第十六話【二人の距離】
「…お前飯は?」
なんて聞けば、悠真は食べていないと答える。
やっぱり、そうだと思った。
頭を拭いていたタオルを肩に掛け、キッチンの冷蔵庫に向かう。
なんかあったかぁ…?
そんなことを思いながら、冷蔵庫を開ける。
その中身に俺はうげっと声が漏れそうになるが、ギリギリで耐える。
冷蔵庫の中身は、酒とつまみが大半を占めていた。
なんか買って帰ってくればよかったな…。
なんて考えは頭の片隅に投げて、なにかないかと酒やつまみを避けて冷蔵庫の中身をしっかりと確認する。
ソーセージ、キャベツ、卵……ギリチャーハンなら作れるか…?
ご飯は確かパックのがあったはずだから、それでいいだろう…。
ギリギリ残っていた食材から作れるものを確認して、悠真にも食べるかと聞けば食べると言われ準備をする。
そう俺がキッチンで料理をしていれば、視界の端に悠真が見えた。
俺が料理しているのを初めて見るからなのか、じーっと無言で見てくる。
そんな視線が痛いし、気まずい。
ずっと見ていたって面白いもんじゃないし、こっちだって堪ったもんじゃない。
見るなと釘を刺し、俺はまたすぐに料理に取り掛かる。
そして数分もすればチャーハンは出来上がった。
「できたぞー」
「ありがとう、美味しそう…」
「そんなんいいから暖かいうちに食え」
「うん、い、いただきます」
出来上がったものを悠真に渡す。
ほくほくと出来立てのチャーハンは湯気を出している。
味付け、いつも通り適当に作ったけど、大丈夫か…?
なんて不安になりながらも、悠真はフーフーと冷ましながら、一口。
「…おいし……」
「そりゃよかった」
美味しい。
その一言で、口に合わなかったらどうしようという不安は消え、一安心する。
俺が作ったチャーハンを頬張る悠真。
そんな姿を見ながら、俺も自分の分を食べる。
なんか悠真の顔が幸せそうに見える…。
でもきっとこれは俺の幻覚だな。
そう言い聞かせ、黙々と夕飯を食べる。
そしてお互い食べ終わった頃。
洗い物するのか…と少し面倒で渋っていれば、悠真は洗い物をすると言い始めた。
まぁ、十中八九申し訳ないから~とかでやると言っているのだろうとは思う。
でも正直洗い物するの面倒くさかったし、ちょうどいい。
遠慮なく悠真に任せることにした。
カチャカチャとキッチンから洗い物をする音が聞こえてくる。
俺はそんな音をBGMにパソコンを開く。
一応、出来上がった課題の最終確認と明日のスケジュール見るか。
あ、レポートもあったからちょっと進めとくか…。
なんて考えながら、作業を始める。
そして作業を続けて数分もすれば、悠真が洗い物を終えて部屋に戻ってくる。
「終わったよ」
「おぉ、サンキュー」
「…いや、俺の方こそ急に来たのに色々とありがとう」
「別にいいわ、俺から来るかって言ったんだし」
「いや、それにしてもお風呂とか服とか髪とか…色々してくれたし…」
「そうか?」
パソコンに向けていた視線を悠真に向けて礼を言う。
俺から来るかって言ったんだし、色々やるのは当たり前だろ。
なんて思いながら、視線をまたパソコンに戻す。
悠真もテーブルを挟んで、俺の向かいに座る。
俺が何をしているのかが気になるのか、チラチラとまた視線を感じる。
話しかけてくればいいのに、俺が作業しているからか話しかけてこない。
そんな相変わらずの悠真の行動に、少しため息を零す。
そして痺れを切らして、俺の方から話しかける。
「…作業してっけど、話しかけたかったら好きに話しかけていいぞ」
「え、でも…」
「別に気にすんな、ちゃんと作業しながらでも答えられっから」
そう言ったのに躊躇っているのか、少しの沈黙。
話しかけてこないなら別にいいが…。
課題の確認を終えて、レポートに取り掛かる。
作業を進めながら、パソコンの端にある時計を見ればもう二十二時半になっていた。
もうそんなに時間が経っていたかと思っていれば、悠真がやっと躊躇っていた口を開いた。
「樹って…兄弟いるの?」
「…なんで?」
「いや、ほら面倒見良いから」
「…あー……」
突然聞かれたその質問に即答すればいいのに、俺は少し考える。
…そんなに面倒見いいか?
