第十七話【心配】
煙草を吸っている間も、吸い終わって部屋に戻った後も、他愛のない会話をした。
そして気が付けば、二十四時。
明日は偶然にも祝日ということもあってか、それとも普段からこの時間も起きているのか。
悠真は楽しそうに話をして、のんびりしていた。
最初緊張していた姿がまるで嘘のようだ。
そして、そろそろ寝ようと準備をする。
俺は悠真にベッドを譲る。
でも悠真はまた遠慮をして、少し押し問答する。
一応客の分類だ。
黙って従って欲しいんだけどな…面倒くさいし……。
結局少しの押し問答の後。
悠真は俺に根負けして、ベッドに寝ることにした。
「ベッドありがとう…」
「もういいわそれ、俺は客人床で寝かせる趣味ねぇから」
まぁ、大学の友人だったら遠慮なく床で寝かすけど((((
なんて本音は、口が裂けても言わないでおこう。
布団に入っても、お互い眠れずに話をする。
悠真の学校での話。
俺のバイトでの愚痴。
大学の面倒な友人の話。
最近読んだ本の話。
本当にくだらない話ばかりした。
改めてまた時計を見れば、一時になろうとしていた。
流石にそろそろ寝ないとな…。
そう思い、点けていた電気を消そうと悠真に言う。
「…そろそろいい時間だし寝るか~」
「そ、そうだね」
「んじゃ、電気消すぞ~」
「うん…」
「おやすみ」
「…おやすみ、樹」
本当に最初との変化にしみじみとしてしまう。
あんなに緊張してガチガチだったのに。
俺のことを『樹』と呼ぶことさえ抵抗していたのに。
そんな変化に頬を緩ませながら、俺は疲れていたのか。
すぐに眠くなり、瞼が重たくなった。
明日は…せっかくだし……。
悠真を連れて…どっか行くかな……。
眠たくなり、ぼーっとする頭。
そんな使い物にならない脳みそをギリギリまで動かし、そんなことを考える。
そして考えている途中で眠気に勝てず、静かに瞼を閉じた。
**
カーテンの隙間から差し込む光。
そんな眩しい光を感じて、目が覚める。
床で寝ていたからなのか、少し体が痛い。
そんなバキバキな体を伸びしてほぐす。
あくびをしながら、体を起こし顔を洗いに洗面所へ。
冷たい水を顔にかければスッキリして、完全に目が覚める。
鏡で自分を見れば、いつもよりも寝癖がある。
もちゃもちゃとする口を歯磨きしながら、寝癖も直す。
部屋に戻って時計を確認すれば、時刻は七時。
いつも起きる時間と変わりなかった。
チラッとベッドで眠る悠真を見れば、まだすやすやと寝ていた。
ちょうどいいし、朝飯でも買いにいくか…。
そう思い、服を着替えてコンビニに向かう。
家に何かあれば、作っていた。
でも、つまみと酒しかないとわかり切っている冷蔵庫をわざわざ開けて確認する気にはなれない。
なんて思いながら、目的地のコンビニに着く。
悠真の好みも分からない。
なんとなくおにぎりとサンドイッチをカゴに入れ、飲み物も入れる。
さっさと会計を済ませ、そのまま真っ直ぐ帰る。
家に着き、玄関を開ける。
そうすれば、寝ぼけた悠真がキッチンあたりにぼーっと立っていた。
「ただいまー……って起きてたか悠真」
「…うん……」
「すんげぇ寝起きだな、おはよ」
「…ん~……」
寝ぼけているのか、目を擦りながらぼそぼそと何か喋っている悠真。
何を言っているのか分からないし、半分くらい会話になっていない。
こいつこんな朝弱いのかよ…。
少し意外に思い、面白くなる。
笑いそうになりながらも、このままだと面倒くさいから、さっさと顔洗えと言う。
でも寝ぼけているせいで、悠真は洗面所とトイレの扉を間違える。
寝起きの珍行動に吹き出しそうになりながらも、手を引っ張って洗面所に連れて行く。
ぽわぽわとしている悠真を無視して、蛇口を捻って顔に水をかける。
急にかけられたことにびっくりして、ようやく目をぱっちり開ける。
「冷たっ!?」
「よ、起きたか?寝坊助~」
やっと目が覚めたか?
