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君だけが、俺を見ていた。  作者: けい


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第十二話【怒り】

気が付けば、目的地のコンビニに着く。

数十分の距離にコンビニがあるのは、本当にありがたい限りだ。


チラッと店内に入る前に喫煙スペースに目をやる。

そこに、樹は居ない。

当たり前だ。

昼間に鉢合わせしたことはないんだから。

分かり切ってるけど、居てくれたら嬉しかったな…。

そんなことを考えながら、店内に入ってすぐにスイーツコーナーに向かう。


なにか小腹を満たせるものがいいな。

バームクーヘン…ドーナツ……イチゴのパフェ………。

どれも今の気分じゃない。

でも何か食べたくて悩んだ末に、イチゴ大福とコーヒーを買った。


店内を出て、いつものコンビニの隅で休憩する。

いつもならすぐに漂ってくる煙草の煙も、今はしない。

自分でも分からない心の奥の寂しさに、困惑しながら買ったものを開ける。


イチゴ大福のイチゴが少し大きくて、どう食べようか…。

なんて悩みながらも、大きく一口。

イチゴの酸味と餡子の甘味が、絶妙なマッチをしている。

頬が緩みそうになりながら、今は外に居るからと表情をキュッと戻す。

コーヒーも流し込めば、ブラックの苦みが口の甘さをリセットしてくれて、ちょうどいい。


やっぱり、甘味と苦みのコンボは最強だ…。


なんて、さっき考えていたファンタジー妄想につられて思う。

食べ終わり、飲み終わり満足して。

俺はスマホを取り出し、読みかけの電子小説を読む。

小説を読みながら、頭の中ではまた別のことを考える。



そして気が付けば――。



時刻は十七時。

母さんが、夕飯の準備を始める時間になっていた。


「そろそろ帰らないとまずいかな…」


ゴミを捨てて、俺は家に帰る。

家に着いて玄関を開ければ、すぐに母さんがリビングの扉を開けて覗いてくる。


「おかえり~ご飯できてるけど、お風呂とご飯どっち先にするの?」

「…ただいま、先にお風呂入ってくる」

「そう、じゃあさっさと入っちゃいなさい」


そう言いながら、母さんはすぐにリビングに戻って行った。

一応外出たし、まだ少し一人でゆったりしたい。

だから先に風呂に入ることにした。

着替えを準備して、スマホは水没させたくないから脱衣所に置いておく。


頭洗って、体洗って…。

全部綺麗にしてから、湯船にゆっくり入る。


二時間くらいしか外に出てないとはいえ、体は冷えていたみたいだった。

湯船に浸かれば、温かさが染み渡っていく。


「あったか~い…」


思わず声が漏れてしまう。

少しずつ体の芯が温まっていく感覚は、やっぱり心地いい。

もう少し浸かっていたい。

そう思いながら冷めたご飯を食べるのも、母さんに文句を言われるのも嫌だ。

数十分入って、上がろうとすりガラスの扉を見れば――。


誰かが立っていた。


普段誰かがお風呂に入っていれば、家族は脱衣所に入ってこない。

だから、本当に驚いて幽霊でも見たのかと思う。

ビビりながらも、意を決して…。


「だ、だれ?」


…と言えばすぐに人影は動き、声を発する。


「あ、ごめんね

洗濯物あったから出しに来たの」


その声は、母さんだった。

とりあえず家族だったことに、胸を撫でおろす。

いつもなら入って来ないのに、なんで今日は入ってきたんだろう。

なんて疑問に思いながらも、もうお風呂から出たいから出て行って欲しいことを伝える。


「も、もう上がりたいから、一回脱衣所出てってくれる?」

「分かった、ごめんね」


出て行ったのを確認して、やっとお風呂場から出る。

ぽかぽかの体は脱衣所の寒い空気に触れれば、身震いする。

すぐに体を拭いて、頭も少し乱暴に拭きながらリビングに向かう。


リビングの扉を開ければ、入れ違いで父さんが出てくる。

きっとお風呂に入るんだろうな…。

なんて思い、憂鬱だった夕飯が少しだけ楽になった気がする。


俺がリビングに入れば、母さんはすぐにご飯を出してくれた。

それにありがとうと言いながら、席に着く。


「いただきます」


箸を持って、食べようとした瞬間。

洗い物をしていた母さんが手を止めず、俺に話かけてきた。


「ねぇ、悠真…?」

「なに?」

「青沼樹って人誰なの?」

「え……?」