わりかし周りの友人からも兄弟いるのかと聞かれることがある。
だから純粋な疑問だ。
まぁ、俺に兄弟なんか一人もいない。
もし居たとしたら、多分俺はまだ実家に居たかもしれないし…。
なんてことを考えながら、視線は向けずに悠真の質問に答える。
「んや、俺は一人っ子だ」
「そ、そうなんだ…」
「…なんだよ、そんな意外か?」
「なんとなく、妹とか弟いそうだなって思ったから」
「なはは、それよく言われるわ」
そんな俺面倒見いいか…?
当然のことをやっているだけなのに、褒められる。
この感覚は、いつまで経っても慣れない。
身内に何も言われなかった弊害はこういうところに出るのか。
改めて、そう思う。
「ってかそんなこと言うんだったら、お前だって姉ちゃん居たんだな」
「え、言ってなかったけ?」
「ねぇな」
お互い何を言って、何を言っていないかを把握していないのが改めて分かる。
そんな踏み込んだ話しようとも思わないから当たり前か。
まぁ、悠真にお姉さんが居たのは親父さんの自慢話の一環の中で聞いてたけど…。
嘘と真実を混ぜながらの会話。俺の日常だ。
「まぁ、居るのは知ってたけど」
「…どういうこと?」
「お前の親父さんが店に来た時にな、聞いたから」
「あぁ、なるほどね…」
そう言えば少し呆れたように視線を逸らす悠真。
酔っぱらいの家族が自分のことや姉のことをペラペラ喋っていれば、まぁその反応にもなるか…。
なんて思いながら、親父さんの話を思い出す。
確か親父さんの話では、俺と同い年の姉がいるって言ってたな。
もし同じ大学だったら面白いのにな…。
そう思ったが、同じ大学ではないことは分かっているから考えても仕方ない。
…っていうか、興味があるようでないと言った方が正しいのかもしれない。
「姉ちゃん、樹と同い年で大学の近くで一人暮らししてるんだ」
「へぇ、そうなんだな」
「勉強集中したいからって」
「お前に似て、真面目だなぁ」
「…そお?」
「ん、会ったことねぇから詳しいことは分かんねぇけど」
平返事でそんな会話をし、できるところまでのレポートを終わらせた。
終わったし、一服するかな…。
でも、部屋だと煙草の煙が籠るなとも思う。
悠真が煙草大丈夫だとはいえ、今まで吸っていた場所は屋外だった。
非喫煙者からすればそこの違いはでかいだろう。
ベランダで吸うかな…。
そう思い、パソコンを閉じてベランダに行こうとする。
そうすれば、俺が立ち上がってどこか行こうとするのに疑問を思ったみたいで悠真が俺を止める。
「どこ行くの?」
「煙草吸いにベランダ行こうかと」
「?…別にここで吸えばいいじゃん?」
「いや、部屋だと煙籠るから…嫌だろ?」
俺の親切に悠真はまっすぐな疑問をぶつけてくる。
喫煙者として当たり前の配慮だと、俺は思っているが…当たり前じゃないのか?
悠真が風呂入ってる間に吸った煙草の煙も窓を開け換気したとはいえ、少しだけ残っている。
そう思っていれば、悠真は小さく笑ってくる。
何がおかしいんだか、俺にはさっぱりだ。
「ふふっ…俺は別にいいよ、それに外寒いし部屋で吸いなよ」
「…じゃあ、キッチンで吸ってくるわ」
悠真がそういうならばと妥協案を出し、キッチンの換気扇の下で吸うことにした。
なんか悠真が楽しそうなのが腹立つな…。
俺の親切に笑顔を見せる悠真にイラっとしながら、煙草とライターを持って換気扇の下に移動する。
そんな俺を追いかけるように、さっきみたいにキッチンに顔を覗かせながら話を続けた。




