四ノ拾
どこから話をしようか。
そうだな、先ずは学園全員が気になっている話をすべきだな。
一年生徒会長選挙、その結果は翌日に発表されたわけだが僕からすれば結果を見るまでも無く――と話を終わらせられる。
古戦谷君はこれといってヘコんだ様子は無く、次は裏萩さんに副会長として選ばないかと売り込み、浜角さんはその個性的な性格と勢いのある性格から風紀委員の鍋島さんからお声が掛かってたらしく今日にでも風紀委員の一員になるらしい。
落選した生徒達はそれぞれ前向きに自分の出来る事を探している。
きっとこれからの学園生活で皆が輝くに違いない。
放課後、僕達裏萩陣営は豪勢に打ち上げをと裏萩さんからのお誘いで焼肉店での食事となった。
「皆のおかげで一年生徒会長に選ばれました! ありがとう!」
そんでもって乾杯、勿論ジュースで。
隣に座る彪光は特に喜びを出す事も無く、飲み物で喉を潤し、焼肉を見つめていた。
「食べないの?」
「食べるわよ」
扇子を広げ、彪光はちょいと焦げ気味の焼肉を皿へ。
「彪光さん、私が当選したのも貴方のおかげ、本当にありがとう」
そこへ裏萩さんが満面の笑みでやってくる。
「半分は貴方の実力でもある、おめでとう。これからは一年生徒会長としての職務をちゃんと全うできるよう頑張りなさい」
「ええ、勿論!」
「彼女は呼ばないの?」
「彼女?」
「生天目天生」
「えっ、あ」
このタイミングでちょっとしたジャブを繰り出すの?
「いや、だ、誰かな~?」
誤魔化しているようで誤魔化せてないよ裏萩さん。
「あ、私他の人にも挨拶していかなくちゃ!」
そう言って彼女は一番奥の席に座る生徒達へと挨拶をしにいった。
誤魔化すの下手だなぁ。
「もう少しうまく誤魔化せないものかしらね」
まったくだ。
「生徒会長になったら一つ何でも言う事聞く、確かそう言ってたわよねあの子。今ここでその約束使って全部ゲロさせようかしら」
「別にもう裏萩さんに仕掛けなくてもいいと思うよ」
「どうして?」
「そのうち、天生ちゃんから来るよ」
「何故解るの?」
今のうちに言っておくか。
「天生ちゃんと話をしたよ、全部話してくれた。そのうち君に話しに来るんじゃないかな」
「そうなんだ。ふーん……」
「痛い痛い痛いっ!」
扇子を頬にめり込ませないでっ!
僕は意識を別のものにうつさせるために焼肉を取って彪光の皿に投げ込んだ。
すぐに扇子は止まり、彪光の手は焼肉に。
助かった……ずっとこんな事されたら僕の片方の頬だけ徐々に薄くなっていくんじゃないかな。
「でも私に話しに来る理由が解らないわ」
話しておくか、隠したってしょうがない。
「虎わんこ、気づかれたんだよね」
僕達のサークル名、どうかとは思うがこういう場では虎わんことか聞かれても問題ないから便利ではある。
「じゃあ口止めのためにアンナと新蔵を差し向けましょうか」
「やめてっ!」
ほら、こういう流れになっちゃう。
ここで話すのも何だ、今は裏萩さんのお祝い中なのだから焼肉を楽しもうじゃないか。
皆には聞かれちゃまずい話をしてるわけだし。
「随分と余裕に構えてるけど、漏洩の心配は?」
「無い、きっと」
「きっとじゃなく絶対でなければ」
「大丈夫だよ、彼女は虎わんこに入りたいようだし」
「そう、けれどあの子のやった事を考えると、躊躇するわね」
だよね。
僕も彼女にはちょっと彪光の怪我を思い出すと眉間にしわを刻んでしまう。
「アヤミチュー、たまニギ、食べル?」
「たまねぎね、頂くわ」
そこへアンナが乱入。
新蔵も空いた僕の隣へと座り込んだ。
他はわいわいやっているようだし、僕達も身内でわいわいするとしますか。
「お疲れさん」
「ありがとう新蔵」
「襲撃については、どうだ?」
「解決、しそう」
「しそう?」
「まあ今後、動きがあるけどもうこれ以上誰かが襲われたりもしないから安心して」
「そうか、よかった」
安心して今は焼肉食べまくろう、食べ放題万歳。
何気に新蔵は焼肉をすぐに取ってきて網においてくれてうちの焼き場に肉が絶える事は無く、何気に食べ放題でも美味しい肉で満足できた。
早い時間の夕食だったので現在時刻はまだ夜の七時半をすぎたところ。
それぞれ帰路につき、僕達もその一つとなろうとしていた。
「じゃ、また明日学校で!」
裏萩さんは僕達へさくさくと別れの挨拶を告げて行ってしまった。天生ちゃんについて話を掘り起こされたくないから、な気がする。
「病院、寄ってく?」
「焼肉臭い、どうしようかしら……」
「一度アパートに戻る?」
「そうね」
「ミー達、ココでお別レネー」
アンナは新蔵と一緒に帰るようだ。
「二人とも仲良いわね」
「オー? ソウー?」
「確かに」
新蔵は頬を掻いて照れている様子を見せた、うーん、珍しい。
「あんまりイチャイチャするんじゃないわよ」
「しない」
「そっ。けどそれはそれで、どうなのかしら」
「……」
沈黙。
新蔵はそのまま踵を返して歩き出してしまい、アンナは笑いながら彼についていった。
二人とも、お似合いな感じだよなあ。
「やあどうも」
振り返るや、そこには少女が一人。
電灯の下に来ると彼女――天生ちゃんの顔が照らされた。
「……貴方は」
「ちょっとお話、いい?」
「ええ、構わないわ。歩きながらでもいいかしら?」
「そうだね、効率がいい。数メートル先には公園がある。時間があるのならばそこでお話を、とも思っているのだが」
「いいわ、そうしましょう」