1-5.二階の階段
僕の家の斜め前にある、加津代食堂。
僕はゆっくりと扉を開ける。
真ん前に七星が腕を組んで立っている。
「待ちくたびれたわよ」
加代子さんの姿が無い。
僕と七星はテーブルに座る。
ひそひそ声で七星が語りかけてきた。
(私は加津代さんの親戚で、高校に通うために加津代食堂に住まわせてもらっている設定になってる。アンタとのアレコレは特になくて、単なるクラスメートだと説明している)
頷く僕。
(カヨちゃんはアンタも知ってる通り、加津代さんのお母さんと違う場所に引っ越して、1年ちょっと中学生活を過ごしたの)
ここまでは知っている。
(それから私が加津代食堂に住むことになって、加津代さんが、私と一緒に登校させれば、立ち直れるチャンスがあるんじゃないかって、4月頃から転入の手続きを始めたみたい。それで今日に至る)
確かに、加代子さんを除け者にした頭の悪い奴は、僕達の通う高校にはいない。
(だから、加津代さんには、加代子さんをしっかり頼むってお願いされてる)
(分かった)
七星が僕と加代子さんの距離感や僕がどんな感情を抱いているかは分からないようだ。
「カヨちゃん!来て!」
な!七星!待ってくれ!
心の準備が!
二階の階段を降りる音が聞こえる。
僕は足元から姿を現してくる加代子さんに何故かドキドキする。
なんて謝れば良いんだろう。
僕はどんな声をかければ良いんだろう。
「ひ、久しぶり」
か弱い声で僕に挨拶をしてきた女の子。
髪は少し茶色がかっていて、前髪はおでこ付近で切り揃えられ、赤い縁の眼鏡をかけていた。
「か、加代子さん?」
ん?僕の知っている加代子さんと全然違うぞ!?
「ででーん。私がイメチェンしたんだよ!カワイイでしょ?」
頷いていいのか分からないが、僕は気を使った。
「い、良いと思う」
な、なぜ上から目線なのだ僕は!
「カヨちゃん!イメチェン成功だね!」
「う、うん」
加代子さんの声は見た目に反して小さい。
そもそも加代子さんはこの髪型を気に入っているのだろうか?
「あたしたち、親戚同士なの」
七星が加代子さんと腕を組む。
「えええーーー!ソウナンダー!」
僕は演技が下手である。
「き、今日は行けなかったけど、明日は、行くつもりでした」
「明日は3人で登校するわよ!アンタも一緒」
「わ、分かったよ!」
そのまま僕は自宅に戻る。
加代子さんは僕の事を、どう思ってるんだろう。
謝ろうと思ったけど、そんな空気でもない。
謝れば、過去を掘り返すかもしれないし、加代子さんが立ち直ろうとしてるなら、僕は何も言わないほうがいい。
それにしても、イメチェンした加代子さんがカワイイと思う僕だ。




