、気になってた本が多くあって楽しくなってしまう。
ふと視線を隣にいる樹に向ける。
樹も一冊の本を取って、見始めていた。
表紙が見えて何を見ているのかと思えば、推理小説を読んでいるようだった。
「…樹ってそういうの読むんだ」
「んや、なんとなく取った本がこれだったから読んでるだけ」
「ふーん…」
「お前こそいつも何読んでんの?」
そんな樹のフリに、俺は嬉しくなって好きな本の話をマシンガントークしてしまう。
ファンタジー小説が好き。
この作者さんの本が面白くて好き。
表紙でなんとなく買った本が良かった。
いつも誰にも話せない好きなもののことをたくさん話す。
一方的な俺の話に樹は遮ることなく、嫌な顔もせずに聞いてくれた。
それが心地良くて、しばらく話してしまう。
そして数分…。
話し過ぎたとハッとする。
「ご、ごめん…話し過ぎたよね…」
「別にいいよ、それよりなんかおすすめとかねぇ?」
「え…おすすめかぁ……」
突然そう言われ、本好きとしては色々とおすすめしたくなって頭の中の本棚を探す。
しばらく考えた後。
ちょっと待っててと言い、おすすめの本がこの店舗に置いてあるか探す。
数分間探したら、無事に目的の本があった。
上巻、下巻の少し分厚めの二冊を片手に樹の方に戻る。
「こ、これかな?」
「なんこれ…表紙綺麗だな…」
「そう、これ恋愛小説なんだけど…初めて読んだ時結構俺泣いちゃってさ…」
「お前が泣くんだ」
「…ちょっと過激な表現とかあるけど、大丈夫なら」
「んじゃ、それ買って読むわ」
そんな即決な樹に、俺は嬉しくて頬がにやけてしまう。
恋愛もの。
樹が興味あるかは分からないけど、見て欲しいと思った。
考えさせられる物語。
きっとそれは樹が好きだろうと思ったからこの本を勧めた。
そんなことを一人で考えていれば、樹がどこかへ行こうする。
だからついて行こうとすれば、待ってろと釘を刺される。
どこに行くんだろうと思いながら、待てと言われたからには待つことにした。
さっきまで見ていた本棚を見ながら、少し落ち着かないまま待つ。
数分もすれば、樹は一冊の本を持って帰ってくる。
「…あ、おかえり、何探しに行ってたの?」
「ん~、ほい悠真におすすめ本」
「え、樹が俺に…?」
「そ、この本の礼…的な?」
そう言って差し出された本は、俺がずっと気になっていたファンタジー小説だった。
おすすめしてくれるってことは樹はこの本読んだことあるんだ…。
樹と本の趣味が合うという事実にさらに頬が緩みかける。
「この本ちょうど読んでみようと思ってたんだ」
そう言えば、なんだか少し安心したような、ほっとしたような表情をする樹。
もしかして、俺が読んだことあるかもって不安だったのかな?
なんとなく読み取れてしまった樹の感情に、静かに笑いが込み上げてくる。
「…樹はこの本好きなの?」
「ん?…まぁ、結構好きな内容だった」
「じゃあ、読んだら感想言うね」
「……おう」
樹からのおすすめ。
それだけでなんだか心が躍った。
読むのが楽しみだし、感想を言うのも楽しみだな…。
心の中で静かにそう思う。
その後も本屋を回ってみた。
でも結局お互いおすすめした本だけを会計した。
先に会計を済ませ、本屋の外で待っていた樹。
そんな樹に俺は買った本を大事に抱えて、近づく。
「お、お待たせ」
「んー別にー」
そう言いながら、スマホで時間を確認する樹。
俺もそれに釣られて確認すれば、ちょうど昼時になっていた。