思わず、食べようとしていたものを、お茶碗の中に落とす。


それは、母さんから出てくるはずない名前だった。


母さんに樹のことを言ったことはない。

知らないはずだった。

何で母さんが知っているのか。

別に悪いことではない。

なのに、お風呂から上がったばかりの体に、冷や汗が垂れる。


「…なんで、その人の名前知ってるの?」


頭の中にぐるぐる回る思考の中。

鮮明にその言葉が浮かび出る。


家族に喋ったことないから、知るはずない。


そう驚いて母さんの方を向いている俺と洗い物を続ける母さん。

視線は交わらなかった。


そして一言。


俺はその一言に頭が真っ白になった。


「さっき、悠真のスマホ見てね」

「は、はぁ…?ロック掛かってたでしょ??」

「この前、たまたまロック番号見えちゃってね

試しにさっきやったら開いたから、メッセージ見させてもらったわよ」


悪びれる様子も、目も合わせる気もない母さん。

相変わらず洗い物をしていた。


…いや、たとえ身内だからってやっていいこと、悪いことあるでしょ!?

怒りでわなわなと震える手。

それを押さえながら、なんでさっき脱衣所に居たのか。

その理由が、今分かった。


置いておいた俺のスマホ。

勝手に見てたんだ。

…本当にありえない。


さっきまで食べる気だったご飯も食べる気を失って、怒りが溢れる。


「ありえない、なんで勝手に俺のスマホ見るのさ」

「別に家族なんだからいいでしょ?それに私は親よ?」


自分は悪いことをしていない。

そう目も合わせず言ってくる。

そんな様子に、俺は我慢できなくなった。


「家族とか親とか関係ないから!

…たとえロック番号分かったとしても、本人の許可なく見ないでよ!!」


普段怒らないし、荒げない声を大きくすれば。

母さんはやっと俺のことを見た。


今まで感じたことないくらいの怒り。


沸々と体を熱くなり、汗をかく。

ああ、お風呂入ったばっかりなのに…。

なんて少し考えて、すぐに頭の中の考えは戻る。


本当にありえない。

俺にプライバシーという言葉が適応されているのか疑問に思うレベルだ。

スマホのロックを見えるように打った、俺も悪いのかもしれない…。

だとしても、勝手にロックを開けて、スマホを確認するなんて行為していい訳ないだろ。


ふざけるな…!


お茶碗も箸も置いて、母さんを詰める。

どこまで、何を見たのか。


別に見られたって、やましいものなんてない。

それに見せてって言われれば、嫌だけど見せた。

勝手に見られるよりマシだから。

なのに、母さんはきっと何も考えないで勝手に見たんだろう。


「最近悠真、家に居ないで外に居ること多いから心配でね」

「だから俺に直接聞けばいいじゃん!」

「だって悠真詳しくは言ってくれないじゃない」


…確かにそうだ。


大体濁して話している。

でも、話したところで興味ないみたいに適当な返事をする母さんが何を言ってるんだよ。

そう思うなら、母さんだって行動を改めて欲しい。

そう俺はつくづく思う。


「…それで、青沼さんって誰なの」

「友達!さっきから何、樹のことばっかり…!」

「随分青沼さんと仲がいいのね…」

「だったら、なに」

「…悠真のこと『陰キャ』だなんていうような人とは関わるのやめなさい」


その一言で、俺の中の何かがプチンッと切れた気がした。

表面張力のようにギリギリで耐えていた怒りは溢れた。

俺は食事が置いてあるというのに、テーブルを思いっきり叩いていた。



バンッ!!



「俺が誰と関わろうが!母さんには関係ないだろ!!」

「テーブルを叩くんじゃないわよ!私は悠真のことを思っていt」

「そんなの俺のためじゃないんだよ!!」

「私は悠真のために、お姉ちゃんみたいに立派な――」


あぁ、やっぱりこの人は俺のことなんて見てない。

俺がなんでこんなに怒っているかも分かってないんだ。


こんな喧嘩に意味は無い。


準備してくれた夕飯は、俺が思いっきりテーブルを叩いたせいで少し零れていた。

ヒリヒリと痛む手を無視して、リビングを出ようとすれば、

すぐに母さんは引き留めてくるが、俺はそれを無視して家を出た。


お風呂から出て、少し時間が経っているとはいえもう数日で十二月だ。

温かかった体は、上着も持たずに飛び出したせいですぐに冷えた。


少しだけ後悔をする。

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