なんて思っていれば、俺の顔を見て後ろに下がろうとする。
咄嗟に悠真の頭と壁の間に手をいれて突撃を免れる。
危なっかしいな、こいつは…。
少し手がジンジンとしながらも、適当に流して朝飯にする。
悠真におにぎりとサンドイッチ、どっちにするかと聞けば相変わらずの遠慮気味でおにぎりにすると言った。
俺は余りもののサンドイッチを手に取り、食べる。
朝から色々起き、普段の生活じゃない感じに新鮮さを感じる。
寝起きは良い方だが、いつもなら起きてしばらくはベッドから動かないでスマホをいじる。
そこから大学がある日は、渋々起きて準備をして大学に向かいながら、飯を済ませる。
そんな我ながら、かなりズボラな生活だ。
でも今日ばっかりは、ズボラ生活ではない。
悠真居るし…。
まぁ、その本人はガチ寝ぼけてフラフラしてたけど。
いつもと違う、面白い一日の始まりに俺は笑いを押さえられなかった。
そして朝食を済ませて、少しのんびりとする。
俺はスマホをいじりながら、今日何をするかと考える。
一日家に居ても俺は一向に構わないが、せっかく悠真が居るわけだしどっか出かけたいよな…。
でも、今日祝日だしな。
どこ行っても混んでそうな気もする。
そんなことを思いながら、悠真にも話を振る。
「…悠真、どっか行きたいとこあるか?」
「え、俺が決めていいの?」
「いいぞ」
「…じゃあ、本屋……」
「お前それ、いつも通りすぎんだろ」
なんて予想通りの答えが返ってきて、俺は即座にツッコむ。
あまりにも予想通り過ぎて、面白みがないな悠真は…。
少し呆れながらも、また頭の中で考える。
映画。
いや別に見たい映画ねぇしなぁ…。
ゲーセン。
出かけるっつってゲーセンはねぇか…。
一人で悩みながら、少しずつめんどくさくなってきた俺は、もう悠真の言う通り本屋に行くことにした。
せっかくだし家の近くじゃなくて、少し離れた所にしよう。
「おっし…もう考えんのめんどいから、本屋行くか」
「えぇ、雑だなぁ…」
「良いんだよ、ほらさっさと着替えろ~」
昨日洗濯しておいた悠真の服はもう乾いていたから、そう言って急かす。
わちゃわちゃと準備する悠真を横目に、準備することない俺は優雅に煙草を吸う。
気が付けば、もう時間は九時を回っていた。
準備が終わったら、すぐに家を出た。
「悠真、本当に本好きだよな」
「うん、色々考えながら本読むの楽しいよ」
「俺も別に読まないわけじゃねぇけど、そんなのめり込まねぇからなぁ…」
「まぁ、読み方は人それぞれだからね」
言いたいことは分かるが、本当にほっといたら本の世界に入って行きそうだな、話しながら改めて思う。
…っていうか。
悠真、どこの本屋行くのかとか聞いてこねぇな。
そもそも知り合い程度の俺の家に泊まっていた、ということも思い出す。
こいつ、俺のこと信頼しすぎじゃねぇか?
まぁ、俺が変な奴じゃねぇからいいようなもんだけど。
……いや、よくねぇな。
「なぁ悠真」
「ん?」
「本屋って言っても、どこ行くかくらいは決めてんのか?」
「え、樹が連れてってくれるんじゃないの?」
「……お前なぁ」
あまりにも警戒心がゼロすぎる。
悠真のこういうところ、本当に大丈夫なのかと不安になる。
でもきっと悠真は俺の心配なんて知らないんだろう。
そう思いながら、本屋に向かう。




